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フロンティア  作者: kisuke
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フロンティア序章2

 宇宙歴181年

「ユグドラシル計画は随分と派手に式典を開いているようね」

「はい。すべて総督閣下が手配されました。我々のユグドラシル計画に万が一の失敗がないように我々以外は皆式典へと出席されています」

「そう、それなら急ぎましょう。総督閣下がここに戻られたときに最高の報告が出来る様にね」

 クリア計画の失敗により新たに宇宙連邦の正規計画として実行されたユグドラシル計画は地球に住む人々にとっても宇宙に住む人々にとっても明るい話題であった。たくさんの人々の知識と技術とたくさんの犠牲によって生まれた人型戦闘用マシンエスポワールこの機体は人類の誇りであり最後の希望でもある。それに搭乗する為に選ばれた第一次選抜部隊500名の人々はまさに人類の救世主であった。

「フリージア博士被検体ナンバー001いつでも出せます」

「全員どんな変化も見逃さないで彼が彼こそが本当の意味で人類の救世主になるかもしれない存在よ。彼がいなければ第一世代のエスポワールは世界最高のガラクタでしかない。もうこれ以上の失敗は許されない私たちの研究の集大成絶対に成功させましょう。それでは、ユグドラシル計画被検体ナンバー001の起動開始」

「「「了解」」」


「培養カプセルからナノマシンの排出を開始」


「被検体ナンバー001の人工臓器起動、プラグ切り離します」


「バイタル安定、人工臓器も異状なし、全数値理論値範囲内です」


「心肺蘇生開始、ナノマシンによる補助機能開始、心肺動きます」


「心拍数70から73で安定、呼吸補助器外します」


「全データ異状なし、被検体ナンバー001起動完了です」


「おはようナンバー001、言葉はわかるわね?私が誰かわかる?」

「認識 データ照合 データ一致 ユグドラシル計画発案者フリージア博士」

「ええ、そうよ。自分のことはどう?」

「認識 データ照合 データ一致 ユグドラシル計画被検体ナンバー001人型戦闘用マシンエスポワール第一世代型搭乗者」

「完璧ね。体の異常もないわね?」

「認識 体内ナノマシンによる検査を開始 完了 設定された数値内異常なしと判断」

「それじゃあさっそくエスポワールに搭乗出来るわね。それからナンバー001貴方には任務用の名前を与えます。今後はフェイトと名乗りなさい」

「命令受諾 データ更新 自身の名称をフェイトに変更」

「総督閣下に報告をお願い、被験者ナンバー001の起動に成功、メディカルチェックも異状なしこのままエスポワールの調整に入ると」

「了解」

 人型戦闘用マシンエスポワールの第一世代は多くの模擬戦闘データを抽出されたのち地下格納庫に収容されている。何度か解体も計画されたがその貴重さから今後は宇宙連邦の象徴として飾られることも検討されていた。だが実際はユグドラシル計画の要である機体のため宇宙連邦総督ハーロットが一切の接近を禁じていた。

「さあ、着いたわ。どうすればいいかわかるわね」

「認識 データ照合 任務確認 人型戦闘用マシンエスポワールの初期情報登録 全データの同一化及び生体認証登録」

「問題なさそうね。もしも途中で何らかの問題が発生した場合は機体よりも貴方の生命を優先しなさいこれは命令よ」

「命令受諾 自身の生命を最優先事項に登録」

「では、さっそく始めましょう」

「了解、エスポワールの起動を開始」

「全データ異常なし、最終調整完了後からデータの変更はありません。すぐに始められます」

「任務遂行 初期情報入力開始 完了まで318秒」

「ふむ、どうやら順調のようだな」

 フェイトがエスポワールに初期情報入力を開始してすぐに宇宙連邦総督ハーロットが地下格納庫にやってきた。その顔には期待と不安の色がうかがえた。式典の最中に抜け出してきたのだろうか普段見慣れた軍服ではなく式典用の第一級特務正装の衣装に身を包みいくらか若返ったようにも見える。

「総督閣下、ええ問題なく進んでいます」

「彼の状態は?」

「今のところ安定しています。現在はエスポワールに彼の初期情報を登録中です。それが終わり次第彼の脳と機体の人工知能の同一化最後に生体認証登録の予定です。万が一何らかの問題が発生した場合は機体よりも彼の生命を優先するように命令しました」

