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フロンティア  作者: kisuke
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フロンティア第一章1

 宇宙歴182年

 宇宙連邦は惑星エデンの調査のためエデン周辺に生息しているソリテールと呼ばれる地球外生命体を超長距離射撃によって殲滅しようとしたがソリテールからの反撃を受け出撃した1500機のうち約350機を撃墜され甚大な被害を負っていた。

 そしてもう一つ宇宙連邦が開発した人型戦闘用マシン通称エスポワールと非常に酷似した姿を得ることでこれまで以上の脅威となって人類の前に立ちはだかっていた。

 ソリテール掃討作戦の指揮を執っていたダルダシア総督は解任され新たに任命されたのは前総督としての実績があったハーロットが選任された。

 ユグドラシル計画の要となっている人工生命体フェイトは正式に第一世代型エスポワールのパイロットとして認められていたが人工生命体であることは伏せられたままでの発表となった。

 ハーロット総督が彼を表舞台へと立たせたのには二つの理由があった。

 まず一つ目は今回の大敗により低迷し始めている宇宙連邦への評価の改善のため英雄を求めた、たった一機であのソリテールの中心へと突撃し掃討作戦の部隊員たちの撤退の時間を作り出し尚且つそこから生きて帰ってきたのが浮世離れしていると言ってもいいほどの美少年となれば人々はそれに対して大いに熱狂することだろう。負けはしたが我々にはまだ戦えるだけの力があると言うことの象徴としてフェイトは人々に祭り上げられていた。

 そして二つ目は単純にこれ以上彼を隠すことが不可能になってしまったからだ。今回の作戦は宇宙だけではなく地球に住む人々も見ていたのだから遅かれ早かれフェイトの存在は感づかれこちらが彼を隠していることを嗅ぎ付ければあらぬ疑いもかかると考えハーロット総督は公表した、フェイトを多くの人の命を救った英雄として。

「私はずいぶんと利用されているようですね」

 ソリテールとの敗戦から一週間がたちこれまでのようにフェイトの部屋で食事の準備を進めていたルーシェはフェイトから珍しく愚痴を溢されていた。

「そうね、たった一機でソリテールに立ち向かってたくさんの人の命を救って貴方も帰って来たんだものハーロット総督でなくとも貴方を利用していた人は多いでしょうね」

「必要なことだと割り切ってはいますが人々は現実を見なければならない、このままではいずれまた同じ過ちを繰り返すでしょうね」

 きっと今多くの人々は夢を描いているのだろう、彼がいれば勝てるきっと次の作戦に彼が参加してソリテールを倒してくれると、そんな夢を抱いているだろう。

 だがそれは決して叶わない夢だろう、本来ソリテールの中心へと向かったフェイトが生きて帰って来られる可能性はほぼなかった、それでも先の戦闘で帰って来ることが出来たのはいくつかの幸運が重なっただけである。

 まず、ソリテールの攻撃方法が全方位に向けて自由に発射出来るのではなく前面にしか攻撃出来ない事であった、ソリテールは数が多いためかその機動力は低くほとんど動くことがなかった、それはつまり攻撃を受けるこちらとしてはただの固定砲台でしかなく全周囲モニターにて敵の位置を確定させておけば後は単純な回避行動のみで対処が可能だった。だがソリテールはエスポワールに酷似した姿へと自らを変化させており今後の戦闘においては固定砲台ではなくこちらの動きに合わせて攻撃してくるのだからすべてを回避することは不可能だろう。

 そしてソリテールはエスポワールの姿で戦うことに慣れておらず恐らく先の戦闘では彼らの持てる性能をすべて引き出して戦えていたわけではないだろう。元々の形状から判断するにソリテールがエスポワールの姿で戦闘した場合その能力は第一世代型エスポワールの性能を凌ぐだろう。

 それだけのエネルギーを彼らは作り出すことが出来るのだから。

「今は考えても仕方ないわ、エデンの調査を断念して別の惑星を探すべきだって意見も出ているからまだどうなるのかはっきりしてないもの」

「ソリテールはこちらを攻めて来るでしょうか?」

「どうかしらね?エスポワールの姿を模っていてもワープ航行まで彼らが実行できるとは言い切れないわ。実行するだけのエネルギーは作り出せるはずだからこれもまた何とも言えないわね」

 ソリテールとの戦闘データにより彼らの弱点を探し出そうとしているらしいが現在のところめぼしい成果は上がっていない様だ。最もソリテールは自由に自信の姿を変えられるのだからコアのような部分があったとしてもその特定は困難を極めるだろう。

「ソリテールとの戦闘での多くのものを失いました。しばらくは宇宙連邦も地球も傷を癒すことに専念するでしょう」

「そうね、でも私たちはこれからが忙しくなるわ。正式に貴方のことを公表されたからエスポワールとの調整も進めることになるわ」

「本格的な調整の前に出撃することになりましたがそれにより多くのデータも手に入りましたのでこれまでよりもより細かい調整が可能になると思われますね」

 フェイトの存在は多くの人に知れ渡りソリテールとの敗戦をごまかすための理想的な英雄として扱われていた。それにより現在のところ市民には大きな混乱は見られないだが宇宙連邦などに勤めている人々は知っている現在がどれほど苦しい状況なのかを、それでも彼らは信じることで自らを騙しているのかもしれない。

