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フロンティア  作者: kisuke
12/20

フロンティア第一章3

 宇宙歴182年

 第八研究所から突如ユグドラシル計画へと参加させるようにとやって来たユフィーリアは現在フェイトの部屋で共同生活を送っている。お互い世間話をするようなことはなく最低限決められた内容を口にするだけでお互いの関係は良好とは言えなかった。

 人工生命体として生き与えられたことだけに従順に従い生きるユフィーリアと違いフェイトは自身で考え何かを求め与えられた任務や役割だけで満足しようとはしなかった。

 その生き方がユフィーリアにとっては自身の存在の否定につながりまた人工生命体としての与えられた権利を著しく逸脱しているように感じているからだ。

 現在宇宙連邦には人工生命体の権利を明言する法は存在していないその理由としてはフェイトもユフィーリアも人工生命体であると知っている人物が限られているからであり現在そのような法を整備する必要がないからである。

 表向きはフェイトもユフィーリアも軍人としての扱いになっており二人を軍の一員して知る者たちは人工生命体であるとは知らされていなかった。

 現在のところハーロット総督は人工生命体に将来的には人と変わらないだけの権利とそれに付随する義務を与えるつもりではあるが未だ人工生命体の量産は目途が立っていないためそれらが実現されるのはずっと後のことになるだろう。

「今日の予定はエスポワールの調整が終わり次第軍の訓練に参加して最後にハーロット総督との今後の調整についての打ち合わせがある。すべて参加可能か?」

「今日地球から私のエスポワールが届くから軍の訓練が終わったら調整に入りたいからハーロット総督との打ち合わせは参加できないわ」

「了解した、決定事項については従うと言うことで問題ないな」

「いいわ、最も私の任務に支障が出るようであれば従うことは出来ないけど」

 お互いに険悪な雰囲気を纏いながらも互いに気にすることなく淡々と確認事項を進めていく。

ちなみに今日はルーシェが来ておらずフェイトが朝食を作りユフィーリアは特に文句も言わずに食べていた。

「そろそろ時間だ、いつまでも食べていると遅刻するぞ」

 ずいぶんと長い時間をかけて食事をしているユフィーリアを横目にフェイトは準備を進めると先に部屋を出た。特別ユフィーリアに見られて困るようなものは部屋に置いていないため気にせず先に部屋を出るが彼女の狙いがなんであるのか明確になっていない以上警戒はしても何に警戒するべきは分からない状況では無意味だろう。その為フェイトは特に意識することなく普段通りの生活を送っているが常に一緒に居る相手が出来たというのは彼にとって大きな変化であった。


「フリージア博士今日はどのような調整を行いますか?」

 地下格納庫へと到着したフェイトはすでに準備を進めているフリージアに尋ねる。

「今日はユフィーリアのエスポワールが届くそうだからユフィーリアのエスポワールを調整した後模擬戦をやってもらいたいの。ソリテールがエスポワールの形状を取っている以上これまでの戦闘データは余り役に立たないわ、だからエスポワール同士の戦闘データが必要なの」

 フリージアの言葉は特別驚くようなことではなかった。第一世代型エスポワールと第二世代型エスポワールでは性能に大きな差があることは明白でまた第二世代型同士の戦闘データではこれもまた性能差のせいで細かいデータの微調整が必要であり今回送られてくるユフィーリアのエスポワールも第一世代型エスポワールの改良型であり単純な出力などでは第一世代型エスポワールを上回っている。

「了解しました。ユフィーリアの了承は得られているのでしょうか?」

「ええ事前に通達してあるわ。エスポワールの調整をするために今日のハーロット総督との打ち合わせは参加せずに調整に専念してもらう予定よ。だからハーロット総督との打ち合わせが終わり次第申し訳ないけどもう一度ここに来て模擬戦をしてもらうわ」

 フリージアからの説明を受けたフェイトはそのまま対エスポワール用の調整を進めていった。

 エスポワールの調整は凡そ一時間程度で終了しフェイトは軍の訓練へと参加するため地下格納庫を後にした。


「よおフェイト今日は早いな、エスポワールの調整はもういいのか?」

 軍の訓練所へと到着したフェイトに声をかけてきたのは同じ分隊に所属しているベルク曹長だ。

 ずいぶんと厳つい顔つきをしているが実際は周りによく気を配り彼の性格からか部下や後輩の相談にも親身に向き合ってくれる非常に珍しい人だ。

「はい、今日はいつもと比べても簡単な内容でしたし皆さん優秀ですので特に問題もなくスムーズに終わりました。ベルク曹長こそ一時間も前から来ていらっしゃるとはずいぶんと珍しいことですね?」

 普段は訓練の時間ギリギリまで姿を見せることがないが今日に限って言えばずいぶんと早く来ている、少なくともフェイトが軍の訓練に参加を始めてから初めてのことだろう。

「今日は朝から少し予定が入っててな、家に戻ってもよかったんだが面倒でなそのままここに来ちまったのよ」

 そう言いながら彼は豪快に笑って見せる。フェイト個人とすれば彼は信頼でき訓練においても真剣に取り組みまた多くの人から慕われている彼を見ていつか自分もこういった人間になりたいとそう思う程度には信用していた。

「そうでしたか、実は以前から気になっていたことがあるのですが聞いてもよろしいですか?」

「おう俺に答えられることなら何でも聞いてくれ」

「ベルク曹長はなぜ軍人になられたのですか?ベルク曹長のご実家は実業家だとお聞きしましたが?」

「ああそれか、何どうってことのない理由だ。俺は頭を使うよりも体を動かす方が得意だからな、それに俺には弟がいるんだが弟は頭が良くてな俺なんかが家を継ぐよりもよっぽど安泰なのさ」

