戦いの始まりだっ!
ども、航空祭を目一杯楽しんできたカトユーです。プリモさん、すごかった(小並感)
毎回、次話予告で詐欺っててすみません。もう少しゆとりをもってお知らせします…
今回もインクヴァルト君視点でのお話です。
「あ、いや!……そ、その……」
「そんな焦らなくても……」
お前のせいじゃ!、と言えたらどれだけよかったか。今言ったら確実に不敬罪で処されるだろうけど。
「皇帝陛下はど、どうして、こ、ここに?」
「暇つぶしだよ。ちょっと今日はドタバタしてたからねぇ〜」
ドタバタ(トーチカ造り)は陛下のせいだろ……。
と、言いかけたが心にむりやり押し返す。
「暇つぶしなら、アッチに行けば良いのでは?」
そう言いつつ、俺はまだというか次第に大きくなる騒ぎ(飲み会)の方を指差す。ところが、陛下はちらっと見ただけで首を横に振った。
「自分はあそこに行くべきじゃないよ」
そう言った陛下の目は、「これ以上触れるな」と言っているようであった。
「そうですか……。そういえば、今回はどんな敵と戦うんですか?」
トーチカ造りをする程だ。大きな大軍が来るのだろう。そう思いつつ、陛下の言葉を待つ。
「数は1,000。騎兵が少しいて残りは歩兵だ」
「え?」
思った以上に少ない。それだけの兵の為にこれだけの規模の陣地を用意したのか?
「少ないと思ったか?」
陛下は唖然とする俺を見てそう言ってきた。別に隠す必要もないので、素直に頷いた。
「そうか。俺もそう思う」
「……。(!?)」
「おそらく、どっかの貴族の私兵を送ったとかだろう。装備もバラバラだった」
「見てきたんですか?」
陛下がまるで自分がその目で見てきたかのように話すので疑問に思ってしまった。
「ああ。この目でしっかりとな」
「どうやってですか?」
あまりにも信じられなかったので、俺は嘘をついてるのではないかと疑ってしまった。
「飛行機からさ。昼間、シュトルヒで飛んでいっただろ?あの後、一旦帝都に帰って一式陸攻に乗って見に行ってきたんだ。彼等はビックリして、空を見上げてたけど、あの顔は面白かったな」
ハハハと笑いながら陛下は話し続ける。
「今回の戦いは間違いなく勝つ。勿論、多少の犠牲はあるかもしれない。だからこそ自分は、一人でも多くの兵士が生き残るため、最善の努力を尽くすつもりだ」
「なら、わざわざ戦いに向かわなければいいんじゃないんですか?」
「ああ、それが一番だろう。だが、自分は君達にも戦いというものを知ってもらいたいと思う。遅かれ早かれ、いずれはライノぜ王国、いや世界中の国々と戦う時が来る。そのためにも、君達はありとあらゆる経験を積まなければならないのだ」
「……。」
驚いた。まさか、陛下が世界を敵にしてでも戦うと言うとは。
「陛下は、その……世界征服を狙っているのですか?」
そう、さっきの発言は明らかに世界の国々を滅ぼし、制圧すると言っているようなものだ。だが、陛下は俺の言葉を聞いて首を傾げた。やがて、「あっ!そうか……」と言って、話し始めた。
「君が思っているような恐ろしい話ではないよ。自分の理想の世界を作るために自分は戦う必要があるんだ」
「理想の世界、ですか?」
「ああ。その前に一つ、自分が居た、君たちにとっての異世界について話しておこうか……」
そう前置きして陛下は、前世の話をし始めた。それは、驚くような話だった。
陛下の居た世界では、俺達エルフが人族に迫害されるのと同じ様に……いやもっと酷かった。異世界には同じ人類同士で偏見に溢れ、差別、迫害が行われていたという。
前世では何も出来なかった陛下は、この異世界に来る時チート能力(?)という力を手に入れ、積極的に動こうとしたそうだ。そして今の、シュバルツェルナー帝国が出来た。
とは言え、周りの国、いや世界中の国では未だに少数の種族、エルフだったり獣人だったりは差別され奴隷にされたりしている。陛下は、そのことを知り、世界中に自らの理念を広めたいそうだ。故にさっきのような、世界を敵に回すという言葉が出たらしい。
……俺は驚いた。そして、何故か泣けてきた。勿論、陛下の理念は素晴らしいが、何より人族がエルフをよくしようと動いてくれることが、ただただ最高に嬉しかった。
「自分はそろそろ戻るよ」
話を終えた陛下はおやすみと言って、将校用の天幕へと向かっていった。
「なんか思ったよりフツーの人だったな」
