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フロンティア  作者: kisuke
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フロンティア序章8

 宇宙歴182年

 ダルダシア総督の命令により総勢1500機のエスポワールが惑星エデンへと向けてワープ航行を開始していた。惑星エデンからおよそ10万キロ離れた場所へとワープし隊列を組みソリテールとの距離が5万キロを切ったあたりで超長距離射撃によってソリテールを殲滅する予定となっていた。

 この日のために宇宙連邦も地球各国の代表たちも多くの資産を投入し自らの望む成果を上げるよう最善を尽くしていた。

 作戦決行の前日ユグドラシル計画の正式オペレーターとして決定していたエリナの自室にフリージア博士が訪ねてきた。

 フリージア博士は考えられうるすべての事態に対しての対策を講じておりそれをまとめた資料を届けに来た。その内容に目を通しエリナは自身がどれほどの危険を孕んだ計画に加担しているのかを知ったがフリージア博士の説得によりこの資料を各パイロットへと渡しさらに技術者たちに頼み込み人工知能へとインプットしてもらっていた。これにより少しでも被害が少なくなればと祈りながら。

 エスポワール全機がワープ航行を終えたのち各部隊をまとめる部隊長たちからリアルタイムでの映像が映し出されてた。

 その映像を第三司令部にてフェイトとルーシェは見つめていた。すでにエデンの周辺にはソリテールと思われる生体反応が確認されている、その数は未だ正確にはつかめておらず敵の戦力がどれほどのものなのかわからないまま彼らは掃討作戦を決行しようとしていた。

 時折聞こえてくるパイロット達の確認作業の声には緊張の色は見られず比較的良好な精神状態で戦闘に臨もうとしていることがうかがえた。

「今のところは問題なく進んでいるようね」

 ルーシェはひとまず安心したように肩の力を抜いていく、戦闘が始まる前からパイロット達が冷静さを失っていればそれだけで余計な被害が出ることは避けられなかっただろう。

「はい、ですが実戦の経験などほとんどない者たちの集まりですから指揮系統が乱れればそれだけで多くの被害が出ると予想されます」

「出来るだけのことはしたけど人工知能の推奨命令をしっかりと果たしてくれればそれだけで被害は少なくなるはずよ」

 二人は画面を見つめたままこの先訪れるだろう戦闘の被害を少しでも少なくなるよう祈っていた。

 一方司令部では作戦の最終確認とソリテールからの予想される行動パターンをマザーブレインに入力し、いかなる事態にも迅速に対応できるよう準備が進められていた。

「ダルダシア総督予定通り15分後にソリテールを射程圏内にとらえます、エスポワール全機武装を展開中問題なく作戦開始できます」

「わかった。作戦に変更はない、全機の準備が整い次第ソリテールに攻撃を開始。そこから得られるデータを逐一マザーブレインに入力せよ」

「「「「「了解」」」」」

 司令部の中は程よい緊張感に包まれていた。人類が初めて接触した地球外生命体との戦闘に向けて誰もが自身に出来るすべてを成そうとしていた。

「エスポワール一番機から司令部へ全機の武装展開終了、目標地点まで残り距離200目標地点到着と同時に作戦を決行する」

 この作戦の指揮権をダルダシア総督から預かっている一番機から作戦決行の報告を受け司令部内にさらに緊張がはしる。宇宙に住まう人々だけではなく地球に住む者たちも固唾をのんで作戦を見守る、一秒一秒が非常に長く感じる中ついにエスポワール全機が展開を終え各機ソリテールをロックオンしていく。

