第10話 シルトクレーテ作戦始動!
十日かけて別の村、「ベン」と呼ばれる村に着いた。ここは、前の村より遥かにエルフが多かった。ざっと見たところ五百人はいるであろう。
集落の規模にも驚いたことだが、何よりも驚かされたのは、この村のエルフ達の対応だ。村の入り口にやって来た自分達に対して手厚く歓迎してくれたのだ。無論、人族である自分に対しても。聞けば、このエルフ達は一度も戦禍に巻き込まれることなく生活していたそうだ。だから、人族との戦争に関しても話を聞くだけだったそうだ。
村に着いた我々は、とりあえず人族の襲撃について村長らに伝えた。そして、直にここも襲撃されるであろうことも伝えたがまともに取り合ってもらえなかった。彼ら曰く、ここはエルフ領でもかなり奥地でありそうそう人族の奴らはこれないだろう。だそうだ。全く理解に困る言い訳であった。現に隣の集落が襲撃されたのに未だに危機感の欠片も無いのだ。
その場をあとにし、あてがわれた空き家へと入っていく。セドリック夫妻は、食料を探しに行ったのでシエナと二人きりで今後について話し合った。
個人的な理想としては、エルフ達を組織だった部隊にして、銃や弓を使いこの深い森を活かしたゲリラ戦術を用いて戦いたかった。あ、ちなみに銃は二人に一丁のソ連スタイルで。
正直、ここの戦い方なんて知らないが、銃を持っている自分達なら第一次世界大戦のような塹壕戦術でもいいだろう。もっといえば、自分の召喚スキルで戦車や重火器を出したいが。
シエナに聞いてみると、降伏。ただ、それだけの言葉返ってきた。理由を聞いてみると、エルフはもともと戦いを好まない種族なので、戦い方などは無いそうだ。それに、この前の襲撃を思い出してみるとエルフの主な武器は弓であり遠距離攻撃型だ。つまり、剣などの近接攻撃だと対応できないのだ。確かに遠距離攻撃の方が有利かもしれないが、万が一撃ち漏らした敵が一人でもいたら?そうなると、簡単にエルフ達は殺られて瓦解していくだろう。
しかし、我に秘策あり!
あ、言ってみたかっただけだよ。待って、今から作戦考えるから······。
オーケー、まとまった。
こちらの作戦はこうだ。まず、戦いというのは防御側が圧倒的に有利だ。また、攻撃は最大の防御なりとも言われる。そこで、自分達は行軍中の敵を何回もしつこく奇襲する。さっきも言った通り、ゲリラ戦術である。そうして何回も攻撃することで相手の体力及び精神を削っていく。そこで相手の進軍を送らせられるとさらに良い。そうすればこちらのスキルでどんどん戦力を増やせるからな。そうして会戦!迫り来る敵に対して、塹壕から鉛弾の雨を降らせる。それで、敵の攻勢は止まるだろう。そのあとは、まあ持久戦?我慢比べ?でいいんじゃない?
うーん、最後は長篠の戦いでの織田・徳川連合軍じゃねえか。三段構えでなくても十分迎撃できるけど。
こんな感じの内容をシエナに説明すると、それならいけるかもしれない!と嬉しそうにしていた。まあ、勝ちに拘らなければ結構余裕なのかもしれない。いざとなれば、要塞を造ればいいだけだろう。
翌日、集落を囲んでいる森の中を歩いた。ああ、緑がきれいで空気がうまい!じゃなかった。今は森の様子をしっかり観察しないと。
え~と、おそらくあっちの方向から敵が来るから、そこを切り開いて塹壕を掘ればいいかな。にしても、こんな森でゲリラ戦術やられる敵さんが可哀想だ。草の茂みから、或いは頭上の木から銃撃されるのか。
そんなことを考えながら、集落を一周してみた。うーん、もしもの時は周囲二キロメートル近くの防衛線になるのか。ん?二百人で守れるのか?
村に戻ると何やら演説しているエルフがいた。口にしているのは、今回の人族との戦争についてだ。
「皆はこれで良いのか!いや、いいわけがないだろう!やられっぱなしでろくに反撃もせず、むざむざとやられていく仲間達。非道にも残酷な行いを繰り返す人間ども!我らもいつ、標的にされてもおかしくはない!しかし、我らの村長はどうであろうか?彼は残念なことに、戦争の危険は無いとほざいているのだ!そんな頭の堅い大馬鹿者に任せて良いのか?否!我らは立ち上がらなければならない!守るべき者達のために、武器をとり、人族に反抗しなければならない!この非常事態において、無能な者に任せず、我らが立ち上がってエルフという存在を守っていこうではないか!
