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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第1章 邂逅

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2nd day.-1/アンダーグラウンド/UNDERGROUND


 夜空に強い風が吹いた。先程まで穏やかだったそれは、木々を揺らし街中を奔り抜け、山道に沿って空高くへと通り過ぎる。風に流された雲で月が隠れ、隙間から溢れる月明かりもなく、辺り一面がより一層暗くなった。


「――ふふん。そろそろかな」


 山の上にある倉山邸。さらにその上。空。空の中で、ローブを深く被った少女が笑った。


「ここ数日かけて種は揃った。事が思い通り進めば、ふふん、楽しみだ」

「・・・・・・。ロキよ。この策に抜け目はないのか」


 さも不機嫌そうに口を開いたのは、フードを深くかぶった大柄の男だった。


「ふふん。キミが見てもわかるぐらいの大ザルだよ」

「貴様・・・・・・ふざけているのか」

「ふふん。まあ見てなって。疑心暗鬼になってもらわなきゃ、早めに感づかれると面倒だしね」


 パチンッと、少女の指が鳴ると、彼女の後方から勢い良く何かが飛び出した。


 その何かは、屋敷全体を覆っていた何かによって阻まれる。


 甲高い衝突音。空中で弾ける警報音に、屋敷の気配が変化した。


「狼煙は上がった。ふふん。じゃあ行こうか、クゲン」

「・・・・・・ふん。精々貴様の策で踊ってやろう」


 夜空により一層強く風が駆け抜ける。二人のイギョウがハジマリの謳歌を紡ぎだす。



///




「なっ――!?」


 突然の轟音により、眠りの縁から叩き起こされた。


 ボクだけが気付ける、ねぇちゃんは特性がないから気付けない特別な警報装置。


 建物全体に伝わる地震にも似た振動。脳に直接響く甲高い警報音に、眠気眼であったが、何が起こったのかを理解するのに刹那もいらなかった。


「くっそっ! もう、おばさんはいないってのにっ!」


 覚醒してすぐに。床に転がっていた竹刀袋から竹刀と、壁に掛けていた木刀を取って部屋を飛び出した。


 階段を駆け下りながら、木刀に巻いてあった和紙を破り捨てる。


 柄の周囲に青白い光が蠢いていた。


 一階に降りると、そのまま玄関まで走り、勢いを殺さないほどの足取りで外に出る。


「・・・・・・なんだ、これ」


 そこには、すでに撤去されている門の前に不審な人影が立っていた。


 人数にして五人。若い男、女、明らかに子どもに見えるものから、夫婦にも見える寄り添っている老人までいる。


「・・・・・・変だ」


 そう。明らかに変だ。


 この時間に訪れる客の時点でおかしいとかそういう話ではない。そこにいる誰も彼もが、人としての形状を保っていない。


 足で立っているものもいるが、地面に這いつくばっているものもいる。


 玄関前に佇む人影は、いたるところが欠けていた。光のない目でこちらを見ており、そしてなにより、そのすべてが、こちらに明らかな敵意と殺意を向けている。


 一目で"竹刀"では対応できないことを悟った。


 夏喜の言い分を聞くなら、この手の輩には"《《木刀》》"でなければ対応できない。


 過去の言葉を信じ、竹刀を後ろに投げ捨て、残った木刀を両手で構えて面前の"《《敵》》"に集中した。


 眼前の敵意に呼応するように、再び木刀の柄に青白い光が蠢き、次第に刀身全体へと広がっていく。


 その中、アレぐらいで警報が鳴るなんてと疑問が浮かぶ。


 そして、そのきっと疑問は正しい。眼の前の存在がきっかけで警報がなったとはとても思えなかった。彼らが、この"建物自体"に危害を加えきれるとは想像できない。それだけの脅威には、微塵も感じなかったからだ。


「ちっ・・・・・・どちらにしても、やるしかないんだ。ボクは、手を抜かない! 今日のために、ボクはいる!」


 空気に飲まれないようにと、自らを鼓舞する。木刀を握る手に汗が滲んだ。


 彼らの正体が何であろうと、彼らの脅威が如何なるものだろうと、これは乗り越えなければいけない出来事なんだと知る。彼らが予想通りの存在なら、この竹刀でも十分撃退できるはずだ。


