第74話 対ライノゼ王国戦Ⅳ (デンシアの戦いⅢ)
ども、1日で原稿用紙30枚程書いてるカトユーです。頑張るねぇ(他人事)
別の前書きでも言ったけど、久しぶりにステイホームな土日を過ごしたので執筆が捗りました。
あー…今回はなんというか狂気かつカオスです。
ハルノリは緊張していた。そしてそれを上回る興奮があった。
彼の倫理観は既に現代日本人のそれではなかった。彼は今、大量の無害な市民の殺戮を命じようとしていた。
たった一言「撃て」という命令でデンシアの街は破壊されるのだ。彼はもうそれだけの力を手にしていた。
兵士の大半は興奮の渦に包まれていた。大半を占めるエルフは、人類全体を憎んでいた。彼らは長年の間、人類に虐げられ、種の存続の危機にまで陥ったのだ。その残虐な心は長きに渡って溜め続けられた感情なのだ。
また、一部の人類もまた好戦的だった。人類の大半は、ベルムス帝国の人間であったりライノゼ王国を見限った人達なのだ。ライノゼ王国の人間に対しては極めて冷淡だった。ベルムス帝国人にとっては敵国の民であり、旧ライノゼ王国民にとっては恥ずべき黒歴史なのだ。
もはや軍全体が狂気に包まれていた。暴動が起こってないだけマシなレベルである。
流石の空気にハルノリですらビックリしたレベルだった。慌ててデンシア住民への乱暴狼藉の禁止を厳命したりする羽目になった。それくらい彼らの憎悪は根深いのだ。忘れてもらっちゃ困る。ここは中世レベルの人権意識であり、常識がそれなのだ。侵略=略奪なのである。何かを得なければ気が済まないのである。
航空機の攻撃によりデンシアの街で土煙が上がるたびに陣地から歓声があがった。やれ「ぶっ壊せ!」だの「もっとやれ!」等々言いたい放題である。
ベルムス帝国人は目を疑うような無慈悲な攻撃に戦慄していた。そして王国民に同情しかけた。しかし、彼らが敵国民であることを思い出すとエルフと全く同じリアクションをするようになった。共通の敵が居ればエルフと人類は手を取り合って喜び合うのだ。但しその向こうでは、無辜の民が悲惨な目に遭っているのである。
やがて航空機による攻撃が止んだ。いよいよ陸上部隊による砲撃の開始だ。
ハルノリの周りが慌ただしくなる。電話で砲撃準備完了の知らせが伝えられる。伝令が走ってきて、航空隊の撤退が済んだことが伝えられた。砲撃の開始だ。
ハルノリは指揮用の電話を手に取る。天気は快晴、風は北風が少し。条件としては最高だ。
「砲撃開始」
ハルノリがそう言った。
側にいた部隊長が「砲撃開始します」と復唱する。
〜〜〜
砲班長のヴァルターもまたワクワクしている兵士の一人だった。
いよいよ我々が人類に牙を剥くんだと思うと身体の震えが止まらなかった。
彼もまた人類に虐げられていたエルフの1人である。彼はエルフ王国内の街で暮らしていたが、先のライノゼ王国軍の侵攻によって街が占領された。ライノゼ王国に身柄を確保された彼は奴隷として民間に売り払われた。そこでの暮らしは筆舌し難い。1日1食、しかも明らかに残飯であった。水も満足に飲めず、身体はガリガリに痩せ細った。それほど生存維持がギリギリになるほどに。それに加えて彼の主人は容赦が無かった。彼がミスをすれば問答無用で鞭打ちをした。おかげで彼は何度も骨折し、正常な状態に回復することができなかった。今でもいくつかの骨が歪んだまま繋がっている。顎の骨にも異様な出っ張りが出来てしまった。そんな彼に転機が訪れる。エルフ軍の反攻作戦だ。どうやら彼の主人はそれに従軍し死んだらしい。彼の奴隷としての柵は無くなった。彼はまっさきに北へと進み始めた。北向かえば自分の故郷があるはずだと。そして故郷に帰ることが出来た。エルフ王国は崩壊して、シュヴァルツェルナー帝国とやらが出来ていた。