「わかった。すべて君に任せようまだ式典の途中なのでな私は戻る」

「それでは本日の予定がすべて終わり次第またご連絡させていただきます」

「ああ、しっかり頼む」

 総督ハーロットは部屋から出ていく前にフェイトに視線を向けるがその顔には諦めともとれる表情を浮かべていたがそれは誰にも気づかれることがなかった。

「初期情報入力完了 全データ異常なし 引き続き任務続行 人工知能との接続開始 全データの同一化を開始 終了まで190秒」

「彼と機体の状態は?」

「はい、心拍数、脈拍、体内ナノマシン稼働率、人工臓器すべて異常ありません。事前に計算された数値内で安定しています」

「機体データ異常ありません。現在のところ拒絶反応もありません。ただ人工知能の演算処理能力が彼の脳の処理能力にわずかに追いついていません」

「わかったわ。全工程が終了したのち人工知能の調整をお願い」

「了解」

 誰もが真剣な眼差しで見守る中フェイトは淡々と自身の任務をこなしていくこの場にいるほとんどの人がそんなフェイトの姿を見て不気味に感じていた。人の姿でありながら人とは異なる存在そんなものを生み出した自分たちを恐ろしく思いながらも誰もがその思いを表には出さず心の奥底に閉じ込めていた。

「全データの同一化を完了 引き続き任務続行 生体認証登録開始 完了まで630秒」

「ここから先は彼のデータも機体データも一切漏らさず記録して、いずれ始まる人工生命体の量産化計画で必要なデータになるわ」

「了解です」

「フリージア博士この数値を見てください」

「これは?」

「体内のナノマシンが予定よりも早い段階で増殖しています。彼の細胞がナノマシンによって保護されるはずなのですが細胞が耐えきれずにナノマシンに吸収されているものと考えられます。このままでは彼の細胞の劣化が早まる可能性があります」

「ナノマシンを抑制することは出来る?」

「多少の調整は必要になりますが出来ると思います」

「そうそれじゃナノマシンの調整を優先的にお願い。彼の状態に変化は?」

「全数値設定範囲内です。ナノマシンの細胞吸収による影響は今のところ見られません」

 人が自らに与えられた生殖行為ではなく機械とナノマシンによる科学の力で人を生み出した。それは人の形をした人形、人でありながら人ではない能力を持たされた存在。人々の欲望のためあるいは人々の希望のために彼はこの世に生み出されたそれがどのような意味を持つのか彼には理解できていない、否むしろ理解する必要がなかった。自身に与えられた任務を遂行するのに必要な情報さえあれば困らない。自分はそんな存在なのだと認識していた。

「生体認証登録完了 任務完了 任務の更新を求む」

「いいわフェイト、今日のところはこれで終わり。貴方の部屋に案内するわそこで休みなさい」

「任務了解 自室にて待機状態に移行します」

「まだまだ人とは程遠いわね」

 こうして人々がユグドラシル計画の式典で人類の未来を夢想しているときその裏では多くの犠牲の上に完成を迎えた人工生命体と人型戦闘用マシンの最初の出会いは過ぎていった。

「計測したデータはすぐにまとめて総督閣下に送るように。それからエスポワールの人工知能の調整をよろしくね。フェイトのナノマシンについては調整が完了次第すぐにフェイトに実行させて」

「「「了解」」」

「フェイト貴方はついてきて、部屋まで案内するわ」

「了解」

 地下格納庫からフェイトに用意された部屋まではほぼ一直線である。未だ完全な人ではない彼を普通の人々が暮らす場所に住まわせればどうなるかそれは火を見るよりも明らかである。そのため彼には専属の世話係が用意された。彼の存在はトップシークレットであるために不用意に人と接触することがないように最新の注意が払われていた。

「さあ、着いたわ。これからしばらくの間はここが貴方の部屋になるわ。しばらくしたら貴方の世話係がここに来るから必要なものがあればその人に言えば用意してくれるわ」

「了解」

 フェイトに用意された部屋は決して広くはない。元々の設計から地下には人が暮らす居住区は存在せず備蓄品や機材の倉庫を目的として設計されているため人が暮らす環境としては決して万全ではない。

