表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フロンティア  作者: kisuke
6/20

フロンティア序章5

 宇宙歴181年

 ユグドラシル計画の実行に向けて宇宙連邦本部ではここ最近多くの人々が慌ただしく動き回っている。これまでに幾度か行われた惑星エデンの周辺に存在しているソリテールの調査もいよいよ大詰めを迎えた。

 慎重を期して何度もソリテールの調査を行いその度に得たデータを解析してデータの更新に努めた。

 現在のところエスポワールがソリテールとの戦闘状態にまで発展したことはないが今後はソリテールの攻撃範囲外からの超長距離射撃も検討されており対ソリテール戦に向けての緊張感は日に日に強まっていった。

 そんな宇宙連邦本部においてある一部の者たちはまた別の理由により忙しさを増していた。フェイトが搭乗する第一世代のエスポワールの人工知能がついにアップグレードを終えたからである。その報告を受けたルーシェとフェイトは地下格納庫へと向かっている途中であった。

 この頃フェイトは宇宙連邦本部の多くの情報を得ていたがそのうちの一つの案件に対してルーシェと意見を交わしていた。

「ハーロット総督はソリテールに対する超長距離射撃に反対されているようですが。おそらく一部の者たちの独断によりこの作戦は実行されると推測しています」

「どうしてハーロット総督は反対しているかわかる?」

「いくつか理由としてあげられるものはあります。まず超長距離射撃によってソリテールを攻撃した場合ソリテールがどのような反応を示すのかわからないためです。現在のところソリテールは5000キロメートル以上離れていれば攻撃をしてきませんがあくまで現在わかっているだけでは、と言ったところです。もしソリテールが超長距離射撃に対して何らかの対策をしてきた場合、今後の作戦において超長距離射撃による狙撃や離脱する部隊の援護などが困難になり我々の状況を悪くします。また、ソリテールは現在我々を敵と認識してはいますがソリテールが自ら動きこちらを補足して攻撃を仕掛けてくることはありません。ですが超長距離射撃を行ったことによりソリテールが自衛のために自ら攻撃を仕掛けてくる可能性も無視できません。もしソリテールがこちらへと向かってきた場合我々の負けは確定事項と認識しています」

 フェイトの説明を聞いて満足そうに頷いているルーシェはあるいは教師のように見えなくもない。もっともその生徒はこの世界で最高の頭脳を持った人工生命体なのだから優秀であることは間違いないだろう。

 そして何よりもこちらが現在最も危惧していることを彼はよく理解している。現状の戦力ではソリテールを殲滅することは不可能であるとすでに報告しておりそれは地球に住む各国代表にも伝わっていることだ。今後数年間をかけてエスポワールをさらに改良し性能を引き上げ部隊の数も現在の数十倍にまで膨らませなければ殲滅作戦は不可能だと人工知能により導き出されていた。だと言うのに未だにエスポワールの機体性能を勘違いしている人々は多い。

 確かに現行の兵器と比べれば全てにおいて上回っているがそれは当然と言えば当然なのだ。まず戦う環境が重力のない宇宙で戦うことを大前提に作られているエスポワールはその機動力、汎用性、火力など全てが当時の常識の範疇にないのだから。未だに地球では実現不可能な兵器も存在するのだから一部の者たちが自身の技術力を勘違いしても不思議はなかった。

 現状人類が創りうる最も強力な兵器ではあってもこの宇宙において圧倒的な優位性を持ち得ているわけではない。

 もちろんたかがいち技術者が勘違いしたところでは問題などはないがそれが宇宙連邦の上層部にまで影響が及ぶようになってしまっては大きな問題だ。

 もしも宇宙連邦の上層部の者たちまでがそのような勘違いをしていたならそれはこれまでの計画すべてが無駄となる可能性を秘めているのだ。

「もしもそうなったらこの計画も失敗に終わるわね。なんとか上の連中を抑えないといけないけどもう上はやる気満々だものね、貴方の考えている通りになるなら最悪ね」

 お互いにこの計画の重要性もその危険性もわかっているからこそこんな風に意見を出し合えるが自身の権力と惑星エデンでの権益をめぐる争いはすでに始まっている。その為宇宙連邦の上層部はそれぞれが支援している人工島の総力を挙げてエスポワールの搭乗者を育成しているしそこに投じられる金額も多額になっている。

「あくまでも仮定の話です。超長距離射撃によって案外簡単に決着へと向かうかも知れませんので一概に間違いだとは言い切れません」

「そうね、でもだからこそ問題なのよ。成功したなら確かに余計な被害を出さずに終えられるかもしれないでも失敗したら人が滅ぶかもしれないのよ?そんな危険な賭けに私は賛成できないわね」