彼は職探しのついでに色んな情報を得た。自分が居ない間に何があったのか、シュヴァルツェルナー帝国とは何なのか等々。そして帝国軍の存在を知った。彼は迷うことなく志願した。王国に対する侵攻作戦と聞いて彼が志願しない訳が無かった。
そこからは幸せと言える時間であった。ルールなど堅苦しい部分もあるが、総じて奴隷扱いに比べれば天国のような場所だった。1日3食温かい飯が大量に食べることが出来、同じような境遇の仲間が大勢いた。彼らは人類への反抗という点で団結していた。そしてそれは何よりも固く彼らを結びつけた。
もちろん帝国内にも人間は居た。しかし、多くは一番憎いライノゼ王国の人間では無かった。彼らもまたライノゼ王国をよく思っていなかった。また、旧ライノゼ王国民も居たが彼らとの関係も良好だった。農民という身分上、我々の経験した奴隷と殆ど変わらなかった。故に話も案外合うことが多かった。酒の席ではよく愚痴を言い合う仲になった。それに加えて、帝国の元首が人間だったのが大きい。中には反発するものが多かったが、王国侵攻が発表された途端、掌を返して彼を支持するようになった。……それくらいライノゼ王国……王国軍が憎まれていたのだ。
後ろに俺の部下が控えている。皆今か今かと砲撃開始の支持を待っていた。昨日の前日練習も完璧。今日は誰よりも最初に撃とうと話し合っていた。誰がやったのか、装填済みの砲弾には「最初の一撃」と書かれていた。やる気は十二分だ。
「いよいよですね」
一番の若造であるシュタインが興奮気味に声をだす。途端に張り詰めていた空気が弛緩した。
「黙ってろ。皆言わなくても解ってるんだ」
寡黙なホフマンが珍しく口を開く。そういう彼はさっきから手を組んだり解いたりと忙しい。
「ホフマンもソワソワしてんじゃねぇか。俺はもうやった後のことしか考えてねぇよ」
グループ1のお調子者のドミニクがチラッと何かを見せる。
ん?それは……
「ドミニク、それドイツ製のソーセージか?!」
「おうよ。頑張ってパクってきたんだ。仕事が終わったら皆で楽しもうぜ!」
皆がゴクンと涎を飲んだ。それもそのはず。肉類はあまり出回らず口にする機会が少ないのだ。帝国になってから新たな食材を口にする機会が格段に増えたが、その中でも肉類は素晴らしく美味しかった。よくエルフ族は肉類を食さないと言われるがそれは偏見である。王都や大きな街は知らないが、辺境や人族と交流のある所では割と昔から食べられている物である。俺は食べたことがなかったが、軍の飯で初めて食べたときは驚いたね。あの肉汁がブワッと出てくるのが堪らない。
ジュルリ……
いかんいかん、涎が。
これで楽しみが出来た。あとは仕事をやるだけだ。部下の様子をちらりと見ると、皆顔が浮かれていた。おそらくソーセージを食べることだけを考えているのだろう。
その時、「砲撃開始!」という号令が来た。
不味い!浮かれてて反応が遅れたっ!!
「ああっ!?ソーセージがっ!」
「煩い、撃つのが先だぞ!」
「ちょっ!?僕ソーセージが地面に落ちちゃう!」
「だから退けと言ってるだろう!
あとソーセージは皆の物だっ!」
「ぎゃあっ!痛い痛い!!」
大混乱である。
「う、撃てぇっ!?」
指揮もめちゃくちゃである。
ドンッ!!
