12th day.-6/その【先】にあるもの - フロントライン -/FRONTLINE
「―――メディック班! 急患だ、治療を頼む」
「了解! って横腹ないじゃないっすか! 内蔵見えてるっ!」
アギト率いる兵団の衛生班に菊が担ぎ込まれる。今にも溢れ出そうな大腸を抑え、治療台に寝かされる。戦闘中に大量分泌されていたアドレナリンの効力も切れ、経験したことのない激痛に意識が飛んでいた。
「"麻酔針"は使ったが、この傷では雀の涙だ。ダンチェッカーの炎だ、意識があったら痛みだけで死ねる」
「ダンチェッカーって、あの魔女っすか!? 熱傷も混ざってるけど、どおりで、普通のやけどじゃないですよ、これ・・・・・・」
『ダンチェッカーの炎』と聞いて、隊員の声に焦りが混ざる。彼らが認識している『ダンチェッカー』とは他ならぬ『ノーウェンス=ダンチェッカー』のことである。しかし、彼女が"銀の星"の一員であるという認識はなかった。協会に噂される『地獄に愛された女』とされるノーウェンス=ダンチェッカーは、通常の魔術師が行使できない『炎』を纏っている、と。その実力は、兵団誰もが知っている。その彼女が、"銀の星"の『魔法潰し』・『番犬』だということが繋がるとすれば、恐ろしい驚異となる。
「まさか、『魔法潰し』がダンチェッカーだったとは驚愕だ。襲撃者はあそこで叩くつもりだったが、オレとしたことが思わず逃げちまった。まじビビったぜ」
「いや、負傷者もいて生きて帰還しただけ奇跡っすよ、隊長。ましてや、隊長が相手なら、あの魔女はいきなり殺しにかかってもおかしくない」
「隊長、三基より入電! 配置した魔術師たちが『獣』に襲撃されてる! すでに3人ロスト、いずれも接触地の近場です」
通信班が慌ただしく前線からの通信を伝達する。追加の情報で、ロストした魔術師たちは例外なく焼き殺されていた。
「八つ当たりに噛みつきやがって。ダンチェッカーへは三基を当てろ! オレもそっちに向かう! 残りはツーマンセルで『獣』の処理に向かわせろ!」
アギトの令を滞りなく伝達させる。基地内が慌ただしくするなか、菊が意識を取り戻した。
「すま、ない。アギ、トさん・・・・・・」
「お前は黙って寝ていろ。喋れば腹から腸が溢れる。おい、麻酔を増やして寝かせておけ!」
半ば暴力的な令を衛生班に出してアギトが基地を出る。PDAを見れば、赤いビーコンが倉山邸からは離れていくが、たった今新たに緑の波形が消滅した。強化を両足にかけ、ノーウェンス=ダンチェッカーがいると思わしき場所へと駆ける。
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「あなたもワタシの邪魔をするのかしら」
白杖で地面を叩く魔女が苛立たしい声を上げる。傍らでは、焦げた臭いを上げる黒い人型の塊が転がっていた。面前に立ちはだかったのは、アサルトライフル『AK-74』を構えた三基の姿。しかし、ノーウェンスに対して構えてはいたが、この装備では立ち打ちできないと悟った。
「臭い。銃器の油と火薬のにおいね。そう、あなたはあのクソ野郎の部下ね」
苛立ちに怒りが混ざる。先程取り逃した斎藤アギトの関係者だと分かれば、より怒りがこみ上げてくる。
「本当はすぐにでも殺してあげたいけど、殺してもイライラが治まらないの。この意味がわかるわよね」
魔女の周囲に黒い淀みが蠢く。次第に大きくなる炎が、獣の頭へと変貌する。
―――めっちゃキレてる・・・・・・。隊長、このヒトに何したの!?
三基が冷や汗を流す。寒空の下にいるのに、サウナの中にいるかのような熱量とプレッシャーが津波のように押し寄せる。先程MBR弾で撃ち抜いた魔物が目の前に立ちはだかろうとしている。アサルトライフルでは貧弱すぎる。ましてやこの距離では、対物理ライフルでは重すぎて邪魔になる。銃火器での対処が出来ない算段がつき、装備を降ろした。
「あら、自分から餌になるの? それでは張り合いがないけど、命乞いでもするのかしら」
「そんなの願い下げよ。隊長とあなたに何があったか知らないけど、隊長の敵なら私の敵。例外なく、潰します」
三基が魔術刻印を内包した手袋を装着する。拳を構え、両手両足に強化を施して対峙する。
「言ってくれるじゃない小娘。いいわ、あなたの首、あの男に叩きつけてやる」
三首の獣の鬣が揺れる。空気すら焦がす魔物に、細腕の兵士が立ち向かう。
_go to "hell zone".




