フロンティア第一章9
今回はいつもより少し短めになっております。
宇宙歴182年
辺りはすでに夕闇に覆われている、だがそれも時間の経過とともに暗闇に飲み込まれていくだろう。
周りには街灯なども見当たらずこの辺りが未だ完成された地区でないことが窺い知れる。
「君に恨みはないがこれもまた必要なことだとわかってくれ」
フェイトを一撃で昏倒させた男は静かにフェイトを見下ろしている、特別目立つような風貌はしていないどこにでもいるようなまた目にしても記憶には残らないようなどこか存在の希薄な男はフェイトを担ぎ上げると静かにその場を後にした。
気が付いたときフェイトはこれまでの生活の中で一切の記憶がないところで閉じ込められていた。
どうして自分がここにいるのかもしばらくの間思い出せていなかった、夕暮れに沈む郊外辺りまでの記憶はあるがそこからの記憶がまるで靄のかかったようになりしっかりと思い出すことが出来なかった。
身体が拘束されていないのは拘束していても無駄だと知っている人物がいるからだろう、フェイトは見た目としては一般の男性とそれほどかけ離れていることはないが実際は生まれる前に幾度となく調整されているためその肉体からは予想できないほどの力を秘めている。
「さて、問題は誰が何のために私を捕らえたのかだが」
現実的な問題としてまずフェイトを拘束することは基本的に不可能と言っていい、例えエスポワールに搭乗していなくともフェイトの持ちうる戦闘能力は人類の中では間違いなくトップだろう。
だがフェイトを捕らえた人物はフェイトに気付かせることなく背後を取りさらに一撃でフェイトの意識を失わせることが出来るほどの能力の持ち主だ。
さらにフェイトの現状を知っているのかどうかまでは判断できないがもしフェイトの現状を知っているのであればフェイトを拘束した相手は宇宙連邦本部に通じておりさらにユグドラシル計画に関係している人物だろう、だが問題はそこまでの関係があるのであれば今現在フェイトがユグドラシル計画に必要とされているわけではない事を理解しているはずでありわざわざこのようなことをする必要がないのである。
「私の存在を知っていて尚且つ私を捕らえる理由があるとなれば候補はずいぶんと絞れますね」
現在の時間ははっきりとわからないが意識を失っていた時間は長くても3時間程度だろう、そうなれば人工島間の移動はなく自分が現在いる場所もさほど遠くではないだろう。
そうなれば問題はどうやってここから脱出するかであるが部屋の中を見回してみても脱出に使えそうなものは当然見当たらない。
特に拘束されていなかったのはそう言った拘束具が無駄であることが分かっているからだろう、むしろそう言った拘束具はフェイトの武器となり得るため使わなかったのであろう。
これと言った打開策がないまま時間だけが静かに過ぎていく、このまま何の連絡もなければ恐らくユフィーリアが何らかの異変を感じるだろうがそれによって誰がどのように動くのかすら予想が出来ないためフェイトは余計にここから動くことが出来なくなっていた。
意識が戻ってから凡そ一時間程度たったところで突然事態は動き始める。
「どうやら目が覚めたようだね、気分はいかがかな?」
どこからかここをモニターしているのだろう、聞き覚えのない男の声が部屋のどこかに設置されているだろうスピーカーから聞こえる。
「気分と言っていいかはわかりませんが、特に問題はありません」
「そうかね?一応試しに作らせた薬をいくつか投与してあるのだが問題ないならまだまだ改良の余地があるようだ」
「どうやらそのようですね、ところで私をいつまでここに閉じ込めておくつもりですか?」
「ああ、それなんだがね。はっきり言って我々にとって君が何ら価値のない存在だと言うことをつい数時間前に知ったところでね、正直持て余しているのだよ。どうやら少し聞いていた情報と違うところがあったもので我々としては君を拘束する理由がなくなったのだよ、だからいつでも解放できるし正直君のような欠陥品がここにいることを知られるわけにもいかない。だが、我々が君をここへと連れてきた事実は消えないだろう?だから非常に難しい選択を迫られているんだよ」
「つまり私を解放することは出来ないと?」
「そうとは言っていないよ?ただこのまま解放するには問題が多すぎると言っているんだ」
「それで?」
