戦い。そして彼は王になる。下編
今週も作者多忙なため、更新スピードが一段と下がることをお許し下さい。
武闘会当日。
舞台は京にある、兵源京。
ここは馬国一大きな決闘場で、ここで武闘会が行われる。
まず、各地で行われる予選で優勝した者で決闘を行い、三十人に絞る。
そこから、名だたる剣豪の内二人を参加させ、三十二人で勝ち残り戦を行う。
そして、最後に残った人が現王と闘うのだ。
僕は、今年の剣豪に選ばれなかったので、予選を勝ち抜いてでた。
本選一回戦は、四組ずつを二回。計八組で行われる。
僕は後半の四組だ。
この大会は、家族も、道場に通うみんなも見に来てくれている。そして、多分どこかで紅葉も僕を見ている。負けられない。
一回戦の相手は、助六と言う剣豪だ。彼もまた有名だが、あまりいい噂を聞いたことがない。
戦術は確か、突きを主体とした細かい動きと、変則的な歩法で相手を翻弄すると言われる、蛇骨流剣術だったはずだ。
闘ったことはないけど、手練れと闘える事が嬉しく思える。
また、僕の秋宮流が成長するときだ。
開始の笛が鳴った。
助六は、開始早々、僕に砂を投げてきた。
そして一気に猪突きで間合いを詰める。
誰もがその手口にやられたと思った瞬間、助六は確かに見た。
猪突きで確かに彼を刺したつもりが、手応えはなく、彼の体は水のように畝り、自分の刀を避けたのだ。
それは、まるで陽炎のようだった。
「秋宮流奥義一の型"陽炎"」
彼の刀が助六を襲う、助六はすかさず自分の刀で防ごうとした。
しかし、彼の刀は途中で影のようにぐにゃりと曲がり、助六の刀を避けて助六に峰打ちをくらわした。
『勝者 秋宮 慎太郎!!!!』
司会の声が会場に響いた。
僕は拳を高く掲げる。大きな歓声が湧き上がる。まず一勝だ…
そのまま順当に僕は勝ち抜き、準決勝まで進出した。
準決勝の相手は、名だたる剣豪の二人として選ばれた、菊池 一文さんだ。
彼は齢三十にして、奥義菊一文字を完成させ、馬国の中でも五本の指に入る剣豪だ。
僕も、剣を始めたばかりの頃は、彼の剣技の噂に憧れ、よく想像で闘ったものだ。
「君と闘えるのを楽しみにしてたよ。」
一人の憧れの剣豪が、僕との闘いを楽しみにしていたことが嬉しくて、自然と笑みが溢れる。
「僕もです。あなたは僕の目標の一人でもある。出し惜しみせず、本気でいきます!!」
僕は霞の構えを中段にとる。対する菊池さんは八相の構えだ。両者ともに溢れる笑みは、最早殺気のようにも感じられ、観客達の血の気を奪う。
ジリリ…ジリリ…と間を計る様に両者は歩を進める。
やがて、両者は同調したように飛び出した。
激しい衝突で、突風が会場に巻き起こる。
鍔迫り合いの中、力が優ったのは僕だ。
しかし、菊池さんは後方に少し跳びのき、僕の刀をすんでで防ぐと、刀を中腰に構えた。
僕も直ぐさま後方に跳びのき、刀を納刀し、切羽だけ出して腰を落とす。
また、両者共に時が満ちるのを待つかのように間を計る…
静寂の後、飛びだしたのは菊池さんだった。
対する僕は刀に手を添えるだけ。
菊池さんが、僕の隣を駆け抜けていくその瞬間、僕は菊池さんが進んだ方向とは逆に十尺ほど進んでいた。
菊池さんは、そのまま地面に倒れた。
先程の攻防は、両者共に自分の奥義を放ったわけだ。
「菊池流奥義菊一文字」が、ここ「秋宮流奥義九の型"雷切一線"」に敗れた。
これで決勝進出だ!あと二勝だ。
僕は静かに拳を固めた。
決勝戦は、皆が予想した対戦になった。馬国一の武士、西条 保徳だ。
ちなみに、この人が今大会の優勝候補でもある。
しかし、四年前の武闘会から、この人でさえ王に勝てていない。
馬国一の剣士でさえ、現国王には敵わないのだ。
