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 結局一人で学校までやってくる。

 特に誰に絡まれるということもなく、弥月がいないと平和で静かなものだ。

 しつこいようだが決して俺に友だちがいないというわけではない。

 

 下駄箱で靴を履き替えていると、天パのガリメガネと、ネットでよく見るオタク像を完コピしたようなデブと、ネットでよく見るオタク像を完コピしたようなチビデブがちょっとかっこつけたみたいな奴らに囲まれた。

 三人は俺を見てニヤニヤしながら、


「いやぁ黒野くん、すまなかったねぇ、変な誤解をして」

「は? 何が?」

 

 聞き返すが、相手は仲間内でニヤニヤと意味ありげな笑みを向け合うだけである。

 この気持ち悪い感じはおそらく弥月がらみだろうと思ったが、アイツのせいで俺はこういう得体の知れない輩と仲良くしないといけないのである。


「でもまあ正直そんなことだろうと思ってたよ、さすがに釣り合わんでしょフヒヒ」

「オイオイ、やめろよそうやって言うのぉ、かわいそうだろぉ~ンフフ」


 ブタが二頭ブヒブヒとあえいでいるがなんのこっちゃ。

 残念ながら俺には動物と話す特殊能力はない。スルーして行こうとするとテンパメガネが馴れ馴れしく顔を近づけてきて、


「もしボクらの仲間に入りたいなら歓迎するよ? ただし一番下っぱだけどね」


 ヒャヒャヒャ……とMPを吸い取りそうな気色悪い笑い声を浴びせてくる。

 うーんこんな魑魅魍魎どもが我がもの顔で跋扈しているなんて、ほんま学校は魔境やわ。




 教室へつくと、俺はカバンを席におろして窓際の方へ旅立った。

 朝からこの俺が自ら腰を上げることは滅多にないのだが、妖怪に襲われたとあっては少し情報を集めなければならない。

 俺は窓際教室隅の席に取り付くと、一人静かに文庫本を読みふけるサラサラヘアーのショタ顔に声をかける。


「おはようラノベ。で、杏子ちゃんとやったのか」

「黒野くん……ホントやめてくれる? そういうの」

 

 ラノベは俺の顔を見て盛大にため息を吐く。

 ラノベというのは俺がつけたコイツのあだ名だ。別にいつもラノベを読んでいるからという意味ではない。

  

 こいつは女子と見間違われる女顔で背も小さく声も妙に高く、中学生にもワンパンされそうなもやし野郎だが、どういうわけかそこそこかわいい彼女がいる。しかもギャル系の。

 ゆえに俺はラノベと呼んでいて、顔を合わせれば彼女とやったかどうか聞くのが慣例になっている。場合によってはラノベからエロマンガに改名しないといけないからだ。


「お前がやらないんだったら俺が先に掘っちゃうぞ」

「えっ、僕の方来ちゃう!? そっちじゃないでしょ!?」

「お前のツッコミなんか惜しいんだよな。くどいというか」


 そう言うとラノベは恥ずかしそうに顔を赤らめて頭をかく。

 かわいい。マジで掘ったろか。

 

「なに読んでんの? エロ本?」

「ちっ、違うって。え、えっとこれは斜陽……」 

「ほう、斜陽産業の話か」

「違うよ、太宰だよ。知らないの?」

「てめーなに太宰さん呼び捨てにしてんだよ」


 ラノベのくせにいつも読んでるのは一丁前に純文学とかいうやつで、それ方面には一家言あるらしく、カバーをかけてコソコソ読んでいるわりに話題をふるとうんちくをベラベラと上から目線でしゃべりだす。

 そんなんだからろくに友達もいないラノベは、こうやって俺が行って話しかけてやるとなんだかんだ言って嬉しそうにするくせに、自分からは俺のところには来ないというコミュ障のナメ腐ったやつだ。

