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フロンティア  作者: kisuke
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フロンティア序章4

 宇宙歴181年

 フェイトの体内ナノマシンの調整からおよそ一週間。第一世代の人型戦闘用マシンエスポワールの人工知能もアップグレードの調整を始めていた。第二世代に搭載されている人工知能は宇宙連邦本部に設置されているマザーブレインと呼ばれる人工知能を元に設計されているが必要最低限のコストと性能で作られた量産型の人工知能を搭載している。

 それに比べてフェイトの搭乗する第一世代のエスポワールにはマザーブレインにも劣らないほどの人工知能を搭載しているが、それでもフェイトの脳との同一化においてエスポワールの人工知能がフェイトの脳の情報処理能力に追いつけず余計な負担を与えていたためこれを改善する為に人工知能のアップグレードが実施されることになった。

 それに伴いフェイトはルーシェと共にフリージアの下へと向かっていた。詳しい理由は聞かされていないが昨夜フリージアからルーシェに対して連絡があったのだ。それに従いいつも通りフェイトの部屋で朝食を済ませた後二人でフリージアの自室へと向かっている。

 フリージアの自室は宇宙連邦本部の中心に位置しており地下の格納庫からはほぼ一直線に上るだけである、そのため彼の存在を知らない職員や一般人に合う危険性は少ないがそれでも0ではない以上出来るだけ早く着いてほしいと思うのは未だに彼が人とはずいぶんと違う印象を与えてしまうからだろうか。

 ルーシェの心配をよそにフェイトはいつもと変わらない無表情のまま大人しくルーシェの後ろをついてくる。データとしてはここの構造も知っているはずだがそれでも彼がルーシェの後ろを歩くのは外の世界の恐怖からかそれともルーシェのことを自身に命令を下す上位者と認識しているからなのかそれを知るすべはないものの彼女にとってフェイトは自身の研究の集大成であり人類を新たな星へと導く存在でもあるそんな彼が自身のことをどう思っているのか彼女は常に気にしていた。

「フリージア博士ルーシェとフェイトです。よろしいですか?」

「ええ、入ってちょうだい」

 フリージア博士の許可を得てルーシェとフェイトは中へと入っていく。ルーシェは何度か訪れたことのある部屋だがフェイトは初めて来るだろう。

 彼女の部屋もあまり飾り気のない質素な部屋である。研究者であるフリージアもまた装飾品などには興味を持たず娯楽に使う費用があるならば研究費として使うというほど研究一筋である。

「よく来てくれたわね、急に呼び出してごめんなさい。今日は少し二人と話しておきたいの。近いうちにエスポワールの人工知能もアップグレードを完了するわ、そうなればフェイト貴方はエスポワールとの多くの調整が待っているわ。そうなったらこうして三人でゆっくり話す時間もなかなか取ることが出来なくなるから」

 フリージアは二人を交互に見ながら最後にはルーシェを見て微かに笑みを浮かべているようにも見えた。

 そんなフリージアを怪訝に思いながらここに呼ばれた理由を問いかける。

「それで話しておきたいこととは何でしょうか?」

「そうねまずはフェイト、貴方もう普通に話せるのではないかしら?賢い貴方のことだもの私たちの会話を聞いて理解出来ているはずよ」

 フリージアの言葉にルーシェは驚きの表情を隠せない、これまでおよそ一か月間彼と接してきたが彼の話し方は相変わらず機械のような話し方でどう考えても人らしい話し方が出来るとは思えなかった。だがそんな彼女の考えを欺くようにフェイトが話し始めた。

「確かにフリージア博士のおっしゃる通りですがなぜわかったのですか」

 この時一番衝撃を受けたのは間違いなくルーシェだろうこれまでの話し方とは全く違う、完璧とまでいかないが彼のこれまでの機械的な印象とは一変しずいぶんと人間味を帯びている。

