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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第3章 EVE

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30/102

7th day.-5/目覚めの朝、決意の朝 - 帰り道は遠回りしたくなる -/DETOUR


<帰り道は遠回りしたくなる/DETOUR>



「彼はまた、ずいぶんと立派(テレ・ボー)な人でしたね」

 病院からの帰り道。雲の隙間から日が照らす中、暫く沈黙が続いた後にジーンは静かに口を開いた。

「あれほど彼女の事を思い、あれだけの覚悟をできる人などそうはいない。自分の身を案ずるよりも先に、彼女やアオイのために動けるのは感無量です」

「ずいぶんと褒めるね」

「ええ。彼の行動は尊敬に値します。あれほど人を思う気持ちを持ちうる方は、ワタシの時代にも側近の騎士でも数人といませんでした」

 確かに、佐蔵が蒔絵を思う気持ちはよくわかった。私にとって蒔絵は救済者であったように、蒔絵にとっても佐蔵は救済者だったのだ。ジーンのように、王に使えていた者にもその思想はリンクするところがあるのだろう。

「そっか。やっぱり、佐蔵君が言っていた事は間違っていないんだよね・・・・・・」

「・・・・・・どうしたのです、釈然としない顔をして。何か不満でもありましたか?」

「ううん、ちがうの。私にとっても、佐蔵君の言う事は大いに賛成だったよ。間違ってなかった。・・・・・・でも、なんかわからないんだよね」

 モヤモヤが頭から離れない。―――なぜ佐蔵はあそこまで蒔絵を思うようになったのか。蒔絵が佐蔵を慕うのはわかる。それは私もそうだったからよくわかっているつもりだ。にしても、佐蔵からすれば、魔法使いである蒔絵は急に現れた、酷く云えば"異物"でしかない。彼の人生が平凡であるのなら、蒔絵や私のような人間は"癌"のような、いつ牙を向くかもわからない腫物なのだ。あればあるだけ。近づけば近づくだけ。その(あぎと)は執拗にも、陰湿にも牙を向く。彼の人生がいつ崩壊するかもわからないのに。

「アオイ、酷いようですが、その答えはあなたでは見つけきれないと思いますよ」

「えっ? なんで?」

「彼と我々は違います。同じ答えを得るには、代償が違いすぎるのですよ。彼は“人間”であって、ワタシたちとは違います。我々(ワタシたち)はヒトであっても、"人間"ではない。"魔術師"や"幻想騎士(レムナント)"は世界の系統樹から大きくかけ離れた存在なのです。ならば思う事が違うこともまた然り。彼らの思うところの、ワタシたちの思想とは大きく異なります。もし似ていても、あくまでも類似しているに過ぎず、決して"同一"ではないのです。ワタシが彼を尊敬の念を唱えても、彼のように成ることはない。所詮、"ヒト"の中での尊敬なのですよ」

「・・・・・・ごめん。なに言ってるか全然わかんない」

「ワタシが思うに、今のアオイにワタシの言葉がわからないように、彼の思想の真意を我々が知ることもまた叶わない事でしょう。ワタシにも彼がなぜそこまで彼女を守ろうと思ったのかはわかりません。ヒトとサルが違うように、また我々と彼らは違う生き物なのです」

「違う、生き物・・・・・・」

「そうです。もし彼が"右"の道を進むのなら、我々はその道を歩む事はできず、“左”の道を歩くしかない。しかもそれは決して交わる事はなく、また並ぶ事もありません。その物事の修正は容易ではなく、我々のような人為らざる人ならば不可能でしょう」


「―――アオイ。ワタシはこの全ての出来事が終わったときには、あなたに普通の人間として人生を歩んで欲しい。ですが、それはもしかしたら叶わないかもしれない。そうなったとすれば、あなたはどうしますか?」

「どうするったって・・・・・・」

 魔術師は、世界の"表側"を歩く事はできない。世界にとって、人としての能力を卓越した存在は、人の皮を被った"魔"でしかなく、その身につけた"術"を行使する事で存在している。故に"魔術師"とはそうあるものだ。―――その存在は、決して覆る事はない。

「人の存在は、他人にはどうこうする事はできません。自らの存在を疑うのなら、それは自分自身でしかない。自らの存在を正すのなら、それは自分自身ででしか成し遂げられません」

 この惨劇の幕開けを告げたあの夜から、私は一体どちら側を歩く事にしたのか。私は戻りたい。そう願っている事は確かだ。今までの自分に決着をつけていないのに、それを隅に置いて進むことはできない。自分について納得ができていないのに、その自分を変えることはできない。

 その答えを、覆す事は私にはできない。――――そのはずなのだが、

「―――私はきっと、別の道を見つけるんだと思う・・・・・・」

 あの惨劇から、私はある事を悟っている。人は"人"として。魔は"魔"として。その各々の進むべき道があるのなら、その両の道を繋ぐ事のできる"根源" となる道があることもまた道理。多く派生したものでも、それを統一していた一つの"幹"は存在するはずなのだ。世界の系統樹から離別した存在であっても、それはズレているだけで、元は繋がっている。