 こちらが敵意に応えたからか、一番前にいた若い男が走り出す。


「がぁあああああああああああ」


 男が一本しか残っていない右腕を伸ばす。掴まれる直前にそれを躱し、男の頭に木刀を振り下ろした。


 グシャ、と鈍い音と共に男の頭が砕ける。頭頂部から胸元まで振り下ろされた木刀を力を入れて引き抜いた。


 OL姿の女性と初老の男性が地面を這ってこちらに迫る。足はなく、腕だけの力で這っているが、人のものとは思えないほど早い。


 こちらの足を掴みに来た男性の腕を飛んで避け、そのまま女性の背中へと着地した。


 着地の勢いで動きの鈍った女性の頭を砕き、すぐに飛び退く。頭を砕かれた女性を見ると、腕が肩の関節など無視して、先ほどまで乗っていた背中へと突き刺さっていた。


 飛び降りたときにはすでに男性がすぐそばに這い寄っていた。伸ばされた腕を木刀で払い、あらぬ方向に曲っている腕を反しの刃で断ち切る。


 初めてにしては迷いのない良い太刀筋だ、と心で一瞬思ったが、気持ちを切り替え、一歩下がり、落ち着いて男性の頭を潰した。


「ぐっ――!?」


 右肩に激痛が走る。反射的に後ろにいた何かを蹴り飛ばす。気付くのが遅れたが、顔が口の下から欠けた老婆の姿がそこにあった。老婆の手を見ると赤く濡れていた。どうやら肩を指で貫かれたようだ。


 痛みに思考が鈍る。痛みで右腕全体に力が入らない。背中に冷たいものを感じた。


 蹴り飛ばされてたじろいだ老婆が立ち上がり、ゾンビのような足取りで再びこちらに向かってきた。


「ボクに、――触るなっ!」


 横に大きく木刀を薙ぐ。老婆の胴体が二つに分断される。胴から上のみの状態になっても、老婆は這ってこちらに向かって来ようとする。

 とっさに脳天へと木刀を突き刺した。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」


 突き刺した木刀を引き抜く。傷口に感じる冷気が脳に響く。両手に四人分の頭を叩き潰した感触が残っていた。この木刀であれだけの破壊ができたのだ。彼らがそういうものだということはわかった。しかし、“人の形をした”者をこの手にかけたことに間違いはない。心に嫌な気持ちが渦巻く。


「――割り切れ。割り切れ。割り切るんだ・・・・・・」


 呪詛のように、何度も何度も自分の行為を正当化しようと言い聞かせる。こうでもしなければ、心が折れる気がしたから。




『――お前は甘い。だから飲まれる。だから傷つく。だから――』




「うるさいっ!」


 心の声に活を入れる。ボクは、この程度では屈しない。


 視界の隅に。倉山邸の入り口に一つ残された何かを見つけた。


 両手両足のない、子供の形をしたダルマのそれと目が合う。唯一敵意と殺意が霞んでいるそれは、光のない目線は上下左右に揺れていた。


 それを見て、ひどく冷静になってしまった――




「――ふふん。やっぱり帰転しちゃったか」




 ――途端、


「がっ――!?」


 首筋に激痛が走る。同時に、眼前のダルマがめきりと、全身を歪ませた。


「ぐっ、痛っ・・・・・・」


 ダルマの肉体が弾け、飛び出した何かに玄関前まで吹き飛ばされた。十分に避けることができる距離にいたのに、急に首筋に走った激痛に肉体がこわばった。回避は間に合わない。ならばと手にしていた木刀で受け止めたせいか、刀身が砕けていた。


