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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第3章 EVE

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8th day.-7/戦慄組曲 - 蒼黒戦線 二幕 -/B.V.B ACT II, PINCH



 ―――その猛襲は、すでに嵐と化していた。

「っ―――!!」

 双剣を携えた首なしは、"防ぐ"という行為を知らずに、唯々"攻める"という行為を続けている。そこに迷いはなく、猛威は止まることを知らない。

 そこに疑問が生まれる。魔術による能力の拡張で首と胴体の"分裂"が可能となるのは、アレイスターの特異性を勘定すれば、先程の錬金術と合わせて理解は出来ずとも納得はできる。しかし―――

「あはははっははははあぁぁ―――!!」

 それでもなお、この猛襲が続くことが不可解だ。彼はなぜ、―――()()()()()

 ジューダスが敷いた魔法障壁は迎撃型だったのだろう。アレイスターの放った一閃を、そのままの形で、彼の心臓を貫いたのだ。現に彼の胸には穴が開いている。だが、その傷口からは()()()()()()()()()()()()

「―――らぁああ・・・・・・!! ちっ―――!!」

 放つ雷轟。先ほどのは錯覚で、実際は攻撃が当たっていなかったとしても、この一閃は今度こそ彼の胴体へと直撃した。空気をも焼く炎熱をもって、アレイスターの胴体を焼き――――――

「どうしたのです? そのような生温い炎などでは、ワタクシに毛ほどの傷も与えることは適いませんよ」

 言葉通り、彼は無傷で再び猛威を振るいだした。

「―――ちっ、による神性能力の拡張か。でたらめにも程がある!」

「またとない賞賛なお言葉ですな、ジューダス。我が第二魔法には、()()()()()()()()()()()()()()のですよ」


 ――――――アレイスター=クロウリーが誇る第二魔法、"占領する(Master )真実(Therion)"。

 本来ありえない、すでに時代から消滅してしまった魔術を、レプリカとして復元させる固有魔法。それは他者の血系魔法さえも自らの能力としてしまう悪食な能力。必要なのはそれを可能とする魔力量のみで、魔術師に課せられた問題の一つである"適正"も"歴史"も悉く無視した能力である。

「なるほど・・・・・・。お前にとっては、今度のはなかなか理に適った能力だな」

「はははっ、今度ばかりは、ワタクシのエスコートに乗らせてもらいましょう」

「この戦闘特性、“首なし騎士(デュラハン)"か・・・・・・!?」

「如何にも! 最強の狂戦士(バーサーカー)の神性能力、目を瞑り流す訳には些か勿体無さが否めませんでしたからな。使える能力を使うのが魔術師というものです」

「誠に同感だ。なら乗らせてもらおう。貴様の能力の限界とやらを拝ませてもらうか」

 繰り広げられる乱舞。休まることのない猛撃を傍に、彼もまた乱舞を踊る。一閃一閃に必殺の殺意を込め、収束された魔力は眩い火花となって咲き乱れる。円を描くその足取りは、アレイスターの言ったとおり、まさに円舞曲を踊る二人を魅せる。


「―――マスター、今のうちに叩きます」

「えっ、叩く・・・・・・?」

 終始、私の傍らで護衛をしていたアルスが口を開いた。

「ダンナが言っていたでしょ。あの"デュラハン"って能力は物理的、魔術的に最強の防御能力をありやす。正直あれと戦うこと自体がありえない」

「ありえないって、どういうこと? あんなに互角に戦っているように見えるんだけど」

「デュラハンってのは不完全ながら()()の能力を持っています。正確に言えば、傷を"負う"という原因を拒絶する、怪我を負うという概念そのものを覆すことがあれの最大の能力っス。このままでは、ジリ貧でダンナは負けるっすよ」

 見れば、ジューダスによる一閃は明らかに首なしの肉体に届いている。肩を胴を、腕を足を、確実に手にもつ神槍で切り裂いている。それなのにかかわらず、その肉体は傷が負った傍からすぐさま回復し、()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。まるで、初めから傷なんて無かったかのように、初めから傷を負ったことが無かったかのように、その肉体は減速する事無くその猛威を振るい続けている。

