高いのはイヤ
それから数時間して、光司くんのエスコートもあり無事目的地の遊園地へ。
光司くんに入場代もエスコートしてもらおうと思ったが当然のごとく却下された。
中に入るなり、やや興奮気味に舞依が奥に見える巨大なジェットコースターを指さして、
「あれが有名なジェットコースターか、混まないうちに早く乗ろう乗ろう」
「行ってらっしゃい」
「なに? 行ってらっしゃいとはなんだ泰地」
「いや無理。俺ああいうのは乗らない主義だから」
問い詰めてくる舞依に対し、俺は頑としてそう言ってのける。
するとすかさず紫崎も会話に入ってきて、
「なんだいここまで来てそれは……。あっ、もしかして泰地くん……怖くて乗れないのかな?」
「そうですけど何か?」
「あっはっは、恥ずかしくないのかキミ、怖いだなんだって」
と何がおかしいのか爆笑である。
俺の高尚なギャグにはピクリともしないくせにだ。
「というかなぜ金を払ってわざわざ怖い思いをするのか意味がわからない」
「どうやらキミは遊園地には来てはいけない人種のようだね」
「そもそも俺は行きたいとは一言も言ってないわけだが」
「はぁ~、もう最悪だね。ここでいきなりムードを壊すようなことを言うなんて」
と光司くんがため息混じりに「やれやれ」とわざとらしい仕草を加え、同意を求めるように周りへ目配せをする。
「えぇっと、あたしもちょっと、ああいう激しいのは得意じゃなくて……」
「静凪ちゃんは高いところに行くとおしっこがもれそうになるから絶対に乗らんのだ」
しかしその他二人の反応はあまりよろしくない。
唯一同調して少し不満そうな顔をした舞依が、
「では泰地、私が手を繋いでてやるから一緒に乗ろう」
「断る。握りつぶされるだろうが、なお怖いわ」
「なんだなんだまったく、それにしても弥月と静凪まで……仕方ないな。光司、ふたりだけで乗ろう」
「そ、そうだね……」
微妙に歯切れが悪いけど光司くん大丈夫かな。
まだ時間が早いせいか、さほど並ばずに乗れそうだった。
早々に二人が並ぶ列に加わると、俺たちは近場のベンチに座ってパンフレットを開き、作戦会議をする。
「静凪ちゃんでも乗れそうなのないかな?」
「高いのはイヤ」
ぶんぶんと首を振る静凪は、俺以上に筋金入りの高所嫌いである。
小学生の時に家族で来たとき、静凪どころか一家全員ダメだということが発覚してしまい、それ以来黒野家では遊園地のたぐいはご法度……タブーとなっている。
でたしかその時も一緒に来ていた弥月は、おそらくそれを知っていたわけだが。
「お前が『光司くん、あたし動物園がいいなぁ~ウフ』ってやれば変わったかもしれないのに」
「そんなのやらないわよ。あたしはてっきり二人がチャレンジするのかと思って。……ねえ、これとか泰地でも大丈夫じゃない?」
「イヤ。それ玉ヒュンするやつだろ」
「じゃこの船のやつは?」
「いやそれは普通にあかんやつだろ、見てるとたいしたことなさそうだけど実際乗るとヤバイ系の」
弥月とああでもないこうでもないとやっていると、ざっ、と足音がして影が落ちた。
顔をあげると、舞依がすっかりご満悦の表情で立っている。
「いや~楽しかった。予想よりもすごくて、思いの外満足だ」
「あれもう終わったのか? 早っ、全然見てなかった」
「なに、見てなかったのか。こっちに手を振っていたのに……。乗ってないのになんだか二人とも楽しそうだな、ずるいぞ」
「ずるいってことはないだろ……」
などとわけのわからんことを言う舞依の背後から、少し遅れて紫崎がやってくる。
こちらは舞依とは対照的に心なしか顔色が悪い気がする。
「おや? 光司くんちょっと足元ふらついてるけど大丈夫?」
「だ、大丈夫に決まってるだろ、思ったよりたいしたことなかったな、ハハっ」
最後ミッ○ーみたいな笑い方になってるけど本当に大丈夫かね。
その後は適当にブラブラと場内を練り歩く。
静凪があれでもないこれでもないと駄々をこねるため結局乗るものがなく、早くもグダグダな流れになりつつある。
なにやら紫崎はあらかじめ回るルートなどを考えてきていたらしく、キミのせいで台無しだとかなんとかこっそり文句を言われたが知ったことではない。
ただ女性陣は「あれが行けそうあれは無理かも」と歩きながらきゃあきゃあ騒いでいて、それはそれで楽しんでそうにも見えた。
そのうちにやがて遊園地の定番、三角木馬ならぬ回転木馬……まあつまりメリーゴーランドが見えてくると、弥月が我先にと指さして、
「あっ、ほら泰地、あれなら乗れるんじゃない?」
「バカ言え、あんな女子供が乗るやつにこの俺が乗れるか」
「……まだ子供でしょ? 他のにも乗れてないくせに」
「静凪、弥月たちと一緒に乗ってこい。携帯で動画撮っててやるからこっちにアヘ顔ダブルピースな」
そう言って女子三名をとっとと送り出す。
周りを囲む柵の外で携帯を構えて待っていると、ブザーが鳴ってメリーゴーランドが動き出した。
すると俺と一緒に残った紫崎が、
「ふぅん、サポート役に徹するということかい」
などとブツブツいい出して、なぜか俺と張り合ってかしらないが、別の位置から写真やら動画を取り出した。
もしや俺がリアル騎乗位からのパンチラシャッターチャンスを狙っているのがバレたか。
メリーゴーランドが止まり弥月たちが戻ってきて、紫崎が「やぁみんなお姫様みたいだったね」などという鳥肌の立つお寒いセリフを吐いた後、全員を見回しながら、
「ところでみんな、お腹すかないかい?」
「あたしはまだそんなに……」
「ぼくおなかすいた」
俺のことは軽く無視されたが、舞依が「私も腹が減ったな、なにか食べようか」というと一声でその流れになる。
すると頼んでもいないのに光司くんがパンフレットを片手に、フードコートに向けて先導を始める。
到着した後も、言ってくれれば買ってくるから席で座って待ってて、と勝手に色々やってくれるのでこりゃ楽だ。
「じゃあ俺はせっかくだから意味深なジャンボフランクで」
「キミはこっち側だろう、何を人任せにしようとしてるんだ」
うーん厳しいぞ、相変わらず俺に厳しい。
弥月は「そんなにお腹へってないし、どうしよっかな……」といつまでもグダグダ、静凪は「ご飯いらないクレープ食べたい」とか言いだす、舞依はぐるっとあたりを見回しながら、「私はカレーライスと……ラーメンにしようかな。おっ、ピザもいいな」とガッツリいこうとしている。
「ゴチです光司さん」
「なんで僕がキミにおごらなきゃならないんだ」
そして俺はなんとかして光司くんにタカろうとしている。
だってこの人いい服着てるし金持ってそうだし。
とまあなんだかんだとありつつも、一行は無事食事を済ませつつ休憩を取った。




