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この恋に殉ずる(完結版)  作者: 熱湯甲子園
お付き合いちゅ
26/68

一夜の過ち

止めどなく流れる涙を大きな手で頬を包み込むように拭ってくれた。

「俺も一緒だよ…」

小さな声に また涙が溢れた。

「俺はね、休みの日に家族で鈍行に乗って気の向くままに景色を見ながら のんびり旅をするのが夢なの」

新垣さんが遠くを見るように私を見つめる。

「お腹が空いたら どっかの駅で降りて、美味しいものを食う。子供が そこの公園で遊びたいって言ったら そこで遊んで帰ればいい」

派手な事はしなくていい。ただ一緒にいる事が大事なのだと言った。

「なら、私お弁当作ります。オニギリにして簡単につまめるものがイイかな」

鼻をズズッと吸って、照れ隠しに笑う。

「あと唐揚げだな。あれは必須アイテムだ」

「男の人は唐揚げ好きですよね(笑)」


私が笑うと、ちょっとスネように睨む。


「んだよ。男いね~って言ってたのに男の生体よく分かってんじゃん」

「いませんよ(笑)夏樹が…友達が言ってたんです」


そのヤキモチも恋人ごっこのオプションですか?


キュ~ンと切なくなって胸に手を当てた。


嬉しいのに切ない。

変な感覚…、でも嫌じゃない。


「仕事が休みの日は俺が晩飯を作るんだ」

「じゃあ、その時に私も休みなら一緒に作りましょう!!」

「俺は厳しいぞ?目分量は許さない。ちゃんと量れよ?」


わ、わ~(泣)


「な、なら新垣さんはデザート作ってくださいよ!!きっちり量る人は お菓子作りのが向いてますよ」

「甘いのは嫌いなんだよ!!」

「好き嫌いは、いけません!!」


な、なんじゃこりゃ(笑)

私たちに未来なんてないのに…、将来の話をするなんて変なの。


そう思うけど、新垣さんが楽しそうに語るから 私もなんだか楽しくなって、いつの間にか涙も引っ込んでいた。








ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピピ…

「ん…」

目覚ましのアラームが鳴る。

うっすらと目を開けると、視界いっぱいに新垣さんの顔があった。

「んがっ!?」

思わずのけ反ると後頭部を目一杯 壁にぶち当てた。


ぎゃん!!


「…朝から何してんの?」

目を冷ました新垣さんが残念なものでも見るような目で私を見ていた。

「な、な、な、な、なん…!!」

「すげーどもり(笑)」

くつくつと笑う。

「私達とうとう越えては いけない壁を越えたんですか!?」

思わず叫ぶとホッペをつねられた!!

「どの口が言ってんだ?」


ギャー!!痛い痛い(泣)


「お前が途中で寝ちまうからカギも見つからんし帰るに帰れなかったんだよ!!」

「だ、だとしても一緒に寝る必要があったんですか!?」

「なに?お前この俺に床で寝ろって言うの?」


め、め、めっそうもありません!!(泣)


「とりあえず帰るわ。着替えてくる」

「あ、ちょっと、ちょっと待ってください!!」

ベットから飛び起きると、冷凍庫からオニギリ玉を3つ取り出してレンジに入れた。

「前に作った炊き込みご飯の残りですけど、車の中ででも食べてってください!!」

あとはアレとコレとソレを突っ込めば お弁当も形になるな。

私がエプロンも着けずバタバタしていると、新垣さんが

「お前と結婚するやつは幸せだな…」

なんとも言えない顔で笑った。


え…。


「昨夜は俺も楽しかったよ。でも、不用意な事も言ったなと反省してる」

「そ、それって、どういう意味ですか?」

「お前にあんな話したらダメだろ?」


それは期待するなって事ですか?


「悪か…」

「大丈夫です!!」

新垣さんの言葉を遮るように叫ぶ。

「わ、私ちゃんと分かってますから!!こ、恋人ごっこでしょ?ごっこなら、ああいう話もアリです!!」


悪かった、なんて謝ってほしくない。

私だって、そこまでバカじゃない。

こんな未来がくるなんて思ってない!!

でも、だからこそ夢のような出来事を謝られることで汚して欲しくなかった。

現実に訪れる事はなくても二人で語った未来は本物だから…!!


「新垣さんは賢い人ですね…」

どんなに夢見心地にしても ちゃんと線を引く。




俺とお前は ここまでだと……。

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