 部屋は一部屋のみお風呂やトイレ、キッチンにベッドなどはすべて簡易型のものが用意され最低限の暮らしが出来る程度だがそもそも人工生命体であるフェイトには物欲が存在していない否、正確に言うならば彼自身が物欲を感じるほど人の暮らしを知らないと言った方が正しい。

 そんなフェイトをフリージア博士は人として完成させようとしていた。人工生命体は人の道徳的観点から見れば簡単に受け入れられるものではない。その為フリージア博士はフェイトを人として育て多くの戦果を上げることによりいずれ生み出されるであろう量産型人工生命体の生産を認めさせようとしていた。

 本来彼女が作り出したユグドラシル計画は量産化された人工生命体に戦闘データを収集させ人的な被害を減らすもので今の段階では彼女が思い描いていた計画とは少し異なるものであったからだ。

 研究者として人類の第二の故郷となるかもしれない惑星エデンその星を手にするために自身の計画が選ばれ必要な戦果を上げたならば自身の名も歴史に名を残すだろうと。

 フリージア博士に部屋で待機するように言われたフェイトは与えられた任務を忠実に守っていた。彼の世話係が到着するまでのおよそ10分間彼は部屋に置かれた椅子に座ったまま微動だにしていなかったのだから。

 自身の部屋に案内され部屋の中で待機することおよそ10分扉に設置されている来客を知らせるブザーが鳴る。だが彼に与えられた任務は待機であることから彼は椅子から動くことをしなかった。またブザーが鳴っていることは理解していたがそれに対して声をかけることもなくそのままさらに数分が経過した。

 フリージア博士の研究を学生のころから支えてきたルーシェは当然のことながらユグドラシル計画においても重要な存在だった。人工生命体の基礎理論をよく理解しその上で従来の人工生命体を超越するために多くの研究を行い細胞の劣化を抑えるために臓器を人工臓器へと変更しナノマシンの補助を受けることにより細胞の数を著しく増やすことにも成功した。

 だからフリージア博士にフェイトの世話係を任されたことに彼女は大いに喜んだ、自身の研究と敬愛する博士の計画その最後の詰めを任されたのだから。だが彼女は早々に焦ることになった。自室にて待機中のフェイトに会うため扉の来客用のブザーを鳴らすが反応がない。

 世話係にはなったが彼女にはこの部屋のアクセス権限が未だ譲渡されておらず中の様子は全く分からない。

 ルーシェはすぐさまフリージア博士に報告、フリージア博士が持つアクセス権限で扉が開かれたときフェイトはこちらを見ることもなくただ椅子に座っているだけであった。

 その光景を見たフリージア博士は深いため息をつきながら現状の報告を求めた。

「フェイト現状の報告を」

「認識 自室にて待機との命令を受けたため待機中」

「部屋のブザーが鳴ったと思うけれど聞こえていたかしら?」

「肯定 ブザー音は検知 命令遂行のため待機続行」

 このやり取りを見ていたルーシェは自身の失敗を悟った。彼はフリージア博士に与えられた任務を遂行するために待機していた。ただブザーを鳴らすだけでは彼は反応の必要性を感じなかったのだろう。せめて新たな任務を与えるなど彼の行動を促す言動がなければ彼にとっては取るに足らない事だったのだろうと。

「フリージア博士申し訳ありません。私の考えが甘かったようです。彼の現在の状態を考えればただ来たことを知らせるだけでは彼にとって任務よりも優先すべきことにはならなかったと思われます」

「そうね、改めて思うわね彼に教えることはずいぶんと多いみたいね。フェイト待機中に何か問題はあった?」

「異状なし」

「そう、それじゃあルーシェあとはお願いね」

「はい、ご迷惑をおかけしました」

「いいのよ。彼はまだまだどうなるかわからないわ。どんなに小さな変化でも報告をお願いね」

 こうしてユグドラシル計画によって生み出された彼の人生は始まる。人でありながら今はまだ人形のような表情で人でありながら今はまだ機械的な話し方で人類が惑星エデンを調査出来るかどうかすべては彼が握っているのだから。

フロンティア第三話目です!

この作品も何度か手直しをしているのでずいぶんと時間がかかりましたが何とか書き終えました。次の投稿も出来るだけ早く書き上げたいのですが今回の変更により一部書き直しのため予定としては23日までには投稿したいと思います。

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