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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第3章 EVE

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34/102

8th day.-1/戦慄組曲/SUITE


 白んだ空が、視界を霞めた。薄い鱗雲は風に揺れ、轟々と吹く風が木々を揺らす。最近の静かな風に比べ、荒々しく吹く今日の風。晴れているのに関わらず、冬の季節には珍しく荒れた天気だった。

「―――マスター、起きてます?」

「アルス? うん、起きてる。入っていいよ」

 宗次郎の姿ではなく、本来の獣の姿でアルスがドアを開けて部屋に入ってきた。

「おはよう、アルス」

「おはようです、マスター。今起きたンすか?」

「ううん。違うけど、今日は少しゆっくりし過ぎたみたいだね」

 時計を見る。時計の針は午前八時を優に過ぎていた。

「そろそろ、下に行こうか。呼びに来てくれてありがとうね」

「うい。そいじゃ、いきますか。ジューダスが話があるそうなんで」

「うん、わかった」


「おはよう、ジューダス」

「ああ、おはよう」

 居間にはジューダスが一人だけいた。

「ジーンは?」

「あいつには頼みごとがあって少し出ている。すぐにでも戻ってくるだろう。お前も手伝ってくれ」

「え? いいけど、なにするの?」

「この建物の結界を強化する。一応敷きはしたが、戦闘での崩壊の危険性は否めないからな。幸い、ナツキが残した骨董魔具(アンティーク)がたくさんある。それを使えばより強固にできるはずだ」

「―――ジューダス、これでいいのですか?」

 ジーンはなにやらたくさんの小道具が入った箱を持って現れた。

「おはよう、ジーン」

「おはようございます、アオイ。今日はゆっくりした朝でしたね」

「いや、一応起きてはいたんだけどね。少し部屋で考え事しててさ」

「なにか悩み事でもあるのですか? 相談なら乗りますけど」

「ありがとう。でもそういうのじゃないの。ただ改めて気持ちを引き締めてただけよ」

「お前がしっかりしてくれれば、こちらとしてはやりやすい。落ち着きは忘れるなよ」

「うん、わかった」

「ダンナ。準備整いましたぜ」

 宗次郎の姿になったアルスの手にもジーンと同じ様に小道具の入った箱を持って現れた。

「ずいぶんたくさんあるね、その、アンティークっていうの? こんなの何処にあったんだろう」

 ひい、ふう、みい、・・・・・・・・・・・・。ざっと数えただけでも見える限りで五十近く古めかしい小道具がある。

「このうちのいくつかは古代魔具(アーティファクト)と呼ばれる特別製だ。結界にすればたいていの魔法は弾き、干渉系に使えばたいていの結界を破壊できる」

「へぇ。よくわからないけど、とりあえずすごいものなんだ」

 夏喜もずいぶんとこんな小道具を隠し持っていたものだ。これもあの隠し部屋とやらに置かれたものだろうか。

「よし。とりあえずみんな集まったみたいだし、説明をしよう」



戦慄組曲/8th day.



「―――説明は以上だ。なにかわからないことはあるか?」

「問題ありません」

「こっちも大丈夫っす」

「・・・・・・たぶん」

「アオイがずいぶんと頼りない返事だな。なに、心配するな。アオイはこれを裏庭に置いておくだけでいい。仕上げはオレとアルスでやる。ジーンはアオイの手助けをしてやってくれ」

「了解しました」

「わかったわ」

「よし。それではあ結界の補強に取り掛かろう」

 ジューダスとアルスは適当に置かれた骨董魔具をいくつか拾い、庭へ出て行った。

「ワタシたちも行きましょうか、アオイ」

 ジーンはその場に残った数個の骨董魔具と一個の古代魔具を拾い上げ、立ち上がった。


「―――ジーン。次はドコ?」

「えっと・・・。次は・・・・・・、ここから西へ三歩、北へ二十歩向かったところに在る杉の切り株で造られた祠ですね」

「祠って・・・・・・あっ、あれか。これで10個目っと。ところであといくつ残ってるの?」

「残りは・・・・・・、骨董魔具が五つに古代魔具の一つですね」

「ふぅ、やっと終わりが見えてきたって感じね」

 居間から持ってきた骨董魔具は意外と量があり、ジューダスがメモした配置場所は母屋を中心に計四十六箇所にも及んだ。ジューダスとアルスがいくつ持ち出したか知らないけど、結界の補強ってこんなに大変なものだとは驚きだ。

