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フロンティア  作者: kisuke
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フロンティア序章7

 宇宙歴181年

 およそ15年間宇宙連邦の総督を勤め上げたハーロット総督が解任され新たにダルダシア提督が新総督として着任していた。ダルダシア総督は地球各国の代表たちと共にソリテールの掃討作戦へと向けて計画を進めていた。多くの人々の期待を胸に宇宙連邦と地球各国の代表たちの連携により本来の予定よりも早くエスポワールの製造とパイロットの育成は進められていた。

 だがフリージア博士率いる極秘ユグドラシル計画チームは研究を凍結され第一世代型エスポワールの調整を進めることも出来ずまた正規計画として進められているユグドラシル計画への参加も認められることはなかった。

「フリージア博士このまま計画を凍結されたままでいいのですか?」

 フリージア博士の自室へとやってきているのはフェイトとルーシェだ。これまで何度も話し合ったことだが何も出来ない自分への苛立ちと多くの危険を孕んだ計画はその危険性を知る者たちにとってはただの無謀な作戦としか思えなかったのである。

「今は何を言ってもダルダシア総督は意見を変えないでしょう。仮にダルダシア総督に虚偽の報告をしたところで監視がつくことは間違いないでしょうからすぐに凍結されてまた今の状況に戻るだけよ」

 フリージアの言葉は冷たく聞こえるかもしれないがもしも虚偽の報告をしてもう一度凍結されたならおそらくフェイトの身の安全すら保障されなくなるだろう。人となろうとする人工生命体を強制的に排除するくらいのことはおそらくやってのけるとそう考えているのであった。

「マザーブレインからも今回の作戦の成功率は極めて低いと示されているはずですが現在の状況では予測するために必要なデータ不足として明確な提示はされていないようです」

「例えマザーブレインが否定したとしても所詮は人工知能のいうことだと無視するでしょうね。宇宙連邦も地球各国の代表たちも今更作戦を中止することはないでしょう」

 結局はこの作戦の失敗をもってダルダシア総督からの計画の凍結解除を待つ以外に彼女たちに出来ることはなかった。

 この作戦によりどれだけの被害が出るのかそれは全く予想のつかない状態だがフリージア博士達は出撃したおよそ半数は失うことになると予測していた。

 もっともソリテールが超長距離射撃に対してどのような対応をしてくるのかわからない以上誰にも明確な答えが出せないものであるがこれまでのデータからの算出でソリテールが反撃を行った場合の被害予想は出していた。

「わずか一年程度の訓練しか受けていない者たちまで出撃させるのですからまともな統率はあまり期待できないでしょう。まとめているのは第一次選抜部隊員ですが彼らは指揮官として訓練されているわけではありませんからそれによりまた被害が拡大するでしょう」

 ルーシェはその状況でありながら何もできない自分のことをずいぶんと責めているようだが今回の作戦における責任などは何もないである。それでも多くの人々が傷つくであろうこの作戦を止められなかったという自責の念は誰よりも大きいだろう。

「ルーシェ博士私たちは私たちの出来るだけのことをしてきました。貴女が自身を責める必要などないと判断します。そして私たちがやらなければいけない事はこのような無謀な作戦を二度と実行させない事だと考えます」

 ルーシェはフェイトの言葉にわずかに顔を上げるがその表情はやはり暗いままだ。

「わかっているけどそれでもと考えてしまうものなのよ。出来ることがあるはずなのに何も出来ないのは辛いわ」

 この場にいる二人はルーシェの内心をよく理解しているだろう、出来ることがあると言うのにそれを成すことが出来ないという状況は余りにも辛く苦しい状況だろうどれほどの意味があるかではなく出来ることをやるということが人にとっては時として救いになるのだから。

 だが一方で多くの人々はこの作戦を支持し期待と希望を抱いていた。宇宙に住まう人々は新たな星を地球に住まう人々はその星で得られる利権とさらなる人類の繁栄を何も疑うことなく信じていた。

 こうして着々とソリテールの掃討作戦は準備を進めていった。

 宇宙歴182年

 約二年間に及ぶエスポワールの建造とパイロットの育成を終えいよいよ明日ソリテール掃討作戦は実行の日を迎えようとしていた。

 この日は宇宙連邦総督ダルダシアによる演説が予定されていた。この一年どれだけの人が待ち焦がれていただろう。人類の新たな歴史の一ページを迎えるであろうこの日は多くの人々により盛大な宴で盛り上がっていた。