「選択肢は三つしかない、まず一つ目だが君を地球に送る、そして君は今後宇宙連邦や宇宙連邦に加担している地球の各国とは別の我々の力の及ぶ国で一市民として生きていく、そして二つ目はワープ航行にてどこか見知らぬ宇宙空間を漂う、最後の三つ目だがここで死ぬ。好きなものを選んでくれ、我々としては二つ目をオススメするよ?その方がお互いのためだろう?」
「なるほど、まるで話になりませんね。私が自分の力でここから逃げ出すことが出来ないと思っているのですか?」
「ああ、もちろん。そうでなければ君をここに連れては来ないよ?何なら試してみても構わないが結果としては二つ目の選択肢とそう変わらない結果になるだろう」
「例えどうなろうと、私は私のいるべき場所へと戻ります」
「君のいるべき場所などすでにどこにもないよ、君はユグドラシル計画から外されているすでに代わりとなる人工生命体も存在している。人工生命体として君の能力は非常に高いものだがこれから創られる人工生命体の方が君よりも高い性能を有することは当然だろう?残念ながら君はすでに宇宙連邦の庇護下にないのだよ、だから君には価値がない。ただ性能の高い人工生命体であればまだ多少の利用価値もあったが何せ中途半端に人に近づいたせいで君はただの欠陥品だよ」
「私は!欠陥品ではない!私は望まれたから人になろうとした!そのために多くのことを学び人に触れて感情を手にした!私は決して欠陥品などでは」
「そうかね?ではなぜ必要とされていない?なぜこの数日君は一度もエスポワールの調整に参加していない?なぜ誰も君を救おうとしない?なぜ君はここにいる?」
「それは..」
「君は知っている、すでに必要とされていないことも必要とされなくなった人工生命体がどのような結末を辿るのかも」
「例え必要とされていなくとも私は..」
「中途半端な人形を誰が欲しがる?人でもない人工生命体でもないならば君は何だ?君の存在価値はどこにある?」
「わからない、だから知ろうとした。私に出来ることを私が必要とされることを」
「それで答えは出たのか?」
「いいえ、どれだけ考えても答えは出ませんでした。必要とされて生み出されたはずなのに今の私は必要とされていないわかったのはそれだけです。でも私はもう私という存在を変えられないただの人工生命体に戻ることも人になることも出来ない」
「ならば君は何になる?誰に必要とされたい?何を欲する?」
「私は何にもならなくていい、ただ多くの人に必要とされたい、私は自分の居場所を欲している」
「そう、だったら貴方はそれを実現する為に生きなさい。何も悩む必要はないわ、貴方はようやく自分の在り方を見つけたのだから」
スピーカーからの声ではなかった、この部屋に唯一存在している扉を開いてやってきたのはフリージアだった。
「フリージア博士?」
「ごめんなさい、でもこうやって貴方の在り方を自分で決めさせなければ貴方はずっと中途半端な存在のまま生きていくことになったでしょう。私は貴方を人として教育してきた、でもそれだけでは不十分だったのよ。貴方は人でもなく人工生命体でもない全く新しい人の可能性として生きてほしかった。貴方が自由をただの人として生きていきたいと願うなら私はそうするつもりだった、だからあえて私は貴方を突き放してユグドラシル計画から外したわ。そうすることで貴方はきっとより多くのことを自分から学ぼうとするからその中で貴方の生き方が見つかったならそれを応援するつもりだったわ」
「なぜ私にそこまで?」
「貴方を生み出したのは私たちの勝手だもの、私たちが必要になったから貴方は生み出された。でも私は人工生命体を道具として使い捨てるつもりはないわ。みんなそれぞれに自由に生き方を決めてほしいの、そうでなくては必要とされなくなった途端に人工生命体は行き場を失う、人に望まれたときだけその存在価値があるだなんて私は認めない。貴方達だって生きているの、だから自分のことを最後に決めるのは自分自身でなくてはならない。今後生み出される人工生命体達にもそうなってほしいだから私は貴方に自由を知ってほしかった、自分の生き方を人工生命体だって決めていいんだってそう思えるように」
静かな時間が過ぎていく誰も何も言わない空間でフェイトの心は確かに成長していた。
今回の話は二話に分けて投稿するかどうか迷ったのですが少し削って一話にまとめて投稿しました。
今後少し削った部分を小出しにして出すかもしれないのでよろしくお願いします。
今回も改行を多めに入れていますが読みずらいなどの意見がありましたらコメントにてご指摘お願いいたします。