ようやく撃ったが周りを見渡すと殆どの砲が撃った後だった……
ああ、最初の一発が……
「うにゃあっ!?僕のソーセージがっ!」
「だからソーセージは皆の分と言ってるはず……、え?」
「ううう…ソーセージが〜〜」
砲撃のゴタゴタでソーセージが地面に落ちていた。しかも砲煙のせいで土まみれの汚い状態になっていた。じ、地味にショックだ……
その後、食事の配給に来た兵士にソーセージを見られ上に報告された。
我々は連帯責任ということで今晩の祝杯、「特別な食事」とやらを貰うことが出来なかった。
今はドミニクを〆ている。
「ひ〜ん、皆嬉しそうにしてたじゃないか」
「うっさい。元はと言えばお前がパクッてきたのか原因だろ。そのまま反省してろ」
ドミニクはパンツ一丁で正座させられていた。ここの夜は案外冷えて半袖だと肌寒いくらいだ。ドミニクは上半身裸で鼻水を垂らしながら震えている。
「班長〜、ホフマンをなんとかしてください」
「知らん。お前が悪い」
「そんなぁっ!」
俺もイライラしてた。豪華な食事を逃したじゃねぇか!多分、ドミニクが盗んだソーセージが今日の晩飯だったんだろう。今となってはどうでもいいことだ。
「てか、シュタイン、お前が一番のとばっちりだろ。何か言ってやれ」
そうそう。一連の騒動で一番可愛そうなのがシュタインだろう。コイツだけ何も発言してないのだ。
「そうだ。シュタインが一番の被害者だな」
ホフマンもようやくシュタインのことを思い出したようだ。
新入りのシュタインは先輩の俺たちに焦っていたようだが、やがてドミニクの方を向いた。
「僕はきちんと晩御飯でソーセージが食べたかったです!!」
「グハッ!」
シュタインの純粋な言葉の刃がドミニクにクリティカルヒット!ざまあみろだ。
「な?ドミニクもこれでわかっただろ。これから変なことするんじゃねぇぞ」
「……。」
「?どうしたドミニク?」
「実は…牛飯持ってるんですよ(ボソッ)」
何!?
「おい!ドミニクの荷物その他諸々をすべて漁れ!コイツの持ち物は全て没収だ!」
ホフマンもシュタインも目の色が変わった。…コイツら、欲に動かされてやがる……
そう思いつつも俺の手はドミニクのリュックに向かった。そういえばコイツの荷物ってやたら多くて不思議に思ってたんだよな。
ゴソゴソ……
暗い陣地の中で目的のブツを探すため俺達は手探りで探した。
「見つけました!!」
「でかした!シュタイン!!」
シュタインが見つけた鞄をひっくり返すと大量の缶詰がガラガラと音を立てて出てきた。多くないか!?
「なんて量だ……」
ホフマンがうっとりしたように呟く。
今、俺達の目の前には宝の山が出来ていた。
牛缶やらコンビーフがわんさか出てきた。
肉ばっかりじゃないか!!
俺達の興奮が更に高まった。
「なあ……それ皆にやるからさ、俺の罰終わりにしてくれね?」
震えながらそう言うドミニクに我々は満場一致で罰の終わりを告げた。もはや彼はなのだ。
「で、ドミニクはこれをどうやって手に入れたんだ?」
「そら、深夜に潜り込んでギンバイしてきたに決まってるだろ」
何でもないように彼は言った。
だがギンバイはかなり危険な行為だ。見つければ一週間はボコられる。皆の食料を奪ってる訳だからな。それなのにドミニクの奴は今までそんな素振りを一切見せなかった。ギンバイの才能が凄いのか…?
「まあ、いい。今夜は俺達限定の祝杯だなっ!」
俺はウッキウキで宴の始まりを告げた。
ホフマンやシュタインも我先にと缶詰を開けて食い始めた。
「!!美味いっ!」
手が止まんねぇ。
他の奴らも夢中でかき込んでいる。
ドミニクも「俺、いい仕事をしただろ?」的な顔をしながら缶詰の中身を流し込んでいた。悔しいが否定出来ない……
俺達の幸せな宴は日が変わっても続けられた。
お陰で翌日寝坊して他の班に迷惑を掛けちまったが。
Q.途中で方向性変わってない?
A.安心してください。書いてて何か逸れただけなので無問題。
若干ナチっぽくなってるけど特に思想とかはありません(共産趣味者だけど)
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