11th day.-1/皇の娘/GOD WORD
―――悠久な空の下、この手に得たものは何だっただろう。
長い間、追い求めていたものがあった。救いたいものがあった。捜し求めたものを、自らの手で断ってしまったことを、今でも後悔している。だから、幻想騎士となって、同じ間違いはしまいと決意した。結果、同じ間違いをしようとしている。そのことにまた、後悔した。
―――救うべき者に救われる。実に本末転倒な話だ。それでも、救われたことに感謝した。長い間忘れていた何かを、思い出した気がしたから。
あの空の下で、何を望み、何を得たのだろう。低い空を見上げる。雲は流れ、月が傾く。少なくとも、日の流れを、静かにだが感じることができた。
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―――夜が沈む。気づけば、強く吹いていたはずの風は止んでいた。上空に雲の塊は消え、沈みかけた月が西の空に消えようとしている。じきに東の空から陽光が射す頃だろう。紫がかる空にどこか懐かしさを感じ、ただ静かに時間の流れをかみ締めた。
―――水の音が、聞こえる。辺りを包む青の世界。水底に沈む命は、次第に溶けながら消えていく。
―――冷たさを持つ、雨が降る。空から降る音が、地面を跳ねる音が私を包んでいく。
―――熱い何かが、何かを燃やしている。降りしきる雨の中、雨の強さにも負けず燃え上がる鉄の塊が視界を掠める。
―――暖かいモノに包まれている。自分の体から流れ出る■が周囲に漂う。雨の水を含みながら、徐々にその範囲を広げていく。次第に光を失っていく世界を眺め、失いかける意識の中で、雨と火の音を聞いていた。
皇の娘/11th day.
「――――――んっ・・・・・・」
部屋全体に浸透している朝の冷気による刺激で、目が覚めた。ベッドから体を起こして少し呆ける。眠気に突き刺さる冷気は、容易に私の意識を覚醒させた。
「・・・・・・そうか。今日は学校に行かないと」
重い腰を上げる。気分はすっきりとしている。異常なまでの落ち着きに、逆に少し不安を覚えた。
傷跡を抱く。―――嫌な思いが脳裏を通り過ぎる。こうも、ヒトは弱くなれるのかと思った。朝の気分の所為だと、気持ちを引き締める。
―――宗次郎は、本当に救えるのか。覚悟を決めた。必ず取り戻すと、必ず救うと覚悟を決めたはずだ。なら、迷う必要は無い。朝の気分だからと許すわけにはいかない。自らの手で頬を叩き、より一層気持ちを引き締める。その気を緩めぬよう、中途半端な気持ちを四散させた。
「おはようです、マスター。今日は久々に学校へ行くんすよね」
居間には獣姿のアルスがいた。伏せていた顔を上げ、立ち上がる。
「おはよう、アルス。渚さんとも話があるし、勉強しに行くってわけではないんだけどね」
今日は新守渚に会うために学校に行くようなものだ。宗次郎を助ける手立ては一つでも多いほうがいい。
「ジューダスたちもがんばってくれてるんだし、私もこれぐらいやらないとね」
「でもマスター、気をつけてくださいよ。何があるかわかんないんだし、どうやらあちらさんも何か魔術的なことができるようだし」
「大丈夫でしょ。こっちにはアルスがいるんだし」
「うげ、なんすかそれ。楽天すぎでしょ!?」
「ふふっ、期待してるよ」
「やめてっ! その期待を込めた笑みでオイラを見ないで〜」
そう言ってアルスは居間から出て行った。尻尾を巻いて逃げるとはまさにこのことだ。
学校へ向かう準備が整う。
「いってきます」
「いってきまーす」
「いってらっしゃい。アオイ、くれぐれも気をつけてくださいね」
「大丈夫よ。だってこっちにはアルスがいるもの」
「・・・・・・マスター、こわいこ」
心配しているジーンに手を振り、アルスと一緒に家を出た。
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