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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第4章 モーニング・グローリー

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9th day.-2/裏切りの聖者 - 堕天使たちのバラッド -/BALLAD OF FALLEN ANGELS



 ―――時間は暁の直前まで遡る。


 そこは風の音が妙にうるさい場所だった。

「―――『私有地につき立ち入り禁止』、か。どれだけ放置された洋館なんだか」

 ジューダスが館の前に立てられた看板から視線を戻す。臆郷市の郊外にある林道。その奥に建てられた古い洋館に到着した。冬の風が吹く森に鎮座する洋館。そこはアレイスター=クロウリー一行が身を隠しているアジト。ふと、そこには異界を思わせるほどの特別な結界が施されていることに気付いた。

「・・・・・・で、どうするの?」

「と、申しますと?」

()。キミはどうしたいのさ?」

 宗次郎が言う"彼"―――ジューダスを横目で一瞥すると、アレイスター=クロウリーに問いかけた。

 ―――どうやら彼らの決着が、このような形になったことを不満に思っているらしい。

「最初と話が違ってないかい、アレイスター? キミは彼と決着を付けると、確かにそう言ったはずだけど」

「心配無用。決着ならつきました。ただ、ワタクシと彼との間には、互いの命をとるのに十分な差がなかった。よって、ワタクシは彼を我が手中に収めることにしたのです」

「・・・・・・で、なに? こんな"決着"でキミは満足なの?」

「無論。なにも決着をつけるのに、命をとる必要はないのですよ。『幻想騎士』ではありますが、我々は"騎士"ではない。なら、必ずしも命をかける必要はないのです」

「なにそれ。屁理屈?」

「納得、いってないようだな」

「そのようですな。・・・・・・ふむ。なら、我々は"命"ではなく、"存在"を賭けて戦ったと言えば判りますかな?」

「どう違うのさ? 命も存在も、大した差はない。相手を討ち取るとこに変わりはないはずだろ?」

 納得いかないと宗次郎が噛み付く。それをアレイスターは彼自身の理念を説明した。

「いえ、そうではありません。まず"命"とは、その者の生きるための意志です。その意志が貪欲であるのなら、命とはそれだけで(ながら)えるものなのですよ。対して"存在"とは。それはその者の命を含んだ、その者自身を構築する"世界"に他ならない」

「世界? は、なにをバカな。もしその世界があるとしても、それでもそれは存在ではなく命に宿るものだ。命無くして、存在も世界もあるわけがないだろ?」

「いえいえ。命とはその者を図る指標にはなりえませんよ。現に、一度でも命を無くしているはずのワタクシや彼が目の前にいるではないですか」

「それは・・・・・・」

「我々に命を取り合う戦いは意味がない。ワタクシのように、没後すぐにでも幻想騎士として再び世界に舞い戻ることすら出来るのですから。其故の"存在"です。存在しているのなら、命はそこに宿り、世界は構築される。ワタクシと彼には、互いを殺すという決着の形はない。現にワタクシは彼と幾度と戦い、生前の一度目以外に決着はついていない。彼がどうであれ、唯々命を刈るだけの戦いなら、ワタクシは何度でも蘇る所存ですぞ」

 繰り返される闘争は、アレイスターの魔眼により、ジューダスを抑える結果となった。その結末、宗次郎はジューダスが“生きている”ということに不満を宿したのだ。それは魔術に徹する身ではない故に、決して理解することの出来ない領域の話。空想的概念に縛られたケダモノは、存在した事実がある限り、何度でも世界に復元される。それは地域、時間軸を区別せず、この星の記憶と共に語り継がれる。残留思念として世界に残る彼ら―――"幻想騎士"という存在。

 アレイスター=クロウリー然り。九天(くてん)応元(おうげん)雷声(らいせい)普化(ふか)天尊(てんそん)聞仲(ぶんちゅう)然り。ジューダス然り。彼らは全て、この世界に語り継がれる神秘の結晶なのだ。その彼らが、"命"という有限のモノに存在を宿すわけではなく、"存在"そのものに不滅の世界を宿すのである。

