挑発
長く続くテールランプを見つめながら少し うとうとしてきた。
「寝てていいぞ?」
「いやでも新垣さんだって疲れてるのに……」
「いつもグースカ寝てるヤツが気を使うな」
ぐはっ!!
「そ、それは勝手に寝落ちてしまうだけで……」
「なら落ちてしまえ。お前のイビキはイイ目覚ましになる」
ぎゃーーーーー!!
「イビキかいてますか!?」
「かいてねぇよ」
「え~!?」
はっはっはっと笑う新垣さん。
ヒヤッとしたよ~(泣)
「ああ、そうだ。お前、バイトいつ辞めるんだ?」
思い出したように話題をそらす。
「バイトって向こうのですか?」
「あほ。こっちだ」
「ぎ、ぎりぎりまで働きたいと思ってたんですけど……」
だって会えなくなる。
「大丈夫だ。引っ越しは辰吉さんたちと手伝うし、飯も ちゃんと食わせてやる」
しゅんとする私の態度に勘違いする新垣さん。
いやいや。お金も気にするポイントですけどね~(泣)
「こうやって一緒に働けるのは後少しなんです」
「言うほど一緒に働いてないぞ?袋に箸つめるくらいだろ?」
「そういう意味じゃなくて!!」
ん~(泣)うまく伝わらない。
「視界のすみっこに新垣さんがいるだけでイイって言うか、同じ空間にいるっていうのが大事で……」
「乙女か!!」
「乙女だよ!!」
泣きそう(泣)
新垣さんは寂しくないのかな。
私は学校にいる時だって なにしてるのかな?って思い出すのに……。
夏樹がよく言ってた、これが男と女の考え方の違い?
それとも恋愛初心者だから?
まさかのストーカー気質!?(泣)
なんか考えすぎたら涙が出てきた。
「ど、どうせ私ばっかり好きですよ!!一緒にいたいとか、顔が見れるだけで1日ハッピーになっちゃったりとか、手を繋いだら死んじゃうんじゃないかってくらいドキドキしたりとか、きっと新垣さんには分からないでしょうけどね!!」
会えなくても平気だなんて、そんな風に思えるなら大人の恋なんてしたくない!!
「あ、新垣さんは私のこと、ホントは好きじゃないんじゃないですか!?」
ボタボタと涙がスカートを濡らす。
「胸ん中、見せれるなら見せてあげたい!!私がどんなに新垣さんを好……!!」
瞬間、ガタンと音を立てて背もたれが消え、支えをなくして後ろに倒れた。
え……。
見上げると新垣さんの怒った顔があった。
いつの間にか車は私のアパートの駐車場についてたみたいだ。
「居酒屋の空気で酔ったのか?」
低い声に ふるふると首を振る。
「いや、お前なら あんだけでも酔うか」
だから酔ってないよ!!
「誰が……なんだって?」
「え…?」
「誰が誰を好きじゃないって?」
今まで聞いたことないほど低く冷たい声。
「あ、あの……」
嫌われた。
大人になれって、感情のままに言葉にしたらダメなんだって あれほど教えてもらってたのに……。
私はなんて子供なんだろう。
涙が止めどなく溢れる。
「ご、ごめ、さ…き、嫌いになら、な、で」
手で顔を覆い、何度も謝罪する。
ギシッという音が聞こえ肩を掴まれた瞬間、唇が塞がれ言葉が逆流した。
「んんっ!!」
両手ごと抱きしめられ身動きが取れない。
とれないけど、唇に当たってるのは……新垣さんの……。
意識で確認しようにも その激しさに ついていかない!!
呼吸をするために開けた隙間から何かが入ってきた。
!!!!!!
瞬時にそれが新垣さんの舌であると悟ると恐怖心で もがいた。
が、そんなんじゃビクともしない体は もがけば もがくほど重力を増して のし掛かる!!
怖い、怖い、怖い!!
さっきとは違う涙が溢れて小刻みに震える。
新垣さんの行動が理解できない。
怒ってるのにキスするの?
