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フロンティア  作者: kisuke
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フロンティア序章3

 宇宙歴181年

 宇宙へと上がった人々が新たなる惑星を求め一つの星を見つけた。

 だがその惑星にはソリテールと呼ばれる地球外生命体が存在していた。この生物は人類が惑星エデンへと住まうために排除しなければならない存在であるとされソリテールの殲滅のためにユグドラシル計画が実行へと移されようとしていた。

 対抗手段として人類は人型戦闘用マシン通称エスポワールを作り上げた。そしてその機体に搭乗する為に訓練を受けた第一次選抜部隊総勢500名この機体と彼らが人類の希望であった。しかしその裏では極秘裏に人工生命体によるもう一つの計画が多くの人々には知られることなくしかし確実に実行へと移されていった。

 宇宙連邦本部の地下には備蓄品や機材などの倉庫が広がっているその一区画にユグドラシル計画のために生み出された人工生命体フェイトの部屋がある。飾り気のない質素な部屋だがここに住んでいる住人は特にそれを気にしている様子はない。

 その部屋に毎日通っている人物が一人だけいる。ユグドラシル計画では主に人工生命体の研究に貢献したルーシェだ。彼女はフリージア博士にフェイトの教育を任されて以来毎日フェイトの部屋へと向かい人として生きるために多くのことを教えている。そして今日も彼女はフェイトの部屋へと向かう。

「フェイト起きてるかしら?」

 ルーシェがこの2週間通い詰めてわかったことはどうやら彼は朝に弱いらしい。彼女がこれまでに見てきた表情で唯一人間らしい表情が寝起きの表情だろう。ルーシェは彼の朝の弱さについて一つの仮説を立てていた彼の脳はほとんど睡眠を必要としないため一度休息状態に入ると恐らく再起動させすべてのデータの確認、現状の把握などのために多くの機能を使ってしまうため彼自身の覚醒が遅れるものと考えていた。

 実際に詳しい検査をしたわけではないのではっきりとはわからないがフェイトは彼女が作り上げ最も多くの時間を割いた存在であるため彼女にはこの仮説が正しいと信じるだけの根拠があった。

 いつものように彼女は扉のブザーを鳴らすが中からの反応はない。そのためこの部屋のアクセスコードを使用し部屋へと入っていく。そうして中に入ってみればこれまで何度も見てきたフェイトの寝顔が確認できる。

「こうやって見ていると人工生命体だなんてわからないわね」

 フェイトの寝顔を見つめる彼女の姿はあるいは母の姿であったのかもしれない。事実彼女はフェイトにとっては母のような存在であると言えるだろう。

「今日の朝食は何にしようかしら?たまには和食もいいわね」

 そう決めてからの彼女の行動は速い、部屋に用意されている簡易キッチンに向かうと保管されている食材を取り出し手際よく準備していく、彼女は研究者だがフリージア博士の助手になったときにあまりにもずさんな食生活であったために彼女は料理教室に通い腕を磨いた。まさかこんなところでも料理の腕が役に立つことになるとは考えていなかったが人工生命体であるフェイトに人としての生き方を教えるうえで食事は欠かせないもので例えほとんど必要としなくとも体内で作られる栄養素に頼らず摂取出来るのであればその方が体への負担は減るのだ。

「これであの話し方も改善されればもっと人らしくなれると思うけど時間がかかるわね」

 ルーシェが朝食の準備を進めていると来客を知らせるブザーが鳴った。この部屋を知っているのは宇宙連邦本部であってもごく少数であるつまりここに来る人物は限られる居るが今日来客の予定はなかったはずである。

「はい、ルーシェですがどちら様?」

「ルーシェ博士やはりこちらでしたか、以前フリージア博士に頼まれていた彼の体内ナノマシンの調整が完了したので彼で実行していただきたいのですが」

「わかったわ、彼に朝食を食べさせるから一時間後にF地区の研究所でいいかしら?」

「はい、問題ありません。それではこちらの方で先に必要な準備を進めておきます」

 フェイトの体内に注入されているナノマシンの役割は多岐にわたる。人工臓器の補助、生命維持に必要な栄養素の生産、五感の強化等々多くの部分を補助している。そして何よりも人工生命体である彼の細胞は普通の人よりも弱く劣化が早い、そのため人工臓器を使用することにより臓器に使う予定であった細胞を皮膚や筋肉へと転化させることにより細胞の劣化速度は変わらないものの従来の人工生命体よりも長く生きられるように調整されている。さらにナノマシンの補助を受けることにより細胞を保護して劣化の速度を抑えていたが当初の予定よりも彼の細胞は弱くナノマシンが自己保持のために細胞を吸収してしまっていた。

