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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第2章 眠り姫

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22/102

5th day.-6/プラスチックスマイル - 白雪 -/SNOW WHITE

<白雪/SNOW WHITE>



「―――『ドゥアザ・デ・ダナーン ブリューナク』―――!!」


 空間転移によりジューダスがロキへと距離を詰め、神鎗の解号と共に展開されるほぼゼロ距離での雷撃が振り下ろされる。ジューダスの槍撃を金色に輝く三叉の短刀で受け止めていたロキだが、雷光の追撃によりビルの壁まで吹き飛ばされた。

 土煙を上げる中、再び蒔絵がジューダスへと距離を詰める。同時に蒔絵の周囲に氷の塊が精製され、弾丸となってジューダスを襲う。

「っ―――!」

 氷の弾丸を弾き落とし、剣戟を振るう。先程違い、穂先に魔力を収束させたジューダスの槍撃は蒔絵の刀を力強く弾き返した。

「―――いてて。なかなかやるじゃないか、ジューダス」

 土煙の中から這い出たロキは全身を負傷していたが、短刀を携えて立ち上がる。

「なるほど、あれだけ魔力を込められたら力負けするか。練度の違いは一目瞭然だね」

 ロキが二人の剣戟を一瞥する。それだけで興が削がれたのか、こちらに視線を送る。

「ふふん。残念だったね、眠り姫。君の友達はもう間に合わない。手切れを済ませるんだね」

 ロキと視線を合わせないように目線をそらす。だが、今にでも近づいて殴りつけてやりたい。それくらいの怒りと悔しさがこみ上げてくる。状況として、ジューダスは私に危険が及ばないようにより強力な魔術障壁を敷いてるため動くことができない。現に、彼女が私に攻撃を仕掛けてこないのはこの障壁のおかげだろう。彼女の挑発に乗ってしまうのは愚策でしかない。

「だけど、ジューダスの実力を知れたのは収穫だ」

 悪魔がふふんと笑う。再びジューダスと蒔絵の剣戟を眺めた。風景に溶ける蒔絵の白い刃は視認できないが、ジューダスの赤く輝く穂先だけはなんとか見ることができた。刃同士がぶつかる度に火花が散る。


 ぶつかること更に数合。早さで斬りかかる蒔絵に対して、力強くぶつかるジューダスの槍撃に攻めきれずにいるのがわかった。蒔絵が距離を取ろうとすると、先ほどと違い今度はジューダスが間合いを詰める。距離を離されると蒔絵が発生させる触れたものを凍らせる靄が襲うからだろう、自身の不利になる状況になるまいと攻め続ける。

「っ―――!」

 ジューダスの下から上へと振るう槍撃で蒔絵の刀が弾き飛ばされた。それを好機と踏んだジューダスが蒔絵の首元へと手を伸ばす。掴もうとした瞬間、

「なっ!?」

 蒔絵が展開した白い靄が自身すらも覆いかぶさりジューダスの腕を拒んだ。ジューダスはとっさに腕を引いたが、それでも腕の一部が凍りつき、苦痛の表情を浮かべている。蒔絵自身を飲み込んだ靄はすでに豪雪の奔流となり、ジューダスの頭上へと襲いかかる。

「ちっ―――!」

 豪雪の奔流に飲み込まれまいと大きく距離を離す。地面で渦を巻く姿はもはや巨大な白蛇であった。白蛇は再びジューダスの頭上へと登り、大きな塊へと変貌しようとしている。


「―――蜜毒(ミツドク)(ネム)れ」


 気付けば、巨大な氷の塊の上に再び純白の刀を携えた蒔絵が立っていた。巨大な塊は球体となり、周囲を蠢く霧によって徐々に大きくなり、


「―――『白雪(しらゆき)』―――」


「!!」

 蒔絵の解号によりジューダスの顔色が変わる。バキン、と巨大な氷の塊が()()()()()()

