11th day.-3/皇の娘 - 魔弾の射手 -/THE GUN IS WEIGHTER THAN THE SWORD
目的が終了したので、教室に戻らずそのまま学校を後にした。新守渚との交渉事態は決裂したが、彼女へのわだかまりが少しだけ解消された気がした。彼女にも、彼女の立場があり、彼女なりの想いがあった。蒔絵のことも、彼女に問題がなかったわけではないが、それを彼女に攻め立てるのは筋が違うこともわかっている。なら、今後のことを約束してくれただけでも収穫があった。
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「マスター、一つ提案があるっす」
お山の麓に到着したあたりでアルスが口を開いた。学校からここまで、珍しく静かだったが、何やら考えていたのかもしれない。
「どうしたの?」
「昨日貰った、銀弾を使った練習をしてもらいたいっす」
アルスが私の胸元を指差す。制服の中に隠しているが、首からかけた鎖の先には、昨日菊から貰ったデリンジャーの弾がある。
「今後のことを考えて、必要に応じて実弾を使ったほうがいい。マスターの状態だと、魔力酔いが強すぎるっす。実弾があるなら、かなりの負担軽減になりやすから」
その言葉は、こちらの身を案じたもの。そして、合理的なものだ。ただ、実弾である以上、生半可な覚悟ではいられない。一瞬、驚いて返す言葉に詰まったが、賛同せざるを得ないだろう。
「そうね。あの時、アレイスター=クロウリーを撃ったときも、私はきっと迷っていた。折角のチャンスも宗次郎に阻まれたけど、その後の魔力酔いはきっと今後も私の足を引っ張るものね」
私が私の足を引っ張る。それは、私のために戦ってくれている者すべての足を引っ張ることになる。彼らは、私が戦いの場に入ることを拒んではいる。それでも、必要になる場面が来るのかもしれない。使う機会がなくても、備えておく必要はあるのだろう。
「わかったわ。デリンジャーのこと、もう一度教えて」
「ガッテンす!」
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―――帰宅後、ジューダスとジーンには学校のことを軽く話し、アルスとともに裏庭に出た。戦闘の面影は、地面の隆起や、未だ残る焦げた匂いが教えてくれる。ここで起きた惨劇は、ジーンが戦った証でもある。
「とりあえずは、普通の弾とオイラの違いを感じましょうか」
そう言って、アルスはデリンジャーの形へと変化した。手のひらに感じる重みと冷たさは何度握っても馴染めなかった。
『先に魔力加工してない状態っす。弾を込めてください』
地面に置いた箱から2発の弾丸を取り出す。直径およそ1センチに満たない弾丸は、思っているよりも存在感がある。冷たい感触に、中折式の銃身を起こしバレル内に2発の弾を装填する。弾を込めた状態では、重さ自体はさほど変わらないが、一気に緊張感が高まった。
『まずは、これで的を狙うっす』
適当に見繕った大きめの石に、空き缶を立てて標的と見立てる。缶の中心に狙いを定め、引き金に指をかけた。距離にしておよそ15メートルほど。この距離でも外す可能性があるが、今は感覚に慣れることが優先される。撃鉄を起こし、引き金をゆっくり引くと、僅かな抵抗の後に発砲音が木霊する。腕に伝わる衝撃は、アルスが作り出した魔力弾のときよりも強く、確かなものだった。だが、弾丸自体は的まで届かず、ちょうど石の下へと着弾した。
「あれ、失敗したの?」
『いや、これでいいっす。もともと非力な銃なんで、物理法則に従えば弾道が下がるのは当然ス』
私が下手すぎて狙いを間違えたかと思ったが、デリンジャーという銃自体の性質を鑑みれば仕方がないことなのだろうか。なら、実際は標的よりも上を狙ったり、もっと近くに寄らないと効果を発揮できないのだろう。
「でも、アレイスターを狙ったときは、かなり真っ直ぐ飛んでいった気がするんだけど」
私自体の銃の腕は皆無だが、あの時の弾道は宗次郎が間に入らなければ、確実にアレイスターへと着弾していた。あの時の感覚と違いすぎて、違和感が拭いきれない。
『あれはオイラの魔力弾なんで、ある程度補正してるっす。魔力弾は物理法則の対象外なんで、弾道が下がることもないっす。今度は弾丸に魔力加工した状態っす』
先程同じように撃鉄を起こす。的の缶に狙いを定め、照門を覗く。意識が、銃口の先へ伸びる感覚。魔力酔いの時とは違い、より遠くへと飛び出していく錯覚を覚える。
『魔力弾とは違い、魔力酔い自体はしにくくなってないっすか?』
「そうね。不思議と、感覚が冴えてる気さえするわ」
遠く離れてる缶にすら手が届きそうなほど近く感じる。不思議と、近くに感じる分、今度は外さない―――
「あ。あたった・・・・・・」
弾丸が銃腔を駆け抜ける衝撃が腕に伝わる。空を裂く弾丸は、先程のものとは違い、一直線に標的へと疾走し、着弾した缶が宙を舞った。射出の余韻に浸っていると、今まで感じていた魔力酔いがないことに気付いた。手に伝わる感覚は実弾と同じ、射出される弾丸は魔力弾のときのそれだ。だが、魔力酔いがない分、銃を使った感覚がより鮮明に残っている。
『実弾があるだけ、マスターに関与する比率が減ったからっす。弾の数だけの制約はありやすが、これなら以前よりは実用性があるかと』
アルスの言うことは一理ある。使うかどうかの場面は来ないに越したことはないが、この感覚が知れただけでも収穫だ。もしもの時の対処が増えることは心に余裕が持てた。
『後数発練習すれば、ほとんど影響がないくらいには慣れるはずっす』
バレルを起こして、空になった薬莢を取り除き、新たに2発の弾丸を込めた。
「これって、穴が2個あるから弾も2つ詰めてるけど、1つだとどうなるの?」
『上下2連式なんで、上から順にハンマーが叩きやす。弾がない状態でそのままトリガー引くと魔力弾になっちゃうんで、十中八九魔力酔いっす』
なるほど。焦って弾がない状態で使おうとすれば、きっと私は動けなくなるだろう。必要に応じて使うことになるが、気をつけよう。
_go to "night and day".