「でも、概念を捻じ曲げるって、そんな馬鹿げたことできるわ、・・・・・・け―――」

 そう、納得せざるを得ないだろう。現に、今放たれた一閃は、老人の胴を真っ二つに断っていた。上半身と下半身とに分断されたはずの肉体は、瞬き一つの間に再び結合し、切断されたことを初めから無かったかの様に再び稼動し始めたのだ。機械的で、しかし規則性の無い、ただ乱れ迫るだけの狂戦士。両手に握られた双剣は、振るえば振るうほど、眩い火花を散らしていく。

 確かに、この局面はまずい。未だジューダス本人へ届いた刃は無いが、ジューダスの治癒魔法は戦闘中には使えない。以前蒔絵と戦ったときに、そのことはなんとなくわかった。彼は()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()のだろう。戦闘に没頭している今、傷を負えば、それだけで致命的な差が生まれてしまう。

「でもアルス、叩くって言ったってどうするの? ダメージを与えきれないなら、私たちが手を貸すほうがジューダスの邪魔になるんじゃ?」

「本来デュラハンってのは最強の防御能力を持つ裏腹、究極的な弱点があります。それが首から上、本体の()です」

「頭、っていったら―――」

 地面に転がる老人の生首に目を向ける。彼は自身の肉体とジューダスが繰り広げる円舞曲を唯々悦に任せて観賞している。その表情は醜い負の感情を内包しつつも、一つの芸術を眺める紳士のようにさえ見えた。

「"デュラハン"は肉体の傷が隠蔽し続ける概念を誤魔化すために、頭という弱点を作る必要があります。物理的、魔術的要因すべてを遮断する肉体に比べ、頭ってのは一切の障壁を造ることができない。ああして地面に転がっている生首は、恰好な的です」

「それじゃあ―――」

「今のマスターならオイラを使えるはずっす。()()()()()()()()()。気づかれれば、肉体は標的をダンナからマスターへと変更するはずッス」

 獣姿のアルスが、小さな拳銃へと姿を変える。掌に収まるその装飾品は、必殺の武器と化す。それが、今私の手の中に納まっている。

「チャンスは一回、てわけね・・・・・・」

『そういうことっす』

 空気が緊迫する。自分を取り巻く空気が、一気に収束されていく。"頭"を叩く。そうすれば、この戦いは終わる。―――そう考えた瞬間、冷静に事を考えてしまった。

 ――――――私がこの戦いの幕を下ろす。それは、私の手で誰かを■■ということ。

『マスター。ヤツらに情をかける必要はありませんよ。ヤツらは"ヒト"ではないし、それにヤツは友達の仇ッス。負い目を引く必要は皆無っすよ』

「・・・・・・」

 緊張から生唾が喉に絡まる。引き金に指をゆっくりと掛ける。定めた狙いは生首の老人。戦闘に悦を魅せる表情は、今現在自身の命を狙われている事に気づいていない。

 心臓の鼓動が聞こえる。気持ちはやけに落ち着いている。これからあの老人を■■というのに、私の心は、一切の曇りがない。狙いは上々。戦いに関して素人の私でも、デリンジャーから伝わる冷たい感覚は、確実なる死を連想させた。

 ―――魔力酔いに視界が歪む。魔弾を放つ神代の古代魔具(アーティファクト)に意識を吸い取られる。

 ・・・・・・深く、息を吐く。今繰り広げられる円舞曲。その幕引きは、きっと容易く訪れるだろう。そして、その幕を下ろすのは―――


「―――これで幕引きなんて、つまらないよ」


 ―――私では、ない。刹那に感じた殺意。その殺意に触発されて、引き金を引いた。

「―――っ、!?」

 大気を穿つ魔弾が奔る。離れた距離を、一瞬にしてゼロにする弾丸の軌道。その目標の前で、――――――あるはずのない刃によって弾かれた。

「だめだよ、ねぇちゃん。最後まで黙って見届けるのが、護られる者の礼儀だよ」

 地面に転がる生首を持ち上げ、新生のアクマが立ちはだかる。

「あの人は、一体誰の為に戦ってるんだい? ねぇちゃんがそんなだと、短い命を余計に縮めるよ」

『そんな・・・、オイラの弾が―――』

「くだらない能力だね、使い魔。でも、なるほどなるほど。魔弾(タスラム)と呼ばれるだけの威力は認めるよ」

 パチパチとアルスに賞賛を送る少年。彼の手には、老人の生首以外、()()()()()

