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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第2章 眠り姫

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5th day.-7/プラスチックスマイル - 鉄の靴 -/IRON SHOES

<鉄の靴/IRON SHOES>




「何をする小娘。貴様の標的はボクじゃないぞ」

 ロキの声に苛立ちが混ざる。絶好の機会と眼帯に手を伸ばしたのが間違いだった。眼帯に手を伸ばしたせいで、自分の腕で死角を作っていた。無論、魔術による攻撃など、ある程度は察知できる。先程の蒔絵の弾丸も、反射によって被弾せぬよう後退して回避した。だが、蒔絵の眼は、すでに魔眼の支配下から抜けているのがわかった。

「さっきの男がそんなに大事だったか! 怒りで魅了から抜け出すなんて、これだから愛だの恋だのとうつつを抜かす若い魔術師は嫌いなんだ」

 ロキが弾幕の隙をついて眼帯を外す。怒りでロキを睨みつけている蒔絵に、再び魔眼による魅了を喰らわせようと左眼を見開く。蒼い瞳が蒔絵の思考を奪わんと視線を合わす。魔眼による魔力のチャンネルにパスを繋ぎ、思考を塗りつぶさんと神経を侵食する。ロキと蒔絵の視線が合うと、一瞬だけ弾幕が揺らいだ。

「あたしの中に入るなっ!」

「なにっ!?」

 蒔絵の怒号が響き渡り、チャンネルとの繋ぎが再び千切れた。大きく離されていた間合いを詰めようと蒔絵が跳躍する。純白の刀がロキの首級を取らんと鋭い突きが放たれる。

「なぜ魔眼が効かない!? 魔神眼(ハムサ)級の一品だぞ!」

「そんなこと知るかっ!」

 氷の弾丸とともに振るわれる蒔絵の剣戟の猛追にロキがたじろいでいた。魔眼の効力が悉く打ち砕かれている。すでに目線が合う度に魅了をかけているのに、その全てでチャンネルのパスが繋がらない。その状況に困惑している。

「気付いていないのか! あの男は死んでいない! 貴様が殺し損ねた、ボクを恨むのは筋違いだ!」

 筋違いも甚だしい、ロキの妄言が木霊する。ロキ自身、蒔絵が佐蔵を殺してしまったがために激昂していると考えていた。それ故に沸点が上がり、魔眼が効かないのだと。なら、生きている事実を知れば、気持ちが揺らぎ、隙が生まれると思った。だが、

「そんなの関係ない!」

 蒔絵はそれすらも一蹴する。

「お前のせいだ!  お前のせいであたしの綾が傷ついた! お前のせいであたしの親友(あおい)が傷ついた! どれもこれも! お前のせいだッ!」

 蒔絵が吠える。蒔絵の首筋から赤い靄が噴出した。その靄が蒔絵の刀にまとわりつき、赤色の刃へと染める。

「あたしは! お前なんか! 認めない!」

 鋭い突きがロキを襲う。そのいくつかはギリギリを掠め、ロキの皮膚に傷をつける。

「な、なんだ・・・・・・!?」

 次第にロキの視界が断線する。蒔絵の刃に傷つけられるたびに、視界に良くないものが侵入してくる違和感を覚えた。

「これは、・・・・・・()()()()か!?」

 瞬時に違和感の正体を察知した。蒔絵を襲った暴漢たちが使用した麻薬の類。その効果もあって蒔絵はロキの魔眼の魅了にかかっていた。ロキが想定していたよりも強くかかっていた魅了は、日没までかかると思われた抵抗にすら影響を与えていた。蒔絵の身体に残っていたこの薬の成分を、自身の氷結魔術によって体外に排出し、刃に纏わせて斬りつけていた。

「たちが悪い! あの暴漢(バカ)たち、どこからこんなものを仕入れていたんだ!」

 ロキの言葉にも怒りが滲む。こんなはずはないと、呪詛のように口にする。確かな焦りが表情に浮かぶ。

「ええい、付き合いきれるか! 貴様なんてもういらない! ここで殺してやる!」

 ロキが金色の短刀を構え、蒔絵の剣戟をいなす。蒔絵の体勢を崩したところに刃を振り下ろす。

「———そうはさせない!」

 その間にジューダスが割って入る。ロキの短刀を弾き、返しの刃で首級を狙う。

「ぐっ———」

 とっさにかわそうとするも、肩口から大きく斬りつけられた。苦痛の声を漏らし、ジューダスを睨みつける。魔眼を使おうにも、蒔絵に負わされた傷の影響でうまく機能しなかった。魔術師であり、ましてや幻想騎士(レムナント)であるロキに対して、効果を及ぼす麻薬の類があったことに驚愕している。そのせいで、この状況を打破するだけの策が機能していない。

「ちっ、魔眼が使えないなら、———」


「させるか!」

「逃さない!」


 距離を取ろうとするロキに蒔絵とジューダスの猛追が迫る。二人の刃がロキの身体へと迫り、グサリと突き刺さる。その感覚に、

「なんだっ!?」

 ジューダスが違和感を覚えた。ロキに突き立てた矛先に、()()()()()()()()()()()()()()


「———やれやれ。とんだジャジャ馬たちだ。よもやこんな展開になるとは思わなかったよ」

 蒔絵とジューダスから大きく距離を離し、ビルの屋上で二人を見下ろすロキの姿があった。

「そんな、確かに刃は届いていたのに」

 蒔絵の戸惑いの声が溢れる。間合いの外に出られる隙を与えぬようにと戦っていたはずなのに、ましては()()()()()()()()()()なんて想像できなかった。

「無理もない。君たちはよくやったよ。だけど、策はいくつか用意するのが定石さ」

「なめんじゃないわよ!」

 蒔絵の周囲に大量の霧が出現する。その全てが蠢き、蒔絵の頭上で凝縮され、氷の塊へと変貌していく。

「氷結魔術の結晶化か。あの規模でするなんて、なかなかの逸材だったのに。でも、()()()()()()

 ロキが憤怒の表情を浮かべる。その殺気を感じ、ジューダスが動く。


「―――『転生(てんせい)神威(しんい)万丈(ばんじょう)(ことわり)(あらわ)せ』―――!」


 ロキの面前へと空間転移をする。神槍の穂先には十分なだけの魔力が収斂されていた。


「――― 『トゥアザ・デ・ダナーン』―――」


 解号を以てロキを討つ。それだけの魔力がある。それだけのチャンスがあり、撃ち損じても、蒔絵の氷結魔術も残っている。そう確信した刹那、


「―――『泡沫(ウタカタ)()えろ (マギスタ・ユピテウス)』――――!!」


 ロキの左腕が朱色に輝いた瞬間に、雷の弾丸がジューダスを襲う。とっさに神槍の柄で受け止めたが、勢いに弾かれてビルの反対側まで吹き飛ばされた。

「えっ——————?」

 そして、その雷霆は、蒔絵の―――頭部を貫いた。

「まきえぇええええ!」

 あまりの出来事に声を荒げる。頭部を無くした胴体は力なく膝をつき、頭上で精製されていた氷の塊は浮力をなくし、その質量を持って墜落した。地面に落ちた瞬間に、凝縮されていた魔力が周囲に炸裂する。その衝撃と暴風に突き飛ばされ、頭を強打した。青白い斑点が視界を蝕み、視界が粗食され、意識が——————闇に、消えた。




_go to next day. "CHAOS"



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