第32話 交渉(脅迫)
なかなか戦いが始まらない…(泣
あ、不快になる表現があるかもしれません……
しんと静まり返った部屋の中で、自分はディッカー達に対して、これから自分達がライノゼ王国に戦争を仕掛けることを理由は勿論、作戦まで全ての事をを話した。その上で、
「自分達の国に協力しないか?」
とだけ言った。二人の反応はそれぞれ、は?と大声で叫んだのと、眉をピクリと動かしたものだった。ディッカーは、興奮した様で、
「戦争を仕掛ける事にとやかく言うつもりは無い。ただ、何で俺達に協力しろなどと言うんだ?」
こんな言葉が大量の唾とともに言われた。
唐突な話かもしれないが、ディッカー達を味方にすることには多くの意味がある。まず、王国軍人の彼らのと繋がりがあれば、ディッカー達をスパイのように利用することが出来るし、場合によっては内部工作として活動させることも出来る。彼らは元々王国軍人であるが故、疑われることもほぼ無いだろう。また、この開拓地を視察する任務を任されているため、彼らの情報はかなり信憑性の高いと王国では思われているだろう。つまり、こちらがディッカー達を通じて王国に「偽の」情報を流したとしても、王国は疑うことなく信じると考えられる。
そんな感じのことを適当に誤魔化しながら伝えてみると、ディッカー達は一層顔を険しくした。
「ハルノリが言いたい事は理解した。だが、その上で何故俺らがこの話を承けると思ったのだ?」
これはフェルディの疑問だ。当然、軍人である彼らが祖国を裏切るような真似はしないだろう。だが、その祖国への見方が変わったら?間違いなく、彼らの忠誠は霧散するであろう。若干、洗脳のようになってしまうがライノゼ王国軍の蛮行ー少なくとも現代日本人から見たエルフへの虐殺の数々ーはかなり酷いものであることを伝えた。大方、ディッカー達は中央のお偉いさんであり、実際の戦場を見たことはほぼ無いであろう。憶測ばかりだが、前回のエルフ殲滅戦に参加してないのは確かだ。
そんな理由もあり、ディッカー達にエルフ殲滅戦、特に幼い子供達の殺害等の現代の地球では国際世論の非難待ったなしの様相を伝える。無論、彼等に人権云々の話をしても理解してもらえないが、少しくらいの罪悪感を感じて貰えるだろう。果たして、効果の程は……
「だから?」
なんとなく予想していたが、これがこの世界の人間の答えだ。人間がすべての種族の頂点に君臨し、その他は劣っている。それが彼等の考え方だ。別に彼等を馬鹿だと罵ったりする気持ちは微塵もない。地球でも過去、いや現在に至っても肌の色や宗教、住む地域による差別はある。日本人も古くは、倭人(下に見下すニュアンス)やジャップ、イエローモ○キー等等。様々な蔑称があった事を忘れてはいけない。当然、許せるべき言動では無いが、この世界が中世レベルの文化であるならば、あり得る考え方だ。
「分かった。それがディッカー達の考え方なんだな。だが、もう一度聞こう。自分達の国に協力しないか?」
そう言って一息つく。そして、フッと笑ってからこう言う。
「もし断るならお前らの首を斬る。そして、宣戦の証として斬った首をライノゼ王国に送ってやろう」
ディッカーは顔を真っ赤にして自分を睨めつけてくる。あと、一歩だ。
「あとな、自分を殺しても意味は無いぞ。自分はすでに命令を下してある。つまり、自分が死ねば直ちにライノゼ王国への侵攻が始まるぞ」
そう脅しを掛ける。協力を要請するというよりかは、脅迫して服従させるようなものだ。
ディッカーはチッと舌打ちしつつも、フェルディとアイコンタクトで同意を得たのかやがて、
「分かった……。ハルノリの言うことを聞こう」
と折れてくれた。良かった。これで打てる手数が増えたぞ。そんな喜びを顔には出さず、ディッカー達に命令を下す。
「ディッカー達には、嘘の情報を流してもらいたい」
そう言うと、ディッカー達は早速か……といった感じのうんざりとした顔をしてきやがった。
やや間があって、ディッカーが
「で、俺達は何を伝えれば良いんだ?」
と返してきた。自分は少し考えてから、
「まずは、自分がシュバルツェルナー帝国を建国したことを伝えてくれ。その後、開拓地を追い出されアルノーツ村に逃げ帰った時に、総勢五万を超える軍勢に攻撃されたとでも言っといてくれ」
「五万?多くないか?」
「五万より多くても良いくらいだ。その情報があれば、ライノゼ王国も大量の軍を派遣してくるだろう」
(個人的には大量の軍勢を返り討ちにして、その勢いのまま、ライノゼ王国全土を占領したいんだけどな)
「わ、分かった……。そう伝えておく」
話はこれくらいだったので、あとは雑談をしてその日はお別れとなった。
翌朝、ディッカー達は大量の荷物をば背負って、司令部の前にいた。昨日の今日で慌ただしいが、欺瞞情報を流してもらうためにさっさと王国ヘ帰ってもらうためだ。それに、真珠湾攻撃を知ってる者としては、アルノーツ村を攻撃する前に宣戦布告をしておかないと、どこか落ち着かないのだ。
「しっかりやってくれよ」
自分が言うと、昨日よりげっそりしたようなディッカーは、
「わかってるって……」
とだけ返した。さっきからしきりにお腹を擦っているが、緊張で腹痛にでもなっているのだろうか。それとは対照的に、フェルディはいつも通りの無表情だった。
「フェルディも頼んだぞ」
「……善処する」
というイマイチ期待出来ない応えが来てしまった。ともかく、いち早く王国に情報を伝えてもらうため、彼らには出発してもらう。
「情報を伝えたら、こっちに帰って来いよ!面倒みてやるから!」
そう言うと、ディッカー達は一瞬驚いた様子だったが、
「犯罪者には面倒はみてもらいたくはないな!……だが、遊びに行くには良さそうだ!」
と言って笑いながら去っていった。
振り返る事もなく、歩みを進める彼らをみながら、思わずひとり言をつぶやいてしまう。
「さあ、戦いを始めよう」
次は!
戦う、かなぁ?(疑問形)




