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フロンティア  作者: kisuke
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フロンティア第一章5

 宇宙歴182年

 宇宙連邦の今後の方針を決めるためにハーロット総督の自室へと集まった面々は一応の答えを出したところで解散となりそれぞれの思いを秘めたまま部屋を出て行った。

 そしてその中にフリージア博士やフェイト達の姿も見えた。

「フリージア博士なぜあのような発言を?説明を願います」

 フェイトにしては珍しく少し憤りを感じているように聞こえる声でフリージアを問い詰める。

「なぜって?それが実現可能で現状最も可能性の高いことだからよ」

「ですが、それではあまりにも多くのものを失います」

「何かを欲するのなら何かを捨てなさい。人は望んだものすべてを手に入れられるほど優れてはいないわ。だから私は惑星エデンを手にするために人工生命体を捨てるのよ」

 フリージアの言葉にはとても強い意志の力が宿っているとそう思えるほどはっきりとした口調で冷酷なまでに告げる。

「私は賛成できません、自らの同胞を進んで死に向かわせるようなことは出来ません」

「そう?それならユフィーリアに任せるだけよ。彼女は人工生命体としての生き方を望んでいるもの必要な手続きと段階を踏めば了承してくれるでしょう」

「なぜですか?貴女は私に人としての生き方をするように教えてくれた。それなのにどうして今は人工生命体として死ねと仰るのですか」

「フェイト、ユグドラシル計画の本来の形を忘れたの?私たちは元々人工生命体を量産してそれを最前線へと送り敵性生命体の情報収集をして可能な限り人の命が失われないようにするためのものなのよ?ある程度のデータは集まっているし今後行っていくエスポワール同士の戦闘データでほぼ必要なデータは集まるの、そうなれば残る問題は戦場に向かう兵士だけ人工生命体はいくらでも作れる普通に人が育つよりもはるかに短い時間で人の持ちうる能力を上回る兵士が作れるのよ、必要な調整をすれば完璧な統制のとれた最高の軍隊が作れるのそれが出来るのは貴方達人工生命体だけなのよ」

「それでは私がこれまで学んできたことは一体何だったのですか?人にはなれない私に人としての生き方を学ばせたのは?なぜ人と同じように感じる心を持たせたのですか?」

「それもすべて必要な事だったからよ。でも現在の状況ではもうそれは必要ないわ、私たちが求めているのは人工生命体としての完璧な存在なのよ」

「それではもう私は必要ないと?」

「貴方次第よ、例えどうであれ貴方が特別であることに変わりはないわ。今後の作戦に参加するもしないも自由にすればいいわ」

 フリージアはそう言い切るとその場を立ち去っていく。恐らくユフィーリアのエスポワール調整のために地下格納庫へと向かうのだろう。

「フェイト」

 これまでの話を静かに聞いていたルーシェだがフェイトがこれまで見せたことのない姿を見てなんと声を掛ければいいのか分からず結局そっと肩に手をのせてそのままフリージアの後を追っていく。

 そのあとを残っていた研究者たちも続いていく中フェイトはただ一人その場に立ち尽くしていた。


「フリージア博士本当にあれでよかったのですか?」

 地下格納庫でエスポワールの調整を進める中ルーシェがフリージアに問いかける。

「彼は絶対に失うわけにはいかないの。彼を失わないためならどれだけの人工生命体が犠牲になっても構わないわ。だからこそ多少強引であっても必ず成し遂げなければならないの、例えそれで彼の信頼を失うことになっても彼がいればこのユグドラシル計画は必ず成功するもの。そのためにもっと多くのデータが必要になるそれだけのデータが集まるまでは何としてでも時間を稼ぐわ」

