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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第4章 モーニング・グローリー

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10th day.-2/盲目 - それぞれの協定/PACTS




『―――それで、状況を教えてちょうだい』

「現在、zeroは先日の戦闘により魔炉の機能が停止しています。数日はまともに魔力を練ることが出来ないでしょうな。同伴していたクゲン氏はあちら側の幻想騎士―――イスカリオテによって消失、zeroを守護する人員は不足状態です」

『不足状態って、もともと二人しかいなかったじゃない』

「まぁ、そうですな。ただ、気がかりなのがあちら側の動きです。ナツキが以前召喚した純子(タイプワン)をあちら側が所持している。魔弾(タスラム)の能力はzeroには天敵と言っても過言ではない」

『・・・・・・そんなの、どの魔法使いでも一緒じゃない。あれはそれだけ埒外の代物だし』

「いえ、zeroの特性上、あれほど効率よく魔炉に損害を与えることが出来る能力はありません。無加工の魔法故、術者にダメージをフィードバックさせる能力ほど恐ろしいものはない。ものの数発で、zeroの魔炉に多大の損害を与えています」

『そんなにひどい状況なの?』

「ええ。zeroには隠していますが、ここでは治療の術がない。一度本部に戻らなければ、使い物にならない」

『それは困った。彼が使えなければ、あの方の計画に支障がでるわ。それで、行動はいつなの?』

「今にでも、と言いたいところですがそうもいかない。この場所もすでにイスカリオテに知れていますし、先日からこの街に()()()がいます」

『不審者?』

「誰かはわかりません。ただ、只者ではないのは確かですよ」

『ふん・・・・・・。ヴァチカンの聖堂騎士(パラディン)ではなくて? それならワタシも気付いているわ』

「彼の魔力も感じていますが、彼ではありません。一度彼の魔法は見たことがある、実験の翌日から彼の出現には気付いていました。だが、ワタクシが感じた魔力は、単一ではありません。集団で突如この街に出現した。例えるなら、―――()()()()

『・・・・・・へぇ。魔法協会の狗どもが動いているのね。面白い、丁度いいわ。あそこにも挨拶へ押しかける手間が省けたというものよ』

「気を付けてくださいよ。感じる魔力は普通の師団ではない。おそらく上玉です」

『いいわ。それに関してはワタシが対処する。あなたはzeroの回復のために、早急に本部への帰還の準備をしなさい』

「わかりました。そちらの仕事も順調で?」

『ワタシはこれからよ。夜明けから始めるわ。聖堂騎士の方もワタシが面倒をみてあげる』

「彼なら、あなたにとって重石にならないでしょう。なんせヒヨッコです。一握りできるほど、まだまだ青い」

『・・・・・・"対象"を過小評価するのはあなたの悪い癖よ。ヒトは成長するの、その彼だって強くなってるかもしれない。()()()()も行動を起こすそうよ。『扉』を開く準備は整った。『鍵』と『釘』さえあれば、いつでも実行できるってわけ』

「それは悪いことをしました。しかし、この状況では、『釘』の探索はできそうにありませんな」

『なら、一度態勢を整える意味でも、帰還するべきのようね。でも、見当は付いてるの? そうでなければ急がないと』

「それに関しては大丈夫でしょう。ワタクシの見立てでは、おそらくまだ、()()()()()にありますよ。彼らも、下手に動くことは出来ない。それに、ワタクシが帰還したところで、彼らにはその場所を知る手立てはない。この場所の魔力を一掃した後に、先に帰還させてもらいましょうか」

『ええ、そうしなさい。動くなら早急によ。計画はすでに佳境なのだから』



///



「―――『扉』の開通。それがやつら"銀の(Argenteum )(Astrum)"の計画だ」

「オレたち第五魔法協会が収集した情報にも似たような記述があったな」

「アレイスター=クロウリーは"銀の星"の創設者だ。すでに半世紀以上前に破壊したが、新しい団長がやつを幻想騎士として呼び出し、それなりの地位を与えたのだと思う。あの男が誰かの為に動くというのは、非常に珍しいことだ。おそらく、魔術的な神秘探索が目的だろうが、大事であることは確かだ」

 居間のテーブルの上に広げられた街周辺の地図を手に、ジューダスは言葉を進めていく。

「今現在のやつらのアジトはこのあたりだ」

 大きく丸のつけられた地図。臆郷と倖田の境目にある小さな森林。そこなら、なるほど、身を隠すには丁度いい。

「そこならいろいろと便利かもね。昔っからそこって幽霊騒ぎと自殺の名所とかで周辺住人も寄り付かないし、人知れず建てられた洋館とかあるって噂だし」

「その洋館こそがやつらが身を潜めているアジトだ。大きくヒト避けの結界を施して、こちらから侵入することは困難そうだ」

「それで、彼らを止める手立ては?」

「今の所、こちらから出来ることはない。なんせ結界の中だ。百人結界でもしない限り破ることはできない」

「なら早急に要請しよう。こちらのシミュレーションでも想定されていたことだ」

「頼む。やつらはまだヘレナを探索する必要がある。暫くは留まるだろう」

「一ついいっすか? さっき言った『扉』ってのは何すか? 抽象過ぎてよくわからないんすけど」

「・・・・・・魔界への扉か、はたまた単なるコードに過ぎないのか、詳しいことはわからない。ただ、エド翁が言うには『鍵』と『釘』が必要らしい。『鍵』は坊主で『釘』はヘレナのことらしいが、どうだかな。繋がりはサッパリだよ」