「魔法使いってのはもっとインドアでデスクワークなイメージだったのに。それに、自分の家の敷地なのに、こんな祠があったなんて初めて知ったよ」

 ジーンから渡された骨董魔具を定められた場所に設置する。特別な魔力で生成された骨董魔具は、青白い光を放ちながら木製の祠に溶けるように同化した。

「これってどんな原理なんだろう」

「そうですね。・・・・・・ワタシも見たことの無い魔術式で組まれています。アルスの下書きした結界は"進化"を中心に"昇華"の陣を敷き、"退去"の因子を持つ印を三つ重ねて、"五大元素"を表す印で囲んでいます。だいぶ混沌としている魔方陣のようですが、いろいろとフェイクを織り交ぜているようです」

「なるほど、わかんない」

「あははっ。大丈夫です、ワタシもあまりわかっていません。大まかな形はワタシのいた時代と変わりませんが、これは現代で発達した結界の様ですね。イメージ的には、・・・・・・結界というより"城壁"のように感じられます」

「違いがよく判らないんだけど・・・・・・。結界って、もともと城壁みたいなものじゃないの?」

「いえ、結界とは本来干渉系の能力を持ちません。ただ足止めだけをして、中に入られればそれでその能力は停止します。城壁とは自らの土地を守ると同時に、その中でこそ最大の能力は発揮できるのです。城壁の外は自敵問わず不干渉な空間です。どちらとも独占することはない。ですが、城壁内は完全に自己の空間なのです。相手にとってはアウェーなので、中に入ってからでしか戦略を立てることはできません。逆にこちら側は敵が入ってからの戦略は経験と知識によって自然に構築される」

「・・・・・・難しい」

「少し難しい概念ですが、城壁とはそういう意味です。この結界は敵の侵入を拒むと同時に行動を束縛するようですね。おそらくこの骨董魔具だけなら向こう側の魔術師の手で簡単に壊されるだろうと思いますが、これだけのフェイクに強力な古代魔具のおかげで、ずいぶんと足止めができそうです。ワタシにも確信はありませんが、無駄には成らないと思いますよ」

「うーん。ジーンがそういうなら私は心配しなくてもいいんだよね」

「そうですね。この結界の能力がどうあれ、我々の勝利は覆ることはありません」

 ジーンは自信満々に胸を張った。

「それではアオイ、ワタシは残りの骨董魔具を設置してきます。アオイは古代魔具の設置のほうをお願いしていいですか?」

「うん、いいよ」

 ジーンから古代魔具を渡された。小さな立方体の木彫りの箱で、接続部分がなく、振ってみればなにやらカラカラと音がする。切断面が全く無いのに、木彫りの箱の中身は空洞で、なにか小さなものが入っているようだ。

「すごい。こんな構造の箱って初めて見た」

「ずいぶんと奇怪な物ですが、それ故の古代魔具なのでしょう。現代では不可能だったことが神代では常識だったのです。これぐらいの異業はお手の物なのでしょうね」

「そうなの?」

「おそらく。これを見ればそう考えるのが自然かと。ワタシの時代にも似たようなものを所持していた元帥がいました。あれも、古代魔具の一種だと思われます」

「そっか。ジーンがいた時代より昔のものだったら、魔法みたいなものは案外普通にお目にかかれたのかもね」

「そうですね。ワタシの時代ですら、すでに魔法は衰退の傾向でしたから。軍内部でも魔法に精通している者は少なかったです。ワタシの戦友でもあったその元帥は別格でしたが、ほとんどの術者は勝利に貢献できるものはいませんでした」

「魔法ってのは、そんなに難しいものなんだね。ジーンは使うことはできないの?」

「残念ながら、生前のワタシ自身、戦闘に通用する魔術的特性が備わっていはいません。仲間からの強化(エンハンス)はありましたが、それだけです。ワタシはただ、運が良かったすぎない、一人の雑兵でしたから。

 これがその古代魔具を設置する場所です。アオイのもつそれは結界の基点となるものなので、間違えないでくださいね」

「うん、わかった」

「それではワタシは残りのものを設置してきます」

 ジーンは残りの骨董魔具の入った箱を持ち上げて記された場所に移った。

「さてと、こちらもさっさと終わらせますか」


_go to "aeon anima".




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