 陣形は500機ずつに分けられた三段陣形で撃っては引き砲身の冷却と次弾の装填及び目標までの着弾誤差を修正していく形になっていた。

「全機目標地点へ到着、武装展開完了最終ロック解除。第一段目標をロック第一段撃て!」

 一番機からの命令に従い第一段の500機から一斉にパルス砲が放たれていく。その光景に多くの人々は歓喜の声を上げた。それほどまでに美しく圧倒的な光景であった。

 第三司令部でこの光景を見ながらルーシェの顔には緊張の色が見られたがフェイトはこれまでと変わらず無表情なまま画面を見つめている。

「これでもうソリテールとは殺し合うしかないのね」

 ルーシェが漏らした言葉にフェイトは彼女の方を見ることもなく答える。

「私が作られた時点で人類はソリテールとの殺し合いを想定してると思いますが?」

「そうね、でももしかしたら他に方法があったのかもしれないわ」

「そうかもしれませんですがもう始まっているのです。迷うわけにいかないでしょう」

 フェイトの言葉に頷きながらもルーシェの表情は晴れなかった。

 司令部内では第一段の発射と同時にマザーブレインへとデータの入力が開始されていた。

 マザーブレインに入力されたデータを元にエスポワール全機へと更新データを送っていた。

「状況の報告を」

 ダルダシア総督からの求めに応じて各分野の責任者たちが立ち上がる。

「エスポワール第一段の攻撃はソリテールへと命中を確認しましたが現在それによるダメージは確認中です」

「パルス砲は異常ありません。第二段と入れ替わりながら砲身の冷却中です。第三段が発射終了するまでに問題なく冷却は完了します」

「マザーブレインからエスポワール全機へのデータ更新を完了しました。第二段の攻撃はさらに精度の高いものになるものと思われます」

 それぞれの報告を聞きながら満足そうに頷くダルダシア総督を横目にオペレーターのエリナはどんな変化も見逃さないようモニターを見つめながらエスポワールから送られてくるデータを精査していた。

 第一段の発射からおよそ90秒後第二段の発射が行われた。現在のところソリテールに被害と呼べるようなものは確認できていないが着弾は確認されておりソリテールに対していくらかの損害を与えていることは間違いないとされていた。

