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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第3章 EVE

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26/102

7th day.-1/目覚めの朝、決意の朝/HELLO, WORLD

<目覚めの朝、決意の朝/HELLO, WORLD>



「――――っん・・・・・・」

「――――――――――・・・・・・・・・イ? ・・・オイ。アオイ!」

 ・・・・・・ここ、は。私の、部屋?

「アオイ! 大丈夫ですか?」

 目を開ければ、そこは先ほどまでの暗闇はなく、電灯の光が目に痛かった。

「痛っ―――」

 眠り続けた体を起す。何時間も同じ体勢で眠り続けていたのだろうか、節々が少し痛い。横を見れば、金紗の女性が私の手を取り、目尻にはうっすらと涙を乗せていた。その手は力強く、その意思は硬く、その目は希望が溢れている。

「・・・・・・・・・ジー、ン?」

「はい。ワタシです。アオイ、・・・・・・よかった」

 握った手に静かに涙が落ちた。私はずいぶんと長い間眠っていたようだ。午前五時。壁にかけられたアンティーク時計は静かにその時を示す。

「私は、どれくらい眠っていたの?」

「アオイはあの日から三十三時間あまり昏睡していました。今日はあの日から二日後の午前五時ですよ」

「そう、二日か・・・・・・・・・・・・。えっ? 二日?」

「えぇ。ずいぶんと長い間昏睡していました。内心、もう起きないのかと心配で・・・・・・」

 ・・・・・・はぁ。ずいぶんとお寝坊さんだな。なに、三十三時間? 寝すぎでしょ。五日分ぐらい寝てるし。

「でもよかった。起きられて本当によかったです、アオイ」

 ジーンは私の手を握っている間、自分の頭に当て、静かに涙を流し続けている。ずいぶんと長く心配をかけていたみたいだ。彼女の顔は私の眠りに対する不安と、起きた事の喜びがはっきりと映っている。

「ごめんね、心配かけて・・・・・・」

「はい・・・・・・、はい・・・・・・」

 彼女の両の腕を握り、その涙を受け止めた。輝かしく喜ぶその顔は、私が持つべく希望の形。ここが、私のいるべき場所であり、帰ってきた場所なのだ。




目覚めの朝、決意の朝/7th day.




「おはよう、アオイ。ずいぶんと寝込んだものだ」

 暫くして、ジューダスも私の部屋にやってきた。

「ええ。かなり眠っていたみたいね。ごめんなさい、みんなに心配かけて」

「いや、こちらの事は気にしなくていい。それよりアオイ―――」

「・・・・・・いいよ、言わなくて」

 ジューダスの言葉を上から重ねて制する。これから、ジューダスが言いたいことはわかっている。そのことで謝られても、私はそれを許さないなんてない。ジューダスやジーンの顔を見れば、私が眠っていた間に何の話をしていたかは、なんとなく予想はつく。

「ジューダス、その手・・・・・・」

 ジューダスの手は、未だ赤く腫れていた。

「凍傷、残ってる・・・・・・?」

 ジューダスは自身に施した治療魔術で、今までの戦いの傷は癒えているはずだった。それなのに、先の戦いでの傷痕は癒えていない。

「あぁ、これか。痛みはないし支障はない。問題ないさ」

「・・・そう」

 その傷痕は、彼が彼女と戦った証として残っている。それは、彼女があちら側へ堕ちてしまった証拠でもあるのだ。

「・・・・・・ねぇ、ジューダス」

「なんだ?」

「・・・・・・あの子は。蒔絵は、死んだのよね?」

「・・・・・・ああ」

 今は(いな)い、白雪に舞う彼女は、納得いく最期ではなかった。彼女にとって、死んだことすら気付かなかったかも知れない。どんな痛みがあったのか、もはや今となっては誰もわからない。彼女の犠牲は、報われる事はあるのだろうか。その事実を、私は何も知らない。

「アオイ、オレはやはりお前に詫びよう。結果として、オレは彼女を救うことができなかった。それだけに、お前を大きく傷つけてしまった。お前を護るべき者でありながら、お前の日常を護ることができなかった。すまなかった、アオイ」

 一度制した言葉を、ジューダスは再び唱えて深々と頭を下げた。

「アオイ、ワタシもです。護るべき者でありながら、貴女の苦行を救うことができなかった。あの場に間に合ってさえすれば、状況は変わっていたかも知れません。申し訳ありません、アオイ」

 傍らに控えていたジーンも同じく、ジューダスと同じ様に深々と頭を下げた。

「ううん。もう、大丈夫だから。頭上げてよ、二人とも」

 ゆっくりと(かぶり)を上げる二人の守護者。その謝罪には、私に護るべき使命の重さを感じさせる。

「ホントはね、私の方が謝るべきなの。私はきっと、蒔絵の最期を見て、一度自分を諦めた。それはきっと、あなたたちを裏切った事と同義なんだと思う。私の為に戦ってくれたのに、私は自分の事実に耐えられなくて拒絶したの。だから、私の方が謝らないといけない。本当に、ごめんなさい・・・・・・」