「どうしてかしらね?ただ何となく貴方ならもう話せるとそう思ったのよ」

「研究者ともあろう人が理由もなくですか?」

「研究者だからこそこれまでの経験と自身の作り上げた物の価値はよくわかっているのよ」

「フリージア博士、そのどうして彼はこれまでそれを隠したのですか?」

「それは彼に聞いた方がいいと思うわよ。貴女の悪いところは周りばかりに聞いて自分から相手に直接聞かない事よ。もしも貴女が私より先に聞いていたなら彼はそれに答えたはずよ」

 ルーシェはフリージアに言われたことを自身の中の記憶と照らし合わせていく。確かにこれまで自分からフェイトに何かを聞いたことはない。彼に話しかけたときは必ずと言っていいほど確認をしていただけなのだから。

「フェイトどうしてその話し方を隠していたの?」

 これまでの失敗を踏まえたうえでルーシェはフェイトに直接問いかける。

「貴女は私に多くのことを教えてくれた。だが私が人になってしまえば貴女は私の傍から居なくなってしまうのでしょう?貴女の作る料理は体の健康を維持するのに理想的だ。体内ナノマシンで必要な栄養素は作り出せますが残念ながらそんな味気ない生活を送るのはもう不可能と考えます」

 フェイトから教えてもらった内容にルーシェは首をかしげる。

「フェイトそれってつまり私はただの食事係って事かしら?」

「否定する。ただのではなく私専属の食事係でいてほしい」

 フェイトにとってはこれは自身のデータから導き出された答えなのだがルーシェにとっては余り面白いことではない。確かにこれまで幾度も料理を作ってきたが彼にこれほど料理を気に入られていることもまたそのために話し方を隠していたことも彼女にとっては驚きでしかなかった。そんなルーシェにフリージア博士は面白そうに追い打ちをかけてくる。

「どう?少し意外じゃないかしら?人工生命体の彼がそれほど必要としない食事を貴女に求めるためにわざわざ隠していたのよ?とっても人らしいと思うけどどうかしら?」

「確かにそうですが。もしこのことに気付かなかったら彼はずっとあのままだったのですよ?私としては隠し事はやめていただきたいのですが?」

 ルーシェは横目でフェイトを睨むが当の本人は全く気にしないらしい。そんな彼を見ながらルーシェはため息をつく。フリージア博士もこちらを見ながらニヤニヤしているだけでフェイトに対して何か言うでもなく事の成り行きを見守る方針なのだろう。

 このままではいつまでたっても状況は変わらないと判断したルーシェはフェイトに対して一つ提案を持ち掛けた。

「フェイト私はこれまで通り貴方がエスポワールに搭乗して惑星エデンに向かうまでの間毎日食事を作ってあげるわ。だから、今後は一切隠し事は禁止よ。もしも何か隠していたらもう二度と食事は作らないからそれでどうかしら?」

「互いに利益のある提案で助かった。ルーシェ博士今後もよろしくお願いする」

 まるでこちらの提案を予期していたかのようなフェイトの振る舞いにルーシェは頭を抱えるがおそらくそう悪いものではないとそう考えてしまうのはこれまでの彼を見てきたからだろうか。

「ずいぶんと仲良くなったのね。良いことだけど私をのけ者にするのは良くないと思うの」

「特別仲良くなった覚えはありませんが、のけ者が嫌なのでしたらフリージア博士も一緒に料理を作りませんか?」

 ルーシェの提案はおそらく先ほどの仕返しなのだろう、料理が出来ないと知っていながらわざわざ聞いてくるのだからずいぶんとご立腹のようだ。

「ルーシェ冗談よ?これでもずいぶんといい歳だもの、もしも自分に子供が居たらって考えることもあるわ」

 そう言いながらフリージアはどこか寂し気に見える表情を浮かべていた。確かに地球に生まれていたならばフリージアもあるいは自分も普通に結婚して家庭を持っていたとしてもおかしくない年齢だ。だが自分達は宇宙で生まれ地球に戻ることは出来ず、新たなる星を求めるしかなかった。

