気持ちの温度差
トイレに行くと言って、こっそり夏樹へメールを打った。
『なんかデートじゃなかった』
すると、待ってましたとばかりに返信がきた。
『だと思った』
くそ!!
(仮)をつけた あなたは正しかったよ…。
『でも楽しかったんだろ?』
少しの空欄の後、そんな風に付け足してあった。
まあね。
私服も見れたし?一つのものを分けあったりとかして楽しかったよ。
でも、なんか悔しいからか『別に』とだけ打って強制終了してやった。
トイレから帰ると、花壇に座って缶コーヒーを飲んでる新垣さんがいた。
やっぱり格好いいな~。
ぼんやりと考える。
なんで私は新垣さんが好きなんだろう。
口は悪いし、横暴だし、ちょっとケチくさくて、イイとこあるの?ってくらい鬼畜なのに…。
「神楽」
私に気づいた新垣さんが逆光に目を細めて優しく笑った。
わ、わ~(泣)
なんかイイもん見たわ~!!
ちょっと ときめいていると、持っていた もう一つの缶コーヒーを投げた。
「やる!!」
缶コーヒーは綺麗な弧を描いて私の手の中に落ちた。
「熱っ!!」
真夏にホットかよ!!
「ぶははははははは」
ほんと、もう好きなのやめようかな…(泣)
帰りの高速はスムーズに流れていて、新垣さんはBGMに合わせて鼻歌を歌ってる。
「…機嫌いいですね」
「そうかぁ?」
「いつもそのくらい機嫌いいと周りも働きやすいですけどね」
「俺は仕事に私情は挟まねぇよ」
「あったじゃないですか!!初めてお弁当交換した日ですよ」
そう言うと新垣さんは少し考えて、ああと舌打ちした。
「あれは俺の人生の最大の汚点だ。仕事とプライベートが分けれないようでは上には立てんからな」
「彼女と別れたんですか?」
思わず口をついて出た。
「は?別れてね~よ」
ええ!?
「絶対別れてると思ってた!!」
「なんでやねん!!」
だって10年も付き合ってて振られたら凹むでしょ!!しかも噂では可愛いお嬢様タイプとか!!
新垣さんにとったら二度と手に入らないほどの優良物件じゃないですか!!
「10年も付き合ってたらな、よっぽどの事がなきゃ別れね~んだよ。空気みたいなもんだかんな」
なんでもないように語る新垣さん。
でも私の胸に鈍く痛みが走った。
越えられない年の差、戻せない時間。
彼女と出会う前に会えたら…て、私まだ8歳だからね。
なんだこれ…。
別れてたらって少し期待しちゃってたからな~。
いつもよりダメージが大きいみたいだ…。
「で?お前は彼氏いんの?て、いたら休みの日にこんなオッサンと出掛けないか」
「新垣さんはオッサンじゃないです!!」
「まあな」
「ちょっとクドイ顔してますけどイケメンだと思うし、口が悪すぎて敵が多そうだけど嘘は絶対つかないし、私服のセンスはどうかとは思うけどスーツ姿はメッチャ格好いいし」
「…お前、ケンカ売ってんのか?」
「違います!!私は…!!」
好きなんです!!
喉まで出かかって、声にならずに消えた。
言ってどうなるの?
振られるだけじゃん!!
そしたら、バイトどうするの?
仕事やりづらいじゃん(泣)
「なんでもないです…」
「ああ?なんじゃそりゃ」
ちょっと呆れたように新垣さんは笑って、よく分からない自分自慢を始めた。
私はそれを聞き流しながら流れていく景色をみていた。
「おい、着いたぞ」
肩を揺すられて、寝てしまっていた事に気づいた。
「お前はよく寝るな~」
「すいません…」
外を見れば夕暮れ時で、予定通りに帰ってきていた。
「ちょっと疲れたか?お前が元気ないと調子狂うわ」
そう言ってニカッと笑った。
「お前をさ、雇って良かったよ。職場は金稼ぎにくるとこで友達作りにくるとこじゃないって思ってたけどさ。お前が入ってから皆の雰囲気がいいんだよな」
新垣さんの言葉に目を見開く。
「やはりコミニュケーションは大事なんだと改めて気づかされたわ」
「…それって、誉めてるんですか?」
「俺は滅多に人を誉めないからな。貴重だぞ」
…誉めてるんだ。
「俺はお前の言う通り口が悪い。おべんちゃらも言えね~から敵も多い。だから、お前みたいに怯まずに絡んでくるヤツは貴重だってのは分かってるんだよ」
「は、はい…」
「だから、その…」
新垣さんにしては珍しく視線を泳がせてる。
「新垣さん?」
私が呼ぶと少し睨んてきた。
「さっき何言ったか覚えてないけど、傷つけたのなら謝る」
え…?
「お前と変な風になるのは つまらん!!ムカついたならムカついたと言え!!そりゃ言われりゃ俺も腹立つけど、お前と こういう言い合いするのは嫌いじゃないからな」
新垣さん…。
私が勝手に振られて落ち込んでるだけで新垣さんのせいじゃないんだけどな。
「なんのことですか?私は眠かっただけですけど~。でも新垣さんがどうしてもって言うなら仲良くしてあげてもイイですよ?」
精一杯の虚勢を張る。
「て、てめ~!!」
狭い車内で顔を真っ赤にして怒る新垣さんを まぁまぁとなだめながら、このままでもイイのかな?と思った。




