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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第3章 EVE

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8th day.-10/戦慄組曲 - ヒトモドキ -/A.V.S, TENET



「―――っ!?」

 振り下ろされた最強の"剣"。全てを処刑する魔手が私の脳天へと振り下ろされる。

「―――はぁああああ!!」

「!?」

 突然目の前に現れた影。青い斑点に蝕まれていた視界に、アルスの後姿が映った。

「やるじゃないか、使い魔。今のちょっと驚いたよ」

 宗次郎の姿をしたアルスが立ちはだかる。肩には、宗次郎の魔手によって血が滲み出ていた。

「なるほど。古代魔具の結界やオイラの魔弾を容易く破壊するだけの威力もそれなら頷けられる。これほどの破壊力とは・・・・・・」

「キミの障壁もなかなかなものだよ。でも、さすがに今回は相手が悪すぎるかな。それだけの傷だけでよかったね」

 ケタケタケタ。闇夜の空に三日月に笑うアクマ。

「・・・・・・アル、ス?」

 やっとの思いで意識が回復する。アルスの顔には苦痛の表情が浮かんでいた。

「マスターはオイラの後ろにいてください」

 緊迫とした空気。瓜二つの少年達は、余裕と苦痛という、正反対の表情を見せる。

「よかったね、ねぇちゃん。ここにも、ねぇちゃんを護ってくれる者がいて。ご主人の命を護ろうとする使い魔の姿も素晴らしいよ」

 賞賛を送る少年は、唯々パチパチと手を叩くだけだった。何の比喩も皮肉もない、唯々褒めに使わすその表情は異国の王をも思わせる。

「これより、この戦いはオイラが引き受けます」

 人型となったアルスは、魔手によって付けられた傷口に手をやる。そこに付いた血を拭い、面前のアクマを凝視する。

「見上げた覚悟だよ、使い魔。なるほど、まだ目覚めていないねぇちゃんとどうやって契約したかは知らないけど、どうやら正当な使い魔らしい。ロキが言っていたのはすべて本当ではなかったのかな」

「なに、言ってるんすか・・・・・・?」

「いやいや、こっちの話だよ。でもちょうどいいかな。ボクも退屈していたところだし、少し遊んでくれよ」

 瞬間にして、宗次郎の姿が消えた。気配もまったくなく、視界から消滅する。

「マスター、伏せてっ!!」

「えっ―――?」

 傍らを掠めた風。その風は、容易く大地に大穴を穿った。

「痛っ―――!?」

「マスター!!」

 突如全身を奔った激痛。首の辺りから奔った痛みは、皮膚を裂き、一滴の血を垂らす。感覚でわかる。風圧だけで皮膚が切れる威力。宗次郎がその気なら、私は今頃、この場に生首だけを転がしていた。頚動脈まであと数ミリというズレで、私の命は確実に鮮血と共に散っていただろう。

「マスター、大丈夫ですか!?」

「ええ、なんとか・・・・・・」

 アルスが私を抱えて宗次郎と距離を取る。魔力酔いによりまともに動けない私は完全に足手まといだ。この状況では、二人共危険だ。

「務めはきちんとしなければいけないよ、使い魔。ボクがその気なら、キミのご主人は今ので軽く死んでいたさ」

「貴様ッ―――!!」

 アルスは庭に転がる小さな石ころを拾った。怒りに任せた投石。その速度は速いといえど所詮は石ころ。それは容易く―――

「なっ――――、!?」

 ―――宗次郎の胸に直撃した。投げられた石は、必殺の弾丸として放たれた。それは、魔弾に匹敵する威力。

「なか、なか――――考えたじゃないか、使い魔。魔弾にこんな使い方があったなんてさ・・・・・・」

「さっきのでキレた。今度は額を狙うぞ」

 空間を塗りつぶす殺意。救うべき相手に向けられた殺意は、その視線だけでヒトを殺せよう。それを受けて、魔弾をぶつけられた少年は胸を擦りながら不敵にも笑みを浮かべている。

魔弾(タスラム)の真骨頂を見せてやる」

「面白そうな能力だ。存分に楽しませてもらおう」

 全身に感じる殺意は、空間を歪ませるほどの魔力の塊が内包されている。

 アルスの戦い方は、型を外れたものだ。地面に転がる石を拾っては、そのまま宗次郎へと投げつける。宗次郎はそれを全て紙一重で避け続け、アルスへと距離を詰める。

 宗次郎の魔手が横薙ぎに振るわれる。その魔手がアルスの首級を刈る刹那、アルスの姿が面前から消えた。そして次の瞬間、宗次郎の背後から再び投石を繰り返す。

「ちょこまかと、逃げ足の速い子だね!!」

 大薙ぎに振るわれる魔手。宗次郎が再び距離を詰めたタイミングで、アルスは散弾の様にいくつもの石を撒き散らした。

「くっ―――!?」

 それを魔手で薙ぎ払おうとした宗次郎の顔に苦痛の表情が浮かぶ。

「らぁああああ―――!!」

「っ、くどいよ―――!!」

 繰り返すこと五度。投げては避け、攻めては消え、払っては苦痛。アルスはなんのトリックがあって、あの絶対的な力を持つ宗次郎を出し抜いているのだろうか。

「しつ、こい子は嫌われるよ・・・・・・!!」

 投石を避け、攻めるのを止めた宗次郎は、アルスから距離をとった。アルスの瞬間にして消える能力を見定めるかのように目を見開いた。再び投げられた石。申し分ない速度と軌道。額めがけて一直線に投げらた石を避けた宗次郎は―――

「らぁぁあああああ――――!!」

「なっ―――!?」

 突然傍らに現れたアルスの拳が宗次郎の顔面に直撃した。

 地面を転がるアクマ。肩で息をするアルスが、額に汗を浮かべながら立ち尽くす。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ―――」

