第62話 新たな動き
ども、持久走で体力の無さが露呈したカトユーです。去年はもうちょっとマシだったのに(GoHomeClub)
ともかく、今回は豪華4本立てです!
何故分割しないのか?それは作者が馬鹿だからです!
元戦車乗員のルークは、帝都の端にあるだだっ広い帝国軍工廠の中にいた。ただ、工廠とは言っても広いだけで、人影はほとんどなくがら空きの貸倉庫のようであった。
「こいつを動かした奴は頭がイカれてる」
そうぶつくさと罵りながら、戦車の履帯を修理していた。彼は元々戦車部隊でドライバーを務めていたが、応急処置の手際が良かったので、部隊に随伴する整備兵を命じられていた。本人も戦車を動かすことより分解・修理することを楽しんでいた為、不満は無いどころか一日中戦車を弄っていられる日々に満足していた。
そうは言っても日々運ばれてくる壊れた兵器には、さすがの彼でも多少イライラしていた。
彼の目の前には履帯を損傷した戦車があった。普通とは異なった壊れ方を見て、ドライバーへの怒りがこみ上げてきたのだ。「君はどんな運転をしてるんだ!」と。とは言え直すことが彼の仕事なので、怒りに染まった頭を冷やして冷静になり、手早く戦車の修理を終えた。
昼休憩を挟んだ後、ルークの姿は工廠内の別の建物にあった。そこには、ハルノリが召喚した多種多様な兵器が並べてあった。ライフルから巡洋艦の主砲まで、ミリオタなら出血不可避の光景だろう。
彼は大量にある兵器には一切目もくれず、一番奥の作業場へ入っていった。部屋の真ん中には、バラバラに分解されたT-34があった。
彼の整備員であると同時に、帝国技術研究所の所長でもあった。所長とは言ったものの、部下は2人しか居ないが……。
研究所では戦車の構造を詳しく調べていた。帝国軍は戦車を運用しているが、未だにエンジン等の細かい事はよくわからないまま使っていた(スペアパーツもハルノリが召喚していた)。ところが最近になって、国産AFVを造れば?という話が出てきて、AFVの構造を理解しようということになった。そして今、急ピッチでAFVの研究彼の進んでいる。
ルークの目標は、既存の部品を組み合わせたキメラ車両を造ることだった。これなら設計も簡単で造るのも容易であった。そんな彼が見つけたのがT-34だ。彼にとって優れた機動力を持つ本車はとても魅力的な存在だったのだ。また、ソ連らしく徹底された量産性も大きな利点だった。
彼の考えた通り、史実でもSU-122やT-34/D-30 122mm、63式対空自走砲等のさまざまなバリエーションが開発されている。
ルークは今日も、「俺の考えた最強の戦車」を思い描いて戦車を分解している。
☆
ルークが戦車を弄っている頃、アーノルド公爵の公都・モンタバウアーに1人の大男が辿り着いた。大剣を背負って路地裏を進んでいるのは、アーノルド騎士団団長のゲルハルト・グスタフ(ゲパルト)だった。彼は帝都を出たあと、シュヴァルツェルナーの森を突っ切って公都に帰ってきたのだ。
彼は人通りが少ない道を敢えて選んで、自分の屋敷へと向かっていった。これから家族を説得して公都を脱出する為だ。
真っ昼間に突然帰ってきた屋主に屋敷の人間はびっくりしていた。公爵は先の戦いでゲパルトを含めて全滅したと発表していたのだ。
メイド達は、英雄の帰還に涙を流しながら祝福した。だが、ゲパルトはそれにニコリともせず昼食後、屋敷の者達を集合せよと命じた。
ゲパルトの生還を祝った豪華な食事を終えた家族は、ゲパルトの前に並んで座っていた。
彼は全員が揃ったことを確認すると、家族にライノゼ王国を脱出しシュヴァルツェルナー帝国に行くことを伝えた。当然、家族やメイド達が反対したがゲパルトの意志は固く、最終的には「反対する者は置いていく」ということになった。とは言え、置いていかれる=職を無くす、ということだったので、多くの者は選択肢が無いに等しかった。
結果的に、ライノゼ王国を脱出するのはグスタフ家全員とそのメイドの計107人となった。
公都の北側にある平原には臨時の滑走路が造られていた。これは、帝国陸軍工兵隊が造った。公都のすぐ側に工兵隊を空挺降下させ、ハルノリが召喚した重機で建設したのだ。
建設が終わると工兵隊は撤収し、連絡要員だけが配置されていた。ゲパルトは連絡要員に会うと、すぐさま無電で航空機を寄越すよう伝えた。
その日の夕方にやってきたのは、零式輸送機と護衛の零戦だった。零式輸送機は、アメリカの傑作旅客機DC-3を日本海軍が制式制定して使用したものだ。ちなみに、米陸軍航空隊向けのがC-47だ。
