初恋の思い出
もう後戻りはできないのかもしれない…。
どんなに望んでも新垣さんには彼女がいるのに…。
「久々だな~。夜に一人なの…」
きっと私の宿題が全部終わるまで無理をしてくれてたんだろうな…。
口は悪いけど面倒見はイイからね。
座卓には新垣さんからもらった財布が箱に入って置いてある。
「こんな高価なもの、もらっちゃっていいのかな…」
新垣さんの収入からしたら、たいした額ではないかもしれないけどブランドものだから。
お返しは何がイイんだろう…。
ギリギリの生活をしている私に買えるものなんて新垣さんの趣味にあうはずがない。
はぁぁぁ。
大きなため息をつく。
安物でも、趣味じゃなくても、ずっと持っててもらえるようなモノをあげたい。
いつか私の事が過去になっても 思い出してほしいから……。
9月になった。
新垣さんのおかげで学期始めの実力テストもかなりの点数を取れた。
本当に私は やればできる子なんだな~。
と自画自賛ww
ウキウキしながら成績表を持って新垣さんを探す。
前回までの悲惨な点数を見られたくなかったけど、新垣さんに頑張ってもらった成果を見てもらいたい!!
だってさ、私以上に頑張ってたからね。
覚えの悪い生徒で ごめんなさ~い(泣)
あ…いた!!
「新垣さ~ん」
パタパタと歩み寄る。
「おお。どうした?」
「この前、実力テストがあって…」
て、あらら。
「新垣さん、ちゃんと寝てます?」
目の下にクマが百匹くらいいますよ?
「ん?ああ、まあな」
歯切れが悪いな…。
でもきっと、私が聞いても答えてくれないよね。
「お?なんだ、スゲー順位上がったな!!」
「新垣さんのおかげです!!」
「いや、これはお前の力だよ。よくやったな」
そう言って頭をよしよししてくれた!!
ぐふふっ!!やったね~!!
「お祝いでもするか?明日休みだから、いいとこ連れてってやるぞ?」
「わ~!!私も休みです!!」
デートだ!!三回目のデートだ~!!
て、しまった。
「あ、私 明日は昼から用事があったんだ…」
「そうか…。なら次の機会にするか?」
「なら、今夜は?お仕事終わったら うちに来てください!!」
「えらい急だな」
えへへ。
じつは、新垣さんなら お祝いするって言ってくれると思って手料理を用意してあるのだ!!
「前に食べたがってた筑前煮がイイ感じなんですよ。他にも色々常備品があって今夜は和食のフルコースです!!」
疲れが溜まってそうな今の新垣さんでも胃に負担なく食べれそう!!
「…なんか、俺に都合がイイような気がするな。お前のお祝いなのに」
「そんな!!新垣さんのおかげでイイ点とれたんだから気にしないでください!!」
むしろ喜んでくれたら、私もスゴく嬉しい!!
「そうか?なら、ちょっと寄ってくかな」
わ~い!!
『今終わった。これから帰る』
新垣さんの短いメール。
わ、わ~(泣)
なんか新婚さんみたい!!
ウキウキしながら筑前煮を温めなおす。
炊飯器のゴハンも蒸らしに入ってるし、ちょうどいいかも!!
ピンポ~ン
ええ!?
来るの早くね!?
時速何キロで帰ってきたんだ!!
慌ててドアを開けると夏樹がいた。
「あれ、どうしたの?」
「メ、メールもらったから、これ持ってきたんだ」
と、レジ袋を掲げる。
バイト帰りに新垣さんが来るってメール入れたけど、別に来るの初めてじゃないって知ってるよね?
「明日、二人とも休みなんだろ?」
「う、うん。まぁ私は昼から用事があるんだけどね」
「そうなの?」
「うん。この前 面接したトコ受かってさ、会社の寮を見せてもらうの」
学校推薦だったから、よっほどじゃないと落ちないけど やはり合格通知が来るまでは不安だった。
「え?今のとこじゃないの?」
「だから前も言ったじゃん。別れた後、居づらいって」
今みたいに恋人ごっこまでしちゃったら、尚更 居づらいよ。
「それは新垣さんには…」
「言ってない。でも、分かってると思うよ?」
だってバイト先に願書を出してないからね。
それでも何も言わないのは、やはり私たちの間に先がない証拠なんだよ。
「そか…」
夏樹は複雑そうな顔をして、それでも何も言わず、私に袋を渡した。
重っ!!
「何これ…?」
「親父の晩酌用のビールだよ」
ええ!?
「新垣さんに飲ませて帰らせるな」
「ええ!?」
「あんたはさ、物わかりがイイっつうか、諦めがイイっつうか、見てて歯がゆいよ…」
「夏樹…」
「彼女から奪っちゃえばイイんだよ。あんたら意外とお似合いだよ?」
「…ありがとう」
奪えたらイイんだけどね…と苦笑する。
だって無理でしょ?
私はチビで子供で女としての魅力が何一つない。
「神楽はさ、自分が思ってるより可愛いし気が利くし胸もでかいし従順だし、男のツボだと思うんだけどね」
「胸でかい言うな!!」
バランス悪くて嫌いなんだよ(泣)
チビでヒョロヒョロなのに胸だけでかいって…エロ漫画か!!って嫌んなる(泣)
「就職先が違うならさ、時間がないよ?」
「分かってるよ。でも、私は思い出作りをしてるだけだから…」
いつか、いい初恋だったなと思い出すための準備をしてるだけなんだよ。
「…ならさ、これもやる」
そう言うと、ゴソゴソと財布を取り出して中から小さな四角いものを取り出す。
「これで思い出 作りな」
それは、コンドームと呼ばれる避妊具だった……