なんで?なんで?
恐怖心と息苦しさで指先が冷たくなっていくのを感じる。
私は、この嵐が過ぎるのを ただ じっと待っていた。
「……俺も……」
意識の朦朧とする中、唇が離れる。
「俺も見せてやりたいよ。ここがどうなってるか お前に」
ドンと自分の胸を叩き、握りしめる。
「俺ん中 見たら、いつもみたいに無防備に眠ったり気軽に腕に絡んできたりできなくなるぞ?」
私の両手を掴み頭の上で一括りにされ、首筋に指を這わす。
ひゃっと小さな悲鳴が出る。
「お前がまだ子供で、俺は大人で……」
ひんやりとした指がするすると胸の谷間に向かう。
「自制して導いていくのが どんなに酷か、お前に分かるか?」
プチンとボタンが外された。
「独り暮らしの女子高生に手を出して、溺れて、二人で堕ちてゆくのもいいかと思わない日もない」
プチン、プチンと やけに響く。
「お前からしたらオッサンがなに言ってんだと思うかもしれんが、好きな女と二人でいて抱きたいと思わない男はいない……」
抱きたい、その言葉に今されてることを理解して背筋が凍る。
「そんな顔で挑発されて、それでも大人しく帰してやれるほど出来た人間じゃねえよ……」
そう言って首筋に顔をうずめる。
ボタンを外していた手がするりと肩口の服を ずらしていく。
「なぁんてな」
ふいに重さが消えて、顔にティッシュが飛んできた。
「ホント俺の理性を誉めてやりたいわ」
ティッシュの横から覗くと疲れた顔した新垣さんの苦笑が飛び込んできた。
「あんま俺を試すな。ちゃんと好きだから」
ポンポンと頭を叩かれる。
瞬間、一気に体温が戻ってきて涙腺が崩壊した。
「こわ、怖かった~!!怖かったよ~!!」
「あ~悪い悪い」
さして悪いと思ってない謝罪。
「き、嫌われたか、と、思っ……」
「嫌ってねぇよ」
「こ、このまま、や、やられちゃ、うかと、思っ」
「……………………やらねぇよ」
え!?なんだ今の間は!!
「卒業までは待つ。後は容赦しない」
な、なにを~!?(泣)
「バイトは来月には辞めろ。変わりはもう雇ってある」
ビクッとなる。
「再来月には卒業式で、すぐ引っ越しして4月頭には入社式だ。ゆっくりできる時に ゆっくりした方がいい」
新垣さんの言いたいことは分かる。
夏樹と卒業旅行の計画だって立ててるもん。
でも……。
「私の新垣さんと一緒にいたいっていう気持ちは考えてくれないんですか?」
「逆に なんでバイト辞めたら一緒にいられないと思ってるのか俺には分からない」
「だ、だってバイトに来なきゃ会えなくな…」
「呼べばいい」
「え……」
「飛んでこいって呼べばいいんだよ」
え……。
「さすがに仕事中は無理だが必ず飛んでいく」
「い、いいの?呼んでも…」
「いいよ」
優しく そっと抱き起こされる。
「今だに信用がないみたいだが、俺なり色々考えてはいる」
「は、はい」
「お前が卒業したら一度ご実家に挨拶に行こうと思ってるし、色々我慢してたことも我慢しないと決めている」
「は、はい?」
「聞きたいか?」
「……聞きたくないです」
「賢明だな」
ふっと笑う。
「まだ お前は高校生だ」
「…はい」
露にした肩に服を着せ直しボタンを止めていく。
「あ、あの、自分でやれます」
わたわたしてる間に きちんと着せてもらった。
さっきの出来事を思い出し真っ赤になる私をじっと見つめる新垣さん。
「どうしても不安で~とか、毎日会いたくて死んじゃう~と思ったら いつでも言え」
て、その口真似 気持ち悪いからホントやめてほしい~(泣)
と思っていると、今まで見たこともないような妖艶な微笑みを向けてきた。
「毎日 泊まりに行ってやるから」