俺の不敬罪ともとれる感想を聞いたのは、夜空の星だけだろう……
歩哨を終えた俺は仲間の下へと帰って眠りについた。
翌日もまた作業だった。行ったことと言えば、陣地の前に鉄条網を敷いたり、陣地から少し離れたところに障害物を置いたり。地味なことだが敵の邪魔を出来るのならということで、頑張れた。
陣地が出来たあとは、戦車部隊、砲兵部隊との連携を確認するため、実戦さながらの訓練が行われた。昼間の戦闘は勿論のこと、深夜の奇襲攻撃を想定した訓練も行われた。
年を越し、中隊の空気が弛緩してきた。敵が未だに来ないのを不思議に思いつつ、小銃の手入れをしていると、軍曹が呼び出しに来た。
「第一小隊集合ぉ〜」
軍曹についていくと、中隊長が天幕で待っていた。これは何かあるな、と思った俺達は急いで整列をし、中隊長の話を聞く。
「第一小隊に任務を与える。陛下の命令により、本隊は敵のおびき出すこととなった。これより、一小隊には敵前面に向かい、敵の注意を引きつけてもらいたい。その後は敵と戦闘しつつここまで引っ張ってきてもらいたい。これは、本作戦に於いて極めて重要な物となる。心してかかるように。諸君の武運を祈る。以上!」
とのことだった。うわぁ……わざわざ敵さんを迎えに行くのか。面倒くさそうだし、危ないだろうなぁ。
翌1月5日、俺達第一中隊第一小隊41名は陣地を出て、敵さんのお迎えに向かった。案内するのは地獄への入口だ。
丸1日掛けて前進すると、微かに人の声がしてきた。こういう時、エルフ達の耳の良さが役に立つんだな。
小隊は停止し、暫く経ったあと斥候に選ばれた俺と同い年の奴だけが前進した。
これが聴こえる方に進んで行くと、やがて目の前に街道らしきものが見えた。視線をずらせば人族の兵士達も遠目に見える。
ゆっくりだが、着実に迫ってくる敵軍を見ていると、妙なモノを感じた。
「あいつら人間なのか?」
思わず口にしてしまうほどに奴等の様子がおかしかったのだ。ゾンビのようにヨロヨロとした足取り、焦点の合わない虚ろな目、スケルトンの様に浮き出る頬骨。どう見てもこれから戦いに行く兵士には見えなかった。ただ、大将だけは疲れこそ顔に出ているものの、背筋をピンと伸ばして馬に跨っていた。
俺達は見たこと全てを小隊長に報告した。話を聞いた小隊長はすぐに攻撃することを決断した。
「いいか、お前ら。決して手柄を上げようとするんじゃねぇ。敵を引きつけて、味方陣地にご案内するのが俺達の役目だ。手柄は陣地に戻ってからでもいくらでも稼げる。今はとにかく、敵の注意を引きつけろ。逃げる方向は、太陽と反対だ。これだけは覚えとけよ?」
「「「はいっ!!」」」」
小隊長の忠告に俺達は元気よく返事をする。
さあ、戦いの始まりだ。
コソコソと俺達は、行軍する敵軍の真横に潜む。予め、決められた合図で配置に付いたことを味方に伝える。
暫くして、小隊長が叢から踊り出て、
「撃てーっ!!」
と叫ぶ。
それを合図に各々の銃が火を吹く。
「ギャッ!」「グフッ…」と敵兵が殺られていくのがよく分かる。中には剣に自信があるのか、銃剣で敵を斬りつけている者もいた。
元々、満身創痍気味だった敵兵は為す術もなく弾丸に貫かれ、バタバタと倒れていった。当然、パニック状態に陥るわけで、俺達じゃなくて敵がバタバタと逃げ始める。
「敵だ!反撃しろっ!」
一際大きな声で鼓舞していたのは、先程見た大将格の大柄な男だった。周囲の兵を叱咤しつつ、こちらに狙いを定めてきた。
「総員、撤退ー」
小隊長の号令で俺達は叢の中に戻っていく。目指すのは我が軍の陣地だ。
蜘蛛の子を散らすように走っていく俺達を見て、大男は部下に追撃を命じていた。
まんまと引っかかってくれたな。味方は皆、怪しく笑っていた。
暫く走るとまた、整列して銃を構える。敵が来たら撃ってまた逃げる。それを繰り返している内に、草原に出て我が陣地が見えてきた。背後の敵は草原の手前で立ち止まっていた。おそらく、陣地を見つけて戸惑っているんだろう。
俺達は、そのまま突っ走って無事、損害無く味方陣地へと戻ってくることが出来た。あの、白兵戦を仕掛けたバカも無傷だった。つ、強い……
その日は敵は攻めてくることなく、俺達の陣地の目と鼻の先で野営を始めた。
そろそろ、新兵器が出したくなる頃合い。
次回は明日!
(今回は既に書き終えてますから!)