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襲われたい願望?


「ホント嫌われてるわねあんた。まあ兄がこんなじゃ、しゃあないか」


 静凪が閉めていった扉のほうを見ながら、弥月が誰ともなしに言う。

 今のように、表向き静凪はダメ兄貴が嫌いな妹、ということで通っている。しかし嫌われているどころか、実際はムダに好かれている。

 まあ普通の好きとは少し違うのかも知れないが……要するにあいつはただの甘えたがりなのだ。自分が甘えたいくせに人をダメ扱いしてなにやら仕向けてくる。


「昔はお兄ちゃんお兄ちゃんって、仲良さげだと思ったんだけどね」


 小さい頃はそれこそ周りを気にせずベタベタだったが、思春期になって人目を気にするようになったってとこだろう。単純に恥ずかしがり屋なのだ。

 そう弥月に説明してやってもいいのだが、静凪はそれを隠したいみたいだし、変に誤解されても面倒になりそうなので黙っている。


「あ~あたしも妹か弟欲しかったなぁ。静凪ちゃんみたいな可愛い子ならもう大歓迎なんだけど」

 

 弥月と静凪は決して仲が悪いということはなく、ときたまウチの風呂に一緒に入ったりもする。

 それでも静凪はどこか弥月に遠慮しているように見える。おそらく俺たちが相思相愛だと思っているのかなんなのか、そのへんは俺も聞きづらく非常に微妙な関係になりつつある。まったくもってめんどくさい。

 

「あっ、あたしがこんなこと言ってたなんて、お母さんには言わないでね」

「わかってるよ」

 

 それだけ言って黙ってゲームを再開すると、隣に座った弥月がテレビ画面と俺を交互に見やって、


「またゲーム? 飽きないね~……それ楽しい?」

「俺はキャラが成長していくのを見守るのが好きなんだ。もう少しでこいつのスキルレベルがマックスになる」

「ふぅん。いくらやっても自分は成長しないのにね」


 突然の火の玉ストレート。

 俺はすぐにゲーム機の電源を落とした。コイツがいると集中できないからだ。

 

「で、決めた?」

「何を」

「返事」


 返事というのはもちろん、俺がその女子と付き合うかどうか、ということだろう。

 よくよく思えばこの俺がラブレターをもらったのはこれが人生初……というのは衝撃の事実である。

 そもそもこの完全無欠イケメンの俺が女子から告白されたことがない、ということ自体がおかしい。

 さっきの静凪の話ではないが、その原因はおそらく俺をダメ人間に仕立てたいこいつらの陰謀ではないかと疑い始めている。

 ……まあ冗談抜きに、静凪が俺のクズい噂(それが俺の本性ではない、断じて)を流し、弥月が恋人面して脇をガッチリ固めていたらそりゃ女子も寄り付かないというものだ。

 

「しかしそれでも有り余る俺のイケメンオーラが女を引き寄せてしまったか……」

「え? 何て?」

「いえなんでも」

 

 そんなわけないでしょって絶対言う。

 ちなみに肝心のラブレターはまだ開封すらしていない。決してビビっているというわけではなく、物事には何ごとも順序というものがある。

 別に現実から目を背けようとしてゲームをしていたわけではない。もちろん弥月に相談しようかどうか迷っていたということでもない。

 でもまあ、向こうから話を振ってきたからにはね、しょうがないね。


「いやまあ別に……ねえ? 特に断る理由もないけども、オッケーする理由もないというか」

「何それ? そもそもあんたって彼女欲しい~とか、そういうの思わないわけ?」

「いや……ていうか彼女作って何するわけ?」

「何って、そりゃ一緒にでかけたり、遊んだり……イ、イチャイチャしたり?」

「なるほどエロか」

「エロ言うな」

 