 だが、第三段がパルス砲を撃った直後にそれは起こった。

「一番機から司令部へ!ソリテールより高熱源感知!その数測定不能!」

 ソリテールから観測された熱源はこれまでに観測されていた高エネルギー砲の出力を遥かに上回っていることが確認された。

「エスポワールは全機回避行動!全出力をもってしてパルスシールドを展開しろ!」

 司令部からの通達を待たずに一番機から通信が飛ぶ。

 この命令を受けて各部隊長は部隊ごとにまとめて回避行動を取り始める、敵の数は未だ未知数でもし一斉射撃を仕掛けてきたならこの場に留まっては全滅は免れないだろう。

「ダルダシア総督!ソリテールからの高熱源さらに増えます!」

 司令部ではソリテールから観測されている熱源が増え続けていた。その報告を受けたダルダシアは努めて冷静を装い問いかける。

「ソリテールからの攻撃はどれほどの威力がある?」

「マザーブレインの計算ではこちらのパルス砲の数倍近くの威力と推測されています!」

「パルスシールドで防ぐことは可能か?」

「不可能です、距離5000以内での高エネルギー砲は防げますがあの出力では防げ切れません」

「エスポワール全機に告げる、緊急ワープ航行での離脱も視野に入れて人工知能にワープ座標を確定させろ」

 ダルダシアの判断は早かった。

 パルスシールドでの防御がかなわない以上無用な被害を避けるためにワープ航行での離脱も可能な状態にしソリテールの出方を待つ様だ。

「エスポワール全機緊急ワープ航行の座標を確定!起動させれば10秒以内での離脱可能」

 エスポワール全機が緊急ワープ航行の準備を終えたときソリテールからの第一射が放たれた。

「え?」

 一瞬の出来事だった。ソリテールからの発射を確認とほぼ同時に一番機が消滅した。

 誰もが言葉を失った、たった今起きたことが理解できていない。

 司令部で見ている者たちも人工島でモニターを見ている者たちも地球で見ていた者たちも何が起きたのかまるで理解が出来ていなかった。

 そんな中で最も早く現状を理解したのはオペレーターのエリナであった。

「エスポワール全機緊急ワープ航行で離脱してください!」

 エリナの叫び声にようやく周りの人々も現状を理解していく。

 だが、エスポワールのパイロット達は一部の者たちを除いて冷静さを失っていた。

 自分たちの知らない攻撃、避けることも防ぐことも出来ない状態で未だに多くの熱源がこちらに狙いを定めているのだから当然のことであった。

 途端に隊列は乱れエスポワール同士でぶつかり合っている、誰もが逃げようともがいている中ソリテールからの第二射が放たれていた。

 次に消滅したのは何が起こったのか理解出来ていても未だに動くことの出来なかった機体である。これもまた発射とほぼ同時に消滅していた。

 その光景を目の当たりにしたパイロット達の混乱はさらに大きくなっていく。

「エスポワール全機緊急ワープ航行を開始しろ!ソリテールの攻撃は一斉射撃ではない!今のうちに離脱するのだ!」

 ダルダシア総督からの通信を受けても彼らの混乱は収まらない冷静に対処出来ているのは第一次選抜部隊のメンバーだけだろう。

 それ以外の者たちは人工知能からの緊急ワープ航行での離脱推奨すらも聞いておらずただただこの脅威から逃げようと我を失っていた。

 第一次選抜部隊の者たちは何とかこの混乱を収めようと通信を送り続けるが聞こえてくるのは意味を持たない叫び声だけだった。

「フェイトこれは」

「はい、想定していたなかでも最悪の状況です。下手をすれば全滅もあり得ます」

「司令部に行くわ」

「無駄でしょう。これは命令のミスや判断ミスではなくパイロット達が冷静さを失ったことにあります。こうなってしまっては彼らが自力で何とかするしかありません」

 ルーシェはフェイトに冷静に諭されながら今の状況を打開する方法を考えていた。

 パイロット達が冷静さを失い統制のとれない状況に陥るのは想定した数あるパターンの中でも最悪の状況でありこればかりはこちらでどうにかできるものではないため出来ることは限られていた。

「現状はどうなっている!まだ離脱できないのか!」

 司令部内にダルダシア総督の怒鳴り声が響く多くの者たちは全力を尽くしてバックアップしているが肝心のパイロット達が混乱している状態ではその効果は余りにも薄いものだった。

「第一次選抜部隊の者達だけでも構わないすぐに離脱させろ!」

「ですがそうなれば現場の混乱は収まらず多くの被害が出ます」

 ダルダシアの苛烈な命令に対して一人のオペレーターが反論するがダルダシアの意見は変わらない。

「全滅するよりも少しでも優秀な人材を守ることが必要だ。今生き残れば次の戦いに向けてまた準備が出来るのだ!何としても撤退させろ!」

 ダルダシアからの命令はすぐに二番機へと通達されこの状況で冷静に判断できる者達はすぐさま緊急ワープ航行での撤退を開始した。

 混乱が収まらないまま一部の者たちが撤退を開始したのを見ていたルーシェとフェイトは司令部へと向かっていた。司令部の入り口には誰もおらず扉もロックなどは掛かっていないためすぐに入ることが出来た。

「ダルダシア総督!なぜ一部の者達だけが離脱しているのですか!この混乱を放置してはあの場にいる者達は皆死にます!」

 ルーシェとフェイトの登場に司令部の者たちはこちらを見るがすぐに視線は画面の方へと向けられる。

「誰の許可を経てここに来た!今君たちと議論している余裕はない!出て行きたまえ!」

「いいえ出ません。彼らを見殺しにするつもりですか?」

「このまま混乱を収めようとすれば優秀な者たちまで失うことになる!ならばこの状況でも冷静に判断できる者たちを優先して撤退させるのは当然のことだ」

「優秀ではない者たちは見捨てるのですか?」

「全滅すれば何もかもを失うのだ、それだけは絶対に避けなければならない!君の綺麗事に付き合っている暇はない!」

 ダルダシアはこれ以上話す事はないと言わんばかりに周りに指示を出していく。こうしている間にもソリテールからは攻撃が続いていた。

 現在ソリテールの攻撃を受けて撃墜された機体は20機に及んでいた。混乱しているパイロット達をワープ航行にて退避させようとオペレーターは通信を続けており恐らくエスポワールに搭載されている人工知能もワープ航行での離脱を再三推奨しているだろうが未だ多くのパイロット達は恐怖からかまともな判断が出来ていない。

 自分たちは人類の未来を切り開くとそう信じて多くの者が戦場に身を投じたがやはり得られている情報が少ないため予想外の出来事に冷静に対応できるほどの経験はなく次々とソリテールの攻撃を受けて散っていく。

