表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フロンティア  作者: kisuke
7/20

フロンティア序章6

 宇宙歴181年

 多くの人々の思惑が渦巻く中宇宙連邦本部では一つの動きがあった。ソリテールに対して超長距離射撃によってソリテールを掃討する作戦を推し進めてきた一派が地球各国の支持と支援を受けてハーロット総督の反対を無視する形で実現へと向けて計画を進め始めたのである。

 この作戦の実行を最も後押ししたのは地球各国の代表たちであった。その大きな理由としては新しい惑星の開拓には多くの人材とこれまでに培ってきた多くの技術が必要であり自国が保有する優秀な人材を派遣することによりエデンから得られるであろう多くの資源を目当てに地球各国の代表たちは宇宙連邦本部の一部の者達を後押ししていた。宇宙連邦総督ハーロットは最後まで反対の姿勢を崩さず地球各国の代表たちに幾度も掃討作戦の危険性を訴えていたがそれが認めれることはなかった。

 この決定を受けて地球と宇宙連邦が所有するすべての人員を用いてエスポワールの建造とそれに搭乗するパイロットの育成が進められた。この作戦の実行によりハーロット総督はフリージア博士率いるチームにいくつかの工程を抜かす形でフェイトの実戦投入へと向けた調整を進めるようフリージア博士に命令を下していた。

「上層部が上層部なら地球の代表たちも代表たちですね。現状の戦力でソリテールの掃討作戦を実行しようとするなんて人類を破滅に追い込むだけだと言うことが分かっていないわ。これまでの多くの犠牲をすべて無駄にするかもしれないと言うのにどうして」

 ルーシェはフェイトと共に地下の格納庫に向かいながら強い憤りを感じていた。

「少なくとも宇宙に住まう人々が新たな星を求める理由は理解しています。問題なのは人々のその思いを利用し自らの利権しか考えられていない者たちが上層部にいるということでしょう」

 フェイトは冷静に感情に流されることなく自身の意見を告げる、その意見を聞きながらルーシェは冷静さを欠いていた自身を戒めながら今後のことを考える。

「本当なら貴方が実戦に投入されるのはもっと後の予定だったのにいくつも予定を前倒しにしなければいけないなんてね」

「自身が実戦に投入されることにより少しでも損害が抑えられるのであればこれもまた必要なことだと判断しています。またこれまでの調整もすべて問題なく終えているためルーシェ博士が危惧するようなことが起きる可能性は極めて低いものと考えています」

フェイトの言葉にはルーシェを含めた多くの研究者たちへの信頼が表れていた。それだけの信頼を持てる程度には研究者たちとの仲は良好である。

「貴方がそう言ってくれるなら余計な心配をしてもそれは私たちが貴方を信頼していないことになるものね。これから先きっと貴方はいろいろなしがらみがあると思うけど少なくとも私たちは何があっても貴方の味方だからいつでも頼ってね?」

「了解した」

 知らないうちにずいぶんと弱気になっていることに気づかされ自分よりもフェイトの方がよほど未来のことをしっかりと考えていると実感し素直に彼の成長を喜んでいた。

 この日地下の格納庫に集まった研究者たちは正規計画となる前からユグドラシル計画に参加していたメンバー全員である。エスポワールの機体設計などに関わっていない研究者たちも集められフリージア博士からの今後の方針が伝えられることになっていた。多くの研究者たちはフェイトの実戦投入へと向けた今後のプランの説明がなされるとそう思っていた。

「全員集まったわね。今日はみんなに報告しておく事があるの、みんなも知っての通り宇宙連邦の上層部と地球各国の代表たちによってソリテールを超長距離射撃によって殲滅する掃討作戦が推し進められているわ。ハーロット総督も尽力してくれたけど残念ながら実行に向けて準備が進んでいる状況よ。これを受けて私たちは本当ならフェイトの実戦投入に向けての調整を急ぎ進めなくてはいけないのだけど私はこれを拒否しました。理由としてはどんなことがあってもフェイトだけは失うわけにはいかないからよ。人も第二世代のエスポワールも替えがあるけれどフェイトと第一世代のエスポワールは替えがいないの、確かにフェイトを実戦に投入すれば多くの人の命が救えるかもしれないでもそれによってフェイトを失えばユグドラシル計画は失敗に終わるわ。よってフェイトとエスポワールの調整は予定通りに行います」

 フリージア博士の説明に多くの研究者たちは言葉を失っていた。フェイトの調整を急ぐわけではなくこれまでの予定通りに進めるとなると上層部がソリテールの掃討作戦を開始するまでに実戦投入できる段階まで調整を進めることは出来ない。しかもフリージア博士は拒否したと言ったそれならばおそらくハーロット総督からの命令があったはずである、それを拒否するとなるとハーロット総督の援助もなくなり研究などを満足に行うことが出来なくなるのではないかと多くの不安が感じられた。