 エスポワールの建造に携わった人はこれまでの苦労を労い合いパイロットとしての訓練を受けた者たちはこれまでの訓練を思い出しながら互いに笑い合っていた。

 時刻は18時宇宙連邦総督ダルダシアは演説用に用意された会場へと向かっていた。ここで明日の作戦に向けての演説を行い人々の意欲を大いに煽ることになるだろうと確信しながら。

 ダルダシア総督が会場に姿を現すと会場中から大きな拍手が沸き起こる、この会場には計画に携わった者達だけではなく多くの一般市民も招かれていた、この会場に入れなかった人々にはモニターを通してすべての人工島へと配信されることになっている。もちろん地球にもこの式典の模様は中継されておりまさに人類全体が彼に注目していた。

「宇宙に人が暮らし始めておよそ180年ついに我々の悲願の日が明日へと迫っています!我々宇宙連邦は明日惑星エデンにはびこるソリテールの掃討作戦を実行することをここに宣言いたします!」

 ダルダシア総督の宣言ののち一拍の静寂が訪れその直後に盛大な拍手に包まれる。多くの人々は周りにいる誰かと共に喜びを分かち合っている、それほどまでに人々にとっては待ちわびた瞬間なのだ。

 ダルダシア総督は辺りの熱が冷めやらぬまま言葉を続けた。

「明日のソリテールとの戦闘で多くの者たちは傷つくかもしれない、志半ばに散っていくかもしれないだが彼らの思いは願いは我々が受け継ぎ惑星エデンの速やかなる発展と人類のさらなる繁栄を約束するものである!これからの未来をともに歩めることを私はこの上なく感謝の気持ちで溢れているエスポワールパイロットの諸君明日は何も恐れずただ我らの未来を切り開いて見せてくれ、君たちが人類の宇宙史に新たな一ページを刻むことは間違いないことだろう。諸君らの健闘を祈る」

 言葉を言い切るとダルダシア総督は即座にその場を離れていく、その後ろ姿を見ながら多くの人々がいつまでも盛大な拍手を続けた。

「これでもう後戻りは出来ないな。あとは明日の彼らに託すしかないか」

 ダルダシアは宣言を終えたのち控室にて人知れずつぶやいていた。彼とて無能ではない、この作戦がどれほどの危険なことかわかっているだがそれでもやらなければならない理由がある、だから彼はそれを成すために多くの犠牲を払うことを選んだのだ。このような決断をしなければならないのが自身が最後であることを祈りながら。

 式典が終わりを迎えても人々の熱気が冷めやらぬまま未だに多くの人が屋台で店内で家でバカ騒ぎを続けていた。

 だがその一方で宇宙連邦本部にあるフリージア博士の自室にはユグドラシル計画の参加メンバーが集まっており明日に備えて出来る限りのことを考えていた。例え受け入れられずとも可能性を信頼できるオペレーターに提出しパイロットたちに伝えるだけで生存確率は大幅に上がるだろう。

 知っているだけで人はそれを警戒し常に頭の片隅に置いておくようになるそれだけで正しい判断が下せるようになるだろう。

 そのため研究者たちは考えられうる限りを考えまとめていた。有り得ない事は一切ないとそう思えるほどバカげた考えも出たがそれすらも可能性の一部として記載していた。

「これだけの意見が出たけれどまだ何かあるかしら?」

「データ不足ですがこれだけのデータがあればパイロットたちの生存確率は大幅に上がると思います。現状これ以上の想定は不可能だと考えます」

 フリージアの言葉に答えたフェイトの答えに誰もが頷き合う。それだけの意見が出たところでフリージアは自室を出て明日のオペレーターとなるエリナに届けるべく部屋を出ていく。

「これで我々に出来ることは明日の作戦の成功を祈ることぐらいですね」

「そうね、私たちに出来ることはここまであとは信じましょう。出来るだけ被害が少なくなることを」

 この場にいる誰もが作戦の失敗をほぼ確信しているがそれでも失敗すれば多くの命が失われることになるそれを知っているからこそ出来ることをやり祈るのだどうか少しでも無意味に命が散ることがないようにと。