ならば、王という城塞を崩すために、西条保徳と言う馬国一大きな鋼鉄の門を突破しなければならない。
しかし、僕はそんなに気負ってなどいなかった。
実は、僕は以前彼と会ったことがある。
彼が僕の雷切に気がついて、声をかけてくれたのだ。僕なんかより遥かに歳上なのに、対等に接してくれる彼の紳士的な振る舞いに、ひどく感銘を受けた。
しかし、今の彼は違う。どこから見ても武士の顔つき、雰囲気なんかは凛として、一歩踏み込めば斬り殺される様な気迫だ。
「流石は柳生新陰流現頭首ですね。」
僕の尊敬を込めた褒め言葉に、
「いえいえ、そちらも同時じゃないですか、秋宮流剣術現頭首殿。」
冗談めかした雰囲気でお互い話し合ってるが、気迫は変わらない。
両者は語り終えると、互いに正眼の構えをとる。
開始の合図と同時に、僕らは衝突した。
準決勝以上に強い突風が起こり、観客達は観客席にしがみつく、そんな事御構い無しとばかりに、突風が吹き荒れる。
『神速』と言われるまでの僕の剣筋を、彼は全ていなすか、避けている。
僕は彼の攻撃を利用し、その隙間を縫って攻撃を入れようとする。
両者の激しい剣戟に、観客達は「殺し合ってるのか」と騒然としていた。
……それから一刻の時が経った。
両者の息はかなり上がっており、額から汗が頬を滴り落ちていく。
「次で決めるっ!!」
自分にそう一喝して、八相の構えを上段にとる。
西条殿も息を整え、抜刀術の構えをとる。
両者ともに駆け出した。
僕らの刀が、同じ軌跡を追いかけるように衝突した。
衝突の勢いで、僕は体制を崩してしまった。
そんな隙を、西条殿が見逃してくれるはずなく、袈裟斬りが目前に迫る。
しかし、それが振り抜かれることはなかった。
刀の柄で、彼の袈裟斬りを防いだからだ。
形成逆転、、、僕は彼の刀を手首で払って、彼の懐に入る。
「参った。降参だよ。」
西条殿のその一言で、僕は鋼鉄の門を突破した。
王への挑戦は1週間後、王との決戦までに、疲れを癒して欲しいと言う、王立っての希望だそうだ。
とにかくあと1週間後、僕の目的の第一歩になるための挑戦が始まる。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
決勝戦から1週間経った今日この頃、僕は王と戦うために、兵源京の闘技場入り口まで来ていた。
ついに、ついに僕は王になる挑戦を受けれる。
そんな事を考えていると、さっきから心臓の鼓動が高鳴っているように感じる。肩も力が入ってるし、緊張してるのかもしれない。
「ギュルルルル」
僕のお腹が鳴った。お腹減ってるのも気づかなかったのかと思い、持ってきた弁当を広げる。
母と双子の妹達が、朝から握ってくれた握り飯を口いっぱいに頬張る。
ちょっと緊張が和らいだ気がした。
もう一個食べようとお握りを手に取ろうとした瞬間。
「ギュルルルル」
後ろから、腹の鳴る音が聞こえた。
急に現れた人の気配に、僕は急いで振り返った。
そこには、涎を垂らした美女がいた。
「紅葉、欲しいなら言えばいいのに…」
と、僕はお握りを差し出す。
「妾の身から、そんなこと言えるわけなかろう!!」
とか言いながら、彼女は握り飯を受け取る。
僕は凄く拍子抜けした気持ちに見舞われたが、おかげで緊張は全て洗い流されていった。
まもなく試合開始を促す笛の音が、耳の端っこで木霊した。
「じゃ、行ってくる。」
僕はそう言って、紅葉に笑いかけた。
彼女も元気よく、僕を送り出してくれた。
「本当に、大きくなったんじゃな慎太郎…勝てよ」
と、僕には聞こえないように彼女はボソッと呟き、赤い顔を隠すかのように観客席へと踵を返していった。
