フロンティア第一章6
今回は短めで調整しております。
宇宙歴182年
目の前が真っ白の閃光に包まれている、フェイトはその光景を眺めながらもどこか他人事のように感じていた。
人工知能からは今も変わらず警告音と共に回避行動を取るようにと推奨情報が来ているがフェイトはまるで反応していない。
エスポワールの前面にはパルスシールドが展開されているだが事前に人工知能から報告があったようにパルスシールドの出力ではプラズマ砲を防ぎきることは出来ない、エスポワールが大破するようなことはないだろうがそれでも搭乗者であるフェイトが無傷で済むことはないだろう、それだけの威力がある攻撃が放たれているのだから。
「私は一体何のために、誰のために、どうしたいのだこれから」
恐らくこの言葉を聞いたのは通信が通じているユフィーリアだけだろうだが果たしてユフィーリアはフェイトの言葉に含まれた多くの思いにどれだけ気付けているだろうか。
結局答えが出ないままフェイトが最後に聞いたのは人工知能から発せられる警告音だった。
「フリージア博士なぜプラズマ砲の使用許可を?」
「あのまま続けていても私たちが望むデータは得られなかったでしょう?だったら第八研究所の成果であるプラズマ砲の威力を図ることが出来ただけまだよかった方でしょう」
「下手をすればフェイトは死んでいますよ?それなのに」
「言いたいことは分かるわ、でもユフィーリアがフェイトを殺すことはないわ。絶対にね」
フリージアは何らかの確証を持っているのだろうがそれでもその光景を間近で見ている方としては気が気ではない。
「すぐにフェイトを医療室に連れて行って、必要なことはすでに伝えてあるから無用な手出しはしないと思うわ」
フリージアはそれだけを言うと部屋から出て行ってしまう、まるで初めからこうなることが分かっていたかのような態度で普段と変わらない表情でその場を後にした。
ユフィーリアの目の前では大破とまではいかないまでも恐らく戦闘を続行するだけの性能は発揮できないであろうエスポワールが静かに横たわっている、プラズマ砲が直撃するまでの間に恐らく全出力をパルスシールドへと転換したことでダメージを最小限に抑えたのだろうがそれでも一撃で戦闘不能の状態にまで陥らせることが出来た、しかもこちらは最大出力ではなく7割程度の威力で撃っているからフルパワーで撃っていたら間違いなくフェイトは死んでいただろう。
そんなことを考えているとルーシェから模擬戦の終了を告げられた、ユフィーリアはそのまましばらく医療班に回収されていくフェイトを眺めていたがフェイトの姿が見えなくなるとそのままハッチへと引きかえしていった。
フェイトが目を覚ました時その瞳に移ったのは真っ白な天井だった、いつものように体内ナノマシンで自身の肉体の状況を確認するとどうやらいくつか打撲と内出血を起こしているようだ。
もっともその程度の怪我であれば一時間程度体内ナノマシンの活動を活発にすれば治癒することだろう、そう思いフェイトは静かに体内ナノマシンの活動を活発化させたところで思い出す、なぜ自分がこのような怪我をしたのか。
「そうか私は負けたのか」
これまでの生活の中でどのような事でも負けたことはなかった、それは人をはるかに凌ぐ性能を持った人工生命体であれば当然のことでこう言っては失礼かもしれないがはっきり言ってしまえば負ける要素がなかったのだ。
フェイトは特別勝ち負けにこだわるような性格はしていない、自分に与えられた任務を成功させられれば勝っても負けてもどちらでもよかったからだ。
だから今回の模擬戦での敗北も特に気にするようなものではないと思っていたが改めて自分の口から負けを認識すると急に複雑な気持ちになった。
戦闘中何度かユフィーリアの声が聞こえたがその言葉はまるで頭には入ってこなかった、戦闘中ですら自分の頭の中はフリージアに言われた言葉で埋め尽くされていた。
「これでもう私は必要なくなったのか」
フリージアが現在求めているのは完璧な人工生命体だ、人になろうとしている不完全な人工生命体では彼女の作戦を遂行できないだろう、確かに今回の模擬戦のような結果では実戦に出ることなど出来ないだろう。
そう自覚したとたんに自分と言う存在が消えていくような徐々に誰にも認識されなくなりこの世界から消えていくようなそんな感覚を覚えながら今後どうしていくかをぼんやりと考え始めた。
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