「ルーシェ博士明日はどうなされますか?」

 フェイトの問いかけにルーシェは迷いながらも答える。

「そうね、明日の戦闘は中継されるから第三司令部でモニターを見るつもりよ。いざとなったら司令部に乗り込んででも被害を抑えるために尽力するつもりよ」

 ルーシェの言葉に一部の研究者たちは苦笑いを浮かべながらもそれでこそ彼女だと言わんばかりの表情をしている。

「そう言われるだろうと思っていました。明日は私も同行してよろしいですか?司令部に乗り込むのであれば多少は役に立つと思います」

「フェイトそれはダメよ。私がいなくなっても研究は再開出来るけど貴方にもしものことがあったら再開できないのよ?」

「わかっています、ですがルーシェ博士は約束してくださいました。私がエスポワールに搭乗し惑星エデンに向かうまで毎日食事を作ってくださると」

 フェイトの言葉にルーシェは一瞬呆けた顔を見せるがすぐに我に返ると。

「確かに約束したわ。でも今はもうあの時とは状況が違うことは分かっているでしょう?」

「はい。ですが約束は約束です」

 フェイトの一切譲るつもりのない言葉にルーシェは周りを見て助けを求めるが誰もが苦笑いを返すだけで彼女を助けるつもりはない様だ。

「わかったわ。でも司令部に乗り込むのは本当に最終手段よ?」

「了解した」

 その後フリージアが戻るまでいくつかの打ち合わせが行われいざとなれば地下の格納庫にあるエスポワールを起動させることまで決定していた。

 こうして様々思いが渦巻く中ついに作戦決行の日を迎えた。

「エスポワールの起動を急げ!全機発進準備を後15分で整えろ!」

「メディカルチェックの終わったパイロットから順番に乗せろ!発進前にぶっ倒れたらどうするつもりだ!」

「バカ野郎!部隊長から優先してメディカルチェックをやれ!指揮官のいないバカどもがあちこちをうろついても邪魔なだけだ!」

 決行当日、発進準備のために多くの整備員があちこちで怒鳴り声をあげている。

 この作戦に失敗は許されないだけに彼らの気合いもこれまで以上でありそれだけに周りは熱気で覆われている。

その熱気に充てられたように人々も昨日さんざん大騒ぎしたと言うのに今日もまた盛大に盛り上がっている。

「現状何の問題もないか?」

 発進準備を進めるなか管制室には宇宙連邦総督ダルダシアが視察にきていた。

「はい、現在のところ大きな問題はありません。メディカルチェックが終わったものから随時エスポワールに搭乗し発進予定地点で待機中です」

 報告を受けたダルダシアは満足そうに頷くと彼らに一言ずつ声をかえ管制室を出て行った。

「全機発進準備完了です。パイロットのメディカルチェックも全員異状なくあとは閣下のご命令を待つばかりです」

 ダルダシアが司令部へと到着したときにはすべての準備が整っていた。これで後は彼の命令一つで全機惑星エデンへとワープ航行を開始し目標地点で隊列を組んだ後に超長距離射撃によってソリテールを掃討する。

 ダルダシアは司令部の全員が見つめる中席に着き深く息を吸い込んだ。

「では、ソリテール掃討作戦開始」

「「「「「了解」」」」」

 普段通りの声音で伝えられた言葉に司令部にいた全て者たちが全力で答える。

 命令を受けた管制官は各エスポワールの部隊長へと命令を伝達しそれを受けた部隊長から各部隊員に告げられる。

「総督閣下からの勅命である!各機命令遂行に全力を尽くせ!全機発進!」

 この日発進したエスポワールは総勢1500機である。第一次選抜部隊に選ばれた500人を中心に新規に募集し育成した人数は1000人わずか一年程度の訓練であるがこれまでのデータから得られた経験を元に1000人のパイロットはそれぞれにあった訓練プログラムを受けていた。

 こうして総勢1500機のエスポワールは惑星エデンへと向けてワープ航行を開始ついにソリテールとの戦闘を迎えることになる。

 そして司令部の近くに予備として作られた第三司令部にてルーシェとフェイトはモニターを真剣な表情で見つめていた。

 この後に起こる悲惨な惨劇を予期せぬままに。

いよいよ大詰めを迎えてきたフロンティア序章第七話になります!

ここに来るまでにずいぶんと内容を変更してきましたが何とか形になってくれて一安心しています。

予定としては序章は次回で終わりの予定ですが若干終わる気がしません...

これまでよりも長い一話にするか途中で切って二話投稿するかはまだ決めていませんが決まり次第活動報告などで報告しますのでよろしくお願いします!

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