3×7列で計21名の乗客を乗せられる双発輸送機だ。初めて見る物体にゲパルト以外が驚いていたが、中に入ってさらに驚いていた。キャビン内は司令部高官・幕僚用の内装で、ゆとりある座席配置にふかふかなクッションがついていた。他にもトイレや冷暖房もついているのだ。
ゲパルト一行は最初こそ戸惑っていたものの、機内で提供された温かい飲み物ー機内に給仕棚があったーで気分が落ち着いたようで、空からの景色を楽しんでいた。機体は1時間半で帝都に着いた。
その後、4往復して全員を帝国に連れてくることが出来た。
☆
「それは本当か!?」
ビル群のように高く積まれた書類の中で、ハンサムな男が悲鳴のような声を上げていた。
「それは本当なんだな?!」
窓ガラスが震えるくらい大きな声をかけられた、若い騎士はすっかり萎縮していた。その様子に気づいた男、ボード・ガウラムは「すまない」と言って、豪華な作りの椅子に座った。彼は、ライノゼ王国の四方の護りを固める四公爵の1人である。
手元にあった冷めた紅茶を飲んだあと、再び若い騎士に「確かな筋からだよな?」と聞いた。
「勿論です。帝都にいるホークによると、宮廷会議で対ライノゼ開戦が決定したようです」
「はぁ……。予想され得る兵力は?」
「少なく見積もって4万、最悪の場合は倍以上、とのことです」
「……」
公爵は騎士の報告に言葉を失っていた。それもそのはず、彼が動かせる兵力は僅か4,000人に過ぎなかったのだ。元々は常備軍が20,000人いたが、先日の対エルフ掃討戦で戦力の大半を損耗し、部隊を再建している最中であった。いくら「以武東鎮(武を以て東を鎮める)」をモットーとする、ガウラム家でもこれは厳しかった。
「他に情報はあるか?」
「帝国については以上ですが……」
そういった若い騎士は言いづらそうに黙ってしまった。
「どうした?言うべきことがあるなら、早く言ってくれ」
「はい……。今回の戦では、第一師団及び四大公爵家からの援軍は絶望的、とのことです……」
ボードは何ら反応を示さなかった。
そのまま、若い騎士に「情報提供に感謝する。戻ってくれ」と追い出したあと、執務室に一人残った。
「クソがぁっ!!俺にどうしろと言うんだ!死ねと言ってるのか!?……」
側に立て掛けてあった剣を抜くと、ところ構わず振りまくった。ヒュンという風切り音と共に大きな机が真っ二つに割れた。
彼は落ち着くまで、ひたすら剣を振るっていた。
☆
「ふうん……。ベルムス帝国が動いたか」
自分は部下の報告を聞きながら、トーストを食べていた。
朝イチに上がってきた報告は、前から報告に入っていたベルムス帝国の動向だった。
ベルムス帝国は、ライノゼ王国の東側にある国で、過去数百年間に渡り王国との国境線を巡って小競り合いを繰り返している。今のインドとパキスタンみたいな感じだ。皇帝の名はゼークト・フォン・ガードルⅩⅩⅩⅥ世(ヴィーゼルⅢ世)と言い、他国からは東の覇王と呼ばれているらしい。性格は極度の自信家。先代を継いだ直後から、覇権主義的な政策を推し進め、相次いで隣国を武力で併合しているらしい。北方を亜人の国と接しているものの、国内の亜人への差別は厳しく、奴隷階級で無くても奴隷と変わらない仕事・生活を強いられているらしい。ちなみに、人口は1億人弱で、国土はロシア帝国の1.5〜2倍くらい。
軍事的には圧倒的に優勢な陸軍を筆頭に、魔法を利用した高速帆船の艦隊を持つ海軍、竜騎兵を主力とした航空戦力もあると言う。ソ連っぽいね。
今回帝都を進発したのは、大部分が陸軍(14〜17万人)で上空援護に多少の竜騎兵(数百騎?)がいる程度らしい。
これらの情報の殆どは、ベルムス帝国内にある極秘基地から飛びたった偵察機によってもたらされた。ちなみに、同様の基地をライノゼ王国にも設置してある。実はその気になればそこから戦略爆撃機を飛ばすことも可能なのだ。
「どうしよう……」
朝食を終えた自分は、6畳しかない執務室の椅子に座って悩んでいた。
というのも今回の戦いをどうするべきか悩むのだ。
放っておけば、確実にライノゼ王国は滅びる。別にベルムス帝国が出てきたとしても気にならないものの、個人的な感情ではライノゼ王国が残ってほしい。というか、覇権主義を掲げ調子に乗ってる皇帝のお膝元を原始時代に戻してやりたいくらいだ。それに竜騎兵も面倒だし、今の内に潰しておいた方が楽かも。
こんな感じで、ライノゼ王国対ベルムス帝国の決戦にシュヴァルツェルナー帝国が介入することとなった。
新しい国(ベルムス帝国)が出てきましたね。
頭の片隅に残しておいてもらいたい前提ですけど、この惑星(箱庭?)は地球の8倍位の面積があります。スーパーアースかな??