 しかしなぜかちゃっかり彼女はいる、ということも相まって腹立つので、別に友達というわけではない。

 なにより俺がラノベ主人公のそばでワーワー言うウザイ脇役みたくなってしまうのが癇に障るのだ。


「それはさておき、さっき怖いお兄さんたちに絡まれちゃってさ。お前なんか知ってる?」

「ああ、そうそう。僕も杏子ちゃんから聞いたよ。黒野くんと赤桐さんの噂」

「え、何? 何だって?」

「いや、なんかやっぱ二人は付き合ってないっていう……イテテッ!!」


 言いかけたラノベの頭を、突然後ろから伸びてきた手がわしゃわしゃとかき乱す。


「うぃーっす、今日も元気にやっとるかキミたち~」


 現れたのは田中という、一言で言えばはぐれドキュンオタクという非常にタチの悪い人種である。

 自称中学ではヤンチャしてましたからの今はオタクになって丸くなりました系のクソうざい奴だが、噂に聞くとなかなかにヤバイ過去を持つらしい。

 校則無視で髪の毛を染めている上に、R18のブツを買ったことを堂々と自慢するような奴なので、絶対に友達にはなりたくない。

 割と真面目クンが多いこのクラスではメチャクチャ浮いているが、なぜか俺が気に入られてしまってちょくちょく絡まれる。要するに友だちがいないわけだ。

 こいつが来るとラノベが本気で嫌な顔をする。まあ俺も嫌なんだが。


「おっ、どうだラノベやったか? やったのか?」

「朝っぱらからそれかよ、ホント下品なやつだな死ねよ」

「黒野くんも人のこと言えないでしょ……」


 俺の下ネタには品があるが、田中のは圧倒的に奥ゆかしさが足りない。

 田中はじっと女子の群れの方へ視線をやって、


「しかしよりによってあのツンツンギャルとはね~。ありゃきっととんでもないビッチだろうな。援交とかしてそう」

「そ、そんなことないよ杏子ちゃんはああ見えてすごい真面目で……」

「ていうかリアルの女とか気持ち悪くない? それにわが愛しの杏子たんと名前がかぶってるんだが。改名を要求する」


 そう言って田中は「こっちのほうが百万倍かわいいだろ」と携帯で萌えキャラらしき画像を見せてくる。

 ドキュン×オタクのよくない部分をかけ合わせるとこのような不純物ができあがるという非常に悪い例である。

 

「ね、ねえ、静かにしなよ、ちょっと……」

 

 ラノベがしきりに周りの視線を気にしている。

 あまりコイツをいじめるとそのギャル彼女がすっ飛んでくるのだ。

 それがまさかの同じクラスにいて、今もチラッチラこっち見てるから怖い。

 前にも「恭一(ラノベの本名)いじめたらチン○切り落とすぞ」って言われたからな。

  

「それより黒野くん大丈夫なの? その変な人達に絡まれたって」

「は? なんだそれ悪者か? 泰地どいつだよ、オレが退治してきてやる」

「やめろやめろ、なんでもないって」


 この血気盛んなバカが話に噛んでくるとものすごく面倒になる。

 その時運よくHR開始の予鈴が鳴ると、田中は急に股間を抑えて「あっ、やべ便所便所」と言って教室を出ていった。

 するとラノベがほっと息をついて、 


「はぁ……。やっぱり田中くんって怖くない? 黒野くんすごいね、あんなふうにあしらって。僕どうしても苦手で……」

「いや別に、なんもすごいことないだろ。まぁあんな奴を合格にしてしまったこの学校には恐怖を感じるが」

「いいなぁ強くて。なんか飄々としてるっていうか、自分を持ってるっていうか……いっつも思うんだけど、そういうところ羨ましいなぁって」

「どこかだよ、お前のほうがたいがい羨ましいわ。なら俺と代われ、杏子は俺がもらってやる」

「そんなことないでしょ、黒野くんだって、あの赤桐さんと幼なじみなんてすごい羨ましい……」

「うわそんなこと言っちゃうわけ? 杏子に言いつけてやる」

「何を言いつけるって?」


 背後で軽くどすの利いた高い声がする。

 振り返ると独特の香水の匂いがして、やたら黒目のデカイ目に茶髪に短いスカートを履いた女子が、腕組みしてこっちを睨んでいた。


「あ、杏子さんどうも、おざっす、お疲れっす。あざっす」

「なにごまかそうとしてんの? だからなんだって?」

「いや、この男が杏子さんより弥月のほうがいいって」

「えっ、あっ、ちょっと黒野くん!!」

「言ってないよね? 恭一くーん?」


 こっわ。目笑ってねーよ。

 ラノベがぶんぶんと大きく頭を振ると、杏子は顔を寄せてジロッとすごんできて、 


「黒野さぁ……言ったよね? 恭一にちょっかい出したら……」

「当たり前だ、そんなことは俺が許さん。だいいち恭一は俺が狙ってんだぞ」

「うっわ……」


 ドン引きしちゃったよ。

 杏子は一歩後ずさって俺から距離を取ると、

 

「てかアンタもさあ、そんなふざけてる場合? 赤桐さん、さっき廊下で変なのに囲まれてて困ってたよ」

「へーそれはそれは大変だ」

「何その反応。冷たいねー、そりゃ愛想つかされるわ」

「ところで恭一って顔に似合わず巨根だよな。あんなモン突っ込まれたらもう拷問だわな」

「へっ……?」

 

 と杏子の目が点になって固まったところで、早々に自分の席に舞い戻る。

 あらかじめ教えておいてやるなんて、俺ってなんていいやつなんだろう。


 しかし弥月もあれぐらい強気に突き抜けてくれたらねえ……おっと、今アイツのことは関係ないか。

 それにしても噂か……やっぱついに弥月が自分で言い切ったのかね。

 これは本格的に嫌われたかな。


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