「ですがこのままではフェイトは立ち直れないかもしれません」

「彼はそんなに弱くないわ、彼なら自分で答えを出してここに戻って来るわ」


 フェイトは答えが出ないままユフィーリアとの模擬戦のため地下格納庫へと向かっているがその足取りは重たい。

 単純な怒りではなく疑問の方が大きいのはやはり人工生命体であるからだろうか、それとも未だにフリージアに言われた言葉を受け止めきれずに混乱しているだけだろうか。

 結局答えが出ることもなくフェイトは迷ったままユフィーリアとの模擬戦に挑むことになる。


 すでにエスポワールの調整を終えてフェイトの到着を待っていたユフィーリアはやってきたフェイトの表情を見て違和感を覚えた。

 何故かはわからない、特別付き合いが長いわけではない、確かに一緒に暮らしてはいるがお互いに必要最低限の関わりしか持たないようにしているため違和感を覚えてもそれが一体何なのかまでは分からなかった。

 本来人工生命体は感情表現に乏しいとされている。その大きな理由は人の感情は作り出すものではなく本人が育っていく中で自然と現われてくるものであり誰かに教えてもらうようなものではないからだ。

 だから幼少期などを過ごすことなく一気に肉体として最も完成度が高くなる18歳から20歳ぐらいまでは眠ったまま過ごすことになる人工生命体は感情が乏しくなりがちだと言われている、当然ある程度のことはその中でインプットされていくが人の感情と言うものは未だにデータとして送り込むことの出来ないものの一つであり人工生命体は与えられた任務を遂行するように調整されているため感情と言うものを知らない。

 そうであるはずなのに、彼はこれまでの短い時間で人と変わらないだけの感情を見せるようになっている。最もそれを本人が意識しているかどうかは分からないが今の彼を見て例え人工生命体であると知っていてもそう簡単には信じられないだろう。

「あれではただの人形ね」

 エスポワールの中でユフィーリアは誰にも聞こえないような小さな声でそう呟いていた。


 地下格納庫へと到着しエスポワールに乗り込み今回の模擬戦の内容を説明されている間もフェイトはどこか虚ろな表情をしていた。

 すでに必要なデータは人工知能へとインプットされているためそれほど大きな問題はないがそうであってもフェイトがこのような状態でいることは初めてだった。

「フェイト聞いているの?」

 その様子を見かねたフリージア博士が声をかけるが帰って来る返事はやはりどこか気の抜けた返事でしかない。

「はい、問題ありません。始めてください」

 フリージアはその様子を見ながらも模擬戦の開始を告げた。


「フェイト貴方がどうしてそんな腑抜けになっているのか知らないけど、私は手加減しないわよ」

 開始の合図と同時にユフィーリアからの通信が入る、フェイトはユフィーリアにすら自身の状態を見抜かれていることに困惑するがこれまで通り努めて冷静な声で答える。

「ああ、必要ない」

 フェイトからの返事を聞くともはや交わす言葉はないとばかりにユフィーリアは一気に仕掛ける。

 単純な出力だけであれば第一世代型エスポワールを上回るユフィーリアのエスポワールはおよそ300メートルの距離を一瞬で詰めた。

 それと同時に両手にパルスブレードを展開させると胸の前で交差させてそのまま突っ込んでいく。

「敵機の交戦意思を確認、パルスシールド展開」

 特にフェイトが指示を出さずとも人工知能は攻撃を仕掛けてきた敵機に対して迎撃態勢を整える。

 エスポワールの前面に展開されたパルスシールドは相手のパルスブレードをしっかりと受けきる、だが勢いまでは抑えきれずにそのまま後方へと吹き飛ばされていく。

 人工知能は姿勢制御用のスラスターを出力最大で放射すると吹き飛ばされる自機を持ち直す、それと同時にフェイトに迎撃用のプランを提示するがフェイトからの返答はない。

 人工知能がフェイトからの指示を待っている間にユフィーリアはパルスブレードからパルス砲へと変更すると動く様子のないフェイトに向けて撃ち込んでいく。

 再び前面にパルスシールドを展開して攻撃を防いでいるがこのままではいずれシールドが破られるだろう、人工知能からは再三迎撃用のプランが提示され続けているがフェイトはそれらに答えることなくただひたすらに虚ろな表情で前を見つめ続けている。