「ルーシェ博士帰還したエスポワールに搭乗し向こうへ行こうと思います」

 フェイトからの突然の言葉にルーシェは一瞬何を言われたのか理解が出来ていない様だったがすぐに言葉の意味を理解するとすぐに格納庫へと向かい始めた。

「フェイト第二世代のエスポワールは第一世代と違って量産化することを目的としているわ。だから武装も装甲も人工知能もすべてが第一世代と比べてずいぶん劣っているわ、絶対に無理はしないで」

 司令部を出るときにダルダシア総督が何か言っていたように聞こえたが司令部内に響き渡る警告音と報告の声でよく聞き取れなかった。

「フリージア博士は反対されるでしょうね」

「そうね、第一世代で向かうならまだしも性能の劣る第二世代での出撃は認めてもらえないでしょうね」

「いいのですか?私が出たところで確実にあの混乱を収められると決まったわけではありません。私が許可なく出たことで貴方が罰を受けることになるかもしれませんが?」

「今更そんなことは気にしていられないわ、多くの人の命がかかっているのこの状況を変えられるのは貴方だけだもの」

 格納庫へと到着したときそこにはすでに帰還を果たした数機のエスポワールがハッチへと向かっていた。

「オルデアン技師!」

 ルーシェはそこに見知った技師の姿を見つけるとすぐに声をかけて事情を説明していく。

 当然すべてを話している時間はないためいくらか割愛されているだろうが。

「ルーシェいくらあんたの頼みでも宇宙連邦が所有してる機体に訓練も受けてない坊主を乗せてやることは出来ないぜ?」

「そこをお願いします。彼が彼だけがあの状況を変えられるかも知れないんです!このままではあの場に残っているたくさんの人の命が失われてしまいます」

「フェイトを出撃させるのは私も反対よルーシェ?」

 突然の声にルーシェとフェイトは慌てて後ろを振り向けばそこにはフリージア博士が何人かの研究者たちを引き連れてやって来ていた。

「フリージア博士ですがこのままでは」

 ルーシェは明らかにうろたえていたがそれでも何とか説得しようとしていた。

「きっとこうなると思っていたからわざわざ来たのよ。フェイトには第一世代のエスポワールで出てもらうわ」

 フリージアの言葉に今度こそルーシェは言葉を失った。

「フリージア博士第一世代のエスポワールはダルダシア総督により地下格納庫に置かれているはずですが動かせるのですか?」

「ええ、もちろん。その為に彼らを連れてきたのだもの。すでに何人かを向かわせて準備を進めているわ、後は少し調整すればすぐに出せるわ」

「わかりましたすぐに向かいます」

 フェイトは変わらず淡々としたやり取りでフリージアと共に地下格納庫へと向かい始めた。

「フリージア博士作戦はどのように?」

「フェイトにはソリテールの注意を引いてもらうためにワープ航行終了後ソリテールの第一警戒ラインとされている距離5000にまで接近してもらうわ。すでに掃討作戦は失敗に終わっていて超長距離射撃はもう撃たれていないからソリテールに接近すればそれだけで大半のソリテールはフェイトを攻撃するはずよ。まだ逃げられていない人たちも自分達へと攻撃が来ないことが分かれば少しは冷静に判断できるようになるでしょう」

「フェイトだけでソリテールの中心へと向かわせるのですか?ソリテールはまだほかにも攻撃方法を持っているかもしれません。あまりにも危険すぎます」

「わかっているわ。でも今の現状を変えるにはこれしかないの」

 確かにソリテールからの攻撃を止めるにはより近い距離に脅威となる存在を作り出すのが最も効果的だろう、だがいくら第一世代のエスポワールといえどたった一機でどれほどの数がいるかもわからない状況でフェイトに向かわせるのは大きな賭けであった。

「ルーシェ博士我々は出来ることをやってきました。今ここで出来ることをしないのはこれまでの私たちのやり方を否定します」

 フェイトの言葉にルーシェも覚悟を決める必要があった。多くの人の命を救うためたった一人で敵の真っただ中に向かうフェイトの覚悟を汚すようなことをするわけにはいかなかった。