そんな不安が満ち溢れている中真っ先に意見を述べたのはフェイトであった。

「フリージア博士の決定には同意できません。現状を考えればハーロット総督の判断は正しいものと思いますが?」

「残念だけどこれはもう決定事項よ。変更はなし、ハーロット総督のことも気にする必要はないわ」

 フリージア博士の断言を聞きながら今度はルーシェが確認するように問い始める。

「フリージア博士それは宇宙連邦にこの計画のことを公にするとそうおっしゃるのですか?」

「いいえそれはできないわ。そんなことをすれば確実に地球各国の代表たちに横槍を入れられることは分かりきっているもの。近いうちにハーロット総督は解任されて新たにダルダシア提督が就任されることがほぼ決まっているわ。ダルダシア提督にはすでに話を通してあるから例えハーロット総督からの援助がなくなっても問題なく研究は続けることが出来るわ」

 この言葉には多くの研究者たちが驚きを示していた。ハーロット総督の解任は一部の者たちにしか伝えられておらず知らぬものが多いことも不思議ではないだろう。

 ユグドラシル計画が実行に移されたことにより多くの思惑も動き始めていた。ハーロット総督の解任は宇宙連邦上層部の過半数に及ぶ幹部たちの決定によりその日の午後に全市民へと向けて発せられた。

 それに伴い新総督のダルダシア提督の就任も発表されハーロット総督の解任からわずか二日でダルダシア提督は総督へと着任した。

「フリージア博士は今回の作戦が成功すると考えておられるのですか?」

「成功しようが失敗しようが私たちの計画には関係ないことよ。例え成功したとしてもソリテール以外の地球外生命体が存在している可能性もある以上私たちの研究はなくならないわ」

「ですが今回の作戦の失敗でソリテールがこちらへと攻撃を仕掛けて来たら人類は滅ぶかもしれないのですよ?」

「例えどのような結果になったとしても私たちには作戦の否定権はないもの。どのみち作戦は実行されて何らかの結果がでるわ。私たちは私たちの出来ることを確実にやり遂げなければならないの、理解できなくともこれからも予定通りに調整を進めるわ」

 フリージア博士の頑なな姿勢にフェイトもルーシェも他の研究者たちも何も言えなくなっていく。だがその一方で多くの者たちはこれまで通りの予定で進めることに安堵してもいた。わずかな可能性でしかないが予定を早めることで機体やフェイトに何らかの問題が発生したとき対応できなければこれまでの自分たちの研究がすべて無駄になるのだから自然と多くの者たちは賛同していった。

 こうしてフリージア博士によって集められた面々はそれぞれの思いを抱きながらもこれまで通りの予定で調整を進めていくことに同意しこの日は解散となった。

 ルーシェはフェイトと共に彼の自室へと向かいながら納得のいかない決定に不満を漏らしていた。

「フリージア博士は間違っているわ。この計画さえ成功すればそれですべてが解決すると思っているのね、でも本来の計画は人工生命体の量産による人的被害の軽減なのにまるで貴方さえいればソリテールをすべて排除できると思っているように感じるわ」

「現在までに得られたデータからの計算上ではどれほどの性能を有していても単機でのソリテール殲滅は不可能と考えられる。それほどまでにソリテールの総数は多く確実に予測不可能な事態が起きることは必然と思われます。よってフリージア博士の判断は合理的ではないと思われますが...」

 フェイトにしては珍しく言葉を選ぶように考え込み結局は途中でやめてしまう。

「どうしたの?何か言いたいことがあるなら遠慮なく言っていいのよ?」

 ルーシェに促されフェイトは話しを続けた。

「はい、フリージア博士の判断は合理的ではありませんが組織として考えたときその判断は正しいものと考えます。あらゆる事態を想定して調整を進める過程に不要なものなどありません、例え可能性としては低くとも0ではない以上わずかな危険を排除しようとするのは間違っていないかと」

 フェイトから告げられる言葉は確かに間違っていない事だろうフェイトは人工生命体でありその脳も人工知能と比べてもその性能は高いものであることからこのような考えが出ることは必然であろう。そしてそれを分かっていても納得できないのが人間であり納得できてしまうのが人工生命体なのだろう。

「そうね。フリージア博士はこの計画のために人生の半分以上を費やしてきたもの絶対に失敗したくないでしょうね。でもそのために多くの被害が出ることも厭わないのは私にはどうしても受け入れがたいことなのよ」

 もちろんそれによりフェイトやエスポワールに何らかの問題が生じることも理解しているが確実に多くの被害が出る作戦に対して何の対策も講じないというのはルーシェにとってはまた理解しがたいことであった。

 ルーシェの言葉にフェイトはそれ以上言葉を続けることが出来なかった。

 優秀であるが故にどちらも理解しまたどちらも正しいと思ってしまう。ただただ機械的に考えることをやめているフェイトにとってはこのジレンマが何とも歯がゆく思えるがこれが人に近づいている証拠であるとそう思うことで自分の中に浮かび上がってくる人工生命体としての欠陥を受け入れていた。

 二人がフェイトの自室へと到着してすぐに来客を知らせるブザー音が鳴る。

 二人は顔を見合わせながらお互いに来客の予定を聞いていないことを確認するとルーシェが対応した。

「はい、ルーシェですがどちら様でしょうか?」

「ルーシェ博士が一緒に居るのかそれは都合がいい。ダルダシアだが少しフェイトと話がしたいのだが中に入れてもらってもいいかな?」

 外から聞こえてくる声はハーロット総督と比べてずいぶんと若く聞こえる、年齢はそれほど変わらないはずだがダルダシアの声には未だよくとおり扉一枚をはさんでも問題なく聞き取れていた。