「つまりは、なにもわかってないってことなのね」

「まぁ、そういうことだ」

「彼らがヘレナの聖釘探索が必要なのはわかりましたが、なぜこの街に留まるのでしょうか? ここにある、という確信の下でですか?」

「おそらくそうだろう。坊主だけが目的なら、再びこちらに仕掛ける必要はなかった。あいつはいつも行動に無駄をつくらない。自分の目的がどうとか言っていたが、結局は"銀の星"の計画が絡んでいるだろう。街中にやつがいた形跡があった。この土地にヘレナがあるのはまず間違いないだろう」

「聖釘の調査については菊がすでに行動を起こしている。これに関してはあいつに任せて大丈夫だろう」

「だいぶ、大事になってきたね。始めは宗次郎を助けたいって気持ちがいっぱいだったのに、なんかすごいことに巻き込まれたって感じ・・・・・・」

「・・・・・・不安ですか?」

「少しね。ただ、私の気持ちは変わってない。宗次郎は助ける。あの人たちの思い通りにはさせないわ」

「やっぱり、お前は夏喜の娘だな。負けず嫌いなところが、なんともそっくりだ。昔を思い出すよ。

 現時刻より、我々第五魔法協会魔術戦闘部隊並びにヴァチカン聖堂騎士団は貴公らと協定関係を契る。情報はなによりも大事だ。なんせお前にとっては家族事、自分の流儀を通すのが筋ってものだしな。なにか新しいことがわかったらジューダスに連絡しておく。須らくそちらの情報もこちらに教えて貰いたい。なにか手を貸せるのならサポートしよう」

「いろいろと苦労をかけるな。すまない、甘えて協力を願おう」

「―――隊長! お迎えに来ましたよ!!」

 玄関口から大声が聞こえた。隊長と呼ばれ、アギトが立ち上がる。

「こちらも早急に行動を起こそう。なに、心配はいらん。こちらにも優秀な部下がいるんでな」

「隊長ー!! 隊長がいるだけで迷惑なんだから、さっさと出てきてくださーい」

「・・・・・・頭だけは弱いんだけどな、あいつは。それでは失礼する。ジューダス、百人結界に関しては二、三日で返事を出そう」

「ああ、よろしく頼む」

「隊長〜」

「はいはい、わかったよ。恥ずかしいったらありゃしねー」

 そういってアギトは居間を後にした。

 玄関まで送ると、そこには大人びた姿をした男物のスーツを着込んだ、端麗な女性が立っていた。短く切りそろえられた髪から男性のようにも見えるが、薄い桃色の髪や綺麗に伸びた背筋は日本人にはない華麗さを魅せる。

「もう、夜中に他人の家に押しかけるなんて変態ですよ隊長。迷惑を考えてください」

「はいはい悪かったって。仕事が終わったらアイスでも買ってやるから、それで許してくれ」

「え〜いいんですか! やったー、それじゃー私、がんばっちゃっいますよー。目標ハチの巣ですよー。殲滅しちゃいますよー」

 満面の笑みで浮かべる女性。言ってることが子供っぽいのか生々しいのかわからない。

「これこれ、不思議な目で見られてるから落ち着け三基(サンキ)

「あ、すいません。きゃー恥ずかしー」

「・・・・・・すまんな、頭弱い騒がしいやつで。これでも優秀な部下の一人なのが玉に瑕だ」

「あはは、賑やかでいいじゃないですか」

「あ、あなたが夏喜さんの娘さんの葵さんですね。ごめんなさいこんなオッサンが押しかけてきちゃって。怪我はないですか? 襲われてないですか? 孕まされていないですか?」

「おい、なんだそれは。まるでオレが変態みたいじゃないか」

「え、違うんですか? 他人の家に勝手に押しかける人って変態の犯罪者だって隊員が口をそろえて言ってますよ。隊長はその鏡だって」

「・・・・・・オーケーわかった。あいつら減給だな。そんでお前はアイス抜き」

「えー私は悪くないのにー」

「うるさい黙れ。お前と喋ると恥ずかしいから帰るぞ。すまなかったな失礼なヤツで」

「いえいえ、それじゃあ気を付けてください」

「ああ」

「さよーなら葵さん」

 そういってアギトとその部下の三基は倉山邸の敷地を後にした。それにしても、顔と性格がまったくもってミスマッチな人だったな、三基さん。



_go to "woman in the dark".




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