商談成立
「お前、大丈夫か?」
新垣さんが私の目の前で手のひらをヒラヒラさせた。
「大丈夫です」
「俺、彼女いるよ?」
「知ってます」
「オッサンだぞ?」
「新垣さんはオッサンじゃないです!!」
強く言うと、また大きなため息をついた。
「なんで、こんな話になったんだ?意味わからん」
「新垣さんが先に言ったんですよ」
「は?俺は別に何にも…」
「仕事だって全部一から教えてくれたじゃないですか!!」
「それと これとは違うだろ!?」
なんのこっちゃっ、て顔をしてる。
「私に男の見分け方を教えてください!!」
「そんなの自分で考えろ!!」
「失敗したくないんです!!」
「失敗は成功の素だ!!」
なんだそれ!!
「新垣さんは恋愛経験なさそうですもんね…」
ため息と一緒に モテなさそう…と呟く。
「てめっ!!今なんつった!?」
「私は別に結婚してくれって言ってる訳じゃないんです!!ただ お付き合いを教えてくれって言ってるだけなんですよ!!それなのに細かいことグチャグチャと!!」
「細かいことか!?」
「細かいですよ!!」
ダンッ!!とテーブルを叩く。
「この程度の事も教えられないんですか!?」
「教えれるわい!!」
「強がりじゃないんですか?」
ふふんと鼻で笑う。
「てめっ!!生意気だぞ!!」
「だって新垣さんじゃねぇ?」
「誰が教えられんと言った!!俺は完璧主義だからな!!後で泣いても知らんぞ!!」
「そんな事で泣きませんよ」
「絶対 泣かせてやる!!生意気 言ってすいませんでしたって言わせてやる!!」
「…なら商談成立ですね」
「おう!!」
「とりあえず明日までに お前の思う男女交際ってのをレポートにまとめてこい」
「はっ!?」
「は、じゃねぇよ!!お前がどこまで分かってるか分からないと教えらんね~だろうが!!」
「た、確かにそうですけど…」
どんな羞恥プレイだ!!
思わず叫び出しそうになったけど、ここは我慢だ。
「んじゃ、俺 帰るわ」
そう言って立ち上がると玄関で靴を履き、
「すぐ鍵しろよ?」
と出ていった。
私の目を見て、他の人と幸せになれと言った。
自分が幸せにするとは絶対に言ってくれないのは分かってる。
でも、だからこそ悔しくて悲しかった。
手に入らないのなら、少しの間だけ恋人ゴッコに付き合ってもらってもバチは当たらないんじゃないか?と、よからぬ思いが頭をよぎった。
売り言葉に買い言葉で新垣さんを乗せた。
まさか、こんな簡単に話が進むとは思ってなかったので拍子抜けしたけどね。
彼女から奪い取ろうなんて思ってないし、きっと出来ない。
ただ思い出がほしいと思う私は悪い女だろうか……




