フロンティア第一章7
今回はユフィーリア視点ですが話のメインはフェイトとなっております。
宇宙歴182年
ユフィーリアはここ数日フェイトの様子の変化について考えていたが結局答えが出ないため思い切ってフリージアやルーシェにも聞いてみたが二人とも答えを濁すだけで明確な答えをもらうことが出来なかった。
そうして自身の中で答えが出ないままもやもやした気持ちを晴らすためにユフィーリアはフェイトに直接聞きに行くことにした。
本来ならその日のうちに自室へと戻れるはずだったのだがフリージアからの指示によりしばらくは病室にて過ごすことを余儀なくされていた。
もっともそうなったところでユフィーリアも自分の食事などの用意は出来るので問題はないのだがフリージアがわざわざ必要のないことをするはずがないという確信から何らかの意味はあるのだろうがそれを知ることは叶わなかった。
この数日で見慣れた真っ白な天井を見ながらフェイトはいつものように体内ナノマシンで精査していくがすでに怪我は治っておりなぜ自分がここに居なければならないのか分からないままこの数日を過ごしてきたがフリージアやルーシェを含めて自分の知っている人が見舞いに来ることもなかった。
そんな毎日を送っているとだんだんと自分と言う存在が分からなくなってくる、これまでのように任務を与えられて必要なことをしていればそれでよかったころとは全く違う、どれだけ考えても答えが出ないままそれでも考えることをやめられないフェイトは常に同じところをぐるぐる回っているようだった。
真っ白なカーテンに仕切られている病室はどこか別の世界のように感じるところもあるがそんな中突然いつもと違うことが起きた。
区切りとなっているカーテンが無造作に引かれる、突然のことにフェイトとしては珍しくまともな反応が出来なかった。
「相変わらず抜け殻の様ね」
そこにはこの数日見ることのなかった同居人がいた。
「ユフィーリア何か用か?」
これまでと変わらない様子でユフィーリアはそこにいた、例え人であろうと人工生命体であろうともたった数日で驚くほど変わることはないのだろうがこの時フェイトは普段と変わらないユフィーリアをみて少しだけ安心していた。
フェイトの周りの環境はこの数日で大きく変わっていた、フリージアからの言葉とユフィーリアとの模擬戦一つ一つは小さなことでもそれが積み重なってフェイトには背負いきれないほどの負担となってのしかかっていた、フェイトでさえそれを自覚していない状態だがそれでも確実にフェイトの精神を蝕んでいた。
「この数日で何があったの?フリージア博士やルーシェ博士にも聞いたんだけど二人ともまともに答えてくれないのよね、だから直接聞くことにしたの」
「この数日?」
「ええ、模擬戦の時から貴方の様子はおかしかったもの、何があったの?」
「私はどうしたらいい?フリージア博士は完璧な人工生命体を求めている、人になろうとしている私ではなく人工生命体として任務を第一にし時には人では下すことの難しい決断をすぐさま決断できるそんな理想の人工生命体を求めているもう私は必要ないのだろう」
人工生命体としては珍しく感情が表に出ている状態で話すフェイトを見ていると同じ人工生命体であってもこれほど違うものなのかと思ってしまうほどユフィーリアとは違って見える部分が多い。
「貴方はどうなりたいの?人になりたいのそれとも完璧な人工生命体とやらになりたいの?」
「わからない、自分がどうしたいのか自分がどうありたいのかもわからなくなってしまった」
「そう、私も偉そうに言える立場ではないけど貴方が自分自身を見つけられない限りずっと貴方は抜け殻のままよ。自分がどうしたいのかわからなければ誰も貴方を助けることすら出来ないもの、例えどんな結果になるにせよまずは貴方がどうしたいのかそれをはっきりさせるべきではないかしら?」
ユフィーリアはなぜ自分がわざわざフェイトにこのようなアドバイスをしているか自分でもわからなかったがこれまでひたすらに超えたいと思っていた相手が自分と言う存在で悩むことを知り自らと変わらないことを知ったことでほんの少しだけ二人の距離が近くなったのかもしれないとそう感じていた。
「なぜ私のことを気に掛ける?私が居なくなれば君が最高の人工生命体であることが証明できるだろう?」
「見くびらないでほしいわね、そんな状態の貴方に勝ったところで嬉しくもなんともないわ。貴方は以前私に言ったわよね?自分を道具だとは思わないと、だったらそれが貴方の答えなのではなくて?」
「そうかもしれない、でも今必要とされているのは道具となりえる人工生命体だ」
「だったら道具になれば?」
「確かにその通りだろうだがそうなってしまえばこれまでの私は一体何のためにいた?なぜ人として生きようとさせた?なぜ私は人にも人工生命体にもなりきれない中途半端な存在になっている?」
フェイトはまるで幼い子供のように自分の納得のいく答えを探し求めている、きっと頭ではわかっているのだろうそれでも納得できないのはきっと彼の感情が人と変わらぬほどまで成長したせいなのだろう。
「その答えを貴方は知っているではないかしら?でもそれで納得できないのならこれから見つければいいだけのことでしょう?少なくともこんな場所で抜け殻のような貴方では一生答えが出ることはないと思うわ」
ユフィーリアはそのまましばらくフェイトを見ていたがいつのまにか居なくなっていた。フェイトはユフィーリアに言われた言葉の意味をずっと考えていた。