「フリージア博士エスポワール発進準備整いました。フェイトとの同期を確認後いつでも出せます」

「わかったわ、フェイトあまり時間はないわ。すぐに調整して向かって」

「了解した。エスポワール起動 人工知能との同期を開始 異常なし 機体各部稼働確認 全武装チェック 長距離射撃用パルス砲 近中距離用パルス砲 近接格闘用パルスブレード 独立機動支援用パルスビット 全武装チェック終了 機体全チェック終了 いつでもいけます」

 フェイトがエスポワールの調整を終了させると地下格納庫の後部ハッチが開き始める。

「フェイト気を付けて」

 ルーシェが祈るような表情でこちらに通信を送ってくる。

 これまでフェイトと最も多くの時間を過ごしたのは間違いなくルーシェであろう。いつも食事を作り多くのことを教え時には教えられたエデンに向かうまで食事を作り続けると言う約束は果たせただろうがこんな形で送り出すことに悔しさを感じていた。

「ルーシェ博士私はまだまだ人たり得ません。教わりたいことも知りたいことも多く未熟です、ですからまたたくさんのことを教えてください」

「わかった。なんでも教えてあげるから絶対に帰ってきて」

 フェイトはわずかに微笑んだように見えたがその表情はすぐに真剣なものへと変わる。

「ワープ航行準備 目標座標を入力 座標の確定を確認 それでは行ってきます」

 フェイトが搭乗したエスポワールはワープ航行でソリテールとの距離およそ8000にワープした。

 掃討部隊はフェイトの後方に未だ混乱冷めやらぬまま必死に逃げようとしているがソリテールからの超長距離射撃は精密に一機また一機と確実に撃墜していた。

 すでに1500機いたエスポワールは700機程度までに減っていた。どれだけの数がワープ航行にて離脱してどれだけの数が撃墜されたのかは分からないがこれ以上被害を大きくしないためフェイトはソリテールへと向けて加速した。

「フェイトが行動を開始、近中距離パルス砲を展開し目標までの距離残り7000です。2分程度でソリテールの第一警戒ラインに到達する予定です」

「全力でバックアップして、これまでの攻撃から得られたデータを随時更新して全周囲モニターの情報処理もこっち受け持ってあげてエスポワールの人工知能には戦闘のバックアップ以外負担を掛けないように」

「ソリテール確認 これより迎撃態勢に入る 第一警戒ラインまで残り500 より多くの敵の注意を引き付けるため一気に中心部まで突入します」

「了解、ソリテールから全方位での攻撃が来ることが予想されるわ。その距離での攻撃はパルスシールドで防げるけど前面にしか展開できないから基本は回避優先にしてソリテールの撃破よりも敵の攻撃を引き付けることに集中して」

「任務了解 人工知能を回避行動の補助システムのみに移行する 全周囲モニターのバックアップをすべて任せます」

 フェイトが第一警戒ラインへの突入とほぼ同時にソリテールからの攻撃が放たれた。周囲に展開しているソリテールの数は確認出来るだけで1000を超えた。

 宇宙空間では前後上下の関係がなくなるため機体を囲むように展開しているソリテールからの攻撃は一部の隙もないように感じるほどあらゆる場所から発射されていた。

「ソリテールの超長距離射撃から近中距離用攻撃への移行を確認 さらに敵を引き付ける」

 弾幕と言う言葉では足りないほどの攻撃が飛んでくる中フェイトはさらに敵の中心へと向かって進んでいく。

「ソリテールは同士討ちを気にしない様ね。あれだけの密集地帯であれだけ撃てば味方に当たるはずだけどそれを何らかの方法で防いでいるのね、攻撃だけではなくこちらのパルスシールドと同じような形で防いでいるわ、フェイト同士討ちでの敵の撃破は見込めないわ」

