友達(意味深)
「じ、じゃあとりあえず、友達(意味深)から……」
「ん? (意味深)とはなんだ?」
説明しよう!
とりあえず友達から、という魔法の言葉を思いついた俺は、ビビりながらも(意味深)をつけて一発かましてやろうと思ったがダダ滑りしたのだ。
ここに来てひよって優柔不断な感じが出た。だってほぼ初対面の人間といきなり彼女とか、怖いでしょうどう考えても。
「それはオッケーということか?」
「ま、まあそういう方向だけど……」
「そうか……困ったな。ちょっと話が違うような」
「ん? 話が違う?」
「ん~まあいいか。それじゃあ付き合おう! 私のことは舞依でいいぞ。こっちも泰地と呼ぶからな」
「は、はい……」
舞依はキラっと並びのよい白い歯を見せてさわやかに笑った。
非常に男らしい。告白した方とされた方逆だろこれ。
「ところで泰地はスポーツは何が好きかな?」
「ス、スポーツ? いや特に……」
「私は何でもできるぞ~」
舞依は自信満々に胸を張る。
まあ見るからにそんな感じはするが、いきなりアピールされても……。
俺はここに来て、最初からずっと疑問でしょうがなかった部分を指差す。
「ところでそれは……何?」
「これか? これはバレーボールだ」
「なんで告白のときにバレーボール小脇に抱えてるの? という意味で聞いたのだが」
「大会が近いのでね」
大会が近いならしょうがないな。
しょうがない。
「そ、そっか~。ま、舞依はバレー部なんだ~」
「いや、バレー以外にもいくつかかけもちしているぞ。見学のつもりがあちこちでスカウトを受けてしまってな」
運動部のかけもちとかそんなんありか?
確かに体は引き締まっていて動きも機敏そうで、運動能力はかなり高そうではあるが。
「しかし付き合うと言っても初めてなもので、一体なにをどうしたらいいのか……」
「は、はは……そうだね。俺も初めてだから……」
舞依はうーん、と顎に手を当てて考え込む。
なんかいいぞ、このお互い初々しい感じ……と思ったのもつかの間、
「よし、今からドッジボールしよう!」
「そうだな、ドッジボール……ってやらねーよ! なんでドッジボールなんだよ!」
「ん? どうしてだ? 泰地はドッジボール嫌いか?」
「好きとか嫌いとかそういう次元の話じゃない」
「ならいいじゃないか」
何がいいのかさっぱりだが、舞依は脇に抱えたバレーボールを俺に押し付けると、たたっと下がって距離をとって、
「さあこい、こい!」
腰をかがめて、パン! パン! と胸の前で両手を叩く。
向こうは完全にやる気満点だがこれは……。
うーん、ぶつけたい。思いっきり顔面にぶつけてやりたい。
……って違う何を考えているんだ俺は。曲がりなりにも自分を素直に好きと言ってくれている相手に向かって。
スキあらば死ね死ね言ってくるクソ弥月とは雲泥の差ではないか。
色々とアレな感じではあるが、ここは相手に合わせてやるのがモテる男というものだ。
それとなんだかんだ言っても相手は女子だし、しっかり手加減して投げてやるのが紳士のたしなみだ。
「よ、よーっし、行っくぞー」
えいやっと舞依めがけてボールを放る。必殺のオカマ投げ。
ふわっとやや山なりに飛んだ球は、舞依の胸元に飛び込む寸前で、バチィンと手のひらで地面に叩き落とされた。
舞依は地面に跳ね返って浮いたボールを手でキャッチする。
えっ、そういう取り方するの……?
「なんだこの球は! 情けないぞ泰地! それでも男か!」
「いやあの、ドッチボール的には今のはアウトだと思うのだが」
「こんなものわざわざ体で受ける意味もない。女だからといって私をナメてるのか?」
なんかめっちゃ怒られてるし……。
舞依はボールを片手に持ちながら、右肩をニ、三回ぐるぐると回すと、
「まあいい、では私が軽く見本を見せてやろう」
舞依は強キャラっぽいセリフを吐くと、ボールを構え、ぐわっと腕を振りかぶり、足を踏み込み、全身のバネを使い……。
俺めがけてボールを投げ込んできた。
「ぐふぅっ……!?」
ボールは寸分の狂いなく俺の腹部に飛び込んだ。変な声が出た。
なんとか両腕で抱え込もうとするが、威力を抑えきれずに球はあさってのほうへ飛んでいった。
球重すぎ。何というコントロールとパワー。
転がったボールを拾った舞依は、指先でくるくると回しながら、
「惜しかったが今のはアウトだぞ泰地。ちなみにさっきのでだいたい60パーセントぐらいの力だ。次はもう少し強く行くぞ」
舞依は圧倒的ボスキャラっぽいセリフを吐いて、再度ボールを構える。
えっ、なんで今の取れなかったのにもう少し強く行くとか言ってるわけ?
普通は主人公が意外に強かったからこっちも……みたいな感じじゃん。
ていうかこれドッジボールじゃねえよどう見ても……。
「ちょ、ちょっと待った! ドッジボールやめない? 他のがよくない? だってほら、それバレーボールだしさ!」
「ん? そうか? さすがにスパイクを受けてもらうのは悪いかと思ったが、構わないと言うなら……」
「俺ドッジボール好きなんだ本当は」
それからドッジボールと言う名の謎の球投げ合い合戦はしばらく続いた。
徐々に力を開放していく舞依に、途中二回ぐらい死というワードが頭をよぎったが、あれだけ人生にやる気のなかった俺に、急に生への執着が生まれた。
いつしか俺たちは劇画調のスポ根マンガのごとく変な雄叫びを上げていた。
頑張った。すごい頑張った。やっぱ俺ってやればできるんだなと思った。だってやらないと死ぬもん。
「ははは、やるじゃないか泰地! 私をここまでその気にさせるとは! 楽しかったぞ、キミとはこれからもうまくやれそうだ。それじゃ今日は練習があるからこれで」
そして最後にライバルっぽいセリフを吐く。
舞依はパンパンになった俺の手を無理やり取って握手すると、高らかに笑いながら体育館のほうへ走り去っていった。