 私はきっと、そこへ戻るのだろう。そこへ戻り、その両の道を示した新たな道を見つける。そんな気がする。

「それが、あなたの答えなのですか?」

 ジーンは静かに問いかける。その答えを(かざ)す事は、私にとって正しいのかわからない。アルスは私を普通の人間として生きて欲しいといった。それ故に、私に魔法の事を教える事を拒んだ。しかし、私はその中でも、この出来事を終わらすためには、私自身が魔法について学ばなければ、終わる事はなく、そして生き残る事もできない。

 それは人に戻るために、"人"を辞めること。それは魔に打ち勝つために、"魔"と化すこと。人生とは所詮そんなものだ。皮肉に皮肉を重ね、現実に空虚を混ぜ合わせて、最終的に望む結果を選べばいい。欲しいものは結果だけであって、過程にはなんの問題もない。最後良ければ全て良し。要は望むか望まないか。それだけのことなのだ。"願望"を望むのなら、それは世界(じしん)に"還元"される。逆に望まなければ、それを手に入れることはできない。なら―――

「私はね、アルスやジューダスの言われた通り、普通に日常を過ごせばいい。本当はそうかもしれないけど、私にとって、世界はこの姿そのものだから、受け入れるだけの覚悟はある。もしその覚悟がなくても、それに順応していくだけの自信はある。だって、既に私は今までの出来事にある程度見切りをつけて、それに順応している。宗次郎が彼らに堕ちても、蒔絵が死んでも、あなたたちが私の傍にいてくれることも、既に受け入れている。そんなの、既に人としてオカしいじゃない。私は薄々気付いていたの。きっと、夏喜に助けられるまでの記憶が無かったとしても、無意識の中で自分について気づいていた。宗次郎のことも、蒔絵のことも、あなたたちのことも、あの人たちのことも。こうなる事を、本当は全部気づいていたんだと思う」

「アオイ・・・・・・」

「実はね、私が気を失っているとき、夢の中で夏喜と会ったの」

「ナツキ、とですか・・・・・・?」

「うん。あの人はもう死んでしまったけど、夢の中では私の母親で、やっぱり魔法使いだった。私についても、宗次郎についても、その事実を知っていて養子にとった。きっとそれがあの人の望みであって、―――それはあの人が犯した最初で最後の間違いだったのよ」

 ――――――望むなら。それが願望であるのなら、世界はそれを現実へと還元する。その望んだ結果は、その過程によって身を滅ぼしたのだ。しかし、夏喜はそれについて後悔はしていない。あの再会で、私にはそう感じられた。それなら、自分を守るために、宗次郎を助け出すために、私が望んだ結果を手に入れるためなら、私もきっと後悔しない。

「―――でもま、ジューダスには私には魔法使いとしての素質が無いって言われちゃったんだけどね。だから私がいくら望もうが、これだけはきっと叶う事ができないものなんだよ。それでも、私にはあなたたちがいる。それだけで、私はあの人たちと戦う力がある。だから、私たちは決して負けないし、負けることなんてありえない。そうでしょ?」

「ええ。ワタシやジューダスはあなたの剣です。あなたが戦えというのなら、ワタシたちは戦い続ける。それを果たさずして、この命が朽ちる事はありません。全てを望むのなら、その全てを叶えましょう」

 金紗の髪が風に揺れる。決意は堅く、その意志は彼女の瞳に色濃く映る。―――望むのなら、叶えましょう。そう言った彼女の気持ちはきっと、幾多の戦いを生き抜いてきた百戦から生まれた自信だろう。

「アオイ。明日の夜、彼らは再び現れるでしょう。その時、ワタシはあなたの決意と望みを叶えましょう」

 ジーンは静かに手を差し出した。差し出されたその手には、彼女の決意が載せられている。それを握る事は、私の望みを彼女に授ける事。そして、彼女の意志を私自身が自分の覚悟とする事。

「明日で、この忌まわしき出来事は全て終わる。私はそう信じてる。そして、宗次郎はきっと帰ってくる」

「ええ。ワタシたちが彼らに負けることはありえません。よく言うでしょ、戦いに朽ちるのはいつだって悪者だ。その事実は現実にだってそうですよ。世界はいつだってそうして廻っているのです」

 強く、差し出された手を握る。二度目の握手は、一度目のお願いとは違い、彼女に私の全てを捧げる証だ。彼女だけじゃない。ジューダスやアルスにも、私の覚悟を捧げる。彼らも、私の望みを授ける。彼らの決意は、私の覚悟なのだ。

「ここに、あなたと契りを再度交わしました。それだけに、ワタシたちの決意は堅い」

 風は吹く。静かな街並に、この惨劇への再演を知る者はいない。その中、静かにその序曲(プロローグ)は終わりを告げる。そして、鳴り響くのは終焉(エピローグ)への望み。この舞台に続きなんて無い。あちら側の思惑通り、事を全て並べる事なんてないのだ。結果を望む、その成果を全て曝け出す。それが私にとっての足掻きであり、最強の武器なのだ。



