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告白の相手


 そして放課後。

 俺は弥月とともに校庭の片隅にある、うっそうと草木の生い茂る一帯に向かっていた。

 ここには希望坂高校名物と言われる希望の木とかいうたいそうな名前のついた、ただのうす汚ねえ大木がある。

 目的地である希望の木が近づいてくると、弥月は胸を抑えながらふぅ、と息を吐いて、


「はぁ、なんか緊張してきた……」

「ていうかマジで付き合うつもりなわけ? 冗談でなしに」

「あ、やっぱやめたほうがいい? そう思う?」

「いやそれは俺は知らんけど」


 そう言うと弥月はふん、とそっぽを向いてがぜん早足になる。

 なんでしつこく俺に聞いてくるわけ? どうせ俺が止めても聞かないくせに。

 まったく、超キモいのが待ってたらどうするつもりなんだか。

 全然関係ない小汚いおっさんが待ちかまえてたりな。そういうエロ漫画ありそう。

 

 弥月について立ち並ぶ木をよけながら、落ち葉の散らばる土の上を進む。

 しかしこれまた面倒な場所を指定してきたな……と、垂れている蔦を手で払いのけると、先を行く弥月が立ち止まり「ここで待ってて」と手で俺を制した。

 言われるがまま俺は手近な木の影に身を隠し、そこから弥月の後ろ姿を見守る。 

 告白される時に隣で見てて、とか言われなくてよかった。それはそれでシュールすぎるが。


 弥月の行く手、夕日の差し込む希望の木のそばには、すでに人影が待っているようだった。

 どうやらちゃんと一人のようだ。一体どんな相手が……と、木の陰から身を乗り出して目をこらす。


「げっ」

 

 思わず声が出てしまった。 

 ちょうど夕日が当たって見えづらいが、弥月と向かい合っている影は同じくスカートを履いた……どう見ても女子だった。

 

 オイオイオイ、それはさすがに……。

 もしや俺はいてはいけない場面に出くわしてしまったのでは。

 弥月レベルになると、同性からもアプローチが……いやあるのか?

 怖いもの見たさに、さらに前のめりになって耳をそばだてる。


「…………」

「…………」


 何を喋っているかまではわからないが、弥月は相手の話にただひたすら、うん、うん、とうなづいている。

 そして一区切りすると、相手の女子生徒は弥月に何かを手渡して握手をしたのち、笑顔で手を振って去っていった。

 今のは、まさかのオッケー……?


 ざっ、ざっ、と落ち葉を踏みしめながら、弥月が行きと同じ調子で戻ってくる。

 何か妙にテンションが低いので、張り切って元気よく迎え入れた。

 

「無事カップル誕生か……おめでとう!」

「バカ言わないでよ。はいこれ」


 弥月がすっと長方形の何かを差し出してくる。

 これは先ほど弥月が手渡されたもののようだが……手紙っぽい。

 

「これはなんぞ?」

「ラブレター。あの子、あんたのこと好きなんだって」

「は?」


 あまりにも斜め上な返答がきて、思考が止まった。

 まさかの三角関係……いや実際は俺も弥月も完全にあさっての方を向いているため、断じて三角にはならない。

 手紙を受け取ってしまいつつも、


「なっ、何が、ど、どうして……?」

「言ったとおりよ、動揺しすぎでしょ」

「じ、じゃあさっき何を話してたんだよ?」

「あたしとあんたが、付き合ってるかどうかをちゃんと確認したかったんだって。だからはっきり付き合ってないって、言っておいてあげたから」

 

 その話をするために、ラブレターらしきものでわざわざ弥月を呼び出したってことか?

 何やら回りくどいことを……ていうかマジか?


「見てたでしょ? 可愛い子じゃない。よかったわね」


 弥月は平坦な口調でそう言い捨てると、すたすたと先にその場を去っていってしまった。

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