「助かりましたよ、zero。いやはや、使い魔のことをすっかり忘れておりました。ですが―――」

「ですが、なんだい・・・・・・?」

「ぐっ、―――申し訳、ありま、・・・・・・せん」

 そのとき、宗次郎の表情は今までに見たことの無いほどの感情が内包されていた。片手で頭を鷲掴みにされた老人の表情は、苦痛に歪んでいる。

「・・・・・・宗次郎、あなたは―――」

「ボクはボクだよ。ただ、ねぇちゃんが思っていたような"宗次郎"ではない」

『あれほど練成された魔弾を容易く破壊できるなんて・・・・・・』

「キミの能力は知っていたさ。オバサンがボクの記憶を封印する前に魅せてもらったからね。あれほど苦汁を飲まされたことはないよ」

 にこやかに笑うアクマ。そこに笑みの感情は無く、卑屈に歪んだ敵意が混ざる。

「・・・・・・その"()”で、アルスの弾を斬ったって、そういうわけ?」

 魔弾によって粗食された意識を回復させる。空手の宗次郎に、しだいに禍々しいほどの魔力の塊が収束されているのが朧気に見える。魔力を練り上げて作り上げた"剣"。実体を持たない、空間を歪ますほどの魔力の塊が、その()にある。

「ふふん。いい能力でしょ、これ。使い魔を利用するなんて、そんな無駄なことなんてしなくてすむんだよ」

『“|魔灯剣《エクスキューショナ―ソード》”。魔力を直接干渉系に練り上げるヒトのオリジナルの古魔法・・・・・・』

 ―――宗次郎の使用する魔法。古より培われ、錬金術の発生により次第に衰退していった干渉魔法。“処刑刀”より由来する、魔術師が生み出した数少ない直接干渉系の戦闘魔法の一つである。本来魔術師というものは"呪い"に関する能力に長けている。それを応用し、自然系に干渉しだした魔法は、間接系の魔法を生み出した。それがジューダスの雷であったり、魔眼の老人アレイスター=クロウリーが使用していた概念障壁など、直接は魔術師本人には干渉しない魔法である。干渉系の魔法など、神々が使用していた限定された能力でしかないのだ。

 しかし、ヒトの身でその境地にたった者が現れた。伝承こそは無い。だが、その能力は血系魔法でも到達することのできない奇蹟であり、ヒトの身に許された能力ではなかった。

 ―――それこそが、"魔灯剣"。ヒトに許されることの無かった、古の魔法である。これは魔術行使に媒介物を必要とせず、加工も何も行わない、自らの魔力を唯々磨耗し、唯々"圧縮"することだけで生み出される。大抵は圧縮による圧力に耐えきれず飛散するものを、さらに無理矢理に押し固めることで絶対的な強度と"破壊力"が実現する。先に古代魔具によって形成された強大な結界すらも、魔弾(タスラム)と称される特殊魔法すらも容易く両断する必殺の脅威。本来ヒトが干渉系魔法を使用するのは、何かしらの媒介が必要不可欠となる。栗崎蒔絵が持っていた氷結の塊(白雪)がそうであったり、ジーンが放つ不可視の斬撃がそうであるように。

 栗崎蒔絵が持った氷結の純白刀、"白雪姫"。これは自らの体の一部を媒介とし、それに自らの血を混ぜ合わせることによって生成される練成魔術である。

 ジーンの放つ不可視の刃。この斬撃は"魔灯剣"に近い性質を持ち、魔力の圧縮を斬撃とする。これは神剣を媒介にしなければ実現できない秘技であり、そのどれも、他の道具や自己の犠牲無くして成せる魔術ではない。

「この能力ほど、理に適ったものなんてないんだよ。いくら魔弾と称されようと、古代魔具(小細工)の結界を敷こうと、この力にかかれば紙切れ当然」

 掲げた歪な刃。闇夜を混ぜ、歪に混ざる殺意の影。その力は、本能的に危険だと自己が悟る。この一連の戦いの幕を下ろすのは、―――やはり、()()()()()


「――――――『トゥアザ・デ・ダナーン ブリューナク』』―――!!」


 突如放たれた雷の一閃。朱に輝く神槍の一撃は―――

「―――あぶないあぶない。びっくりするじゃないか」

 ―――その処刑刀によって、またもや容易く弾かれた。



_go to "r.v.w actIII, pāram".




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