8th day.-4/戦慄組曲 - 紅白戦線 一幕 -/R.V.W ACT I, DIVE
「―――はぁああああああああ!!」
「っ―――!!」
唸る雷轟。それが雷であるのなら、その速さは光の如く迫りくる。一閃一閃が必殺の威力を誇る白髪の法術。
対するは深紅の剣士。手に持つは黒塗りの剣。不可視の刃となる斬撃も、迫りくる雷轟の数に防戦に徹される。
迫りくる雷の雨。そのすべてに対処をしていては、戦いにならない。一方的な、反撃を許さない猛攻。右から左から。上から下から。究極的には、それを視認することすら不可能なのだろう。それが雷である以上、光の速度に対処することは叶わない。己の最高の速度を持ってしても、光に敵うことは到底ありえない。それでも―――
「はああぁぁぁぁ―――!!」
彼女にはここで折れる訳にはいかない理由がある。
「いいぞ! 久しく見ぬ、しぶとい女だ!」
クゲンの左手が唸る。空間を蝕む雷の触手が、その左手全てを飲み込んでいく。蓄えられた雷はその咆哮をもって放たれる。
「―――!!」
だがそれでも、彼女にとって迎撃できぬ能力ではない。携えた神剣は闇夜に、雷の輝きを浴びて朱に光る。振れば振った分、踏み込めば踏み込んだ分、その斬撃は空を裂き、その顎が伸びる。
その剣の由来は、神代にまで遡る。時代は神々の戦争。そこで活躍した太陽の神。放てばすべてを裂き、決して負けることのなかった長腕の太陽神。黒塗りのその刃は、神の手により太陽の如き輝き、疾風の如き空を舞った。その剣が、ジーンの持つ剣そのものである。
「なるほどなるほど。貴様のその刃、我が法術との相性は最悪らしい」
迫る雷を悉く切り払い、クゲンへと一気に距離を縮める。その刃は不可視の斬撃となって再度白髪へと放たれる。
「気を急ぐな。貴様のその力、実に興が沸く。貴様の剣、見極めさせてもらおう」
放たれた斬撃を、後退して退ける。再び皮一枚の差で空を切った。
「遠慮しておきます。ワタシは早急にあなたを倒さなければいけない」
「そう焦るな。こちらも貴様に我が本当の戦いを見せてやろう」
大きく振り上げられた右腕。その手には以前携えていた黒い棒が握られている。
「貴様は元々名の馳せた剣士のようだ。あの男のように紛い者の実力ではないのは見てわかる」
「・・・・・・」
クゲンから放たれていた殺気が消えた。大きく離された距離を詰めることは容易なことだ。距離にして三十メートル弱。彼女にとっては一息で縮められようその距離も、未知の能力を持つ相手では、一度で攻めるにはリスクが大きすぎた。
「―――だが、ワタシは貴様らのような紛い物のその"武器"が許せん。神代の神秘を愚弄するその行為、ワタシの名に懸けて許すわけにはいかん」
吹き荒れる怒り。男が執拗に拘る彼女の在り方。それは、彼女の持つ“剣”そのものだ。
「なるほど。あなたのその武具、それはあなた自身に由来する物ですね」
「そうだ。貴様らのように、生前から愛着のある武具を持たぬ、弱者が許せぬ。―――貴様も、一人の剣士として世に名を馳せた者なら、何故そのような愚行を犯す」
「それをあなたへ答える義理はありません。果たせなかった約束を果たすために、ワタシが選んだ道です。あなたにどうこう言われる筋合いはない」
垂直に挙げられた棒が、白髪の魔力を吸収していく。ジーンが刃を構える。あれは危険だと、彼女の本能が告げた。以前見せたあの能力は、伸縮を自在としていた。迫りくる斬撃を悉く防いだ《《それの解放》》は、彼にとって強力な戦力となり、彼女にとって脅威になる。
「そうか。ならば―――――」
魂の咆哮が木霊する。空気中に漂っていた酸素が枯渇するような、魔力と殺意が収束される。夜に溶ける黒棒が、そのすべてを孕んだ脅威と化ける。
「九天ノ名ノ下ニ、ソノ戒メ解ク―――」
「なっ、これはッ!?」
大地に小さく自生していた草が枯れだした。白髪の足元を中心に、周囲の生命を根こそぎ奪っていくように、草花の枯死が広がっていく。
「限定封印 第四ノ宝貝、『禁鞭』 イマコソソノ禍ヲ放テ―――」
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