 どのような結果になるとしてもその決定権を持たない二人にはどうしようもないことではあるがそれでも自分たちに関わる以上何も考えないわけにはいかない。

 それがこの宇宙に住まう人々の未来を背負っているのだから知った以上知らぬふりは出来なかった。

「現状この案件に関してはハーロット総督を信じるしか打開策はないと思われます。我々は我々の出来ることをすべきと判断します」

「その通りね。それじゃエスポワールの調整はしっかりとお願いね。私はエスポワールの研究開発にはかかわっていないからあまり手伝えることはないけど何かあったらすぐに報告していいわね?」

「了解した」

 二人はそこで会話を終えそれぞれのやるべきことへと向かって別れて進んでいくルーシェはフェイトの後姿を心配そうに眺めるがそれもすぐにやめ自室へと向かっていく。

「フリージア博士フェイトエスポワールの調整に来ました」

「もう準備は完了しているわ。すぐに始めるわよ、いろいろと聞いていると思うけど今日のところはそれほど難しいことはないわ。簡単な動作の確認とアップグレードの終わった人工知能との再接続を確認するわ」

「了解した。必要な詳細データを見せていただきたい」

「データはこちらです。比較的負担のないものを今日は用意しましたのでリラックスしていただいて大丈夫ですよ」

「感謝する」

 フェイトがエスポワールに搭乗してからは周りの研究者たちの表情が一気に引き締まる。比較的に簡単な調整ではあるがそれでも何が起こるかわからない以上は気を緩めるわけにいかない。彼らもまた一部の者たちが超長距離射撃によってソリテールの討伐案が出ていることは知っているそしてそれがどれほどの意味を持つのかもわかっている以上この実験を失敗するわけにはいかなかった。それぞれが強い思いを胸に秘めいよいよ最初の調整が始まりを告げた。

「エスポワール起動 人工知能との再接続開始 データ異常なし 接続完了」

「データは全部とれているわね?今後の研究でも使うデータになるわどんな些細な変化も見逃さないで」

 フリージア博士の言葉により一層データの映るディスプレイを見つめる。

「引き続き動作確認の確認作業へと移行する」

「動作確認のデータ送信 全接続部の固定器具解除 全可動部異常なし いつでも大丈夫ですよ」

 研究者の一人が出来るだけ気さくな風にフェイトへと指示を出す。そうすることで少しでも緊張を和らげようとしたのだろうが実際緊張していたのはこの研究者でありフェイトはいつも通り特に焦りなどもなく淡々と確認作業を進めていく。

「頭部稼働 異常なし 腕部稼働 異常なし 脚部稼働 異常なし 各関節部稼働 異常なし 歩行テストへの移行を進言」

「問題ないわ、そのまま歩行テストへの移行を許可します。フェイトそのあとのテスト内容について人工知能の推奨がおこなわれるわ問題がなければそのまま実行して」

「任務了解 歩行テスト開始 脚部への負担許容範囲内 稼働率異常なし メインカメラからの視界情報良好 人工知能による補助システム稼働 全方位認識システム稼働 認識情報に低度の誤差を確認 修正開始 データ更新完了 全方位認識システム再稼働 認識システム異常なし 人工知能による次項目への移行が推奨されました 推奨を妥当と判断し受諾 無重力空間での稼働テストへの移行を開始」

「実験場の空間を無重力空間へと変更開始 データ異常なし 10秒後に無重力空間へと移行完了します」

「変更了解 機動システムを変更 後部バーニア使用可能 姿勢制御装置起動 無重力空間への移行を確認 後部バーニア作動 姿勢制御装置作動 無重力機動開始 全スラスター出力安定 出力を23%で固定 データ異常なし 事前に提示されたデータとの誤差範囲内 人工知能による補助システム稼働 目標地点へと自動操縦開始 データ入力完了 目標地点到着までの所要時間1分」

 ひとまず大きな峠を越えたことで研究者たちにも余裕の表情がうかがえ始める。

「今のところは大きな問題はなさそうね」

「はい、すべて誤差の範囲内ですのでテスト終了後すぐに修正が可能です。ですがエスポワールの性能を考えるならばやはりの全リミッターを解除後の稼働状態を確認しない事には何とも言えない状況です」

「そうねでもこういったデータをしっかりと集めておかないと予期せぬ事態が起きたときにしっかりとした対応は出来ないわ。焦る気持ちがあるのはわかるけど今はフェイトとエスポワールを信じるしかないでしょう?」

「申し訳ありません出過ぎたこと言ってしまいました」

「いいのよ誰にでも不安はあるわでも私たちは迷うわけにはいかないよ」

 フリージア博士の言葉に多くの研究者たちが頷くなかエスポワールが目標地点へと到着した。

「目標地点への到着を確認 データ異常なし 人工知能による次項目への移行が推奨されました 推奨を妥当と判断し受諾 ソリテールとの戦闘を予測した戦闘用自立機動システムへの移行を開始」

