ディストピアーズ!~夢見た少女と黒サンタのクリスマス~
メリークリスマスっ!!からかなり遅刻しました。モッキーです。来年は遅刻しないようにしたいですね!
「サンタさんサンタさん。あなたのソリにのせてほしいの」
「あ?」
雪が降りそうな冷たい夜。クリスマスイブの日の事。
「わたしのおねがい聞いてくれる?」
「取り込み中なのが見えねぇのか?」
コートにマフラー、手袋帽子と小さな体をモコモコに女の子が無垢な瞳を輝かせながらごみ袋の山から這い出るサンタの帽子を被る黒い格好をし尖ったサングラスをした少女にそう言った。
「ねぇ、おねがいサンタさん。一回でいいからソリにのせてほしいの」
「オレはサンタじゃねぇぞ」
手を合わせ祈るように言う女の子にサンタ帽の少女は表情を不機嫌な気持ちをいっぱいにして断言する。
サンタの言葉に女の子は驚いた顔で口をポカンとさせた。
「でもお空をとんでるのみたよ。サンタさんはソリにのってえんとつのあるお家の上までとぶんでしょ?」
「だから聞けよ。オレはサンタじゃねぇってんだろ。それに見てたのならわかんだろ?あれはただのジャンプだジャンプ」
「だから、やねからおっこちちゃったの?」
怖い顔で追い払おうとする少女だったが女の子の一言に言葉を詰まらせ表情を強張らせた。
ジト目で女の子を見下ろすサンタはしばし無言の後、観念したかのように深いため息を吐くと女の子の前に屈み真っ直ぐに目を見つめたのだった。
「オメェ、名前は?」
「……マキ」
「よし、マキ。お前なんでソリに乗せて欲しいんだ?空でも飛んでみてぇのか?」
サンタの言葉にマキはふるふると「違うよ」と首を振る。
「じゃあ、なにがしたいんだよ?」
「うんとね……あのね…」
首を傾げるサンタがそう訊ねるとマキは少しだけ顔をうつむかせ口ごもり、恐る恐る願いを口にした。
「うみがみたいの」
「うみ???うみって……あの海か?なんでサンタにお願いすんだよ?親に連れてってもらえよ」
「マキのパパとママはね…おしごとでいそがしいの。だから…‥」
「サンタに海を見せてくれってか?」
「……うん」
そう言うとマキは表情を暗くさせながら小さく頷き、悲しそうに言葉を続ける。
「だからこんなくそ寒い夜に出歩いてたってわけか…‥」
サンタはがしがしと髪を掻きながら嘆息し、悲しそうにうつむくマキを見つめる。
防寒着を着てはいるが、恐らく親に内緒でサンタを探しに出たのだろう。子供なりに一生懸命に探して、たまたま自分を見つけたのだ。
しかし、女の子が見つけたのはサンタではなく、サンタのコスプレをしただけの不良少女。偽者だ。
「……はぁ、ったく、しょうがねぇなぁ…」
「…のせてくれるの?」
おもむろに立ち上がるサンタを見上げるマキをサンタの少女は被っていた帽子を被り直す。
「あいにく悪いがソリはねぇ。そもそもオレはサンタじゃねぇ……サンタじゃねぇが、魔法少女だ」
「まほう……しょうじょ…??」
「おう。泣く子も黙る悪いブラックローズ様だ」
目をぱちくりさせながらよく分かってないマキに魔法少女のブラックローズは自身のローブを羽織らせた後、背中にマキをおぶさった。
「しっかり掴まってろよ」
返事を待つことなく、ブラックローズはその場から跳躍する。
あっという間に空高くまで飛び上がると遠目に見える海の方へと向かってブラックローズは跳んでいく。
「わぁぁぁ……!!すごいすごい!サンタさん、ソリもトナカイさんもいなくてもとべるんだね!!」
「サンタじゃねぇってなんべん言えば……あぁもういい!好きに呼べ!」
町の明かりがみるみる遠ざかり、手を伸ばせば星に届きそうな気になる。
風になったかのように跳んでいくブラックローズの背でマキは手を広げ大喜びしながらけらけらと可愛らしく笑い声をあげ続ける。
その様子にブラックローズは辟易したように肩をすかせるが、その表情はまんざらでもなさそうに微笑ませていた。
やがて、二人は海に到着すると砂浜に転がっていた流木の上に腰をおろした。
一息つくブラックローズがチラリとマキを見つめると、マキは真剣な眼差しで夜の海の地平線を凝視し続けていた。
だが、その表情はどこか浮かばれていないように見えた。
「……どうしたんだよ?見たかたかったんだろ?」
「……うん。見たかったよ……でも、マキほんとはね。くじらさんが見たいの」
「くじら???」
ブラックローズは思っても見なかった言葉に驚き声をあげた。
「くじらってお前…ものすごくデカイ魚だろ?なんでそんなものが見たいんだよ」
「まえにね…絵本でよんだの。おっきなおっきなくじらさんが空をとぶお話でね」
波打ち際を見つめながら、ぽつぽつと記憶を辿るようにマキは表情をきらきらと輝かせながら話続ける。
それを隣でブラックローズは静かに耳を傾けていた。
「.......それでね...ふぁぁ」
「.....んだよ。眠くなったか?」
話している最中、大きなあくびをしたマキにブラックローズが聞くが、うつらうつらと頭を揺らすマキはすでに眠りに落ちそうになっていた。
しょうがない。と、ブラックローズがマキを背負うとマキは小さな寝息を立てて眠ってしまった。
「......眠ってしまったな。レディーよ」
「みてぇだな。ま、そもそもガキが起きてて良い時間じゃねぇしな」
「である。さあ、早いところ家に送ってやるとしよう。もうすぐ雪も降りそうだ。いつまでも外にいさせては可哀想である」
「あー....それなんだけどよ。少し寄り道さしてくんねぇか?」
「寄り道?一体どこに行こうと言うのだ?」
「決まってんだろ。今のオレは.....サンタクロースってやつなんだぜ?」
今まで黙り込んでいたディアにブラックローズはすやすやと眠っているマキを横目にほんの僅かにだけ微笑みながらそう言うのだった。
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「マキ、マキ。起きてごらんなさい!」
「んんぅ.....あ、れ...?サンタさんは....?」
慌ただしい様子の母親に起こされ、眠っていたマキは目を覚ました。
知らないうちに家に帰ってきたのか。それとも全部夢だったのか。
「マキったら!!ほらみて、窓の外!すごいわよ!!」
「.....なにママ?」
ほらほらと母親に言われるがまま寝ぼけ眼を擦りながらマキは窓の外を覗いた。
「わぁああ.....!!!」
窓から覗いた外は、雪の世界に変わっていた。
真っ白な雪、雪、雪。どこを見ても、どこまで見ても銀世界が広がっていた。
______そして何より、何よりも目を疑うような信じられないものが空に浮かんでいた。
「くじらさんだ!!!」
雪の世界の空を優雅に泳ぐそれは、見間違うことなくクジラであった。
いつか見たいと夢にまで見たクジラだ。あるわけないと言われた何度も絵本で読んだ空飛ぶクジラだ。昨日の夜にサンタさんに願ったクジラだ。
「サンタさんが......マキのおねがい、かなえてくれたんだ!!」
嬉しさのあまり飛び跳ねりはしゃぐマキ。
そして、マキは枕の傍らに置かれていたクジラのぬいぐるみを抱えたまま、悠々と空を泳ぐクジラが空の向こうへと消えてしまった後もずっと空を見つめていたのだった。




