弥月の日記 2
……失敗。失敗です。
ただの失敗ならまだいいんだけど、とんでもないことになってきてます。
まさか舞依が裏切るとは……いや本人的には悪意があって、ってことは微塵もないんだろうけど。なんとなく何かやらかすような気もしていたけど。
でもあの舞依だからしょうがないか、ってなってしまうところがあの子の人徳というかキャラというか。
やはり人選ミス……いやまあ人選もなにも、そもそもことの始まりは舞依の「何か悩み事はないか? 高校生になったらやはり恋愛話だろう、相談にのるぞ!」という何度断ってもしつこいおせっかいのせいだ。
舞依とは中学も同じで、そのときは顔見知り程度だったんだけど、高校で偶然同じクラス、しかも前後の席になってしまいすごく仲良く(一方的に)なった。
今思えばやめておけばよかったんだけど、押しに弱いというかやっぱり断れなくて、こっちもちょうど悩んでたし、つい泰地のことを話してしまった。
そしたら舞依が協力する協力するって異様にやる気になって、あれよこれよと勝手に計画を立ててきた。
他の男と付き合って嫉妬させるとか、無理やり襲われそうになるところを助けさせるとか……あまりにも危険でお粗末なものだったので、ほとんどあたしが考え直した。
こうなったらもうやってやろうって半分ヤケで……それでもまだまだ煮詰まってなかったんだけど、舞依が早く早くと急かすのでやや見切り発車気味にスタートさせざるを得なかった。
これまでの流れを簡単にまとめると、
最初に現状確認。他に好きな人とかそういうのがいるか。泰地の考えを聞く。
ついでに自分のダメな部分を聞く。ふざけて全部とか抜かす、失敗。
まずは周りが言うから作戦。
中学の時から噂はあったけど、高校でも舞依が改めて流す。あえて強く否定しない。
泰地には悪いけど、どのみち都合がいい。他の人から告白されて困るというのは本当。
断るのって苦手で、傷つけないようにすごく神経を使う。
付き合ってる噂について、どう思っているか泰地に意見を委ねる。
遅かれ早かれ誰かに聞かれるとは思っていたけど、これは偶然だった。
でもこれは大失敗。冗談でも人から嫌いって言われるのだけは怖い。頭真っ白だった。
早くもここでもうやめようかと思ったけど、泰地は優しかった。やっぱり覚えててくれたのかな。
お昼はなるべく一緒に食べるようにする。
ご飯を一緒に食べると好感度が上がるとかなんとかどっかで見た。
ホントはそんなことより、またあんなとこで一人で食べてるのが気になる。かわいそう。
持っていったお弁当は、全部お母さんが作ったと思って美味しそうに食べていたけど、あたしが作ったのも混ざってたんだよどうだ見たか。
そのまま次の段階へ。告白するとかされるとか、そういう恋愛事を意識させる。
ラブレター見せる、モテるアピール。他の男子と付き合っちゃおうかな。とチラチラする。これもすぐ効果なしと判断。
ちなみにこのラブレターは舞依が書いた中身全部一緒のフェイク。噂が功を奏しているのか、ラブレターだとかそういうのは最近は一切もらわなくなった。
それからちょっと強引だけど、告白の場に一緒について来させる。
他の男に告白される姿なんて見たくない、と思うはず。が、効果なし。
ギリギリまでしつこく念押し。本当に告白受けていいのか。
できればこの段階に来るまでにどこかで折れてほしかった。ここでダメなら、本格的に今後舞依の協力が必要になるため。
やはりダメ。仕方なく舞依を動員。本人ノリノリ。どうせ聞こえてないのに、「彼と付き合っているのか」と変な芝居を打つ。
舞依からのラブレターを渡し、泰地がおそらく不安定になっているだろう所をつつく。あんまりにも手応えがないため頭にきて思わず言い争ってしまう。
流れで泰地は付き合ってやるとか言い出したけど、あの舞依といろんな意味で付き合える男子なんてそうそういない。
口では言ってもどうせ泰地は断る。そしたら次のプランへ。
ないとは思うけど万が一告白を受けても、舞依のほうはもちろん泰地なんてどうでもいいはずなので、すぐに「こんな人だと思わなかった」と振ってもらう手はずだった。
そして泰地が傷心のところをなぐさめる、落とす。
……という流れになっていた。なっていたはずなんです。
それが急に本気で好きになってしまったとかなんとかって……大体あんなヤツのどこがいいわけ? ……言えた義理じゃないけども。
そして舞依だけでも厄介なのに、その上静凪ちゃんまで……。
静凪ちゃんとは、みんなの前では普通……どちらかと言うと向こうがおとなしいぐらいなんだけど、二人きりになるとすごい勢いで甘えてくる。
最近はちょっとエスカレートしてきて、たしなめると「お兄ちゃんのこと好きなんでしょ? ばらすよ」って言われてしまって強く出れない。
もしかして泰地とも、表では仲悪そうにしていて、裏では……みたいな感じだったのかも。
それでも一応あたしたちのこと、認めてはくれてるみたいなんだけど……やっぱりなんか気に入らないのかな。よくわからない。
そして今思い出しても、思わず窓から飛び降りたくなるのが……。
雲行きが怪しくなる前に、もうここしかないと思って言っちゃおうと思って衝動的にやったのがさらに失敗だった。アホだった。
泰地が何を言ってるのかわからなくてネットで調べてみたら、ツンデレ不人気、不快、オワコン……とかなんとか色々出てきて、やっぱダメなやつじゃんこれ。
うえっ、気持ち悪くなってきた……。吐きそう。ていうかそもそも幼なじみってのがダメなのかも。
なんかパッとしないし、結局他のヒロインに持ってかれるみたいな役回りが多かったり。
ていうか二人のキャラ強すぎない? 今だって胸 大きくするでネットで検索かけてるし……こんなとこ見られたら死ねる。
これだったら変なことしないで最初から素直にすれば……ううん、違う。でも絶対大丈夫なはずなんだ。
だって泰地がそうやって、教えてくれたんだから。大丈夫、きっと大丈夫……。
それにあたしには、切り札があるんだ。
これがある限りは大丈夫……だよね?
泰地、好きだよ……。