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フロンティア  作者: kisuke
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フロンティア序章

 宇宙歴155年

 宇宙連邦の正規計画とは別に地球外生命体との戦闘を目的にした計画が始動した。通称ユグドラシル計画と呼ばれる計画は人工生命体(ホムンクルス)を作りだし世界最高の技術と人類の英知をすべて注ぎ込んだ人型戦闘用マシン通称エスポワールの搭乗者として育成教育し人間では引き出すことの出来ない性能を発揮させることを目的としている。人工生命体であれば量産が既に可能でありエスポワールによって得た戦闘データを基により低コストで性能の高い人型戦闘用マシンを量産することが可能である。つまり敵性生命体との初期の戦闘データを収集し後の被害を抑えるために作られた使い捨ての可能な駒である。だがこの時ユグドラシル計画の発案者であるフリージア博士は初期の段階での使い捨てはコストがかかりすぎるため計画通り駒とするにはおよそ数百年の時間が必要であると結論を出していた。

 そのためユグドラシル計画のために生み出される人工生命体は遺伝子を何度も調整し人の能力をはるかに超える必要があった。人工生命体は細胞の劣化が一般の人間と比べると2倍ほど早いためいかにして細胞の劣化を抑えるか、またユグドラシル計画に使う予定であるエスポワールには単独での無制限機動および単一でのワープ航行も可能とする必要があるためワープ装置の小型化も急務であった。


 宇宙歴160年

 フリージア博士主導のユグドラシル計画はめぼしい成果を出すことが出来ずにいた。

 理由は2つ人工生命体の細胞の劣化速度を抑えるためにあらゆる実験をしていたが細胞の劣化を抑えることが出来ないのである。量産が可能となっている人工生命体だがソリテールとの戦闘により大きな被害を受けた宇宙連邦には未だある程度のコストを必要としている人工生命体を秘密裏に大量生産するだけの経済的な余裕はなかった。そして地球に住む各国代表には極秘裏に事を進めているため予算の援助を受けることも出来ず切迫した状況となっていたこと。

 そしてもう一つワープ装置の小型化も未だに完成の目途を付けられずにいた。

 ワープ装置は大量のエネルギーを消費するためまずはそれだけのエネルギーを作り出せる装置を作らなければならず難航していた。


 宇宙歴168年

 宇宙連邦が正規計画として進めていたクリア計画が大きな進展を見せていた。

 クリア計画は人を使わず無人機の5機編成で母艦の代わりのなっている人型マシンへと結合することを可能としている。これにより1機辺りのエネルギー量は決して多くないが5機を組み合わせることにより出力を確保しワープ航行を可能とした。また人型マシンをある程度の大きさにすることにより無人機へとエネルギーを補給することまた破損パーツの交換なども可能としている。

 これによりコアとなっている人型マシンが破壊されない限り半永久的な戦闘行為が可能となり、無人機であるためコストの削減また人的な被害も減らしている。

 クリア計画の進展によりワープ装置を使っての惑星調査もいよいよ実行可能となっていた。


 宇宙歴170年

 宇宙連邦はクリア計画をついに実行へと移した。

 ワープ航行の目的地は以前小型化のために試験的に繋げた惑星エデン、ソリテールが多数生息していると思われていた。ソリテールとの戦闘データから無人機は幾度も調整され対ソリテール戦に特化していた。

 およそ2年の時間をかけて無人機500機を製造しコアとなる人型マシンも50機用意された。無人機であるがゆえに死に対する恐怖もなくただ与えられた任務を遂行するため最善を尽くすようプログラムされた機体はこれまでの現行兵器をはるかに凌駕していた。

 宇宙連邦は宇宙歴170年11月に正式な命令を下した。惑星エデンの環境調査と人類が住むための脅威となる可能性を秘めた生物の殲滅である。

 この発表により人類は遂に地球外生命体との全面的な戦争へと移ってゆくことになる。


 宇宙歴171年

 クリア計画の第一段階は惑星エデンの宙域に宇宙ステーションを作り上げることであった。そのため必要な機材なども含めて大型重量級戦艦にてワープ航行することが決定された。

 ワープ航行にて惑星エデンからおよそ30万キロメートル離れた地点へと到着した。だがそこで見た光景に大型重量級戦艦の乗組員は言葉を失った。初めは惑星エデンが地球よりも海に覆われているだけかと思ったが実際は惑星エデンを全方位から囲むようにソリテールが存在しているのだ。