「ダルダシア提督!すぐにお開けします」

 予想外の来客にルーシェは少し慌てながら急ぎ扉を開ける。そこには齢60を過ぎてなお衰えない肉体を有しているダルダシア提督がにこやかな笑顔を向けながらそれでいてこちらを威圧するような雰囲気を纏いながら立っていた。

「突然すまないね。だが今後人類の未来を担うであろう彼を一度見定めておきたいと思ってね。この後総督就任の式典準備などがあって時間を作れそうにないものでね、そうなる前にぜひ話してみたかったのだよ」

 ダルダシア提督は笑みを崩すことなく部屋に入るとフェイトと対面になるように席に着きフェイトの観察を始める。その視線はあまり歓迎されるようなものではなかったが今後の人類の未来を託すに足るかどうかを見極めるのであれば仕方なかったのかもしれない。

「ダルダシア提督お話と言うのは何でしょうか?」

 フェイトはダルダシアの観察が一段落したであろうところで声をかける。

「いやなに、それほど難しい話ではないよ。私もハーロット総督とは親友でね幼い頃から二人でこの広い宇宙のどこかにあるまだ見ぬ我らの母なる星についてお互い熱く語ったものだよ、もちろん君のことは総督就任が決まった時に聞いてずいぶんと驚いたが私個人としてはこの計画を公にしても構わないと思っていてね。無論フリージア博士やハーロットの意見を聞いて今はまだ公表しないがね。私が君にお願いしたいことは1つだけだ、君は人として生きるために教育を受けているようだが私は君に人にはなってほしくないのだよ。人工生命体は人工生命体であるべきだ人の姿を模っていても君は人とは違う、今後人工生命体の量産をするのであれば君たちにはまた別の形で人権と等しいだけの権利を与えるつもりではあるが君が人として認識されては今後生み出される人工生命体も人として扱わなければいけなくなる。それは困るのだよ、人の姿でありながら人以上の能力を有している君たちが人として扱われては一般の人々の生活に大きな影響を与えることになるだろうそれは断じて許されない。理由はわかるだろう?」

 ダルダシア提督の言葉にルーシェは怒りも露わにしているがフェイトがそれを制して話し始める。

「ダルダシア提督のご意見は理解できます。人工生命体は人の姿でありながら人以上の能力を有しています、それは本来であれば人ならざる所業でしょう。ですが私は人として生きていこうと思います。例え貴方が宇宙に住む人々が世界が私を人と認めなくとも私は人として生きます、ほかの誰でもない私自身がそれを望んでいますので」

 ダルダシア提督の言葉に一切臆さずフェイトは言い切っていた。フェイトには人と生きるようにと指示されたプログラムは存在しない。フリージア博士はフェイトを人として育てようとしたが結局はフェイト自身がそう望むかどうかに託されていたのだから。

「なるほど、君も一筋縄ではいかないか。だがそれならばこちらとしては君とエスポワールの調整に対しての援助は出来ないな」

 ダルダシア提督はいきなりの援助の拒否を提示してくるがフェイトは顔色一つ変えずに問いかけを続ける。

「そうなれば困るのは貴方の方だと認識しますが?」

「私は困らないさ。ただ多くの人々の命が救えたはずの命がほんの少し多く散るだけだろう。君は人類を救うために作り出されたのだよ?人になるために作り出されたわけではない。君が人として生きないのと確約してくれるならば私は最大限の援助をしようそれが条件だ」

「申し訳ありませんがお断りします」

「即断即決は君の将来においてもよくない事態を招くと思うが?」

「人は出来ない約束をしないと聞きます。ですので私も出来ない約束は致しません」

「そうか、では残念だが君たちの研究はこれで終わりだ。今後第一世代のエスポワールは私の管轄に置き君たちの調整も認めない。君が人として生きることを諦めたら教えてくれその時はまたエスポワールの調整を認めよう」

 ダルダシア提督はそう言い放つとルーシェを一瞥し部屋から出て行った。

「ルーシェ博士申し訳ありません」

 扉が閉まると同時にフェイトはルーシェに対して深々と頭を下げた。彼女たちがこれまで行ってきた研究を自身の独断で凍結されたのだから当然のことだろうがルーシェは怒ることもなくフェイトに優しく声をかける。

「いいのよフェイト、貴方のせいじゃないわ。むしろ私は嬉しいの貴方が人として生きたいとそう言ってくれて」

 この後ダルダシア総督からフリージア博士に対してユグドラシル計画の凍結が言い渡された。

更新が遅れてしまい申し訳ありません。活動報告では1月中にもう一話投稿すると言っていたのですが2月になってしまいました。

予定としては序章は次々回の投稿で終わる予定となっていますが次々回までに収まるかまだ分かりませんので少し上下するものと思います。

作品の評価、感想などどのようなものでもお待ちしております。たくさんのご意見よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