7th day.-2/目覚めの朝、決意の朝 - 聖少女領域 -/G.A.L
<聖少女領域/G.A.L>
「アオイ、食器を下げにきました」
「ありがとう。ここに置いといて」
朝食も終わり、普段通りの日常をこなした。小さな事だけど、ジューダスに云われた通りに出来るかぎりの日常をこなしていく。食事を作るのも、食器を洗うのも、本来の私の日常だ。
「アオイ、先ほどアルスが帰ってきました。なにやらお話があるようですが」
「アルスが? どこか行ってたの?」
そういえば目を覚ましたときから暫く姿を見ていない。
「アルスはアオイのご友人の入院している病院へ通っていました。今朝もアオイが目覚める少し前から病院へ向っていました」
「えっ?」
「先の戦闘に巻き込まれて意識がなかったようですが・・・・・・」
「なんで先にそれを言わなかったの? こんなことしてる場合じゃないじゃない!」
あの時に蒔絵以外に事件に巻き込まれたのは一人しかいない。どう考えたところで、あの傷が軽傷で済むはずがないじゃないか。
「アルス!!」
「マスター、おはようです。ちょいとお話が―――」
「佐蔵君は!? 病院へ行ってたんでしょ??」
「わわっ!? ちょっ、おまっ! マスター、落ち着いて!!」
アルスが狼狽する私の肩を掴んで制する。
「あっ・・・・・・」
「とりあえず落ち着いてくださいよ。まだ目ェ覚めたばっかなのに、興奮したらまた倒れますぜ」
「・・・・・・ごめんなさい」
「なぁに謝ってんすか。シャキッとしてくださいよ」
軽く肩を竦め笑われてしまった。
「佐蔵綾は先ほど意識を取り戻しやした。いろいろ危ない状況でしたが、何とか持ち直すことはできやしたよ」
「持ち直すことができたって、どういうこと?」
「あの人は姐さんの術をマスターから庇ってあの状態でしょ? 魔術的要因が強すぎる傷は自然治癒じゃ上手く回復しないんス。ぜーんぶ病院に任せてたらあの兄さん、確実に死んでました」
「死・・・ぬ?」
「ジューダスの治療で見た目の傷自体は収まってるから出血死はないにしても、内臓にもダメージがある以上、テコ入れしなきゃって思ったんスけど、面会超絶拒否状態なんで思った以上に時間掛かっちゃいまして・・・・・・」
「それで佐蔵君は、・・・・・・どうなったの?」
「さっきも言った通り、今は意識を取り戻して意思疎通もできるし、面会も許可されてるッス。オイラは先に挨拶済ませてきましたので、マスターも行ってきた方がいいかと」
「そう・・・。よかった・・・・・・」
佐蔵まで亡くなってしまったら、私はこの戦いで宗次郎を取り戻すために全てを失くす事になっただろう。それだけは決して望めない。これは宗次郎を助け出し、"日常"を取り戻すための戦いだ。そのためには、佐蔵まで亡くなることは許されないのだ。
「ただですね、―――あの兄さん、かなりメランコニーになってやした。よっぽどショックだったんでしょうね・・・・・・」
「どういうこと?」
「それは自分で確かめてください。自分の耳でそれを知ったほうがいいっす。それに、マスターが行けば、あの兄さんも少しは活力を取り戻せるでしょうし」
「そうなったら急げば吉ですよ、アオイ」
後ろからジーンに肩を支えられた。その目は私にお見舞いに行けと言っている。
「ワタシも同行して守護します。彼らからの手出しはさせません」
「そう、わかったよ。ありがとう、アルス、ジーン」
「いえいえ、これしき何でもないっすよ」
「ええ。そのためのワタシたちです。約束したじゃないですか」
「うん、そうだね」
そうなったら、急ぐのが吉だ。
「少し、準備してくるから。ここで待ってて」
「ええ、わかりました」
「アオイ、どこか行くのか?」
部屋から出て、階段のところでジューダスに出くわした。腕にはやっぱりたくさんの荷物が抱えられている。
「うん、少し。巻き込まれた佐蔵くんの病院に。アルスが意識を取り戻したって言ってたから」
