14th(13th) day.-15 TAIL ZWEI/釘、扉、鍵 - 第三の誘惑 - /SATANACHIA' BLESS
ジューダスが評した―――『完全体質者』とは、謂わば完全無欠の存在である。
本来ならば、生き物の命の主導権を握っているのは肉体側であり、外的損傷や内部疾患、寿命などを経て死亡する。
"死"とは、一部の例外を除いて不可逆の生命反応であり、最終到達点であり、誰もが迎える唯一の答え。
だが、『完全体質者』はそれを否定する。
『完全体質者』の命の主導権を握っているのは肉体ではなく、魂に近い、―――"存在する"という事象そのものだ。
それを、世界そのものが容認している。命の最終到達点である"死"を否定し、ただたどり着けないものとして認識される。
だから、彼らに致命傷は存在しない。病も寿命も同様に、それらすべてを否定する不死の呪いそのものが、『完全体質者』としての全てであり、
そして―――"遺産"は、彼の身に語りかけた誘惑により、その呪いを一度受け入れた。
結果、死を知らぬ存在となり、2000年もの歳月を放浪することとなる。
言葉通りの放浪、行く宛もない、さまよい続ける世界の亡霊。
それを、答えを得るために、彼は生前のアレイスター=クロウリーに引き寄せられ、そして"銀の星"を引き継いだ。
自らの計画のために、聖遺物であるヘレナの聖釘を探し、多くの命を散らし、宗次郎の存在の元となる鍵を作り、―――『扉』を開けようとしている。
G.T. 13:24
ジューダスが翻す神槍を捌き、決定打となる一撃もないまま、呪われた聖槍との衝突は甲高い金属音を鳴らす。
明らかに何かを待っていた。その違和感に、焦りを覚えたのはジューダスだけではない。
「何か、嫌な予感がする・・・・・・」
宗次郎がポツリと呟く。それはどっちの存在の言葉かはわからない。
けれど、ジューダスと同様に、押し寄せる違和感を覚えていた。
「―――『トゥアザ・デ・ダナーン ブリューナク』―――!!」
何度目かの神槍の咆哮は、一条の光となって青白く駆け抜ける。膨大な熱量が空気を焼き、突き進む威力に埃が舞った。
「っ―――!」
神の一撃を、事もあろうにアーネンエルベは腕一本で払い除ける。ブリューナクを放った隙を埋めるように、踏み込んだ一歩で距離を詰めた。
鋭く突き立てる金色の穂先がジューダスの胴へと肉薄するが、魔法障壁がそれを阻む。砕かれぬよう、強固に組み立てられた術式に、聖槍の穂先が火花を散らす。
「貪れ―――『イス・ティール』―――!!」
写し鏡の魔法障壁が、強力な一閃となって放たれた。心臓を穿つ初見殺しのカウンター。その一撃が強力であるのならば、必殺であるのならば、それこそ決死の一撃となる。
魔法障壁が繰り出すそれは、閃光の如く空気を焼いた。アーネンエルベの心臓に吸い込まれ、肉を裂き、肋骨や背骨すら砕いて内蔵を引き裂く。確実に致命傷に成り得る所作。背中から吹き出る血が男の後方を汚していく。
だが、―――それも刹那ほどの隙すら繋がらない。
「づっ―――!?」
血が吹き出る中で、アーネンエルベが伸ばした左腕がジューダスの首を掴み、地面へと叩きつけた。そして、馬乗りに近い形で、ジューダスの心臓へと再び刃が振り下ろされる。
それよりも先に、傍らを風が通り過ぎた。
「ほう・・・・・・。そちら側に手を貸すのか」
宗次郎の右手には物質化した"魔灯剣"が握らえれ、振り抜いた刃がジューダスの急死を覆す。弾かれた聖槍は地面に突き刺さり、その機会を逃さぬよう、宗次郎とともにジューダスが距離をとった。
「ボクは、―――ボクたちは答えを出した。もうボクたちは"銀の星"にはつかない」
「自身の産まれを否定する気か。だが、貴様の意思はこの際関係がない。―――時は満ちた」
―――その言葉とともに、おぞましいほどの気配が建物内に広がっていく。
せり上がるように、空気すら凍らせるほどの―――意思。暗い空間に、赤い十字架が埋め尽くしていく。
「これが、世界の怨讐だ。そして、―――『扉』となる」
「坊主! アオイと一緒に行け! 下に何かがある!!」
ジューダスの叫びを聞いた宗次郎の動きは早かった。ジューダスがアーネンエルベへと距離を詰め、それと同時に私へと駆け寄った宗次郎が手を引き、アーネンエルベの後方に広がる暗がりへと向かっていく。
「止まるな!」
視界の端で、眩い閃光が疾走した。鳴り止まぬ金属音が、建物内に木霊する。
―――深淵から流れる風は、怨嗟の声に等しかった。
それはいかなる業かは、私にはわからない。けれど、確かに感じ取れるのは、負の感情が知覚化されたもの。
赤い十字架として四方に刻まれ、体温すら奪う意思に、心臓の鼓動が早くなった。
_go to "providence".