「・・・・・・ふん、まあいいさ。それでアレイスター、これからどうするつもり?」

「そうですな。クゲン氏が未だ覚醒しないというのもありますが、とりあえずは日が沈むまで館で待機しておいたほうがいいでしょうな」

 そういうと、東の空にはうっすらと陽光が射していた。

「それはどういうこと? まさかボクの身体に気を使っているの? よしてよ、反転はもうすでに完了しているじゃないか」

「反転だけの問題ではなく―――右腕、ほとんど感覚がないのでしょう?」

「なっ―――!?」

「隠す必要はありませんぞ。今日のあなたは魔力を使い過ぎた。魔灯剣なんて無加工の干渉魔法、ああも見境なく使えばその反動も大きい。さらにいえば、あちらの純子(タイプワン)と交えたとなれば尚更です」

「どういうことだい?」

「・・・・・・アルスのことだ。直接()()へ攻撃したんだろう」

「マロ? なにそれ?」

「『魔力炉心』、肉体内で魔力を精製する器官のことです。エーテル体なため、実際に形のある器官ではありませんが、純子の性質上、その半霊半物の魔炉にすらダメージを与えることだって可能なはず。あなたは彼の魔弾を魔灯剣で直接受け流したはず。そのとき、なにがあったかはあなた自身がよくわかっているはずですよ」

「・・・・・・なるほど。その魔炉を安定させないことには、この痺れも治まらないってこと?」

「左様。反転にも影響があるでしょう。油断していると、いつ()()()()()()()かわかりませんぞ」

 アレイスターがそう言うと、宗次郎はあからさまに不機嫌な顔をして踵を返し、館へと入っていった。

「ずいぶんとご機嫌斜めでしたな」

「あれだけの能力だ。ポッと出であれなら、天狗になるのが子供ってものだ」

「ほう。それはなぜ?」

「能力自体は実に強力だ。原因はわからんが、あれだけ膨大な魔力もあるなら、身体の負担には疎くもなる。それに気付かず乱発していれば、回復も遅れるだろう。さらにアルスの魔弾は腐ってもタスラムの称号を持つ。普通なら魔炉が崩壊しても不思議ではない」

「ほほう。ずいぶんと的確な見解ですな。なるほどなるほど。やはりあなたは期待通りの人だ」

「世辞はいらんぞ、エド翁。だが、―――貴様、いつまで道化を続けるつもりだ? 最初から気付いていたんだろう?」

「それはそうでしょうな。繋がりが消えた以上、そう察するのが自然ですから」

「なら、どうするつもりだ?」

「純子に感謝なさい、ジューダス。ワタクシの計画も順調です。あなたに対しても、いろいろと参考にさせてもらいましたよ。機会があるのなら、今度は邪魔の入らない形でお願いしたい」

「ほう、なら見逃すのか? 貴様は"目的"よりも"計画"を選ぶというわけだな?」

「何とでも言いなさい、裏切りの聖者(イスカリオテ)。今のままのあなたではワタクシを止めることができないことも気づいているはずです。それに、あなたには()()()()()()()がある。それもここで返させてもらいましょう。あなたも、時には素直になることも大事ですよ」

「ふん。その言葉よりキナ臭いものはないが、その名を紡いだことも含めて目をつぶってやろう」

「ええ、そうしなさい。ただ、―――()()()()()()()()()()()()()()

 空間を覆う殺意と敵意。異質な風は、天を衝く雷と共に現れた。

「なぜ、貴様がここにいる聖職者?」

「思ったより目が覚めるのが早いな。どうだ、彼岸に足を踏み入れた感想は?」

「問いに答えろ。今問いているのはワタシだ。断じて貴様ではない」

 ジューダスの足元に雷撃が飛ぶ。威嚇の範疇ではあるが、当たればタダでは済まない出力を感じ取った。

「・・・・・・ふん。彼岸から救ってやったというのに、感謝の言葉もなしか」

「黙れ紛い者!!」

「どうやら火に油だ、話になりやしない。だが、ちょうどいい。お前には()()()()()()を返さなければいけなかったしな・・・・・・!!」

 唸る彷徨。両者の鉄槌は眩いほどの光量をもって空間を埋め尽くした。

「クゲン氏! 彼はあなたのしたいようにいたしなさい。殺したいのなら結構。ワタクシはここで撤退させてもらいますよ」

 アレイスターの影は光に溶け、洋館の奥へと消えていった。扉が閉まると同時に、館全体に特殊な障壁が張られた。これからの戦闘が凄まじいと踏んでの対策ということは明らかだ。