 その数は数えることすら馬鹿らしくなるほどで大型重量級戦艦の艦長はすぐさま無人機部隊の出撃を命じた。

「全搭乗員に次ぐ我々はこれより惑星エデンの調査のため周囲に展開しているソリテールの殲滅を開始する。なお、本艦は全無人機部隊を全機発進後ワープ航行にて宇宙連邦本部へと帰投する」

 大型重量級戦艦から発進した無人機部隊は事前に与えられたプログラム通りソリテールとの戦闘を開始した。大型重量級戦艦は戦闘の様子を記録しながら再びワープ航行の準備を始めていた。

 戦闘開始直後から無人機部隊は統制された動きでソリテールを攻撃していた。ソリテールからの攻撃はそのほとんどが戦闘データとしてインプットされており戦況は優勢に見えた。

 だが、それが間違いであったことがすぐに証明された。

「艦長!第1から第5部隊まですべての無人機が落とされました!」

「何?どうなっている!すぐにデータを確認しろ」

「ダメです、データには何も残っていません!」

「そんな馬鹿なことがあるか!ではあの無人機は何の攻撃も受けずに突然消滅したと言うのか!」

「第6から第8部隊までも落とされました。このままではあと15分ほどで全滅します!」

「データからは何も出てこないのか!」

「戦闘データには何の異常もありません。攻撃を受けた形跡すら残されていません」

 この時ソリテールたちはある電磁波を出していた。それは無人機部隊のデータを混乱させ一切の痕跡を残さずにコントロール不能に陥れていた。だがこのことが発覚するのは大型重量級戦艦が宇宙連邦本部に戻りその詳細データを人工知能によって解析してからであった。

「艦長、このままでは部隊が全滅します。急ぎ撤退命令を」

「その必要はない、あれは無人機だ失ったとしてもまた作ればいいだけのことだ。我々の撤退が完了するまで持てばそれでいい。例えすべての無人機を失っても戦闘データをすべて残らず回収し撤退だ」

 ソリテールとの戦闘はおよそ30分程度で無人機側の損害が8割を超えて終了となった。結果無人機が戦闘不能に陥った理由はこの時大型重量級戦艦の乗組員には理解できていなかった。

「総督惑星エデンへと向かった無人機ですが8割が戦闘不能残ったおよそ50機余りもデータプログラムが完全に破壊されていることが確認できました。技術班の報告ではソリテールから何らかの電磁妨害があったものと考えられます」

「つまり今後無人機を使っての戦闘は無意味だと?」

「現在ソリテールが発生させた電磁波の解析に取り掛かっていますが戦闘データの解析から困難を極めていますのでいつ結果がわかるか」

「わかった、もう下がっていい。フリージア博士を呼んでくれ」

 宇宙連邦の大敗はすぐに地球各国の代表にも知れ渡った。この大敗によりクリア計画に出資していた多くの国々が多大な損害を被っていた。無人機での戦闘が不可能になった以上これから先は有人機での戦闘を中心に計画されていくことになった。

「総督お呼びでしょうか」

「ああ、クリア計画のことはすでに知っているだろう。ソリテールとの戦闘は今後有人機による戦闘を中心に変更されることになるだろう。そこでだ、君のユグドラシル計画を正規の計画として代表に伝えるつもりだ」

「地球に住む代表たちが認めるとは思いませんが?」

「当然いくつか伏せておく必要はあるだろうがクリア計画の失敗により我々の財政はさらに苦しいものになった。地球からの支援なしにこれ以上の研究は不可能だ」

「わかりました。それで私は何をすれば?」

「これまで通りだ。君はユグドラシル計画の発案者ではあるが責任者ではないダミーの計画には別の責任者をつけ君が表立って説明をする必要はない」

「では、そのように進めます」


 宇宙歴172年

 クリア計画の代わりとしてユグドラシル計画を発表、だが人工生命体を量産することは伏せられ発表されたのはエスポワールに人工知能を搭載し操縦者の生命維持を最優先とした設計として生産されることが決定した。これにより地球からはさらに多額の資金が宇宙連邦へと投資されていった。

 それと並行して宇宙連邦はエスポワールの操縦者を広く募集した。これには実に5000人にもおよぶ人々が立候補した。宇宙連邦はこの5000人から第一次選抜部隊として500人を採用した。第一次選抜部隊として選ばれた500人のうち宇宙船などの操縦経験者はわずか200人ほどで残りの300人ほどは未経験者であった。そのため訓練の時間は1日12時間ほどにも及んだ。だが実際にはこの500人の訓練データはすべて人工生命体へとインプットするためのデータでありユグドラシル計画にて生み出される予定の彼らの護衛として訓練されていた。