 二人が頭を上げたのを見計らって深々と頭を下げた。自分自身の甘さと、二人を信じきれなかった不甲斐なさを恥じた。

「私は蒔絵の事で自分の無力さを知った。それでいて、あなたたちに全てを任せておいて、私はすべてを拒絶した。それが私は恥ずかしくて、自分自身が許せない。私のために戦ってくれたのに、何もしていない私があなたたちを拒絶してしまった裏切りを許してほしい」

 ベッドに座りながらだが、ほぼ土下座に近い頭の下がりは私の決意の証だ。巻き込んでしまった蒔絵にも、こうでもしなければ面目がない。

「・・・・・・そんな。あなたがワタシたちに謝ることはありません。どうか頭を上げてください」

 優しく肩を抱いたジーンの顔を見上げる。その顔には先ほどと同じ様に目尻に大量な涙を浮かべていた。その涙と共に、彼女は私を力強く抱きしめた。

「ジーン・・・・・・」

「アオイ。ワタシたちはすでに護るべき人を失っています。そのことがワタシたちを失望させ、悔やんでいる。だからこそ、もう二度と護るべき人を、あなたを失いたくない」

 浮かべた涙は静かに彼女の頬を濡らした。その涙は止まることなく、とめどなく流れ続けている。

「だから、あなたを許さないなんてありえないのです。あなたが生きていれば、あなたがどれだけワタシたちを拒絶しようと、ワタシたちはあなたを護り続ける」

 決意の涙は新たに、私を"護る"という意志の表れ。彼女の決意は決して覆らず、そう私に告げる。

「アオイ、ジーンの云うとおりだ。オレたちはお前がどれだけ拒絶しようと、お前を裏切る事はしない。お前がどれだけオレたちを嫌おうと、どれだけ突き放そうと、その意志が途絶える事はない。だから、お前が謝る必要ないんだ」

 ―――あぁ。この人たちも夏喜と同じだ。決して覆る事のないその意志を翳し、それを唯々完遂する。私の希望。その希望は『願望』となり、私の世界に『還元』されようとしている。私の決意を、面前の二人の幻想騎士が形にしてくれる。

「ありがとう・・・。二人とも、ありがとう・・・・・・」

 二人の決意とジーンの涙に連られて、私の目尻にも涙がこみ上げてきた。この涙の意味を、私は決して忘れる事はないだろう。この決意は、私が初めて本当の形にした"覚悟"そのものなのだ。その覚悟は決して屈しることはない。その全てを、私はこの二人に誓う。


 ―――契約を此処に。尽きることなく、消えることなく、去ることなく、諦めることなく、この覚悟を彼らに誓う。その誓いを翳し、彼らの事実を受けいれ、守るべき者を取り返す。それを契り、ここに誓う。



///



 ―――時間はこれより少しばかり進む。少女の傷痕は決意に癒え、この血塗られた運命を打破すべく狂いない決意に固められた。その中、一人の少年は死の淵へと立たされていた。あの深々と裂いた氷牙は容易な傷ではない。

「―――先生、未だ患者さんの心拍、血圧、呼吸、共に安定しません。一体、どうすれば・・・・・・」

「うむ・・・・・・、身体のどこにも傷はないのに、内臓だけがズタズタなんて。今生きているだけでも奇跡だ。なのに、このままでは親御さんには酷だが、植物人間と伝えるしかないだろう」

「まだこんなに若いのに、かわいそうに・・・・・・」

「あぁ、どうすればこんな事に・・・・・・。ホントに残念だ」

 白い天井、殺風景な壁、その建物は全体的に白く造られている。窓のカーテンは閉ざされ、少年の周りにはたくさんの医療機器が所狭しと置かれている。

 ―――生命維持装置。少年は今、生と死の狭間に置かれている。彼女の手で負った傷痕。少年はその氷牙で大きく傷つき、意識を失った。

「とりあえず私は親御さんに現状を説明してくる。君は患者の様子を見ておいてくれ」

「はい」

 一人の医師が部屋を後にした。看護婦は静かに眠る少年の様子を機器にはじき出された数値と照らし合わせながら丁寧にメモしていく。彼が意識を失ってすでに三日目。絶対的な危機的状況が進んでいる。


 ―――暗がりの部屋の中、黒い闇の意識の中で、彼女の夢を見た。そこは暗い井戸の中。大海を知らない蛙を静かに掬い上げ、大きな世界を見せてくれた。閉ざされた浅い海とどこまでも深い空だけがその蛙にとっての世界だった。だが、彼女の手でその蛙は本当の世界を知ったのだ。

 ―――その彼女はすでに夢の中にはいない。蛙は求めた。捜し求め為に自らの意思で井戸を出た。走れない足で走り続けた。彼女に会いたい。彼女の下へ帰りたい。彼女の傍にいたい。彼女の傍で―――


「―――・・・ま、・・・・・・ま、き―――え・・・・・・」

「せ、先生!! 患者さんの意識が―――!!」



_go to "g.a.l".



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