 ベルクはそう言うとまた豪快に笑っていた。自身の才能を見極め決して深追いせず自身に向いていることを見つけることが出来る人が一体どれほどいるだろうか。実家を継いでいれば恐らく不自由のない人生を送ることが出来るだろう、だが自身には向いていないとそう言い切って軍に入る決意を固めることは恐らく並大抵のことでは決断出来ないだろう。人はどうしても楽な道を選んでしまう、苦労せずに生きていけるならそれに越したことはないのだろうが自分から進んで苦しい道を選ぶ人はごく少数だろう。

 だがそれでも彼はこの道を選んでそして成功しているのだろう、少なくとも今ここにいる彼は楽しそうに毎日を過ごしているのだから。

「そうでしたか。人には向き不向きがあると言うことですね。私は軍人に向いているのでしょうか?」

「軍人ってのは酷い職業さ、俺たちは誰かを守り何かを得ようとするがそのためには犠牲が必要になる。俺たちが必要とされたときにはもう誰かが傷ついているんだよ。そして誰かを傷つける役目を果たすんだからな。それを知ってもなお守りたいと願うなら軍人を続けるといい、でもそれに疑問を抱いたなら軍人はやめておきな、戦場に出たら迷いは禁物だ一瞬でも迷えばそれだけで自分か周りの仲間の誰かの命を失うことになる。ソリテール殲滅戦を体験してよくわかったよ、あの場では迷ったやつから死んでいった。俺は死にたくないからすぐにワープ航行で逃げたのさそうして仲間を犠牲にして俺は生きてるだからよく考えな誰かを失ってでも成し遂げたいことがあるのかどうか軍人として非常になりきれるのかどうか」

「よく考えてみます。自分が成したいこと自分の覚悟を」

「説教臭くなったな、歳を取るとないい経験も悪い経験もたくさんするからな自分と同じような間違いを犯してほしくないからどうしても説教じみてしまうもんだな」

 ベルクはそう言ってまた豪華に笑った。一体どれほどのことを乗り越えて彼はこの笑顔を見せているのかフェイトは考えても答えが出ることはないと思いながらそれでも考えることをやめなかった。

「どうだ訓練までまだ時間があるから飯でも食いに行かないか?普段食堂で飯を食わないだろ?ここの食堂はそれなりに美味いんだぜ?軍人が利用するから栄養面もバッチリだしな」

 ベルクはそう言いながらすでに食堂へと向けて歩き始めている、訓練の時間まではまだ30分以上時間があるため軽く食事をしても遅れることはないだろうと判断してベルクの後をついて行く。

 食堂にはすでに昼食の時間を過ぎていることもあり食事を取っている人は少ない。

 この食堂では食券を購入してそれを提示して初めて調理を開始するためいつでも出来立ての食事を口にすることが出来た。

 メニュー全30種類で肉も魚も野菜も自由に選ぶことが出来軍人だけではなく宇宙連邦に勤めている多くの職員に利用されている。また宇宙空間でありながらも地球の四季に合わせてそれぞれの旬の食材を使った限定メニューも用意されており非常に人気のある食堂だった。

「さあ好きなもんを選ぶといいぞ、今日は俺のおごりだ」

「それではお言葉に甘えさせていただきます」

 しばらくメニューを眺めていたフェイトは結局オススメとなっている寒ブリを使った刺身定食を選んだ。

 宇宙空間で新鮮な魚介類を入手することはおよそ10年前までは不可能な事であったが保存や輸送技術の発展で宇宙であっても新鮮な魚介を仕入れることが出来今では刺身も用意されるようになっていた。

「ほう、刺身定食か!なかなかわかってるじゃないか。新鮮な魚は刺身で食うのが一番うまいと決まっているからな楽しみするといい」

 決してベルクが作るわけではないのだがまるで自分のことのように誇らしげに語る彼はまるで少年のように輝いて見える。フェイトがそう感じるのは自分に趣味や何かに興味を持つことが少なく熱中できるものがないからかもしれない。

「ベルク曹長は刺身が好物ですか?」

「俺か?俺はなんでもいい!食って美味ければそれに越したことはないが例え不味くても食えるものがあればそれで幸せなんだよ」

 ベルクは豪快に笑いながら食券のボタンを三つ押した。

「焼肉定食に焼きサバ定食、それとポテトサラダ二人前ですか?訓練の前にそんなに食べて平気ですか?」

「兵士たるもの食える時に食っておけ、いつ何が起きてもいいように常に万全の状態を維持するのも兵士の役目だぜ?」

 ベルクは急に真顔になるとそう言うが実際は単純に腹が減っているだけでありとりあえず言い訳がましく聞こえないように取り繕っているだけであった。

「確かにそうかもしれませんが、あまり食べ過ぎると訓練中に眠たくなりますよ?」

 訓練中の居眠り常習犯であるベルクはこれまでにも何度か注意を受けているがそれが改善されている様子はない、それでも上からきつく言われることがないのは彼が上司からも信頼されている証拠であり、また決して度が過ぎることがないため軽く注意されるだけにとどまっている。

「まあとりあえずなんだ、俺たちはいつ死んでもおかしくない。だからやれるときに全部やっておくのがいいのさ」

 これまでに多くのことを経験してきたベルクだからこそ多くの意味を含んだ言葉となりフェイトはそれを聞くとあながち間違ったことでもないと考え大人しく食事を開始した。

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