 宇宙歴178年

 ユグドラシル計画は大きな起点を迎えていた。ソリテールの細胞からこれまでとは比較にならないほどのエネルギーを精製することに成功した。ソリテールは単一個体でありながら現在大型重量級戦艦にしか搭載できていない高出力ビーム兵器を複数内包しておりソリテールの生態の解明により大きな進歩を得ていた。

 これによりワープ装置の小型化は一気に進展した。エスポワールに搭載可能なレベルまで小型化することも時間の問題であった。

 そして、人工生命体の細胞の劣化を抑えるために人工生命体の臓器のほぼすべてを機械として生み出し臓器などに使う細胞を皮膚や筋肉組織へと変換することにより細胞劣化の速度は抑えられないものの細胞の数を数倍にまで増やすことで劣化への対策とした。

 また、臓器の機械化には最先端のナノマシン技術を使うことにより臓器の交換を不要にしまた臓器の負傷も一瞬で治療を可能とした。


 宇宙歴181年

 ユグドラシル計画の要となる人工生命体フェイト、人型戦闘用マシンエスポワールがついに完成の時を迎えようとしていた。人工生命体は人間の6倍の速度で育成され3年間で18歳まで成長させていた。この3年間の間にあらゆるデータのインプットを済ませ肉体も培養ナノマシンカプセルにより一般的な成人男性に比べて筋肉性能はおよそ7倍、臓器はナノマシンにより構成されているためおよそ20倍から25倍ほどと計算されていた。またこの人工生命体の頭脳には人工知能とほぼ同じ性能を実現していた。それに合わせて宇宙地図、ソリテールに関する戦闘データなど多くの情報がインプットされていった。

「フリージア博士、被検体ナンバー001の調整が終わりました。残るのは明日の最終調整だけです」

「そう、わかったわ。エスポワールの状況は?」

「現在武装関連の最終調整を行っています。明日には実用可能な状態になるかと」

「いよいよね。この26年余りの研究の集大成。人類が新たなる母なる星にたどり着くための箱舟。みんなに伝えて明日ユグドラシル計画は完成すると。総督には私が報告に行くわ」

「了解しました!」

 宇宙歴155年から正規計画の裏で代替プランとしてひそかに進められていたユグドラシル計画は26年もの歳月を経てついに完成の時を迎えた。

「総督フリージア博士が面会に来られました」

「通してくれ」

 宇宙連邦総督ハーロットは以前自身が呼び出し非人道的な計画を進める様に伝えた女性の変わらぬ姿を見て深いため息をついた。26年長いようでこれまでの宇宙歴を鑑みれば随分と短い時間で完成させたものだと、考えながら果たして自身の選択が正しかったのかどうか今になって迷っていた。

「総督閣下いよいよ明日ユグドラシル計画を実行します。人工生命体フェイトは明日培養カプセルから出します。メディカルチェックののち異常がなければそのまま人型戦闘用マシンエスポワールに搭乗させます」

「そうか、フェイトもエスポワールも替えがないものだ。くれぐれも慎重に頼む。私の残りの人生もそう長くはないだろう。ユグドラシル計画がもしも明日何らかの理由により失敗したなら私は最後まで見届けることが出来なくなるだろう」

「わかっています。全スタッフには明日のユグドラシル計画についてもう一度確認するように伝えてあります。どのような事態に対しても万全の準備をしていますのでご安心を」

「それならばいい。26年もの間必死に隠してきたのだからな、明日どんなことがあろうとも成功させるのだ」

 こうして宇宙歴181年7月ユグドラシル計画は実行に移された。表向きはコスト削減して作られた第2世代型のエスポワールとおよそ9年間の訓練を終えた第一次選抜部隊の着任式とされていたがその裏では人工生命体フェイトの誕生と生産性度外視の第1世代型エスポワールの最終調整であった。


 宇宙歴181年7月

 ユグドラシル計画の実行は大々的に取り上げられ地球の人々にとっても明るいニュースであった。宇宙連邦の放送により人工島に住む人々も惑星エデンの調査が大きく進展するだろうと確信していた。

 だが多くの人々は知らなかったユグドラシル計画の裏側では多くの人工生命体の失敗と非人道的な実験が繰り返されていたことを。

フロンティア序章です!

なかなか進展せずに随分と苦労しましたがようやく書き上げることが出来ました!

まだまだ至らないところが多いと思いますが今後ともよろしくお願いします。


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