「ふふん。予想通りの結果だけど、さすがに意識はあるか」


 強風が吹く。空へと抜ける風に雲が流され、月明かりが照らす中、ダルマの残骸の真ん中には、左眼に大きな眼帯をした少女が立っていた。


「キ、キミ・・・・・・は・・・・・・」

「こんばんは、坊や。いきなりで悪いんだけど、()()()()だよ」


 少女の周りに白い塊が渦を巻く。


「がっ、――!」


 受け身もまともに取れず、玄関のドアを突き破って全身を強く打った。


「今ので失神するぐらいには強めにしたんだけどな。ふふん。キミは打たれ強い子だね」


 外からそんな声も聞こえたが、全身を駆け巡る激痛に今にでも意識が飛びそうだ。


「良い意味で見込み違いだけど、これ以上長引くのも面倒だ」


 再び、少女の周囲に白い塊が集まりだした。今度のはさっきのよりも密度が高い。


「・・・・・・これ以上は、無理・・・・・・か・・・・・・」


 ポケットに忍ばせておいたものを取り出した。如何なる時でも手が届くようにと、だけど誰にも知られないようにと隠しておいた"()()()"を握りしめる。


「おばさんが守った日常を、ねぇちゃんの居場所を――」


 手にした石が爛々と輝く。


「大丈夫。死なない程度には抑えているよ。もし死ぬようなことがあっても、ふふん、その後をキミが心配することはないさ」


 少女の指がパチンと鳴る。十数メートルは離れている距離を白い弾丸が駆ける。


「――これ以上壊すなっ・・・・・・!!」





アンダーグラウンド/2nd day



「――ようやく来たか」


 夢を見ている。気付けば、見知らぬ男が片手を挙げて現れた。明らかな初対面。なのに、気持ちはどこか懐かしさを感じていた。記憶と認識している感覚の齟齬に、無意識下で今の状況を理解した。ああ、これは夢だ。明晰夢に困惑することなく、この身を委ねようと考えた。


「そう。ここはお前の夢の世界。そしてオレにとっての()()だ」


 男は踵を返して歩き出した。口にせずとも、彼は私のことを理解したようだ。その不自然さも、不思議と違和感がない。


「お前が気付いたのか、それとも偶然か。どちらにしても、()()()の読みが当たってしまったのかもしれないな」

「あいつ・・・・・・?」

「ナツキの事だ。きっと、お前がいずれここへ訪れる事態が起こると危惧していたんだろう」


 なぜ夏喜の名前が出る? 確かここって、夢・・・・・・だよね?


「やれやれ、どうやら今夜が山なんだろう」


「――あなたは誰なの? なぜ夏喜のこと知っているの? 今夜が山って、どういうこと?」

「目を覚ませば嫌にでもわかるだろうさ。すぐにでも、また会える」

「何がわかるっていうのよ。というか、あなたは夢の住人じゃないの? 夢が現実に干渉するとでも言うの?」

「それを含めて、また今度だ。今は現実を見たほうがいい。すぐに戻れ。お前の目が覚めるころにはすべてが始まっている」


「また後で会おう。ナツキが遺した"()"と"()"を忘れるな」




「――坊主を守ってやれよ、アオイ」


 ――そして、男のいた世界から、一瞬にして覚醒した。



「――はっ!!」


 覚醒はすぐにでも訪れた。頭がズキンと痛む。寝起きだというのに、すでに目が冴えてしまっている。


「あれって、一体なんなの?」


 夢の内容は鮮明に覚えていた。夢で見た男、夢で聞いた言葉が直接脳へ刷り込んだかの様にどんどん頭の奥から湧き上がってきた。


「な、なに・・・・・・!?」


 状況が飲み込めないが、明らかにガラスの割れる音がした。聞こえた方向的には、玄関?


「何が起こっているの・・・・・・?」


 ベッドから出てクローゼットからジャージの上着を取り出し羽織る。どちらにしても、音の原因は確かめないといけない。


「まさか、泥棒?」


 だとしたら、宗次郎も起こして何か対策を取らないといけない。

 ドアを開けて部屋を出ようとした時に、視界の隅に何かが光っているのに気付いた。机に置いていたナツキの形見の宝石が暗い部屋で朧気に光っている。


「"石"と"本"を忘れるな・・・・・・って言ってたっけ」


 夢での言葉に確証なんてないけど、あの言葉がやけに頭に残っている。とりあえず宝石をポケットに入れ、本を手にして部屋を後にした。



_go to "remnant".


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