「ああ、あの少年か。だいぶ深い傷だったが、よかった。アオイが倒れてから少年の状態も悪化してな、オレの魔力が無くなるまで治療を行い続けたが、そうか、よかったな」
「無くなるまでって、・・・それじゃあジューダスは自分の・・・・・・」
「ああ。少年に魔力を廻したこともあるが、オレのは見た目だけだ、だがそれも問題あるまい。お前が友人を亡くす方がかえって傷になる」
「そうだったんだ。ありがとうね、ジューダス」
「なに、感謝されるほどでもない。こちらの所為で巻き込んでしまったのだ、死なせては間違いだろう」
「うん。それでも、助けてくれてありがとう」
深く、言葉を紡ぐ。ジューダスに残された傷は、少なくとも蒔絵の生きた証だと思えば、残酷だが、私自身が救われた。
「そうだ。アオイは今からその少年の所へ向うのだろう? なら花の一つでも持っていくといい」
「ええ、そうするわ」
「ああ。少年によろしくな、アオイ」
ジューダスはそれだけ言い残し、たくさんの荷物と共に廊下の先へと向っていった。
「・・・・・・にしても、ジューダスは一体何をしてるんだろう?」
「お待たせ、ジーン。準備でき、た・・・よ――――」
「お早いですね。こちらも準備はできました」
言葉に詰まった。お見舞いの用意を済ませて居間に到着すると、そこにいたのは私の知っているジーンではなかった。いや、ジーンではあるんだが、見た目が先程と大きく変わっていた。
「・・・・・・ジーン、その服は?」
そう。"その服"というのが、黒を基調とした素材に要所要所にレース、フリル、リボンをあしらい、スカートが膨らみ、頭にはヘッドドレスで装っていた。それはまさにゴシック調でありながら少女のあどけなさを残した懐古的なファッションであった。ゴシックアンドロリータ、言うならばゴスロリである。
「ああ、これですか。街中を歩くんです。武装したまま行くには目立ちすぎるでしょう。アルスに協力してもらって、今の時代に合うように着込んでみたのですが・・・・・・変でしょうか?」
「変、というか・・・・・・」
よくわからないけど、時代ではない・・・かな。
「なんか、日本には合わないっていうか」
私にはコスプレの一種にしか見えないが。
「まぁ、似合ってるから、問題はないかな・・・・・・」
そう。なんていうか、ジーンの欧米よりの顔の整いと妙に似合ってるものだから、変には見えない。むしろ自然であり、貴族文化を体現化したとまで感じられた。ただ、道端でその恰好を見ると―――、
「いや、でも・・・・・・」
やっぱり他と違うことは明確だろう。
「―――オイラはやってみる価値はあると思いやすよー」
アルスは後ろ手に、テレビのニュースを見ながら棒読みで声をかけてきた。
「そうですか! ありがとうございます、アルス。やはり、あなたはどこか違うと思っていました」
あっ、乗っちゃった。よく見るとアルスの顔にはうっすらと笑みが隠されていた。しかもなんか黒いし・・・・・・
「それでは行きましょう、アオイ」
「あっ、ちょっと待ってよ」
ジーンは上機嫌に私の腕を引き、悠々と玄関へ向って行った。
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「あははははははっははーーー!!」
「アルス、なに笑っているんだ?」
「あっ、ダンナ。いやー、ジーンはやっぱりアレっすわ!!」
「アレ?」
「朝方テレビでやってたやつがあったでしょう? 『現代に甦る魔法少女』ってふざけたやつ。あの格好で外出ちゃいましたよ」
「なに!? あのふざけたのでか? なんて・・・・・・バカだ」
「でしょ!? からかってやろうと思って錬成してそれなしげに促したら、もう乗り気で。あ~ウケた。ダンナも見てみる価値ありやすよ。アレはヤバイ!!」
「ああ、・・・・・・そうだな」
獣の笑い声に、騎士のため息めいた失笑が居間に響いた。
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