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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第5章 天と地の狭間

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12th day.-10/その【先】にあるもの - キョウカイ×ノ×サキ -/BEYOND THE BOUNDS




「―――くそっ! なんだあれはっ!?」

 盲目の魔女の怒号が響く。突如現れた袴姿の剣士に、誰もが攻略不可能と謂わしめた番犬を消滅させられた。そのことに対する怒りで感情を爆発させている。アギトに負わされた顔の傷すら忘れるほどの剣幕に、声を聞きつけたアレイスター=クロウリーが近づいてきた。

「なんとひどい有様か。何かありましたかな」

 アレイスターの言うひどい有様とは、ノーウェンスの情緒や顔の怪我のことではなく、ノーウェンスの周囲が轟々と燃え盛っていることだった。アレイスターの接近に気づいたノーウェンスは、彼の足元から火柱を発生させる。有無を言わせない業火に、―――

「八つ当たりはこの身で収めてもらいたい。館にまで火が及べばワタクシが苦労する」

 涼しい顔で言葉を発する。

「・・・・・・いいわね、あなたは簡単に死ななくて。でも、おかげで少し冷静になれたわ」

 ノーウェンスが指を鳴らし、業火を鎮火させる。アレイスターは身に付いた煤を払った。

「あなたがこれほど取り乱すなんて、ナツキ以来ですな。余程の辛酸を舐めさせられたとみえる」

「シンサン? 難しい言葉を使わないで頂戴。でも、ケルベロスを斬り伏せるやつがいるなんて聞いてないわよ?」

「言っている意味がわかりませんな。なに? あのケルベロスを? そのような勢力はワタクシの計算にはいませんが・・・・・・ふむ、出方を考えなければいけませんな」

「キツネの仮面を被った、ニホン刀の女よ。あなたの報告にそんなのなかった」

「・・・・・・ふむ。詳細はわかりかねますが、この国の()()があるのなら、シキガミかも知れませぬ。我らの知らぬ勢力の使い魔。それも、ケルベロスと()()のランクかと」

「クソが。"地獄"をそう安安と踏破するなんて、尚更たちが悪い。あなたの言う通り、ナツキ以来の大事よ」

「謎の勢力があちらの増援かと思うと、尚更ここに留まるのは危険かもしれませんな」

「何その言い方。まるで()退()するかのような言い草ね。もう一度焼いてやりましょうか?」

「そのことをあなたに進言したかった。zeroの様子が危険です。ワタクシとしては、早急に拠点に戻りたい」

「結界はどうするのよ。あなたがこれを処理する話でしょ?」

「逆探知型ですが、それこそ時間が惜しい。()()()()()の協力がなければ、zeroが()()()()()

「・・・・・・あなたが彼を頼るなんて、昨日と様子が違うようね。踏み込まれるリスクは覚悟の上ってこと?」

「然り」

「・・・・・・わかったわ。なら急ぎなさい。優先すべきはzero。あなたの判断を尊重します」

「準備なら順当、すぐにでも」

 館の中から異様な魔力を感じた。異界に通ずる『穴』の出現に、ノーウェンスが事態を把握した。

「これほど急いでいたなんて、やはりただ事じゃないわね。いいわ、ワタシも一緒に戻る。ここの処理は『悪魔』に任せます」

 ノーウェンスが炎を発生させる。地面を燃やす炎の筆が、歪な魔法陣を描く。線が繋がると、鳥の仮面を被った何かが出現した。

「事情は把握してるわね。ここの対処はお前の裁量よ。失望させれば、お前も燃やすわ」

「オーダーを頂戴した。ああ、任されよ、(あるじ)

 アレイスターとノーウェンスが館へ入ってくのを見届けた悪魔が闇に消える。


 事態の変化は互いの陣営の知らぬところで加速していく。その思惑を知る者はもはやいまい。闇夜に蠢く悪意が、寒空の下暗躍する。行く先は地獄か、さらなる深淵か。その行く末は、誰も知らない。




_go to next day. "OBLIVION"


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