場内は、目まぐるしいばかりの人だかりに見舞われていた。
入場した僕を上から眺められる観覧席には、烏合の衆と言わんばかりのの人々が僕を見下ろしてくる。
しかし、僕が緊張することはない。
僕の目の前の席に、父上、母上、佐喜、佑喜が鉢巻きして、応援してくれている。
こんな微笑ましい姿を見て、緊張してなどいられるわけない。
ふと、佑喜の隣の人に目がいった。紅葉だ。
こっちに満面の笑みで手を振っている。それに、佐喜と佑喜何やら楽しげに話している。
あ、母さんも混ざった。
あいつ人に絡むの上手いな〜。
そんな家族と紅葉を見ていると、王が反対側からやってきた。観客達の歓声が湧き上がる。
王は、王とは思えぬ身なりだった。広く大きい体には、甲冑など一切身につけず、袴だけ、その背丈に合うように長い槍(蜻蛉切)を持っている。
僕もそれなりに背丈は高いのだが、彼はそれ以上に大きく、そして彼の圧力からか、僕に覆い被さるぐらい大きいように感じる。
「なんだ、今年は西条ではないのか…」
つまらなそうに王は呟いた。
「はい、秋宮流剣術頭首の秋宮 慎太郎です。よろしくお願いします。」
僕は深々と礼をした。
「ほほう、貴様が秋宮流か…それにその刀、雷切だな?これは面白そうだ。こちらこそ、よろしく頼む」
そう言って、王も頭を下げた。
そして、両者共に自分の獲物を構える。
開始の笛の音が鳴った。
開始早々王は僕に鋭い突きを放つ。僕は辛うじて避けれたが、頬の横を槍が掠め、血が滲む。
僕は剣術界の中では神速であるが、相手は槍。今まで何度か槍とやったことはあるが、それとは比にならない程、重く、速く、鋭い。
僕は防ぐのが手一杯で、まだ一回も攻めに転じれてない。
その理由が、槍だ。王の腕は僕よりも長い。
そして、その筋骨隆々な腕からあの重い一撃…それを可能にしているのが蜻蛉切だ。
蜻蛉切は穂先が一尺四寸、柄が一尺八寸ある。柄が短めの槍で、しかしそれは刀のように扱うことも、槍のように扱うこともでき、しかも刀より長い。
蜻蛉切は天下三名槍の一本なのだ。
未だに、攻撃に転じることができない僕は、少し距離をとった。
どうにかして、奴の懐に入らねばならない…
僕は抜刀術の構えを取る。
そのまま、奴の懐めがけて雷切一線で詰め寄った…はずだった。
僕の雷切一線は王の槍で抑えられていた。
「くっ……」
僕は再び距離をとる。
「流石神速の名を持つ剣豪だな。しかし、所詮は速いだけ、刀の軌道が読めればどうってことはない。
我が極真流槍術、防御の構え『乱菊』の前では、その技は無意味だ!」
確かに、雷切一線の弱点はそこにあった。
速さを極限に極めた抜刀術で、相手に錯覚を起こさせる程速く相手に詰め寄れるが、その軌道は実に単調なものであり、読みのいい奴などには、悉く凌がれてきた。
ふと、王が目の前に迫っていた。また例の凄まじい攻撃が来ると思っていたが、次の王の攻撃は明らかに違った。
攻撃こそは軽いけれども、確実に僕を突いてくる。
王の槍は、グニャグニャと蛇のように曲がって、僕の刀を避けるのだ。
ちなみに、今大会では刃に特殊な液をつけているため、そう易々とは人を切れなくなっている…が、手練れにはそんなこと関係ない。
普通に斬ろうと思えば斬れるのだ。
実際、王と僕は全力で戦っている。王が僕を突いた箇所には、深手ではないが、血が滲んでいた。
「これが我が極真流槍術、攻撃の構え『乱れ桜』という技だ。槍を曲げるために、蜻蛉切には特別な金属が使われていのだ。」
おうは自慢気に言っている。確かにすごい技だ。もはや打つ手が思い浮かばない。
いや、もしこれができるなら一つだけ可能性がある。
そう思って、僕は再び抜刀術の構えをとる。