///



「ただいま」

「ただいま戻りました」

 時刻は13時を過ぎたあたり。いろいろな事を見てきた中で、今日という日はとても大事なものになるだろう。きっとこの先でも、今日のように自分に自信を持ち、全てを信じようと思う日はこれ以上ないだろう。真実を知るのなら、その望みを叶えるのなら、信じようではないか。ジーンもジューダスもアルスも、きっと私を助けてくれる。

「戻ったのか。ん? なんだ、二人とも」

「どうかしたの?」

「いや。アルスがジーンがオカシな格好をしていると言っていたからな、少し見てみるのも一興かと思ったが・・・・・・。なんだ、アオイと大して変わらないじゃないか」

「な!? オカシな格好ですって?」

 あ。ジューダス、それ爆弾発言。

「ジューダス! アルスはどこです!?」

「さあな。今し方、何処かへ走って行ったが・・・・・・」

「アルスーーーー!!」

 あらあらあら。やっぱりジーンはあの服装が気にいっていたのか。それにしても、アルスもすごいことをしたものだ。あの子、きっとジーンの事知っていて仕立てたな。

「コラーーーー、アルスーーー!! どこです!? 出て来なさいーーーー!!」

 うわ! 剣まで出した。よっぽど怒ってるんだろうな、ジーン・・・・・・。

「ジーン。お家壊さないでよー」

「なんだ。すごい剣幕だな・・・・・・」

「あははっ、ジーンもすごく傷ついたみたいだから・・・・・・。一応女の子なんだし、自分の格好をオカしいって言われたのがショックだったみたいだね」

「そうなのか? オレからすれば、好きな格好をすればいい。自分の容姿を他人にとやかく言われる筋合いはないだろう。それに、あの格好は意外と似合ってるのだがな。ただあいつらしくないのがなんとも」

「あぁ。今着てるのは私が選んであげたの。あれは完全に私の趣味。アルスが言っているのは似合っていてもさすがに街中では恥ずかしかったから。なんか場違いなのか、時代が違うのか、周りの視線が冷たかったの何のって・・・・・・」

「ほう。だから現代風の恰好をしているのか。その前の格好ってのも見てみたいものだが。ふむ、現代の服は簡易そうで複雑なんだな。ディテールも案外細かいし機能性も優秀だ」

「そりゃ、外は寒いでしょ。一応冬なんだから、風吹いたら冷たいしさ。まぁ、今時の女の子はそんな気にしないで、もっと短いのとか着るんだけど・・・・・・。ジーンはあれでも恥ずかしいみたい」

「そうなのか? ふむ。今の時代に順応しているつもりではあったが、十年はやはり長いな。いろいろ街並も変わってしまっているしな」

「そっか。ジューダスは昔は夏喜と一緒にいたんだったね。その時はジーンはいなかたんだっけ?」

「ああ。あいつはナツキがお前のために契約したようなものだからな。どうもオレ一人では護れ切れないと考えたかと思ったが、、どうやら違ったようだ。ナツキは、お前とジーンは似ていると思ったんだろうな」

「似ている? そうかな?」

 私自身、誰にも似ていない気がする。私はジーンのように明るくないし、あんなに他人を勇気付ける事はできない。逆にジーンは私のようにネガティブじゃないし、とても前向きだ。

「だが、どちらも自分については不器用だろ。お前もあいつも、二人揃って一人前って感じだ」

「・・・・・・それって、全然褒めてるようには聞こえないんだけど」

「褒めてるつもりはない。だが貶してるつもりもないぞ。傍から観れば、お前たちは姉妹みたいだ。坊主とお前もそうだが、お前とあいつも、なかなかバランスが取れていていい」

「そう、かな?」

「ああ。少なくとも、オレはそう思ってるよ。・・・・・・にしても、なんでお前まで服が変わってるんだ?」

「あぁ、これ? ジーンの服を買い直した時に『アオイも着てください。一人では恥ずかしすぎます』って言われっちゃって。前の服で一緒に歩かれると恥ずかしいってのもあったし、ちょうど新しい服も欲しかったところだったから、ついでにね」

「そうだったのか。まぁ、いつも家に篭るより、外に出ていろいろ見てみるのも良いことだ。今のところ、あまり日常的とはいえなかったからな。こうして普段通り過ごしてもらえたほうが、こちらとしては助かる」

「・・・・・・そうだよね。私には戦う力なんてないから」

「なにを悲観的になる。お前にはオレたちがいるじゃないか。あいつらには負けんさ。そろそろ、あのガキの正体も掴めそうなんだ」

「そうなの?」

「ああ。あの白髪の正体も絞り込めてきた。―――そうだ。こんな話をしているついでだ、明日の事について話しておこう。いろいろ作戦を考えていたほうが戦いやすい」

「うん、そうだね。いつまでも玄関でこんな話をするのもなんだしさ」

「アルスーーーー!!」

「なんだ。あいつ、まだやっていたのか・・・・・・」

「あははっ、よっぽど悔しいんだろうね。アルス、私たちが出かけた後、きっとお腹抱えて笑っていただろうし」

「ほう、よくわかったな」

「やっぱりね。なんか企んでいてそうな、そんな顔だったから」

「コラーーーアルスーーーー!」




_go to "mum".



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