「了解した。可能であれば敵の撃墜も検討する」

 ソリテールからの攻撃はさらに苛烈さを増していく。それと比例して超長距離射撃は減っていき少しづつ掃討部隊の混乱も終息を見せ始めていた。

「ダルダシア総督一機のエスポワールがソリテールの中心部へと攻撃を仕掛けています!ソリテールからの超長距離射撃が止まりました!」

「今のうちに全機緊急ワープ航行にて離脱させろ!」

 ソリテールとの戦闘で失った機体はすでに200機を超えていたがフェイトがソリテールへと攻撃を仕掛けたことにより掃討部隊へと向けて放たれる攻撃はなくなっていた。

「フェイト掃討部隊がワープ航行での離脱を開始し始めているわ。もう少しだけ耐えて!」

「了解した。このまま継続する」

 誰もがこのまま行けばうまくいくと被害を抑えフェイトも無事に帰ってくるとそう思っていた。

「フリージア博士!ソリテールが!」

 だがここで誰もが予期していないことが起きた。

 突然ソリテールたちが姿を変え始めた。これまでは飛行船のように楕円形の形であったがいきなり数倍の大きさまでに膨らむと新たな形を模り始めた。

「これは、エスポワール?」

「フリージア博士これは一体」

 一体また一体とソリテールたちは姿を変えていくそれはどう見てもエスポワールであった。唯一違うのはその色くらいだろう。黒と赤を基本としているエスポワールに対してソリテールは海を思わせる深い青だ。

「またしても想定外ですか。ソリテールの戦闘能力を図るため交戦を続けます」

 フェイトは姿を変えたソリテールへと向かって加速していく、だがソリテールはこれまでの戦闘では見せなかった高速での機動を開始していた。エスポワールの姿になったことで背部にスラスターを得ていたためと思われた。

「ソリテールがあれほどの機動を見せるなんて、数だけでも厄介なのにこれだけの機動をされたら!フェイトすぐに離脱して!」

「不可能と判断します ソリテールの機動力、攻撃性能、数、これらの要因がワープ航行での離脱を不可能にしています。無理矢理ワープ航行での離脱を試みた場合最悪数百のソリテールがともについてくる可能性があります」

 エスポワールの姿を手に入れたことによりソリテールは更なる脅威へと進化した。性能までは完全に一致しているわけではないが元々がこちらの性能を上回っておりエスポワールの優位性はこれにより一気に失った形となっていた。

「フリージア博士このままではフェイトが!」

「そうね、フェイトまだ一度も試したことがないけれどこの状況を打開する方法が1つだけあるわ。試してみる覚悟はあるかしら?」

「肯定 現状では有効な打開策なし 人工知能も回答不能との提示」

「そう、わかったわ。エスポワールの全リミッターを解除して、ソリテールから得られたパーツをオーバーロードさせることで一時的に5倍から10倍の性能を引き出すことができるようになるわ、でもそれを使い切ったらエスポワールの全出力がダウンして動けなくなる。理論上の稼働時間は60分でも戦闘でのエネルギー消費量を考えたら30分程度しか持たないわ、それまでにワープ航行にて離脱出来る様にしないとどうにもならないわ」

「了解した。人工知能に全リミッターの解除を要請 認証 オーバーロード開始」

 エスポワールの全リミッターが解除されオーバーロードが始まる。すべての出力が上限を振り切りこれまで以上の性能を引き出す。だがそれと同時にエネルギー残量が一気に減っていく。

「人工知能の計算では戦闘可能時間20分と推定 これより離脱を開始する」

 エスポワールの異変を感じてかこれまで以上にソリテールからの攻撃は密度を増していく。

「離脱のためソリテールの排除を開始 パルスブレード展開」

 手始めに最も近くにいたソリテールへと切りかかる、自身の視界を妨げないよう軽く横からの一閃ソリテールの腰辺りを狙った一撃をソリテールは後方へと退避することで避けようとしたがフェイトはパルスブレードの出力上げ刀身を伸ばすことで回避を許さない。

 姿が変わっても体組織までは変えられないのかこれまでと同じようになんの抵抗もなく振り切るとソリテールは上下に分かれて反応をなくした。

 周囲に展開しているソリテールはそれを見て近接格闘では不利と判断したのか距離を取り高エネルギー砲での攻撃に切り替えてきた。

「判断が早い 近中距離用パルス砲展開」

 前面からの攻撃はパルスシールドで防ぎ側面や背後からの攻撃はすべて回避する、人工知能は回避行動の補助にすべてを回しており攻撃を仕掛ける際はすべて自身の判断しかなかった。