「ハーロット総督が戻られて宇宙連邦内も現在大きな混乱はありませんが地球は混乱しているようですね、しばらくは備蓄がありますが地球からの支援が絶えるとこちらも大きな影響を受けます」

「そうね、人工島も余剰生産が可能になったと言ってもエスポワールの製造やパイロット達への物資支援などで随分疲弊してしまったもの、しばらくは余裕がないでしょうね」

 宇宙連邦も地球も今回の作戦の失敗で多大な被害を負っていたが人々の不安を少しでも抑えるためにどちらも気丈に振る舞っているがそれも長くは続かないだろう遅かれ早かれ現在の状況は露呈し人々も現実を目の当たりにすることだろう。そうなる前に少しでも現状を良くしようといろいろな働きかけが行われているがそれらが結果を出すのはしばらく後になるだろう。

「やるべきことは山積みですが今はそちらの方が避けなことを考えずに済むだけいいのかもしれませんね」

「時には無心にやるべきことに取り組む方が幸せなのかもしれないわね」

 作戦の失敗によりハーロット総督はまた新たに惑星エデンを調査するためにソリテールに対してどのような作戦を取るのか悩むことになっていた、無人機での掃討も超長距離射撃での殲滅も不可能である以上すでに有人機の総力戦となることは間違いないだろうだが敵はこちらのエスポワールの性能を遥かに上回る性能を有していることも間違いなく数でも劣るこちら側にはまるで勝てる見込みがなかった。

「フリージア博士フェイトと同程度の人工生命体を量産するとしたらどれほどかかるかね?」

 この日フリージアはハーロット総督の自室に呼ばれそこで対ソリテール戦に向けてのいくつかの意見を聞かれていた。

「すでにフェイトと同程度の人工生命体を量産するだけのデータは得ていますが全員が彼のように優秀であるとは限りません。彼は人工生命体の中でも特別です、同じ性能を有していても性格や考え方までが同じになるとは言い切れません、むしろ違うことの方が自然でしょう。彼は本当に特別な存在ですから」

「そうかそうなると問題はコストだな。あのような一年程度の訓練で実戦に出すくらいならばそれだけの予算を人工生命体の量産に使っていれば少しはマシであったかもしれないがな」

「仮にフェイトと同程度の人工生命体を量産したとしてもソリテールに勝つには数百万の数と第一世代型エスポワールの性能を上回る機体を作らない限り不可能でしょう」

「全く途方もない話だな。やはり惑星エデンの調査は断念し別の惑星を探した方がいいのかもしれないな」

「もしそうなればエデンの調査のために多額の資金を投資した者達からは突き上げをくらうでしょうね」

 エデンの調査のために多くの企業から資金が集まっており別の惑星を探すとなれば多額の補てん金が必要とされるだろう。

 もちろんそれだけの金額を用意できるほど現在の宇宙連邦は余裕がないそのためエデンの調査を継続するか否か大きな問題となっている。

 エスポワールの補修や今回の戦闘でなくなった人々の遺族に対しても補償を行わなければならず宇宙連邦はこれまで以上に苦しい状況だった。

「問題は山積み、課題も多く解決策は何もないときたか。全く笑えるものだな」

 たくさんの問題と課題はあってもそれを変えられるような希望になることは何もない状況でそれでももはや後には引けない状況でひたすら前に進むことしか許されないのだから。

「フェイトにつきましてはこちらで引き続き調整を続けます、エスポワールのデータにつきましても調整を続け必要なデータはマザーブレインに送ります」

 こうしてハーロット総督とフリージア博士の会談は終わりを迎えた。

 宇宙連邦本部から少し離れた場所に一部の人間しか出入りの出来ない研究所がある。宇宙連邦総督であってもこの中ではどのような研究が行われているのかそのすべてを把握しているわけではなかった。

「博士頼まれていた資料はデスクにまとめてありますから後で確認してくださいね」

「ああ、ごくろう。ソリテールが予想以上に仕事をしてくれたな、これでしばらくは宇宙連邦も復旧へと時間と人を割かざるをえないだろう」

「ですがその被害でこちらにも影響がありますがいかがなさるおつもりですか?」

「どうとでもなるさ、地球からも支援が届く我々は計画通りに進めるだけでいいのだよ」

 研究所の中で二人の男がやり取りをしている。

 一人は研究者のようで白衣を着ている、歳は30代前後だろうか。年に似合わず声だけは若々しく聞こえるがその相貌の鋭い眼は一切の人間らしさを感じさせなかった。

 もう一人の男は上下黒のスーツに身を包んでいるがその下には鍛え上げられた肉体が秘められていることは間違いないと思えるほど完成された肉体だった。

「どうでもいいが悟られるようなへまだけはするなよ。ユグドラシル計画が遅滞している今しかチャンスはないぞ」

「わかっているさ、私だって野望はある。これほどのチャンスが何度も訪れるなどと甘えた考えは持っていないさ」

 二人の男の密談は10分程度で終わりスーツの男は研究所の裏手から出てった。

「さあ、始めようか。人と人工生命体とソリテール最後に勝者となるのは誰なのだろうな」

前回の投稿からまた日が空いてしまい申し訳ありません。

今回は少し短めとなっています。前回の投稿でブックマークしてくださっている方が増えたのでこれをモチベーションにしっかりと変えて頑張ります!


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