「フェイト起きなさい。朝食の準備が出来ましたよ」

 朝食の準備を終え彼の傍に行き優しく彼を呼ぶ。元々睡眠をほとんど必要としないためきちんと意思をもって話しかければ彼はすぐに目を覚ます。ずいぶんと手のかからない子供だ、だがそんな彼は近い将来エスポワールに搭乗しソリテールとの戦闘へと向かうだろう。そのとき彼はどのような思いで戦いへと赴くのだろうかただの任務として戦ってほしく無いと思うのは彼を創ったこちらの勝手な願いだろうか。

「起動準備中 体内ナノマシンによる精査開始 起動完了 精査異状なし おはようございますルーシェ博士」

「おはよう。今日の朝食は和食にしてみたの。口に合うかしら?」

「認識 栄養バランスを計算中 完了 栄養バランスは問題なし 体内精製栄養素の78%分を補えると判断 朝食として理想的と判断」

「それはよかったわ、フェイト以前から少し問題のあった体内ナノマシンの調整が完了したようだから朝食を食べたらF地区の研究所に向かうけどいいかしら?」

「認識 朝食後体内ナノマシンの調整 F地区研究所 了解」

 彼はこの2週間ほどほとんどが自室で人としての学習に勤しんできた。一般教養はもちろんこれまでの歴史背景、人類が宇宙に上がってからの歩み、そしてこれから向かう先の問題など多くのことを学んでいる。

 まだまだ人として学ぶことは多いが彼は意欲的に人としての暮らしを学ぼうとしていると感じている。その為にはいずれこの区画だけではなく外の世界に触れることも必要だろう、今回の調整のためにわざわざ少し遠い位置にあるF地区の研究所を選んだのも彼に外の世界に触れてほしいという彼女の思いが多分に含まれたものであっただろう。

「それじゃそろそろ行きましょうか。あまり待たせても申し訳ないもの」

「了解 行動を開始」

 フェイトを連れてF地区へと向かうルーシェはこれからのことを考えていた。恐らく彼のナノマシンの調整が終わりエスポワールの人工知能のアップグレードが終わり次第また彼は多くの演習をこなすことになるだろう。

 データとしてはすでにすべてを把握しているだろうがそれを実際に動かすとなれば機体の動作確認、彼と機体との情報交換レベルの把握など多くの確認事項が存在する。宇宙連邦本部としては可能な限り早く彼を実践へと投入したいのだろうが彼も機体もどちらもワンオフの存在であるため初戦で失うわけにはいかず彼らも慎重を期している。

 最も大きな理由としては彼の存在を知るものがほとんどいないためその決定を覆すことの出来る決定権を持つものがいないだけなのだが。

「お、ルーシェ博士にフェイトおはよう。どこへ行くんだい?」

 F地区へと向かう途中前方から一人の研究者が歩いてくる。彼はユグドラシル計画において主に人工臓器を担当しておりおそらく体内ナノマシンの調整においてもいくつかの意見を求められたのだろう。

 その彼がわざわざ行き先を尋ねるのは単に彼への好奇心だろうかそれとも研究者としての探求心だろうか。

「認識 おはようございますジェニアス博士 これよりF地区の研究所にて体内ナノマシンの調整を行います」

「名前を覚えててくれたんだな!いやーこれは嬉しいね。体内ナノマシンの調整はもう準備出来てると思うよ。恐らく問題なく終わると思うけどまた何か異常があったらいつでも言ってくれ」

「認識 現在は体内ナノマシンの稼働率をおよそ70%抑えているため細胞への負担はないものと判断」

「ほおーもうそこまで扱えるようになったのか。我々の予想をはるかに超えてくれて嬉しいね。人工臓器の方は特に問題ないかい?」

「認識 現在のところ人工臓器の問題はなし 健康状態を維持する為に最良の状態と判断」

「それはよかった、人工臓器の製作は主に僕が指示していたからね。まさかすべての臓器を作ることになるとは思ってなかったから不安があったんだが問題ないなら安心したよ。少し長く引き留めてしまったねだが知っておいてほしいんだ君の存在は人類にとって大きな意味を持っている。だからみんな君には多くの関心と期待と不安があるんだよ」

 ジェニアス博士の言うことは彼を生み出すことに関わったすべての人が思っていることだろう。あまり表に出すことはしないが誰もが思っていることでもある、そのことを彼に知ってもらうというのはこちらにとっても彼にとってもお互いを理解する為に必要なことだろう。