 よくわからんがそっち系の欲求はそこまで強くないのかもしれない。

 なんというか、女の裸も小さい頃から静凪ので見慣れているし、こいつらのおかげで女子に変な幻想を抱いていないし。


 ふと座布団にぺたんと座り込む弥月のほうに視線をやる。

 今日は薄いピンクのパジャマ姿。パジャマと言っても肩丸出しで裾がスカート状になっている妙にエロいやつである。

 いくら幼なじみと言えど、夜の九時過ぎにこんな格好で男の部屋にやってくるのはどうかと思うのだが。これは誘ってると思われても文句は言えんぞ。


「な、何?」

「いや別に……」


 俺の視線に気づいたのか、弥月は少し脇を締めるようにして体を縮こまらせ、服の裾を掴んで伸ばすようにして、若干上目遣いにこちらを見てくる。

 こちらはさっと目線をテレビのほうへ向けるが、なんとなーく気まずい空気が流れ、お互い妙な沈黙状態になる。

 しかしすぐに弥月がコホンと咳ばらいをして、わざとらしく大きく声を張った。

  

「だ、大体あんたって、今みたいな二人きりの状況であたしが無防備でいても、なーんもしてこないしね」


 俺はそれには答えず、ベッドの上の携帯を取ろうと立ち上がる。

 するとほぼ同時に、弥月がずるっと座布団を滑らせ、足を投げ出してその場にずっこけた。

 

「何やってんのお前」

「び、びっくりさせないでよ、もう!」

「びっくりって……何? お前ってもしかして襲われたいとかそういう願望でもあるの? じゃさっさとケツ出せケツ」

「そ、そんなわけないでしょっ、し、死ねこの変態!」


 自分から話題振っといてこの仕打ち。

 そういうのを妄想しているほうがよっぽど変態ではないのか。

 まあ今のでパンツ見えたからよしとするか。だが白とは普通でつまらんな。

 

「まあその……あんまりがっついてないのは、いいとは思うんだけど」

「当然だ、俺は紳士だからな」

「どこが。いっつもスマホでエッチなマンガばっか見てるくせに」

「エロマンガは現実にはありえない話でできている。つまりファンタジーだ。ファンタジーマンガと呼べ」


 だいたい二次元は別腹だろうに、そんな初歩的なこともわからんのか。ていうかなんでバレてる。

 それと本人は気づいてないと思うが、弥月はなにかに集中していると、かなり無防備になることがある。

 例えば前かがみになってお尻を突き出しながらパンツ丸見えでも気にしない、みたいな。意外に天然なところもあるからな。

 これにはさすがに紳士の私と言えど、愚息を戒めなければならない状況に陥ることはままある。


 だがムラっと来たから襲っちゃいます、なんてそんなこと後が怖すぎてできるかって話。

 すぐさまお互いの家族全員にあらいざらい告げ口されて、生き地獄を見ることになるだろう。

   

「というかもし付き合うってなったら、こうやって二人きりでいるのはまずいんじゃないの」

「そうね……。そしたら、今までみたいには、いられないね」


 弥月は目線をそらして、何やら急に重たい口調で言う。

 マジかやった。もう今みたいに夜な夜な部屋に上がり込まれて、いろいろ邪魔されることがなくなるとか最高じゃん。

 まあラッキーエロがなくなるのは少し残念ではあるが。

 

「もし……あたしが、付き合わないで、って言ったら、そのとおりにする?」

「いや全然。むしろ付き合う」

「死ね」


 ここで死ね=好きに変換すると本当にいい感じになるんだけど。

 死ねを変換してもシネにしかならない。

 

「え? なんなの? 付き合わないでほしいの?」

「は、はあっ? そんなこと一言も言ってないですけど? もう勝手にすれば? あんたがどこの誰と付き合おうが知りませーん」

 

 なんなんこいつ、さっき聞いてきたやん、今のくだりなんだったの。

 ここでもし弥月が「泰地と一緒にいたいの。だから他の子と付き合わないで、お願い」と涙目で訴えてきたら俺もどうなるかわからなかったが……まあそんなことあるわけないわな。

 それどころか弥月の言い方があまりにも憎たらしかったので、こちらも負けじと相手を逆上させる煽り顔を作る。


「あ~わかったよ、じゃあ俺付き合うわ。もうやってやるですよ」

「はん、仮に付き合いだしたとしてもどうせ続かないわよ、めんどくさがりでろくに人付き合いすらできない人間が。本性バレたらすぐ振られるんじゃないの」

「言うたな我? 言うたな?」


 隠れコミュ強の俺に造作はない。

 どこの女子か知らんが、こうなったらもう俺にベタベタのメロメロにしてやるぜ。


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