「フリージア博士これでは模擬戦になりません。今日のところはいったん中止して後日仕切りなおすべきでは?」

 模擬戦の様子を見ていたルーシェはフェイトが一切行動しないことに見かねてフリージアに提言するがそれを聞いてもフリージアは模擬戦を中止しようとはしなかった。

「その必要はないわ、どんな結果になるとしてもこの戦闘のデータは必要になるもの」

 フリージアの言葉に何か反論しようとしたルーシェだったが言葉を紡ぐ前に模擬戦で動きがあった。

「私もバカにされたものですね、確かに貴方と比べたら私など失敗作に過ぎないかもしれません。ですが防戦一方でしかも何らかの動きすら見せないとはずいぶんと余裕ですね」

 パルス砲を撃ち込み続けながらユフィーリアはフェイトに通信を飛ばすが返答が帰ってくる様子はない、そしてそれがユフィーリアのプライドを大きく傷つけた。

「いいでしょう、そちらがその気ならこちらももう手段は選びません!」

 パルス砲の攻撃を止めユフィーリアは新たな武装を展開させる、第一世代型エスポワールよりもさらに改良を施されたユフィーリアの機体には新たな武装がいくつか試験的に搭載されているそのうちの一つであるプラズマ砲の準備を進めた。

 本来はパルスシールドを展開する為に用意されている腹部のコアをプラズマ収束コアに変更することでシールドの展開は一時的にできなくなるものの従来のパルス砲を遥かに上回る出力を持った攻撃が可能となっている、本来は一対一で使うような武装ではなく戦術レベルでの高度な作戦をもって運用することを目的に開発されてものだがフェイトが一切の動きを見せないであれば問題ない。

 現在の技術力を持ってしてもソリテールの装甲を一瞬で突破するだけのプラズマを収束させることは困難であり発射までに凡そ20秒前後の溜めが必要となっている。

 しかもプラズマ収束中はほぼすべてのエネルギーをプラズマへと変換するため機体は無防備な状態になる、そのため実戦で使う場合にはプラズマ収束までの時間その機体を守らなければならないため非常に高度な戦術が要求されるとされている。

「敵機から未確認の高熱源を感知 パルスシールドでの防御は不可能と判断 回避行動を」

 敵機からの攻撃に対してすぐさま的確な判断を下している人工知能だがフェイトからの要請がない限り人工知能が搭乗者の代わりにエスポワールを動かすことはしない。

 最も人では反応しきれない場合を考えてパルスシールドの展開に関しては人工知能が常に展開できるようになっているが今回のような場合は人工知能から出来ることは搭乗者に対して必要なデータを提示するだけでエスポワールの行動に介入することはない。

 これは人工知能に必要以上の権限を与えることを危惧した結果である。

「フェイトわかっているだろうけど避けなければいくら模擬戦と言ってもケガではすまないわよ」

 未だに動く気配を見せないフェイトに最後通告だと言わんばかりの言葉をかけるがそれにすら一切の反応を見せないフェイトにユフィーリアは最後の良心すら捨てた。

「プラズマ収束完了、発射準備完了」

 人工知能からプラズマ砲の準備が完了したことを告げられるとユフィーリアは迷いなくエスポワールをロックオンする、恐らく今フェイトには人工知能から幾度となく警告が発せられているだろう、それでもフェイトに動きは見えない、だからユフィーリアは静かにだがしっかりと人工知能へと向けて言い放つ。

「発射」

 ユフィーリアの言葉に合わせて収束されたプラズマ砲がフェイト目掛けて放たれた。

ようやく少しずつお話が進んできたわけですがここから先の展開はこれまでと同じ文字数で収まるかどうかわかりません。

そのため申し訳ないのですが時々長くなったり短くなったりすることがあると思いますがそう言った場合には前書きでお知らせさせていただきます。

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