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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第2章 眠り姫

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5th day.-5/プラスチックスマイル - 凄惨 -/TERIBBLE

<凄惨/TERIBBLE>


「アオイ、()()()()()()!」

 ジューダスの怒号が響く。間に合うはずと踏んでいた私達の思惑は外れ、蒔絵の手には昼間見た純白の刀が握られていた。全身が氷像のように透明感があり、白銀の世界において、彼女の存在は透き通っていた。

「―――一歩、二歩」

「なにっ!」

 私の覚悟を置き去りにする蒔絵の歩みは、開かれた距離を一息で埋めるものだった。一瞬にしてジューダスの間合いに入り込み、その懐に鋭い刃を突き立てる。

 ジューダスは体勢を崩しながら避け、急いで立ち上がり後退する。その距離さえも、さらなる踏み込みでゼロにした。

「ちっ―――!」

 何合かの打ち合いをギリギリのところで防いでいく。激しい金属音が響き渡る中、蒔絵の周囲には白い靄が蠢いているのが見えた。

「―――凍れ」

「―――『アンスールオス』―――!」

 蒔絵の言葉と同時に白い靄がジューダスへと襲いかかる。展開させた障壁を靄が覆い、次第にジューダスの周囲が氷結していく。その氷結した障壁を叩き割らんと蒔絵が刀を大きく振り上げた。

「―――『ケン・ティール』―――!」

 ジューダスの詠唱により障壁が炸裂した。とっさの判断で距離を取る蒔絵にジューダスが手にした槍が赤く輝く。白髪の巨躯との対峙のときに見せたその輝きは、穂先に魔力が込められていくのがわかった。ジューダスは、―――すでに覚悟を決めている。

「ふふん。ようやくやる気になったか」

 ジューダスと蒔絵の打ち合いを眺めていた悪魔が呟く。

「ちっ・・・・・・忌々しい野郎だ」

 ロキに言葉を返すジューダスであったが、その表情には焦りが見えていた。蒔絵はジューダスの槍の変化を感じ取ったのだろうか、更に距離を取り様子を見ている。

「ふふん。焦らない焦らない。君がこの程度だと、―――眠り姫はここで死ぬよ」

 ロキの背後から私に向かって何かが放たれた。そう視認した瞬間にジューダスが目の前に現れ弾くと、合わせるかのように蒔絵が距離を詰める。


「―――『ラグ・イス・ティール・ウル・アンスールオス』―――!」


 再びジューダスは障壁を展開させると、―――


「―――『転生(てんせい)神威(しんい)万丈(ばんじょう)(ことわり)(あらわ)せ』―――!」


 刹那にしてジューダスの姿が消える。先程展開させた魔術障壁とは違い、ロキと蒔絵の攻撃をすべて防ぎきり、―――

「なっ!?」

 ロキの背後へと瞬間転移したジューダスが刃を振り下ろす。魔力を込めた穂先をロキが防ぐ。彼女の手に現れたのは金色輝く三叉の短刀。ジューダスの槍撃を受け止めた衝撃でロキの足場が沈んだ。


「――― 『トゥアザ・デ・ダナーン ブリューナク』―――!!」


 ほぼゼロ距離での咆哮が振り下ろされる。




***




「アルス!! いましたか?」

「全然いねぇっス!」

 アルスとジーンは倖田町を走り回り、タイムリミットの日没までおよそ数分というところまで来ていたが、ロキの残留魔力を捜索したが気配すら発見できずにいた。

「そうですか。この町の殆どはすでに確認しましたがいませんでした。恐らくは隣街

のどこかと思われますが・・・・・・」

「隣街ならダンナの魔力を感じやす。一旦合流―――」

 二人の感覚に突如ジューダスの魔力を感じ取った。その練度は凄まじく、すでに戦闘に発展していることを容易に気付くことができる。

「アルス、今のは・・・・・・」

「この距離であんたが感じるほどなんて。ダンナ、かなりキレてるっすね・・・・・・」

「急ぎましょう、やはり隣街です。戦闘が始まっているのなら、アオイが危険です」

 ジューダスの魔力を頼りに臆郷へと走る。二人の速度ならギリギリ日没ごろになるだろう。




***




「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・。蒔絵のヤツ、何処行ったんだよ」

 日は沈みだし、ものの数分もすれば夜になるだろう。昼間から蒔絵を探すために走り回っていた佐蔵は、倖田町にはいないと判断して臆郷市へと来ていた。普段から蒔絵が利用する商業施設などではなく、人目の付きにくいところを重点的に走り回った。

 しかし、街中を捜し求めても、魔眼の悪魔が敷く結界から彼女の力が漏れる事は無い。それ故に、佐蔵に彼女を探す手がかりはほぼ皆無だった。

「蒔絵・・・・・・諦めるなよ」

 結局、街中探しても見つからず、臆郷もいろいろ探したけど見つからない。佐蔵にはすぐに見つかるだろうという算段があったが、彼の思惑はうまく機能していなかった。ロキによる結界とアルスによる暗示により、彼自身の力や感覚では彼女にはたどり着けない状態であったが、彼にはそれを知る余地がない。

「あれは・・・・・・」

 もう何本目かの裏路地を確認したところで見覚えのある影が見えた。あれは、蒔絵や葵と同じ制服姿の女性であり、顔見知りだった。

()()!」

 声を上げて呼び止める。佐蔵の声に気付いた様子で新守渚が視線を送った。

「先輩、どうしたんですかこんなところで。なにかお探しですか?」

「まあ探しものっちゃ探してるんだが。って、お前どうしたんだそれ!?」

 佐蔵が新守に近づくと、全身ずぶ濡れであった。コートの類は羽織っておらず、濡れた制服姿では十二月の空は寒すぎた。

「ああ、これはお気になさらず。汗っかきなので」

「バケツの水かぶったくらいずぶ濡れなのにそんな訳あるか! これでも着てろ!」

 佐蔵は急いで制服の上着を脱ぎ、新守の肩に掛ける。身体は冷えてる様子ではなかったが、芯が冷えるのは時間の問題で、男物の上着一枚でもないよりマシだと感じた。

「何があったか知らないが、すぐに身体を温められるところに行け。日が暮れればもっと寒くなるぞ」

「あっ、ちょっと・・・・・・」

 新守の手を掴み大通りへと進む。道路脇に客待ちをしているタクシーが停車していたので後部座席へと新守を乗車させ、数千円を手渡す。

「これで家に戻るんだ」

「ふふっ、優しいんですね、先輩」

「からかうな、明日恥ずかしくて爆発しちまうよ。おっちゃん、この娘お願いします。行き先は聞いてください」

 タクシーの運転手に新守を任せてドアを閉める。蒔絵の捜索を続けるために佐蔵は裏路地へと戻っていった。

「彼氏さんかい? いい男じゃないか。それで、行き先はどこだい?」

「いえ、このお金は差し上げます。―――『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』―――」

「あ・・・・・・かしこまり、ました・・・・・・」

 新守の言葉を聞いた運転手は後部座席のドアを開けた。新守が降りたことを確認した運転手はドアを閉め、料金メーターを作動させて走り去ってしまった。

「強引な人。でも、あの人が好きそう」

 タクシーが見えなくなったところで踵を返す。裏路地の先から大きな物音がしたが、すでに彼女の出る幕も義理もない。事の顛末は神のみぞ知る。新守渚は人の流れに逆らうように人混みへと消えていった。




_go to "snow white".

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