皆、エルフのために立ち上がれ!」
おお、人族と戦おうとする者もいたのか。
どうやら、エルフ達の間で意見が別れているらしい。村長などの年長者は穏健派で戦う意向は無い。しかし、演説していた彼のような徹底抗戦派もいた。そして、穏健派は村長などの少ないエルフのみで、大多数のエルフは危機感を持ち、徹底抗戦派であることがわかった。
よし、これなら十分に戦える。
自分は意を決して、演説していた彼に話しかける。
「すまないが、少し話が出来ないか?」
そういうと、彼は自分を見て露骨に嫌そうな顔をした。まあ、人族に徹底抗戦を訴える彼が人族に良い印象を持っているとは到底思えなかったが。
「なんだよ?」
あー、キレてますわ。
「人族との戦争はどのように進めるか教えてもらえるか?」
そう聞くと、大雑把に教えてもらえた。いやいや、もしスパイがいたらどうすんのさ。と思いつつ聞いたが、ろくな作戦ではなかった。
適当に野戦をすればエルフが勝つ。らしい。つまりは作戦は考えていないということなのだろう。
それなら、自分の作戦を教えれば採用してもらえるかもしれない。
そう思い、ゲリラ戦術などを教える。
あー、めんどくさいからこの防衛戦は「シルトクレーテ作戦」と呼称しよう。日本語になおすと「亀作戦」だけどね。擁するに亀のように甲羅(塹壕)に閉じこもってればなんとかなるって感じだよ。
んで、その「シルトクレーテ作戦」を説明すると、
「良い考えだな!そのジューというやつはよくわからんがそのゲリラ戦術なら十分対抗できるな!」
概ね高評価だった。あとは人員を用意すれば大丈夫だろう。
ああ?村長?あんなんクーデターでもおこして解任させておけばいいんじゃない。見たところ、このアルフという青年はリーダーシップもありそうだし新しいリーダーになってもらえばいいだろう。
アルフにはやる気のある勇敢な戦士を集めてくれと伝えて、空き家へと戻った。
あれ、シエナは?と読者は思うかもしれない。
······残念だったな。これからは戦争の時代。女の子にかまけている暇なんて無いんだよ。
メタいことを吐きながら寝ましたとさ。
(夢の中でシエナとイチャイチャした)「適当」
翌日、朝早くに起き清々しい朝を迎えた。のではなくお日様がちょうど南中する位に起きた。(まあ昼ってことですよ)
テキトーに支度してアルフのもとに向かう。すると、周りに何人かのエルフがいた。
「あ!昨日の人!」
あー、そーだった。名前いってなかったんだったっけ。
「ああ、カサイと呼んでくれ」
そう言うと、アルフはわかった!と言った。
「ここにいるのが勇敢な戦士達だ!」
「「「「おうっ!」」」」
勢いよく声をあげたのは総勢十八人の男だった。
(この十八人のうち、いったいどれだけのエルフが生還出来たのか······)
そう、心のなかでネタバレ的なことを考えながら彼らの顔を見る。全員、やる気に溢れる青年だ。
「みんなは弓が得意か?」
とりあえず、弓を使える人間が欲しかったので聞いてみた。すると彼らは一同に「なに言ってんだこいつ?」という風な目で見てきた。そして、そのなかの一人が、
「俺らはエルフだ!弓が使えるのは当たり前のことだ!」
聞けば、彼らの武器は弓であって、それが使えないと大人とは認められないらしい。そりゃあ、弓が使えて当然だ。
「なら、その弓でどこまで届くんだ?」
「一応、三百メートルは届きます······」
「絶対命中するという距離は?」
「よくて、百五十メートルですかね」
ふむふむ、百五十メートルで必中か。思ったより遠くまで狙えるんだな。これなら、遠距離狙撃もできそうだ。
「それなら、この銃という武器を使って攻撃する練習をしてもらいたい」
そう言って三八式歩兵銃を取り出す。エルフ達は不思議そうにこちらを見ていた。
「これは君たちと同じように遠くの敵を攻撃できる武器なんだ。で、今からこれを使ってあそこの木の幹を撃ってみる」
そう言うと、彼らはできっこない。と否定してきた。今に見てろよ。と思いながら、引き金に引く。
パンッ!
エルフ達はいきなりの音にびっくりしていた。しかし、命中したのか気になり、すぐに木の幹へと確認に向かった。
皆で見に行って確認する。するとそこには小さな穴が開いていた。
「当たったのか!?」
皆、信じられないといった面持ちだった。しかし疑い深い者もいて、まぐれだろと言われたので、その後も毎回命中させた。
(なんか前より精度上がってない?補正かかってんのかな?)一人、そう考えているとアルフが
「これはすごい武器だな!これなら、奴らを倒せる!」
と言って自分の手を握ってきた。止めろ!そんな顔でこっち見んな!恥ずかしいだろ!
「で、この銃はいくつあるんだ?」
そう、そこが問題なのだ。今手持ちであるのは三八式と三十年式が各一丁ずつしか無いのだ。スキルで用意しようにも、限界があるので戦闘までに間に合わないかもしれないのだ。
「今は二つしか無いんだ。でもすぐに用意しよう」
「わかった」
アルフは何も言わなかったが少しこの場を離れてスキルを使う。
「三十年式歩兵銃を❰召喚❱」
そう言うと何故か二つ出てきた。え?一個しか出ないはずでは。何これバグ?しかし、目の前には二丁の三十年式歩兵銃がある。まあ、とにかく数を揃えたい今では嬉しい事なんだけどね。
とりあえず召喚した小銃を持ってアルフのもとへと戻った。
「もう一個あったわ」
そう言って三十年式を渡す。エルフ達は手に取り、どんな物か確かめていた。
しかしなあ、六人に一丁の銃。これには同志スターリンも顔は真っ青になるだろうな。
そんなことを考えていると、ある重大なことに気づいてしまった。それは弾丸が数発しかないことだ。さっき調子に乗って無駄弾撃ちすぎた。
とゆーことで、そのあとはエルフ達の弓の腕前を見させてもらった。どうやら、エルフ全員が視力がよく、距離感も優れているようだ。それに加えて、風の神の加護で飛び道具の使いに長けているそうだ。ああ、何とも羨ましいな。エルフ全員が凄腕スナイパーだったとわ。
結局、エルフ達が弓を射る様子を見て、空き家に戻った。
はい、戦争の幕開けですよ。
この調子なら、スターリングラードの戦いみたいになるんですかね?