フリージアはこの数日人工生命体の量産化のため準備を進めていた、このまま順調に行けばおよそ一年後には必要な数の人工生命体を作り出すことが出来るだろう、最も性能よりもコストパフォーマンスを優先しているためフェイトやユフィーリアと比べるとずいぶん性能の低い人工生命体しか出来ないだろうがそれをカバーする為にエスポワールの調整も進めている。
ソリテールはこちらとの戦闘を行うごとに成長している、そのため同じ作戦は二度と使えない無人機部隊での戦闘も超長距離射撃での殲滅もそして今回実行する予定である奇襲作戦も一度ソリテールに知られてしまえば何らかの対策をしてくることだろう、だがそれで構わない現在必要なのは出来るだけ詳細なソリテールの戦闘データだけでいくつ作戦がつぶされようともそのデータさえ入手出来ればそれでいいと考えていた。
「フリージア博士ユフィーリアさんが少しお話したいとこちらに来ていますがいかがなさいますか?」
「いいわ、通して」
エスポワールの調整も一段落したところで休憩を取っていたところにユフィーリアの訪問が告げられる、これまで一度もユフィーリアからこちらとの接触を求めることはなかったため少し意外に感じるが恐らくこのタイミングで来ると言うことはフェイトのことについてだろう。
数日前にもフェイトに何があったのかと自分とルーシェに聞きに来ていたので恐らく間違いないだろう。
「失礼します、突然の訪問にも関わらずお時間を割いていただき感謝します」
「別にいいのよ、ちょうど休憩をしていたところだもの。それに貴女の方からこちらに出向くなんて貴重な体験を逃すわけがないわ」
「そうですか、さっそく本題に入らせていただいても構いませんか?」
「もちろん、大方予想はついているもの」
「それなら話は早いです、フェイトに直接話を聞いてきました。なぜフェイトを追い込むようなことを言ったのですか?このままでは彼はずっと抜け殻のままですよ」
「貴女から見てフェイトはどう映ったかしら?人それとも人工生命体?」
「彼はどちらにもなりきれていない人でも人工生命体でもないそんな中途半端な存在です」
「そうね、でもそれが問題なのよ。このまま中途半端な存在として生きていては彼に未来はないわ。人と人工生命体の最たる違いは何が知っているかしら?」
「創られた存在かどうかかしら?」
「いいえ違うわ、確かに人工生命体は創られた存在よ、人工生命体が生み出されると言うことは必要な役割があると言うことよ。必要がないのにわざわざ人工生命体を作るのは時間とお金の無駄だもの、フェイトは人類が今後衝突するであろう地球外生命体との戦闘に向けて創られてる、だから人よりも優れた肉体と頭脳を持ち得ているし人類の英知がその肉体に刻み込まれているのよ。でもね、結局は人工生命体はすべてを与えられているのよ、人は良くも悪くも欲があるものなのよ。平和に生きたい、莫大な富を得たい、権力を手にしたい、人によってそれぞれの形を持っているだろうけど生きている以上その欲から逃れることは出来ないのよ。でも人工生命体はそうじゃない、初めからすべてを与えられているの必要とされれば必要なことを
こなし必要がなくなればいつの間にか消えていくそんな存在なのよ。人工生命体には人のような欲がないのよ、それは感情が人に比べて発達していないからでもねフェイトは人として生きようとして人工生命体としてはあり得ないほどの感情を得ているわ。最も人から見ればたいしたことではないように見えるけど人工生命体として生まれた彼が感情を持て余していることは間違いないわ」
「どうしてそう言い切れるのですか」
「だって感情がなければ私が完璧な人工生命体が必要だと言っているんだから彼は迷わず完璧な人工生命体になろうとするはずだもの、でも彼は迷っている人になりたいと言う本来持ち得ないはずの欲が彼には生まれている、それがどれほどのことか貴女にわかるかしら?貴女には欲はないでしょう?人工生命体が欲を得るだなんてことは本来有り得ないとされていたでも彼は欲を得て今悩んでいるだからこそ自分で答えを出さなければならないのよ、ここで彼に答えを与えるようなことは決してしてはいけないよ。もし答えを与えてしまったら彼は何の変哲もないただの人工生命体になってしまうもの、それでは無意味なのよ」
「貴女はフェイトに何をしようとしているのですか?彼が本物の人間になれるとでも?」
「わかっていないわね、本物であろうと偽物であろうとそんなことは些細な問題よ。必要なのは彼が自分自身の欲を理解することそうすることで彼は新しいステージに上がることが出来るのよ。人でも人工生命体でもたどり着くことが出来ない場所に彼は近づこうとしているわ」
「つまり人も人工生命体も超越した存在を貴女は創ろうとしているのですか?」
「そうよ、彼はそれだけの可能性を秘めているの。彼のデータだけを盗んで創られた貴女とはまるで違うのよ、彼が彼だけがこの状況を変えられるのよ」
フリージアの言葉に迷いはなかった、フェイトだけがこの状況を変えられるとそう信じていることは間違いないだろう、だがそのためとはいえこのようなやり方は余りにもリスクが大きすぎユフィーリアには他にも理由があるように感じられたが今のところこれ以上何かを聞いても正直に答えてくれることはないだろうとそう判断してその場を去っていった。
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