「葵、伏せろ!」

 炸裂した氷の破片が広範囲に広がる。それを視認した瞬間、―――何かが私の上に覆いかぶさった。


「―――えっ・・・・・・? ・・・・・・なん、で・・・・・・?」

 轟音が鳴り止んだ頃に、蒔絵の戸惑いの声が聞こえた。

「・・・・・・なにしてんだよ、お前たち。喧嘩にしては、・・・・・・ごほっ、スケールでかすぎ、だぜ・・・・・・」

 未だに状況が把握できていない。自分の上にいるものの存在に心が揺さぶられる。いるはずのいない、たどり着けるはずのない、今の私達からは遠いところにいるはずの()の声が聞こえた。

「佐蔵・・・・・・君?」

 なぜここに佐蔵がいる。予想打にしていなかった彼の乱入が思考をぐちゃぐちゃにする。

「眠り姫、彼は誰だい? なぜここに部外者が入り込める」

「どう、なっているんだ」

 誰も彼もがこの状況に動揺していた。結界を敷いていたロキすら驚愕している。

「蒔・・・・・・絵、諦めるんじゃ、ねぇよ。ずっと―――待ってるから、戻って―――」

「・・・・・・りょ、う・・・?」

「佐蔵君!! しっかりして!!」

 佐蔵が気を失った。嫌な予感がする。周囲を見るといくつもの氷の棘が突き刺さっていた。そして、その棘は佐蔵の背中にも及んでいる。ジューダスの展開していた障壁も破壊されていた。それだけの威力、それだけの脅威をその身で受けたのだ。彼が今この場にいなければ、私が()()からこれを受けていたことに背筋が凍った。

「ふふん、はっ、あははははっ! なんだいこの悲劇は! これは愉快だ!」

 傍らで悪魔が声を上げて笑った。この凄惨な状況に、愉快だと侮蔑した。

「ロキッ!」

 余りある侮辱に怒りがこみ上げる。佐蔵がこの状態になったのは全てにおいてロキの所業によるものだ。蒔絵が操られているのも、私たちが蒔絵を街中探し回ったのも、ジューダスと蒔絵が刃を交えたのも、全てが彼女の思惑のせいなのに。傷つく必要のない人がまた傷ついた。そのことに対して、悪魔は声を上げて、腹を抱えて笑っている。この悲劇を愉快だと言い放った。その言葉に、我を忘れて立ち上がる。この悔しさを、この怒りを、もはや私の感情の中だけでは処理しきれない。

「アオイ、よせ!」

 遠くからジューダスの声が聞こえた気がした。その声に耳を傾けるだけの余裕がない。これ以上、私の日常を穢されることに憎悪が湧き上がった。

「へぇ。命知らずめ。キミもそこで寝そべればいいよ」

 ロキが眼帯に手を伸ばす。私からの距離ではその手を止めるのに明らかに遠い。彼女の左眼の恐怖が脳裏に浮かぶ。それでも、刺し違えるくらいの気持ちで一歩を踏む。

「——————・・・・・・ぅああああぁぁぁっぁーーーーーーーー!!!!」

 蒔絵の怒号が聞こえた。刹那、氷の弾丸が、私とロキを分断した。視界が白雪の霧に遮られ、もはやロキの姿を視認することができない。

「肝が冷えた。無茶をするな、アオイ」

 気付けばジューダスが傍らにいた。私を横から抱え、倒れていた佐蔵を担いで鳴り止まない弾丸の前線から離脱する。

「この少年はまだ大丈夫だ。傷こそは多いが、運良く急所は外れている。今なら治療魔術で対応できる」

 ジューダスが治療用の魔法陣を展開すると、佐蔵の背中に刺さっていた氷の棘が次第に消えていった。傷口も次第に塞がれていき、佐蔵の呼吸が少しだが落ち着き出した。

「ジューダス、その手・・・・・・」

 ジューダスの右手を見ると、酷い凍傷となり赤く腫れていた。

「オレのことはいい。次第に治るし、今はもう支障はない。それより、こいつを頼むぞ」

 ジューダスは佐蔵の治療が落ち着いたのを確認し、再び神鎗を持ってロキへと駆け出した。



_go to "iron shoes".


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