「全員気を抜かないでここからが本番よ。あくまで戦闘データから計算されたシミュレーションでしかないけど実戦に投入するまではこのデータが戦闘用の基礎データになるわ。どんな異常も見逃さないでフェイトはもちろんエスポワールのデータも決して目を離さないで!」

「「「了解」」」

 フリージア博士の言葉に再び気を引き締めなおす研究者たちフェイトは極秘裏に生み出された人工生命体であるから宇宙連邦が進めている正規の軍隊の一員としては登録されていないそのため彼の戦闘データはこれまでに確認されているデータからの予測よって作られたものでしかない、しかし無いものねだりをしている余裕はないためこのデータは多少過剰に強く設定されているものであるがそれでもエスポワールの性能を考えれば十分に対応可能と考えられていた。

「戦闘用自立機動システム稼働 第一次接触時のソリテールの仮想データを認識 これより戦闘に移行する」

 エスポワールの周囲に仮想空間が展開されていく。

 今回の調整のために用意された仮想データは人類が初めて接触したソリテールだ。当時の記録映像から作り出されたそれは仮想空間にて確かに存在しているその姿に多くの研究者たちは息をのむ辺りにはこれまで以上の緊張感に包まれながらフェイトは仮想ソリテールとの戦闘を開始した。

「目標までの距離残り5500 人工知能による推奨武装を確認 武装を適正と判断 武装展開 高出力パルス砲を展開完了 目標をロック 残り距離5200 発射シークエンスオンライン 残り距離5000 ソリテールの行動を確認 高出力パルス砲発射 着弾までの誤差修正 高出力パルス砲の冷却を開始 次弾発射までの所要時間200秒 ソリテールの高出力エネルギー砲を検知 回避行動開始 高出力パルス砲の着弾を確認 ソリテール健在 目標へのダメージ軽微戦闘続行可能と判断 人工知能による随時攻撃要請を確認 妥当と判断し攻撃続行 武装変更 近中距離用アサルトパルス砲を展開 目標との距離3500 目標への掃射を開始 的中率32%誤差を修正 冷却完了 目標への掃射を再開 目標からの熱源確認 高出力エネルギー砲と判断 次弾発射までのタイムラグを27秒に設定 攻撃を中止 回避不能 腹部からのパルスシールドにて防御 着弾 機体への損害なしパルスシールドの出力安定戦闘続行 ソリテールの機動力を61%上回る出力を確認近接戦闘へと移行する 人工知能による推奨はなし 武装変更 近接用パルスブレードを展開 出力を70%で固定 目標までの距離2000 スラスター出力最大 目標までの所要時間7秒 敵次弾の発射前に接近が可能と判断 適正距離確保 確認されているコアへの攻撃開始 コア破壊完了 任務終了」

「よくやったわフェイト異常はないかしら?」

「体内ナノマシンによる精査を開始 異常なし 機体への損害なし 全データ異常なし 事前に提示された誤差の範囲内であることを確認」

「そうよかったわ。でも戦闘中でも普段の話し方の方がいいわね」

 フリージア博士を含む多くの研究者たちが安堵の表情を浮かべる中フェイトは未だに以前のような無表情のままだ。

「申し訳ありません。ですが任務を実行するにはあの話し方の方が無駄なく人工知能との連携も取りやすいものでつい」

 フェイトはわずかに頬を緩ませながらこちらへと戻ってくる。

「いいわそっちの方がやりやすいなら任務中はそれでもいいかもしれないわね。今回のデータを元にさらに改良と調整を行っていくわ。今回の調整では特に大きな異常は見られなかったしすべて誤差の範囲内に収まったからすぐに調整を始めるわ。貴方は念のためにメディカルチェックを受けてから自由にしてくれていいいわ」

「了解しました。フリージア博士1つわかったことがあるのですが。エスポワールはエネルギー効率に無駄が多すぎると判断します。エネルギー変換効率の向上を推奨します」

「確かにエスポワールはまだまだ無駄が多いわね。貴方の乗る第一世代のエスポワールは半永久的なエネルギーが供給されるから今のところは大きな問題にはならないでしょうけど第二世代のエスポワールはそうはいかないものね。ありがとうすぐに技術者たちに取り掛からせるわこれからもわかったことがあったら何でも教えてね」

「了解した。それでは失礼する」

 こうしてフェイトが搭乗しての初の調整は行われたここで得られたデータを解析し第二世代のエスポワールに搭載されている人工知能へとフィードバックしていくそうしていくことで第二世代のエスポワールに搭乗する人々の生還率は大幅に上がることだろう搭乗者本人は知らずとも人工知能が知っていればそれを搭乗者に推奨することが出来る。たったそれだけで多くの命が救われるのだからこうした調整は幾度も行われていった。

無事宣言していた期日までに完成させることが出来ました!

内容の変更に伴い多少予定が狂いましたが無事に投稿することが出来ました!

感想や評価などどんなものでも構いませんのでよろしければお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