そして雷切一線をわざと奴の槍に防がせる。
そして、防がれる時に陽炎で、王の槍を躱す。
やっと一太刀入った。王は二、三歩後ろに下がる。僕は王の懐に一気に駆け寄り、陽炎と雷切を踏まえた多段攻撃で、一気に王を攻める。
しかし、王の乱菊は中々に手強く、攻め切れない。
ふと、目の前に槍が伸びてきた。僕はそれを刀でいなそうとしたが…それはできなかった。
僕はそのまま吹っ飛び、決闘場の壁に衝突した。
凄まじい力の余り、僕は一瞬意識が飛びかけた。
これは一度見たことがある。
去年、西条殿に最後使った技だ。西条殿は技を放たれる前に、意識を失い、倒れ込んだので技は当たらなかった。
「極真流奥義『虎徹』ですか、」
朦朧とする意識の中で、僕は呟いた。
「そうだ。これをまともに受けて、意識があるものはお前が初めてだ。」
と王も驚いていた。
だが、これで条件は揃った。僕は立ち上がって、上段斬りの構えをとる。
「おい、まだやるのか?」
王は少したまげたとばかりに、問いてきた。
「まだ、決着付いてないですしね。僕はまだやれますよ。」
と上段の構えをさらに深くとる。
「ほう、ならば良いだろう。どうなって知らんからなっ!!!」
王は一段と迫力のある攻撃を仕掛けてくる。
しかし、どれも当たらない。
まるで僕の横を槍が逃げていくように。基本の突きや払いも、乱れ桜も、あの虎徹も、悉く躱していく。
そう、僕のこの技は、相手の呼吸を知らなければ使えないのである。
どうしても彼の虎徹を自分自身で受けてみないと、王の呼吸が掴めなかったのである。
僕が上段の構えのまま、鮮やかな踏み込みで王の槍を躱していくことに、王は違和感を覚えた。
「今まで対応できていなかったはずなのに、どうしてこうも急に躱せるようになったのだ」
そんな疑問を口にせず、王は攻撃を続ける。
右に左に乱れ桜を放ち、攻撃の調律をずらし、歩幅を変え、技と自分に隙を作るような一撃を放ったりもした。
しかし、ぼくはそれを全て見透かしたかの様に攻撃を躱す。決して、自分から攻撃はしない。まだ、その時が来てないからだ。
「まだ、まだだ。まだ、もう少し。あと少し。今だっ!!!!!」
そして、王の攻撃と攻撃の間に、上段斬りを振り下ろした。
直後、硬く、しなやかにしなる蜻蛉切は、一刀両断された。
それも、王には一切傷を与えず…
その時、王は見た。あの一撃の時、秋宮 慎太郎が金翅鳥王に見えたのだ。
なんて偉大で、大きく、そして洗礼された一撃だったか。王はその一撃に自分から負けを認めた。
「あの技を何と言うのだ。」
王は、自分より身長の低い僕に対し、自分が低くなる様に跪いて問いた。
「秋宮流総集編奥義『金翅鳥王剣』です。」
僕はそう答えた。この技はかなり隙が大きいのだ。何せ大上段に剣をとり、尚且つ相手の呼吸と自分の呼吸があった時にしか、成功できないのだ。
そのため、相手の技をしり、呼吸を掴まなければならなかったのだ。
「やはり金翅鳥王だったか。いや、天晴れじゃ。我は完全に敗北したよ。」
試合後の礼をした後、会場から歓声が巻き起こった。家族と紅葉が観覧席から飛び出して来た。
父上は啜り泣いて、母上はそれを支えて泣いている。
佐喜と佑喜は僕の足に抱きつき、感嘆の声を上げる。
最後に来た美しいこの子は、僕に飛びつき、目尻に涙を浮かべて微笑んだ。
「おめでとう。よくやったな」
「あぁ、ありがとう」
そして僕は、王になった。
この話で戦い編は終了です。次話投稿の関係で、るびが触れなくなってます。ごめんなさい
紅葉→もみじ
佐喜→さき
佑喜→ゆき
蜻蛉切→とんぼきり
金翅鳥王→こんじちょうおう
です。よろしくお願いします。