 全周囲モニターから送られてくる情報はソリテールが姿を変えて高い機動性を得たことにより莫大な情報量となっていたがそのすべてをフリージア達に任せているためフェイトや人工知能への負担はなかった。

「フェイト!後方から長距離射撃での狙撃が来るわ!」

 ソリテールたちは戦闘の中でも学習し進化しているのか長距離射撃での狙撃、これまでは見られなかった連携行動などでこちらを攻撃してきていた。

 後方からの狙撃を右へと側転の要領で回避すると同時三体のソリテールが接近してきた。

 右手に側に見えるソリテールはこちらのパルスブレードを押さえるようにその体をぶつける勢いで突っ込んできている。

 フェイトは構わずそのままパルスブレードを腹部に突き刺すと瞬時に出力を最大にし頭部を破壊するためそのまま上へと断ち切った。

 こちらの注意が右側にそれている間に左後方から接近していたソリテールがこちらの動きを止めるため背部スラスターを狙って射撃してくる。背面にはパルスシールドを展開できないためパルスブレードを振り切った勢いを殺さずにそのまま前転の要領で回避、敵の位置はすでに確定しておりそのまま左手に展開しているパルス砲で敵を撃ち抜く。

 最後に正面から接近していたソリテールをパルスブレードの出力を上げて頭から真っ二つにすると周りに展開していたソリテールたちはすでに距離を十分にとっており再び弾幕と言う言葉では足りないほどの攻撃が襲ってきた。

「残り戦闘可能時間13分 現状の打開のため高出力パルス砲を最大出力にて照射し敵陣の突破を図る」

「了解したわ。背後の敵陣は他に比べてまだ敵の数が少ないわ、そこを撃って抜けないさい」

「了解した。 高出力パルス砲展開 最大出力での発射まで17秒」

 ソリテールからの濃密な弾幕を掻い潜りながらフェイトは狙いを定めていく。すでに全周囲モニターからの情報で狙う位置は確定しているあとは充填と同時に発射しスラスターの最大出力で離脱を図るだけである。

「充填完了 目標をロック 照射」

 これまでの出力とはまるで違うパルス砲の攻撃に何体かのソリテールは回避が間に合わず消滅していく。そこに出来た包囲網の穴を逃さずフェイトは一気に離脱を開始した。

 フェイトが第一警戒ラインである5000の距離に到達したあたりからソリテールの攻撃は次第に収まっていく、それでもエスポワールの姿を模ったソリテールからは長距離射撃が続いておりソリテールの行動パターンが変わったことは間違いなかった。

「安全領域までの撤退を完了 オーバーロード終了 これよりワープ航行にて帰還する」

 こうしてソリテール掃討作戦は終わりを迎えた。

 出撃した1500機のうち撃墜されたのは約350機フェイトが到着した時点で700機程度がいたためフェイトが来るまでに離脱したのはおよそ450機程度だろうしかもそのほとんどが第一次選抜部隊のメンバーであり多くの被害が出たのはここ数年の訓練を受けたパイロットだった。

 この作戦の失敗によりダルダシア総督は退任、その後任として選ばれたのはハーロットであった。

 この戦闘から得られたデータで人類はエデンを第二の星として暮らすことを諦める意見なども出てきていたが結局は保留と言うことになりまずはこの戦闘で負った人々の傷を癒すことが優先されることとなった。

 そしてソリテールへと向かって単機での戦闘を繰り広げたフェイトのことは一部の者達には知られてしまったが未だ多くの人々には発表されず多くの謎を残したまま人々の記憶に残る敗戦となった。

前回の投稿から一週間以上空いてしまい申し訳ないです。

これにてフロンティア序章は終わり次回からは第一章へと変わります。

今回は初めて一万字を超える作品となっており読み手の皆様は読むのに時間がかかるかもしれませんがよろしくお願いします。

途中何度も内容を変更したため時間がかかってしまいましたが自分としてはある程度納得できる内容になっていますので楽しんでいただけると幸いです。

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