「認識 自身の存在が多くの可能性を含んでいると判断 以降の学習における意欲の一因として解釈」

「はは、うんそうだね。これからも多くのことを学んでくれ。それじゃルーシェ博士フェイトをよろしく」

「はい、ジェニアス博士。いろいろとありがとうございます」

 彼は笑顔のまま手を振りながらこちらを見送ってくれる。

 F地区研究所にはすでにフリージア博士を含めナノマシンの開発に関わっていた研究者たちが集まっていた。

 こちらの到着を確認したフリージア博士がフェイトに笑みを向けながら問いかける。

「おはようフェイト。調子はどうかしら?」

「認識 おはようございますフリージア博士 体調は異常なし」

「そう、これから何をするのかは聞いているわね?」

「認識 体内ナノマシンの調整と判断」

「ええそうよ。今のナノマシンの状態では貴方の細胞を吸収してしまうからそれを防ぐために少し調整をしてもらいたいの。お願いできるわね?」

「認識 必要データの提示を求む」

 フリージア博士に促される形で研究者の一人が今回のナノマシン調整用のデータをフェイトに手渡す。フェイトがデータを確認する中フリージア博士がルーシェの傍で彼女にしか聞こえないような声で話しかける。

「フェイトはどうかしら?」

「そうですね、学習の面においては彼は非常に優秀です。こちらの意図することを理解しそこからさらに先を考え自身の答えを出すことが出来ます。その点においては非常に優秀かと思います」

「そう、今後の予定だけど来週にはエスポワールの人工知能がアップグレードを終える予定よ。それが完了次第彼にはエスポワールの調整も進めてもらうわ、それまでにある程度の教養を終えられるかしら?」

「話し方以外は大丈夫かと思いますがおそらく問題はある程度解決できると思います」

「そうそれではそのままお願いね」

 来週からのエスポワールとの調整に向けてルーシェは自身の中で彼に教える事柄の優先順位を組み替えていく。話し方に関しては長い時間がかかることになるだろうと最初から予測しているが出来るだけ早く解決できる方がいいだろう。

「データ確認終了 データの更新を開始 体内ナノマシン調整開始」

 フェイトの体内ナノマシンの調整は主に細胞に与える影響を抑えその活動を抑制することが目的とされている。

 その為に彼の細胞のデータを再び更新しナノマシンにプログラムとして組み込むという比較的簡単な調整が施された。あまりにも大きな調整をすると人工臓器の補助にまで影響が及ぶことを危惧し今後複数回の調整を念頭おいての調整となった。

 この時のデータは後の人工生命体の細胞保護にも活用する為にあらゆるデータが取られていた。

「体内ナノマシンのデータ更新完了 プログラム実行に移行」

「フェイトの状態は?」

「現在安定しています。体内ナノマシンの稼働率低下予測の範囲内です」

「体内ナノマシンによる細胞の吸収は確認出来ません。成功と考えていいかと思います」

「フェイト何か問題はありそう?」

「認識 体内ナノマシンによる精査を開始 異常なし」

 フェイトの確認により調整を見守っていた研究者たちは肩の力を抜いていく何しろすべては理論上でのことであり彼らも実際に経験したことがないため必要以上に力が入ってしまうのは仕方ないことだろう。

 もしも彼に万が一のことがあればユグドラシル計画は本来の計画とは別の多くの犠牲を必要とするものへと変わってしまう。彼らが感じるプレッシャーは大きなものであった。

「フェイト今回の調整は一時的なもので今後も貴方の細胞に合わせて何度か調整をするかもしれないからもしも何か違和感や不備を感じたらすぐに報告することいいわね?」

「了解」

「それでは今日はこれで解散。みんなご苦労様」

 こうしてフェイトの体内ナノマシンは幾度も調整されていくことになる。その大きな理由は彼が人に近づくにつれて彼の細胞が強化されていくことが原因である。もっともそれは彼らにしてみれば喜ぶべきことであり人工生命体であっても人としての暮らしを過ごすうちに限りなく人に近づくことが出来るという証明であったのだから。

フロンティア序章第三話の投稿です!前回の後書きに書いたように何とか予定していた投稿日に間に合わせることが出来ました!

自身で変更したために執筆作業が遅れ気味ですが今後も出来るだけ早く投稿できるよう努力いたしますのでお願いいたします。

また感想や評価などどのようなものでも励みになりますのでもしよろしければお願いいたします。

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