 そうして研究に没頭しこれまでの人生の多くの時間を費やしてきた。そしてついにあと少しのところまで来ているのだ、フェイトとエスポワールの調整が終わればいよいよ本格的に惑星エデンにはびこるソリテールの殲滅を開始することであろう。

 そうなればようやくこの研究一筋の人生が変わるかもしれないのだから。最もこれまで研究一筋だった自分たちが研究会から大人しく身を引くとは思っていないがそれでもひとまずの区切りになるのだから待ち望んだとしてもおかしくはないだろう。

「フリージア博士エスポワールの調整はいつ頃完了の予定か」

「そうね、早くても3日後くらいかしら?人工知能のアップグレードは少し時間がかかりそうね。本来ならもう第一世代のエスポワールに人工知能は搭載されていない記録になっているから簡単には必要なデータが集まらないのよ」

「そうなのか、エスポワールの人工知能は宇宙連邦本部に搭載されているマザーブレインと比較しても引けを取らないとデータにはあるがそれでも足りないと?」

 自身の脳にプログラムされているデータを見たのかフェイトが不思議そうな顔をしてこちらを見ている。

「当然よ?貴方は自分で必要なデータだけを探して取り出すことが出来るし不要と判断したデータをいちいち全部確認しなくていいけど人工知能はすべてのデータを確認してそこから必要なデータを取り出しさらにそこから優先度の高いデータから確認していくのよ。ずいぶんと非効率に感じるかもしれないけど人と比べれば圧倒的に人工知能の方が早く、正確に、無駄なく結果が出せるのよ。でも貴方は両方出来る、すべてのデータを確認してから判断することも特定のデータだけを確認してそこから考えることも出来る。エスポワールに搭載している人工知能には貴方みたいな思考が出来ないからそれを補うためのアップグレードなのよ」

 フリージアの受けてフェイトは納得したようだがこれで自身の脳がどれだけの情報処理能力を備えているのかも分かったことだろう。それだけ彼には予算を投じている、これまでの常識を超える存在を自分たちは作り上げたのだと改めて実感する。

「了解した。それまでは自室にて待機を続行で問題ないか?」

「別に、今の貴方ならほかの区画をルーシェと一緒なら出歩いても大丈夫だと思うわよ?忙しくなる前に自分の目でここを見てもいいと思うわ」

「ルーシェ博士頼めるだろうか?」

「嫌だなんて言えないわね。でも今日はダメよ?せめて明日からにして」

「了解、それでは明日改めてお願いする」

 こうして二人の研究者と一人の人工生命体の密談は幕を閉じていく。

 それぞれがそれぞれの思いを抱きながら未来を想う。だが自分たちの思い描く未来を手にするためにはソリテールとの戦いはすでに避けられないものとなっているだろう。

 だからこそフェイトをエスポワールを作り上げたのだ。本来の予定とは異なる形となったがそれでもユグドラシル計画は確実に実行されつつある、つい先日も試験運用のために第二世代のエスポワールがおよそ100機の編成を受けて惑星エデンまでワープ航行していたはずだ。ソリテールとの戦闘はなかったようだが惑星エデンから帰投した人々の表情を見ればよくない光景を見たことは間違いないだろうそれだけ敵の数が多いのだ。

 だがそれでも人々は戦いに行くだろう、それ以外に自分たちの未来をつかみ取る方法はないのだから。

フロンティア序章第四話の投稿です!

今回はいろいろと予定の変更がありこれまでよりも少しだけ短くなっております。

そして予定では次話が長くなりそうです。出来るだけ早く投稿できるよう頑張ります!更新の予定日としては28日の0時を目標にしていますので何とか間に合うように作りたいと思います!

また、感想や評価などどういったものでもいいのでよろしければお願いいたします。

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