「・・・・・・驚いたな。フラガラッハを被弾して死にかけた者としては、魔力が残りすぎだ」

「黙れ! 貴様には口を開く権利などない!」

 怒号とともに振るわれる左腕。詠唱もなく、クゲンの腕からは雷の法術が発動された。無数に広がる雷の顎が疾走する。

「話せの次は喋るな、か。無茶をいう男だ。だが―――」

 払われる神槍。穂先で、ジューダスの身を襲う顎全てを消失させた。

「無詠唱で術を行使するとなれば、精度が二、三は下がるのが道理だ」

 ジューダスが唱えた言葉には、嘘偽りは存在しない。魔術というのは、"構成"・"詠唱"・"発生"という三大原則の中で生成させる。自己の中で魔術式を"構成"し、発動のキーとなる"詠唱"をもって世界へ魔術を"発生"させる。この流れこそが、魔術における絶対的な基本ルールである。その流れで、唯一"詠唱"の段階のみ省略可能ではあった。しかし、数多に存在する魔法書(スペルブック)には、"詠唱"こそが魔術の醍醐味とされる。魔術師の力量も"詠唱"によって測られるといっても過言ではないのだ。

 もともと、詠唱というものは魔術師個々によって異なるものである。肉体・精神情報が合致する人間などいるはずもなく、本人のイメージと合う詠唱こそが魔術行使の最大の要因となる。詠唱は長ければ長いほど、魔術を世界に投影しやすくなる。上級魔術師になれば、長く唱える必要性がなくなり、より短く唱えることで最大の威力を発揮する。

 しかし、その"詠唱"を外せばどうなるか。銃で目標を狙って弾を撃つことを詠唱ありの魔術とするなら、弾丸を直接投げつけることが詠唱なしの魔術である。"構成(弾丸)"は"詠唱()"を持って"発生(発射)"される。無詠唱となれば、真意とはかけ離れた出力となることは間違いない。

「本気で来い。オレをガッカリさせるな―――」

 携えた槍の(かぶり)を下げ、必殺の型をとる。狙うは(クゲン)の首級。全力で討つ。

「・・・・・・驕れるなよ狼藉者。貴様如き偽りに身を委ねた者など、芥ほどの情けもない・・・・・・!」

 展開されるクゲンの宝貝(パオペイ)。法術と同じく、無詠唱での限定解除。クゲンの能力は、明らかにジーンと戦ったときよりも向上していた。死にかけたことでリミッターが外れたが如く、それは禍々しいほどの殺意の形。宝貝を覆う雷の顎が男の腕を焦がしていく。

「阿呆め。驕れているのは貴様の方だ」

「ぬっ―――!?」

 刹那にして、ジューダスの姿がクゲンの視界から消えた。次なる殺気に気づいた時、男は自らの首が飛ぶ幻影を視た。

「ぐっ―――!!」

 肩を掠めた神槍の刃。咄嗟に飛び退いたおかげで、クゲンの首は繋がったままだった。無詠唱をもっての空間転移。完全に気配を消失させ、タイムラグなく空間を移動することができるのがジューダスの行使する空間転移のルーン魔法である。それを無詠唱で行うとすればその精度は落ちる。それはもはや空間転移ではなく、高速移動の類となる。気配は完全には消失できず、発生する場所を気配や魔力、空間の歪みから悟るのは容易になる。故意に避けれるように、されど殺す気で刃を振るった。クゲンはそれを受け、肝が冷えたのか、ようやく冷静になった。

「なるほど・・・・・・。確かに驕れていたのはワタシの方かも知れぬ」

「理解したか? なら―――神に祈れ。今の貴様にできることは、もはやそれだけだ」

「ワタシが神に縋るものか。つまらんことを言うな。貴様は先刻の情けに後悔しろ」

 共の吹き荒れる殺意の渦。魔力を持って生成される膨大な量の雷の顎。

「元は名のある大陸の仙道らしいな。手向けだ。遺したい言があるのなら遺すがいい」

「調子に乗るな、裏切りの聖者。貴様は生を得たことを悔いて逝け」

「ふん。実に貴様らしい言葉だ。なら、―――」

 槍と鞭に収束される必殺が頭を上げる。


「―――『トゥアザ・デ・ダナーン ――――


「―――最大開放(サイダイカイホウ)泡沫(ウタカタ)()レ―――!!」



 距離にして、三十メートル弱。共に光の速度で放たれる必殺が、詠唱と共に展開される。


「――― ブリューナク』―――!!」

「―――『(キン)(ベン)』――――!!」




_go to "invader".


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