 握り締めた拳には血が滲んでいた。どれほどの力で握り締めたのだろう、それをモロに受けた宗次郎のダメージは深刻だろう。

「―――げほっ、げほっ。今のは・・・・・・、効いたよ」

 口から血を吐きながらアクマが立ち上がる。赤く腫れた頬を擦りながら立ち上がったアクマの表情には、先ほどの笑みなんてなかった。

「・・・・・・なるほど。魔弾に転移魔法を施していたのか。一瞬でボクの後ろを取っていたのもそれで頷けられる。それに、自分自身を"魔弾"にするなんて、人型なのになかなか・・・・・・」

「減らず口は、それだけか・・・・・・」

「ふん。触れたものを魔弾にする、か。石ころに自分の魔力を注入するなんてさ、それが人型の時のキミのスタイルなんだろうね。それに、魔術的な要因に影響して宿主にダメージをフィードバックさせるなんてさ。なかなかいい力じゃないか、使い魔。―――でもさ、それって不便だよね。残念だけど、それじゃあボクを止めるなんてできないよ」

「なにっ―――!?」

 吹き荒れる魔力の暴風。魔手に込められた魔力の塊が、空間全てを塗りつぶす。

「わかるかい、使い魔。キミの能力でボクの魔力を削っていたようだけど、そんなの毛ほどの効果なんてない。興醒めだよ。キミにはそのまま死んでもらおう。なに、精霊族であるキミには死ぬなんて概念はないだろ。黙って世界の裏側へお帰り」

 辺りを塗りつぶす魔力の渦が収束される。宗次郎の手に込められた魔力は、今までの比ではない。零れだす魔力だけで、大地に爪痕を残す。

「ボクに血を流させた罪、キミの命で贖ってもらうよ」

 振り下ろされる魔手。アルスの身を消し去らんと、巨大な鉄槌が大地を穿つ。


「はぁああああ―――!!」


 突如、視界を翳める斬撃。暴風の塊とかした刃へと、鉄槌をもって迎撃する。高熱と暴風が吹き荒れ、魔力の残骸を撒き散らしながら、土煙の影が二人の姿を映している。

「大丈夫ですか、アルス」

「ジーン、助かった。ぶっちゃけ、魔力がすっからかんだ・・・・・・」

「貴方はアオイの傍に。ワタシが時間を稼ぎます」

「なかなかの威力だ。その剣も、神性が高そうだけど、クゲンはどうしたのかな?」

 土煙の先で宗次郎は再び笑みを浮かべていた。

「あの仙道師はワタシが倒しました。彼岸を渡る彼に、ワタシからの手向けはありません」

「なるほど。それで先からクゲンの魔力が感じないわけだ」

 予期せぬ事態を喜ぶかのように、宗次郎は三日月に笑っている。その不吉な表情は、世界の闇を全て見せるかのような感情。

「ジューダスとロキの戦いが終われば、戦闘は終了する。貴方たちに勝利はありませんよ」

「なんで?」

「ジューダスがあの魔術師如きに負けるわけがない」


「そのわけが、あるのですよ―――」


「!?」

 土煙の遥か先、先ほどまでジューダスとアレイスターが戦っていた先から、なぜかアレイスターだけが歩いてきた。手に持たれた双剣に殺意こそはないが、彼が戻ってきたというのなら―――

「・・・・・・誰です、あなたは?」

「おっと、貴女には紹介が遅れましたな。ごきげんよう、ワタクシの名はアレイスター=クロウリー。先の姿をロキ=スレイプニールといえばおわかりですかな?」

「アレイスターですって? ならあの少女は・・・・・・」

「然り。ワタクシの変装でございます。本来はこちらが本当の姿ですな」

「そんな馬鹿な! なら、ジューダスは―――」


「――――――『トゥアザ・デ・ダナーン ブリューナク』』―――!!」


「!?」

 大地を穿つ閃光。ジーンが咄嗟に飛び退いた場所に、雷の触手が空間を侵略する。上空から放たれた一閃は、確実にジーンの命を狙ってのもの。そして、今この状況で雷の魔術が使える者は―――

「クゲンは負けたようだな。もっとも、ジーンの力を持ってすれば当然の結果か・・・・・・」

 ジューダスが、神槍を携えながら現れた。

「・・・・・・どういうつもりです、ジューダス。あなたの相手はそこの老人のはずだ」

 空気がおかしい。狙うべき相手を間違ったとか、そういう次元ではない。彼は、()()()()()()()()()()()()()()

「どういうつもりも、オレは()()()()()()()に攻撃したまでだ」

「・・・・・・なんですって―――?」

「なんだ、もう一度言ってほしいのか?」

「なら貴方は、寝返ったというわけですか―――」

 静かに紡がれた言葉。彼女の表情が一変する。その眼は冷静に、面前の騎士を己の敵として認識したもの。

「・・・・・・そういうわけだ。()()というものはこうも強力だとは思わなかったが、諦めろ。この戦いは、お前たちの負けだ」

 世界を乱す、神槍の鎌首が翻る。その眼差しには、彼女を討つ覚悟が光る。

「貴方は、ここまできてなお、世界を裏切るというわけですね―――」

「無論。オレの世界は、先の戦いで消滅している。これより、オレはお前たちの()だ」

「ジューダス、そんな・・・・・・」

「オレの言っている意味がわかるだろう。なら、これ以上語るものはない」

「・・・・・・わかりました。なら、ワタシの手で冥土へと送ってくれます」

 光る閃光。交差する光の刃は、暴風を持って消滅する。


_go to "r.v.b, le chat botté".




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